神秘探求したいミレニアムモブ生徒とゲマトリアがガッチャンコ   作:ハイパームテキミレニアム

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インストール・ザ・ミメシス

 

 

 キヴォトスの各地に散らばっている神秘を宿した物体。それ等は『オーパーツ』と名付ける事とした。

 

 

 抽出した神秘の原材料である様々なオーパーツに関してはしばらく枯渇の心配をしなくても良くなったので、これら辺りの実験はのびのびと行える余裕ができた。

 

 SNSを活用し、各々が見つけてもらったオーパーツをエンジニア部または私の自宅に届けてもらい、その量と質に応じて報酬を私が振り込む、といったちょっとしたお小遣い稼ぎ的なサービスを開設。

 その成果は今の所上々。オーパーツの在庫は着々と増えている。

 ちなみに私が直接受け取りに行くサービスも行っている。

 

 

 

 対して、オーパーツから抽出した神秘を貯めておく貯蔵庫……『神秘タンク』の改良および量産は難航中。

 

 オートメーション化を図ろうと、ロボットを使って製作をしようとしたが、失敗に終わる。

 神秘を封入できないただの入れ物ができてしまった。

 

 

 ……どうやら製作には終始神秘が介在しないといけないらしい。途中で私が一瞬触れたり、一工程のみを担ってもダメだった。

 なるほどそういう性質もあるのかと新発見に喜んだのも束の間。さてどうしたものかと悩み倒したのが先日の夜。

 

 どうやらこの『神秘タンク』は、生徒のようにヘイローを宿していないオートマタや獣人等には作れず、工場的に作れもしない代物であると判明した。

 

 やはり私が手ずから作るしかないかぁ……しかし手間がなぁ……もう少し簡潔にならないものかなぁ……悩ましい。

 

 

 そんなこんなで今後に向けて何をしようかとうんうん唸りつつも、黒服さんとのいつもの実験を終え、私に割り当てられた研究部屋の扉を潜ると。

 

 

 

「待っていたぞ。神秘を求める者よ」

 

「少し、話をしようではないか」

 

 

 古く重苦しい軋む音と共に、4つの瞳が私を見据えていた。

 

 

 

 

 □■□■□■□■□■

 

 

 

 

 

「では、複製とは何たるか。それを少しばかり話すとしよう」

 

「よろしくお願いします」

 

 

 

 

 1人分の体に、2つの頭を取り付けた木製の人形のような異形。

 ゲマトリアの1人。

『マエストロ』と名乗った大人の人。

 

 

 この方もまた神秘を探究し、『崇高』を追い求めているのだという。

 あぁ、新たな同好の士とこうして直接相見えることができるなんて。素敵だ。

 

 理論を重視する黒服さんとは違い、マエストロさんは芸術家気質な物を感じるというか……黒服さんとはまたスタンスが異なるというのを雰囲気ではあるが感じ取れる。

 

 

 そういえば、黒服さんも前に言っていたっけ。

 

 

『我々ゲマトリアは、複数人で活動を行っており、各々が思う解釈によって神秘を探究しています。他の方にも、いずれ出会う機会があるでしょう。その時には、どうぞ耳を傾けて下さい。きっと貴方の探究の知見となるでしょう』

 

『……反対に、貴方に益を齎さない方も居りますが……貴方と鉢合わせる事のないよう、調整致しますので』

 

 

 気になる言葉はあったが……益を齎さないと黒服さんが判断するなら、それが概ね正しいのだと思う。なので特段気に留めずにおく。

 

 

 ともあれ、マエストロさんとの話だ。

 

 この方は、私が研究の途中で書いていた手記(開発品の設計図等と同じく中身は全て共有している)を読んで、『自己の複製』という記述を見付けたからこそ、わざわざと足を運んでくれたのだという。

 あれ、煩雑で書きたいだけ書いたやつなのに良く読んでくれたな……今度から整理して書くことを心掛けておこう。こうして相手方が貴重な話を持ちかけてくれる機会があるのだと分かったのだし。

 

 

 

「……その前に、1つ。聞いておかねばならない事がある。話の腰を折るようだが、どうか答えてくれ」

 

「はい、私で答えられる事であれば……」

 

 

 軋む音を立てながらマエストロさんがこちらへ向き直る。

 ……この人と話す時、どちらの顔に目線を向ければ良いんだろう。声が出てる方で良いだろうか。

 

 聞きたい事というと何だろう。やはり自身を複製、ないしクローン人間的なものを生み出すにあたる倫理的な認識などの事だろうか。

 

 キヴォトスの最先端を行くミレニアムにおいても、人間のクローンだったり複製物だったり、そういった人間倫理的にセンシティブなものの開発は基本禁止されている。

 人間の尊厳の侵害。生命倫理的問題。クローン人間を気軽に生み出せる事になった際のクローン人間の道具化への危惧。生み出したクローンの安全性。その他などなど。

 関連の研究も規制されている。

 

 

 過去にクローン人間を生成する技術の論文を発表した生徒は即座に退学させられたという。

 

 

 なので……キヴォトスにおいて人間の生き写しの開発や研究、というのは専らAIを活用した分野である。

 如何に人間らしく動くAIを作れるか、日々邁進しているミレニアムの生徒は多い。

 ……だからって人間らしく罵倒する機能を付けたAI搭載ロボは流行らないと思う。流石に。

 

 

 話が逸れた。相手に集中しなくちゃ。

 マエストロさんは私にどんな事を問うてくるのだろうか。

 

 

 

「何、極めて簡単な事だ」

 

「そなたは何故、神秘を探究する?」

 

 

 

 ぎしり、とやけに大きく軋む音が耳に付く。

 こちらを見据えるような、試しているような、無機質な瞳が私を見つめる。

 

 なるほど、目的の確認だ。

 ゲマトリアの人らは、各々が己の思う解釈や方法によって神秘を探究すると伺っている。

 同じく神秘を追い求める者として、何をもってそれを行うのか、直接見定めるつもりなのだろう。

 お眼鏡に適えば、複製の事について教えてくれるのだろう。

 つまりこれは面接だ。あいや試練だ。

 

 マエストロさんに合わせて耳障りの良い言葉を並べるだけでは不足だろう。その予感がある。

 私が胸襟を開き、心の内を明かさねば信頼を得る事はない。

 

 落ち着いて言葉を吐き出す。

 

 

「私が神秘を求めるのは……」

 

「弱き者を強くして。降り掛かる理不尽から守れるようにする為です」

 

「キヴォトスは弱肉強食です。……今になってより実感した事ですが、生まれついた際の神秘によって、弱者と強者の差はより深くなっています。弱い者は、そこらを歩いてるだけで争いに巻き込まれ、横合いからとことん奪われてしまいます」

 

「私も、周りの子も、そういった経験は少なくありません」

 

「ですから私は……神秘を解き明かし、解明して、それを元に開発して……神秘によって、弱者が強者から身を守れるような、そういったものを作りたいから、神秘を探究するのです」

 

 

 ……思いを言葉にすると、案外短いもので。

 もっと何かぶち撒けたい、と思っていたが、中々どうして……

 

 マエストロさんは、姿勢を変えない。

 4つの無機質な瞳は、じっとこちらを見つめて動かない。

 しまった。お気に召さなかったかな。

 

 不安が募り、何分経ったかも分からないような沈黙の中。

 やがて、軋む音が響いた。

 

 

「……本当に、それだけか?」

 

 

 無意識に、息を吐いた。

 ……それだけ、って? 

 

 

「確かに、それはそなたにある欲求なのだろう。だが果たしてそれだけか? その思いの根源たる欲求が、感情が、そなたにはある筈だ」

 

「そなたが神秘にかける熱量。その根幹にあるものは、果たして何か。そなたの執念とも呼べる其れに根ざす原動力とは、何か」

 

「内にある自らの声を今一度聞くが良い」

 

 

 私。私は。

 

 ……作り出した物に付いて思う。

 アンプちゃんは、それこそ私の弱い神秘を増幅、増強して、強い人らと同じような神秘を持つ為に作った。これを使えば、他の子も強い人と変わらない神秘を持つことができる……

 

 ディスアンプちゃんは、不意に襲われた時にこれを使って逃げられるように。

 

 パワードスーツだってそうだ。頑強で頑丈な物を身に纏えば、やってくる危険を跳ね除けられるように。

 

 他に作った物だって……

 

 

 

 

 あれ。

 

 いや、違うな。違う気がする。

 もっとこう、単純だったと思う。

 

 神秘について何か作ろうと思いついて、取り掛かって、失敗して、挫折して。

 それでもなお、今の今まで神秘を追い求める私の原動力って、何だったか。

 

 

 思い返して、心の中を弄って、記憶を掘り起こして。

 

 ……思い出した。思い出せた。

 何だ、何気無い事だったじゃないか。

 

 

 自然と、言葉に出る。

 

 

「ロマンです」

 

「ロマンですよ、マエストロさん」

 

 

 熱に浮かされたような感覚のまま、口に出す。

 エンジニア部の先輩方も、口々に言っていたじゃないか。何時も何時も、物を楽しそうに作るあの人達も言っていた事だ。

 ロマンがあるからこそ、情熱を注ぐ。

 ロマンがあるからこそ、心血を注ぐ。

 ロマンの果てを目指して、作り続けるんだ。

 

 

「私は神秘に可能性を、ロマンを見出したんです」

 

「それを突き詰めた末に何があるのか。何ができるのか、何が起こるのか」

 

「気になって気になって仕方がないんです」

 

「ですから、私は神秘を追い求めて、その為に作って、作り続けて、追いかけたいんです」

 

 

 呼吸を忘れて言い切った。

 

 マエストロさんは変わらず静かに佇んで、見つめるばかり。

 

 けれど唐突に短く拍手を下さった。

 

 

「ロマン。それも良いだろう。そなたの飽くなき探究心が何処へ行き着くのか、愉しみな所だ」

 

「マエストロさん……。……そこまで言って下さるなんて光栄です」

 

 

 そうだ。

 私を今突き動かしているのは、ロマンなんだ。

 神秘という未知に秘められた、可能性。

 神秘を使って、神秘を見通して、神秘を探究して。その内側に、裏側に、果たして一体どんな可能性が眠っているのか。何処までできるのか、それを探りたいから、やってみたいから。

 私は今、ここに居るんだ。

 

 

「では、次にこちらが語る番だな。複製……私がミメシスと呼ぶものについて」

 

「しかし、そなたの浪漫主義に倣うならば……全てを語るというのは無粋だな。であるなら、助言程度が関の山というもの」

 

「どうかこれを糧として、試練として乗り越え、そして自らの手で辿り着いて欲しい」

 

 

 軋む音が、何処か愉しげに笑っていた。

 

 

 

 

 □■□■□■□■□■

 

 

 

 

 一通りの言葉を交わした後、マエストロさんは去っていった。

 

 やはりその道に通じた方と話すのはとても楽しい。有意義過ぎる時間になった。

 

 

 ミメシスという複製についてのヒントは与えられた。

 私の今の環境であれば、その再現も可能である、というお墨付きも頂いた。

 私とは違った地点にまで辿り着いて欲しい、という願いも聞き届けた。

 

 

 後は、自分の手で望みを掴み取るのみ。

 

 

 では、複製について研究するとしよう。

 

 

 

 

 まずは真っ先に思い付く事から順繰りに試していく。

 

 私の神秘を宿した、ピンク色の石。

 私の神秘に染まった其れを核に見立て、オーパーツから抽出した神秘を注ぎ込む。

 

 

 神秘が一塊に集まるが、やがて霧散してしまう。

 

 これではダメだ。

 次の方法を試す。

 

 

 

 私の神秘を宿した石の数を増やす。

 ひたすらに。

 

 この石には、一種の誘引性と、収束しようとする力のような何かが働いている。

 

 ならば必要数集めてやれば良いのだと仮定する。

 

 ひたすらに神秘を抽出する。

 石を生み出していく。

 

 

 石を集めて、核を中心に据えて、人の形に石を並べていく。

 何も起こらない。

 

 私の神秘を外から注ぎ込む。

 何も起こらない。

 

 

 石の全てを私の神秘で満たす。

 一定数集めた所で、仄かに光り出す。

 今までにない現象だ! 

 

 何かしらの兆候はあり。そこからの進展はない。ここらを突き詰めていこう。

 

 

 

 

 授業中も、部活動中も、黒服さんとの実験中も、四六時中複製について思いを馳せる。

 失敗したあれこれや、そこから派生して何かに利用できないか、他の方法を使ってできないか、まだ試していない案は思い付く限りに試してやろうとか、ずぅっとこの調子。

 

 なのであまり眠れてはいない。これではいけない、私の神秘の調子も狂ってしまう。

 しばらく休養を取ろうか……いや、するにしてももう一段落、せめてもう少し突き詰めてからにした方がいいな。でなければ落ち着いて療養なんて取れる筈もなし。

 

 

 

 

 

 神秘を宿した物体を振りかける。

 何もなし。

 

 アンプちゃんを押し当て起動する。

 何もなし。

 

 私の体を押し当ててみる。

 何もなし。

 

 

 

 

 変化は今の所見受けられず、進展は無い。

 他の方法を探ろう。いや、まだ試すべき事はあるかもしれない。しばらくこのままの方向で……

 

 

 

 

 試していく中で、何が足りないのかと夢想する。

 

 人の複製。

 複製された人。

 

 人が人たり得るには何が必要なのだろうか? 

 

 人が人として自己の意識を保つ為に必要なものとはなんだろう。

 

 魂。意思。感情。

 

 人に根ざす、強い強い根幹のもの。

 欲望? 

 この世界に留まらんとする、無意識下で生み出される欲求かもしれない。

 

 

 それがあるからこそ、人として象られるのだろうか。

 

 

 要するに、心を込めよう。

 思うからこそ生き物なのだから。

 

 それにマエストロさんもかつての人々の感情の蓄積によって複製が生まれた事例がある、と言っていたじゃないか。

 その論理で言うならば、これまでの積み重ねも複製を作り出すには必要な過程なのかもしれない。

 

 だが今まで程度のものでは足りなかった、という証拠でもある。

 

 

 ならばもっと心を込めて、私の感情を剥き出しに、欲望を吐き出しながら。

 

 

 神秘を追い求めよう。探究しよう。研究しよう。それでもって開発しよう。

 

 ロマンを突き詰めよう。ロマンを堪能しよう。ロマンを、ロマンを、ロマンを。

 

 

 ひたすらに、私の思いを、原動力を、胸に秘めている私の根っこをぶち撒けるように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やったやったやったやったやったやったやった

 できたできたできたできたできたできたできた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 □■□■□■□■□■□■

 

 

 

 

 

 

 ピコン、と通知音を鳴らした端末に目を向ける。

 SNSのメッセージ機能のようだ。スパムメッセージではないようなので、手に取って内容を眺める。

 

 ……どうやらオーパーツを大量に集めたので、納品したいとのこと。受け渡しは直接の手渡しで。

 

 

 相手は…………アビドス廃校対策委員会、と。

 

 よし、早速向かうとしよう。

 すぐに出立して、付近に着いたら追って連絡をする等といった連絡を素早く返信。

 

 

 

 さて、向かうはアビドスだ。

 少し遠出になるが、まぁその間に作業を進めてくれるアテもできたので、正しく気楽に旅行気分で出掛けられる。

 荷物を纏めよう。道すがら、砂漠を歩く為の装備も買っておかなくちゃ。

 

 

「じゃ、少し出てくるから、そのまま作業を続けててね」

 

 

 出掛ける準備を整えてから、部屋の奥で作業を進めている相手に向けてひらり、と手を振り呼び掛ける。

 

 

 

 青白い私の姿をしたそれは、横目で作業の手を止めてはこちらを見やり、静かに頷いて……また作業に戻っていった。

 

 

 その様子を見届けてから、研究部屋の扉を閉めた。

 

 

 

 

 

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