神秘探求したいミレニアムモブ生徒とゲマトリアがガッチャンコ 作:ハイパームテキミレニアム
ミレニアムから電車をいくつか乗り継ぎ、ようやくアビドスの最寄り駅まで辿り着く。
駅から降りれば、目の前に広がる砂世界。うーん相変わらず。前来た時もこんな感じだったしなぁ。
アビドスの地にあるアビドス高等学校はキヴォトス史上最も歴史が深く、規模も最大の学園として名を馳せていたとの事。
全盛期では生徒会長が70人も居たとされる冗談みたいな記録もあった程のマンモス校だったという。いやそんなに居ても困らない? 責任の所在とかあっちこっちに行きそうで嫌だな。
そんなこんなで圧倒的な兵力や資産を有していた程に栄華を極めていたアビドスは、今は人口のほとんどが他の自地区に移ってしまい、実質的なゴーストタウンと化している。
その原因は、幾年にも渡ってアビドスの地を襲い続けている砂嵐。街すらも飲み込む、キヴォトス最大級の災害の1つ。
これにより、かつては他の自治区よりも多くの人が住まい、栄えていたとされるこの地は見る影もないという。一大名物でもあったアビドス砂祭りも、その中心であるオアシスも無くなってしまったというのは何とも物悲しい。
さて、失われたものに思いを馳せるのはここら辺にしておいて。
今は確かにある物を求めて足を進めよう。お客さんを待たせる訳にはいかないしね。
さぁいざやレッツゴー、アビドス高等学校。豊かなオーパーツが私を待ってるぜ。
ざふざふと砂を踏み締めて、アビドス市街地を歩き続ける。
目立つシンボル的な建物も……昔はあったのだろうが今は埋もれてしまっているのだろう。その為か変わり映えしない光景に惑わされるようだ。今のアビドスで遭難してしまうというのもやっぱり無理はない話だね。
幸いな事にオーパーツを受け取る場所であるアビドス高等学校の所在地は相手方からGPS情報を送られているので、あてのない旅とは流石にならない。
以前にもアビドス砂漠に足を踏み入れた事はある。
黒服さんと出会う前、神秘の開発が進まずに何か取っ掛りはないかと必死になってあちこちを調べていた私は、ネット上に転がるあらゆるオカルト的な噂話にまで手を付けて神秘についての新たな情報を探していた。
その時に見つけたのが、場末の掲示板で転がっていたヘイローを持った巨大機械蛇の噂話。
キヴォトスの生徒以外にヘイローを持つ者はいない。だというのに機械がそれを宿していて、アビドスの砂漠を泳ぎ回っているという。
荒唐無稽な話だが、当時の私は何としても神秘について知りたかった。その噂話の文章に添付された証拠写真が、私の背中を後押しした。
遠目から撮られたらしいそれは、景色は砂嵐にまみれて視認性は最悪、解像度はガビガビのジャギジャギだし、そもそもそういう合成写真を作る手段なんていくらでもあるし、情報のソースも皆無に等しい。
けれど、私はそれに魅せられた。
写真の隅に映り込んだ、一見すれば大きな影の塊にしか見えないそれ。
頭頂部らしき部分に、確かに、ぼんやりと光の輪を携えた、大型の機械じみたそれが砂漠から身をもたげるように佇む姿を切り取ったその写真に、見入ってしまった。
今思い返すと、半ばヤケになって藁にも縋らないとやってられなかったっていうのはあったけど。
とにもかくにも、衝動のままにロクな下調べも準備もせずその足でアビドス砂漠へ直行。
だけど目撃情報すらも怪しく曖昧な巨大な機械蛇についぞ出くわす事はなく、3日3晩彷徨い歩いて、砂漠であえなく遭難した。
半ば砂に埋もれかかっていた私の側をたまたま通りかかったアビドス高等学校の方が助け出してくれたお陰で、何とか生還はできたけれど。
あの時は本当に危なかった。臨死体験という貴重な体験はできたが死にたい訳ではなかったし。
恩があるその人らには折を見てお礼をしに伺いたかったので、今回は実にちょうど良い機会と言える。
ついでにヘイローも見れる事だし一石二鳥。いやオーパーツも手に入るから一石三鳥だ。うはうはが止まらないね!
キヴォトスの生徒は、ヘイロー持ち故に頑丈ではあれど、極端な環境の変化や有害な物質には弱い。無酸素状態に陥れば即座に気絶だ。如何に強靭な神秘を持っていようと抗う事はできない。
今もアビドス砂漠に降り注ぎ照り付ける断続的な陽射しも、そこから来る喉の渇きにも超人的な耐性は無い。
以前の私も陽射しと飢えと渇きにやられてダウンしてしまっているのだし。
この辺りの暑さや寒さなどの耐性については、神秘の量や質というより性質が大きく関わっているのだと思われる。
例えばゲヘナ生まれの子は極度に熱い温泉に入れる程に熱耐性はあるが、同じ温度の温泉にトリニティやミレニアムの子が入ると普通に火傷で悶絶する。
というか私も前に経験している。
以前に何故だか湯治を進められ、ゲヘナの有名温泉宿に宿泊した時。
うっかりゲヘナ生徒専用の温泉に入ってしまい、『う゛あ゛っ゛っ゛つ゛ッ゛!!!!』と叫び床を転げ回ってしまった事がある。
ゲヘナの子はめちゃくちゃ普通に浸かってた。
なので、生まれた土地や環境等の差異も、神秘に何かしらの影響を与えているのかもしれない。確認出来ていることは少ないが。
ゲヘナが熱耐性として、トリニティやミレニアム、他の自治区ではどんな影響が及ぼされているのだろう。
そんなあれこれを踏まえて、神秘のアプローチを用いて暑さや寒さ、毒素を軽減ないし防ぐ術は無いかと思い開発したのが、私が今装着している眼鏡型防御デバイス、『ガーディアングラスくん』だ。
見た目は縁が厚い程度のサングラス。
装着するとその人の神秘と同調。設定した温度以上の熱を通さず、有害物質を遮断する神秘防護シールドを頭部に展開する。完全に透明なので、ビジュアルに影響を及ぼさず周りの目も気にせずに良い。
もちろんサングラスらしくUVカットも搭載。何なら明日のお天気情報も閲覧できるぞ。
サイズの都合上、不意に火炎放射器で燃やされた際等の酸欠をどうにかできるような機能は組み込めなかったのが悔しい限り。
それに全身に神秘防護シールドを展開できず終いである。これじゃちょっとした避暑ないし防寒アイテムだよ。
まだまだ改良の余地ありということで保留としておく。
…………
………………
……………………うーん、考え事をしながらなら時間も早く過ぎると思ってたけど、やっぱり結構遠いなアビドス高校。
通りも無いし道もへったくれもない砂漠がほとんどだから、目的地に向けて一直線で走れば良いから物思いに耽りつつ移動できるけど……
この分ならバギーカーでも借りてくれば良かったかな。
……ん? 『ガーディアングラスくん』の動的センサーに反応あり。こんな砂漠の真っ只中で珍しい。動物って訳でもないし……数は12、3時の方向で固まりながらこっちに近付いて……
「ぅわわわっ」
悠長に近付いてくる何かに振り向いたら乾いた銃声が響いてきた。
ほとんどが私に当たらず砂を弾けさせる程度だが、一応何発か被弾した。けれどノーダメージで済んだ。神秘様々だね本当に。
さて、何も無しにいきなり襲撃をしかけてくる手合いといえば……
「おらおらミレニアムのヒョロガリ! ここらはこの『ギラギラサングラス団』の縄張りだってことを知らねぇようだなぁ!」
「今は無きカタカタヘルメット団に変わってこのアビドス砂漠を制するのは私達だ!」
「運が悪かったな、あたしらはさっきアビドス高校の奴等にコテンパンにやられてむしゃくしゃしてた所だ! テメェの身包み剥がして砂漠に放り捨ててやるよぉ!」
「ボス、結構情けないこと言っちゃってます!」
「構わねぇよ、こいつを口が利けなくなるまでボコりゃいいのさ!」
うーん、やっぱり一般的キヴォトス不良の方々……皆トレードマークのようにサングラスをかけている。名乗っていた通りサングラスが団員の証なのだろう。
徒党を組んではガヤガヤと言い合って、ついには私を囲い込んで一斉に銃口を向けてきた。
……皆、また可愛らしいヘイローを宿している。けれど体調不調なのか、輝きは少し薄らいで見える。ダメだよ、しっかり健康に過ごさないと。神秘が濁ってしまう。
「はーっはっはっ! ブルっちまって声も出ねぇか! だがここは砂漠のど真ん中、叫んでも助けなんざ来ねぇぜ!」
「おらおら、痛い目見たくないならさっさと荷物を……なんだコイツ、まさか丸腰かぁ!?」
「アビドス砂漠で正気じゃねぇ……」
「クソっ、無駄足かよ。しゃあねぇな、取るもんねぇなら憂さ晴らしにボコられてくれや!」
なんか何時にもましてガラが悪い気がする。気も立ってるし……このままだと衣服一枚に至るまで引っ剥がされてしまう。
話し合いは最早ダメだ。ここは穏便に済ませなくてはならない。
「あー、すみません急いでますので……」
「安心しろ、お前をフクロにするのに時間はかからねぇからよ」
「はい、なので手早く終わらせましょうか」
《exetension》
腰部にぶら下げていた装置のボタンを押し込み、S.Fアーマーの展開を開始する。
装置と私が接続を果たして、見えない何かが体の内に入り込み、あっという間に私の体の隅から隅まで張り巡らされて、同調、増幅を行っていく。
直後に、装置内部に粒子化され仕舞い込まれていたパワードスーツが呼び出され、私の体を覆って、がちり、と装着されていく。
一秒にも満たない時間で、一縷の乱れも無く装着が完了する。
うん、正しく完璧。不意に襲われたとしても確実に身を守ってくれる、安心安全な防具だ。
「今どうやって着替え……」
「なぁんだ、しっかり高そうなモン持ってんじゃねぇか!」
「あたしらが責任持って剥ぎ取ってスクラップにして売り払ってや──るぐぇっ!?」
片手に装置から呼び出した愛用のハンドガンを構え、正面の大きな真ん丸のヘイローを持った子に発砲。
パン、と軽い音で放たれた弾丸は額を撃ち抜き、空中で2回転ほどして地面に倒れ込む。……着弾時の衝撃で、側にいた2名も弾き飛ばされ頭から倒れた。……あぁ、ヘイローが消えてしまった! じっくり観察したかったのに!
なるほど。S.Fアーマーを着込んだ状態であれば、神秘を全く篭めていない一発でも十分な威力を発揮する……いや、これではしっかりと神秘の量を定めていないから威力が却って散ってしまっている? これは後ほど要検証しないと。
「なっ、テメェ!」
他の方々の反撃は、S.Fアーマーの性能を信じて防がず受け止める。
……被弾部位、被弾数確認。……被害箇所無し。稼働に全く問題無し。装甲の上を覆う神秘の防護膜を突き破ることは無く、全て弾かれた。
「お、おいっ! この距離で外すんじゃねぇよ!」
「違うって! 当たったけど全然効いてないんだって───みぎゃっ!?」
「何言って──んぎゃっ!?」
こちらも返し様に一発、二発。胴体に当たった子達は体をくの字に曲げて吹き飛んだ。……またもヘイローが消えてしまう。頭を狙わずとも意識を奪うには十分な威力らしい。
それにしっかり狙った箇所に寸分狂わず当たっている。エイムアシスト機能搭載はまだなので、これも高まった神秘による性能向上の賜物だろうか。
……おや? 攻撃が来ない。
まだ立っている子の方に振り返ると、銃は握っているものの固まってしまっている。
試しに両腕を広げてアピールしてみせた。
「さぁ、反撃はご自由に。けどしっかり当ててくださいね、データは多い程良いので」
「えっ、な、えっ……」
うーん、すっかり竦んでしまっている。やっとの事で撃ち出される弾丸もブレにブレて当たらず終いだし。
実験では得られない生の被弾データも欲しいのだけど、またの機会にしよう。
とりあえず残っている子達にしっかりと一発一発撃ち込んで、昏倒……大人しくさせた。
「さて、と……これで全員かな」
本当に手早く終わってしまった。この分だとS.Fアーマーを使わずとも良かったかもしれない。
まぁそこは置いておこう。次にやる事は、と……
装置を弄り、粒子化していた物を手元に呼び出す。
私の両手の内に現れたのは、複数の薄いピンク色の石。この場に倒れているギラギラサングラス団の人数分である。
「はーい、ちょっとチクッと……はしませんけど、失礼しますね」
まず足元に倒れている子に、ピンクの石を押し付けて、しばらく待つ。
すると石の中に微弱ではあるが神秘が入り込み……中身がその子の神秘で満たされる。
この石は、少量の神秘を封入すればその神秘を増幅し、中身を満たして封入する。
対象の神秘を封入できる性質を持つこの石を使って、色んな子の神秘を集める事ができると判明したので、こうしたチャンスがあれば積極的に神秘を拝借する事とした。
全員に石を押し当て、神秘を閉じ込める。
私の両手の上で、12個の小さな神秘が零れそうな程いっぱいに輝いている。
手の中の輝きを太陽にかざしてみる。
石の中で光が乱反射。角度を変えれば、色とりどりの煌めきが暴れているよう。
素敵だ。
「……さて、ギラギラサングラス団の皆様。S.Fアーマーの稼働実験にご協力頂きまして誠にありがとうございました」
思わぬ収穫にほくほく気分の中、S.Fアーマーの展開を解き、粒子に還して装置に収めていく。神秘の詰まった石も忘れずに、大事にしまい込む。
それから砂に埋もれ廃墟となった建物の日陰に、気絶している子達を担いで運び込む。
以前の私なら一苦労な作業も、神秘で強化された今ならちょちょいのちょい。4人もまとめて軽く運搬できる。
そうして運び終えた後、装置に詰め込んでいた数日分の食料品を呼び出して、側に置く。仲良く分けて、と書き置きも残しつつ。
稼働実験に加えて、神秘のサンプルを分けてもらったのだ。お礼をしなくてはバチが当たってしまう。
それに万が一砂漠で飢えて乾いて、ヘイローが砕けてしまうなんて事態になれば目も当てられない。そんな事は認められない。
なので彼女達には元気に過ごして頂かないと。
おっと、こうしちゃいられない。
アビドス高校に向かわないと。
「ではまたいつか。今度はもっと元気な神秘を見せてくれたら嬉しいです」
聞こえてはいないだろうけど、彼女たちにそう声をかけてからその場を後にした。
さて、そろそろアビドス高校が近い頃。
遠目に見覚えのある建物が見えてきた。間違いない。まだ陽が傾く前に辿り着けて良かった。これなら帰りの電車にも間に合うだろう。
となればぐずぐず歩いては居られない。そそくさと足早に向かうとしよう。
……む?
『ガーディアングラスくん』の動的センサーにまた反応が。これは……小さい……機械のようなものか。
振り返ると、傍の建物の陰から丁度飛び立つ一体のドローンの姿を捉える。
それを視認した瞬間、展開された発射口から小型ミサイルが私に向かって襲いかかる──!
「うわぁっとぉ!?」
至近距離からの全弾射撃、これは避け切れない!
咄嗟に神秘を回し、交差した腕でガード。
発生した爆風と撒き上がる砂塵が辺りを包み込む。何とかノーダメージで済んだ。直撃を受けた腕も無問題、痺れもなく動かせる。でも若干制服が焦げちゃったな。
……即座にS.Fアーマーを展開できていればもっと良かったのだけど。やはり実戦での動き方はまだ不慣れだ、瞬時の判断ができてない。これではせっかく身を守る為に作ったアーマーも宝の持ち腐れというものだ。
《exetension》
追撃が来る前に、S.Fアーマーを展開。乱れも無く即座にアーマーが装着される。
バイザーに搭載されたセンサーで周囲を索敵。
……砂埃の向こうにいるのは1人のみ。ヘイローも1つ分。後はドローン一機。少数精鋭……いや、単独の強盗かな。
ドローンの装備の様子からしてもさっきのギラギラサングラス団とは別の手合いだろう。
意識を失わせてヘイローを観察できるチャンスをふいにするのも良くない。のでしばらく様子を見させて貰う事にしよう。
やがて砂埃が晴れる。
眼前には、銃口を突き付けている、獣耳を頭頂に生やした、白髪の女の子。
アビドスの校章を下げている。
「ん、動かないで。さもないと全弾撃ち込む」
浮かぶヘイローは、こちらを狙い澄ますように定められた照準を象った円輪。
青白くて、透き通っていて、美しい。
あは。
この子も良いヘイローだ。