神秘探求したいミレニアムモブ生徒とゲマトリアがガッチャンコ 作:ハイパームテキミレニアム
「あははっ」
右を見渡す。ミレニアムで学ぶ同学級の皆。白い丸ではない、色んなヘイローが浮かんでいる。
射撃演習でいつもペアを組んでいるあの子は、赤い二重丸のヘイロー。
お昼ご飯が菓子パンと栄養ドリンクオンリーのあの子は、ひし形を2個束ねたようなヘイロー。
ぱしゃり、声をかけてからスマホで写真を一緒に撮る。
「ぁはっ」
左を見渡す。エンジニア部お得意様の生徒がいる。
アサルトライフルが好きなあの子は、十字が3つ。頭頂を囲うように三方に伸びたヘイロー。
ドリルが好きなあの子は、三角形が縦に連なったヘイロー。
次の依頼を楽しみにしてる、なんて雑談をしてから一緒に写真を撮る。
「あっはは」
あっちにいる集団は、校章からしてトリニティからの観光客だろうか。
鳥の羽で構成された円陣のヘイロー。
3つの丸によって方陣が象られたヘイロー。
植物のツタがうねって円を描いているヘイロー。
声をかけ、明るく歓待。ミレニアムタワーを背景に、記念写真を撮ってあげた。
皆綺麗だ。
あぁ、なんて輝かしい光景。
十人十色、百人百様、千差万別。
ヘイローとは、顔よりも声よりも体よりも明確に個人を識別できる、唯一無二のものだったのだ。
これが1つ壁を乗り越えた末に私が手に入れたもの。
生徒のヘイローを識別できる、『視点』。
S.F.アーマーを通して、この『視点』を得てから気付いた事。
何と言ってもまずは生徒によってヘイローの形状が違った事。
以前の私では、どれもこれも単なる白い丸が頭上に浮かんでいる程度しか認識できなかった。
私達生徒が持つヘイローは単なる丸どころか、幾つもの形が折り重なったものであったり、立体的なものであったり、様々な模様が浮かんでいたり……個人個人によって形状が異なり、また宿している神秘も違う、特徴に満ち満ちたもの。
そのどれもがきらきらと輝いて、透き通って、煌めいていて。
とてもとても、綺麗。
何て、月並みな感想ばかりだけど。
これを見れる視点は、私達生徒が本来持ちえない視点なのだという。
『大人』だからこそなのか、とも思ったけど、私の体は依然子供、生徒のままである。私の神秘がオーバーフローした事、それに伴って身体能力が向上した事、個人個人のヘイローが認識できた事以外に変化は見受けられない。
外見の変化というのもない。私のヘイローは元々こういう形なのだと黒服さんも言っていた事だし。ヘイローを模写してくれた絵を改めて見たら、そっくりそのままの形であったし。
かくして私の内部的改造は、黒服さんにとって少々予想外な結果となったらしい。
想定であれば外見的変化も起こり得たとの事。
私の体は背丈も変わってなければ髪も伸びていない。瞳の色も変わってないし、肉付きも増減無し。身体的特徴はまるで変化が無い。
いやまぁ、急に変わったら変わったで周りにどう言い訳したらいいのか悩みものなのでそこら辺は幸い。
……素直に実験でこうなっちゃって、とか言っても「〇〇ちゃんついに人体実験を……しかも自分に……」と引かれ気味な反応されそうだ。やだなぁ。
黒服さんはそういった変化の無い私を残念がる所か、より興味を唆られたように怪しい微笑みを繰り返すのみ。
こういった事例も起こり得るのか、と終始楽しそうにしていた。まぁ研究の末に未知なるパターンを発見するって驚きと喜びが出てくるよね。
時と場合によってはホントに勘弁だけどね。
しかし向こう一年分のクックックを聞いた気がする。良い声で笑うんだあの人。
『テクスチャを剥がすには至らない』
『テクストを書き換えるにはまだ足りない』
『しかし兆候は見える』
……といった事を、神秘のオーバーフローでまだ頭がぼんやりとしていた時に言っていたような気がする。
足りない、至らない、というのなら、もっと突き詰めて不足分を補ってみる他ないだろう。
それか別のアプローチを試してみるとか……考えは尽きない。
今は神秘を求めて突き進むのみである。
にしても、先生が羨ましいと心底思う。
先生は、ずっと前から、キヴォトスに来た頃からこの光景が見えていたのだから。
輝かしくて、透き通る、色鮮やかな煌めきの数々を。
先生はシャーレに所属して、キヴォトスの色んな自治区に赴いている都合上、生徒と関わる機会がとても多い。
なら、色んな生徒のヘイローを見てきた筈だ。
今の私と同じ視点で、それこそ数え切れない程に。
私が以前出会ってきた皆も、きっと皆違うヘイローを、神秘を持っている。
ミレニアムで。
ゲヘナで。
トリニティで。
百鬼夜行で。
アビドスで。
山海経で。
レッドウィンターで。
ヴァルキューレで。
ワイルドハントで。
オデュッセイアで。
他にも色んな自治区で出会った生徒の皆。
誰もが皆、綺麗なヘイローを戴いている。
あぁ、研究が一段落したら、1つずつ巡ってこう。そうしよう。今決めた。
一部の子とは写真を撮ったりしたのでヘイローを眺める事ができるが、やはり生で見て感じる方が良いに決まっている。
あとは、本当に驚いた事だけど。
キヴォトス中にある、何の変哲もない物品や物質にも、僅かながらに神秘が宿っている事。
それ等の物品や物質には、私達生徒が持つような一定の水準に達していない神秘の量があり、なおかつ、それは他の神秘と同調、増幅させる傾向があるのだ。
物体に宿る神秘を上手いこと抽出し、生徒の神秘に組み込んだり、馴染ませれば……神秘の総量や質などが上がるのだ。
例えば、キヴォトス全域のコンビニやお店に売っていたりする戦術書やギアとか、骨董品屋に置いてある埴輪型の水晶だったり。
路地裏に転がってるようなボロボロのディスクなんかにも神秘が宿っていたのは驚いた。
こんなに間近にあったのに今の今まで気付けなかったのか……! というか私が今まで不用品として捨てていた機材の残骸にも神秘が宿っていたとか何なんだ。無知は罪だよ全くもう!
そんなこんなで、神秘の宿っている物体をとりあえずミレニアム内で目に付く所から掻き集めてきた。
アンティキティラ装置。
ヴォルフスエック鋼鉄。
ネブラディスク。
マンドレイク。
ニムルドレンズ。
古代の電池。
水晶埴輪。
キヴォトスでは度々見かける物品達だ。
中には希少故にオークションにも掛けられるような物から、気にも留めないような物にまで神秘は宿っていたのだ。
関連性は未だ見出してない。保留とした。
しかし、神秘を霧散させずに残留できるようにするヒントは得られた気がする。
とりあえず、その使い道を検討してみた。
ある程度の数を集めた神秘の宿る物品を、適当な形に加工、分解、粉砕などの工程を挟み、抽出した神秘の塊。
これを装置や銃に塗布したり、組み込んだり、取り込ませたり……するとどうだろう、微々たる変化ではあれど、全体的に性能が向上を見せたのだった!
耐久性や攻撃性、射撃性能が向上したり……。
……ちなみに、抽出した神秘を直接私が飲み込んでみた所、身体能力だったりが向上。
神秘を体の内に取り込めば取り込むほど、私の能力が強化されるという事実が判明した。
うっひょうやったぁ! 神秘をガブ飲みして最強になるぞ〜!!
とか言ってどんどん神秘を取り込んではしゃいでいたら速攻で体調を崩した。
体の内側からガンガンに何かが飛び出そうとする異物感とかでお腹が弾けそうだった。内から溢れる力に押し潰される、とはこの事?
鎮まれ、私の中の暗黒竜……!! とかやってる暇は無かった。痛すぎてそれ所じゃなかったし良い感じの言葉とか咄嗟に浮かばないし。
そんなもがき苦しむ私の様子を黒服さんは凄く興味深げに観察して、後日自己分析のレポートの提出まで求めてきた。
一応気遣いの言葉はくれたけど、めちゃくちゃうきうきしてた辺り、やっぱり好奇心には勝てないんだなぁ。
いや私もノリノリで書いたし何とも言えないけど。
……ちなみに抽出した神秘の味は無味であった。
何にも染まっていないが為、なのだろうか。
そんなこんなで神秘を抽出している中で、それぞれの物体にはそれぞれ違った方法で加工するとより良い純度の神秘を抽出できることが分かったので、それ用に装置を開発した。
名付けて『エキストラクトンV2』。
抽出機構を取り付けた装置に指定の物体を入れることにより、各々に適した抽出を行い、装置側部のボトル型貯蔵庫に神秘を流し込むのだ。
いちいち自分で加工して抽出する手間が丸ごと省けた。テクノロジーとはかくあるべし。
しかしある程度纏まった量が無ければ抽出できる神秘も微々たるもの。
実験とかに使いたいので抽出した神秘も数がいる。
なので、しばらくは外に出て、皆のヘイローを眺めるついでに神秘の宿る物品集めに精を出す事とした。今日はミレニアムサイエンススクール近郊をひたすら弄る。
これが中々、探してみると割と見つかるもんである。
しかし如何せん集めなくてはならない数が多い。いくら集めても果てが無さそう。
「モモイ、〇〇を発見しました! 逃げられないようダッシュからのエンカウントを試みます!」
「……あっ、ホントだ〇〇じゃん! こんなとこで何してるの?」
「カゴを持って……ゴミ拾い?」
おや。ゲーム開発部の面々だ。部長のユズちゃんは相変わらず居ないけど。
元気な声と共にアリスちゃんが突進してきたので、しっかりと受け止めてあげる。
ふふふ、日々日々神秘で強化された私ならパワーのあるアリスちゃんでも踏ん張れば受け止め切れる。馬力が違いますよ。
……あぁ、やっぱりこの子達も良いヘイローだ。
アリスちゃんは幾何学的というか、青白い長方形が何枚も重なったような、コンピュータのウィンドウを思わせる何処と無く機械チックなヘイロー。
モモイちゃんとミドリちゃんは双子なだけあって、形はお揃い。それぞれ桃色と緑色のポインティングマーカーのようなヘイロー。
ここに居ないユズちゃんは確か……ゲーム機の電源ボタンによく見られるような、2つの円の一部から線がぴょこんと飛び出したような形状のヘイロー。
やはり美しくて、興味深い。
モモイちゃんとミドリちゃんが色合いが異なるだけで形状が同じなのは、双子ならではなのだろう。
無邪気な子供らしいアリスちゃんは、その態度に反して無機質というか、円から離れた形である上に……何処と無く、他とは逸脱した雰囲気を感じる。
……不思議な感覚だ。いや、皆のヘイローが見えるようになったから新鮮に思えているだけ?
アリスちゃんから、何かを感じる。
……何かある? というか、居る? 気配? 何? これ?
「ふっふっふ……〇〇よ、勇者からは逃げられない! 我が腕の中で息絶えるが良い!」
「物騒な語彙してるね!?」
「もー、2人とも抱き着きあってて何してんのさー。〇〇、何気に久しぶりじゃん! 何してたの? ボランティア清掃?」
「あー、研究で必要な物を集めてて……」
モモイちゃんとミドリちゃんが追い付いてきた。
……あっ、そうだ。いい事思い付いた。
「……そうだ3人とも。こういうのを集めてるんだけど、一緒に探してくれない? お礼は弾むよ」
人手が必要なら巻き込んで一緒に集めてもらおう。
モモトークに探している神秘の籠った物品らを乗せた写真を送信して、そう提案してみる。
「! これは〇〇からの依頼をこなすと報酬が貰えるクエストですね! やりましょうモモイ、ミドリ!」
「えー? ゴミ拾いで貰えるお金とかお小遣いみたいなもんでしょ〜? 私達も子供じゃないんだから……」
「これからゲームセンターにも寄りたいし……」
「えっとね、例えば……コレだとこのサイズのを見つけてくれればこれくらいは出すかな」
「よしやるよミドリ!」
「うん、やろうお姉ちゃん」
試しにある程度の大きさのヴォルフスエック鋼鉄の報酬量を提示してみるとすぐさま食い付いてくれた。
やはりお金は正義である。
エンジニア部に所属して依頼をこなす都合上、お金は割りかし貯まってくるので、この金額を何十倍も払ったとて大した出費にはならない。
年がら年中依頼が舞い込みそれを解決してるエンジニア部は売上が上々なのである。
予算は削れるけども。
というかウタハ先輩とかヒビキさんとかコトリさんが結託して大暴走した時の出費が主にエンジニア部の潤沢な予算を圧迫しているからなぁ。
やっぱり自爆機能付けるのやめさせた方がいいかな……でもロマンだしなぁ……
「これを1個集めるだけで欲しかった新作ゲーム機買えるじゃん!」
「それに数を集めればそれこそ開発機器の新調もできるよお姉ちゃん。私新しいペンタブ欲しかったんだよね」
「アリス、〇〇からのクエストを受注します! 早速探索を開始します!」
「よーし、やるぞー!」
「ありがとう皆! あ、ついでに宣伝もしてくれたら助かるかな。コレを見つけたら私の連絡先までメッセージ送ってくれるようにさ」
そうしてゲーム開発部の3人は元気良く駆け出して行った。人手の確保はこれからの課題ではあるが、果たしてどうしたものか。
……お、花壇の側にマンドレイクの種が落ちてる。しめしめ。
物質から神秘を抽出する際の副産物として、異質な物が紛れていた。
不思議な輝きを帯びた青色の石と、半透明なピンク色の石だ。
神秘を抽出した際、装置の側にコロンと転がっている事がたまにあるのだ。
どちらも神秘が封入されている事から、抽出した神秘の副産物だとは思うけど……
謎が多い。
なお、青い石は神秘が高密度に詰められており、外部からの介入を受け付けないような頑強さがある。
使い道は要検討中。
逆にピンク色の石は、神秘を宿していながらも『染まりやすい』性質があるらしい。
試しに私の神秘を流し込んでみたら、少量流し込んだだけで、中身が私の神秘でいっぱいになったのだ。
しかも霧散せずに。
これは……使い道がもう少しで浮かびそう。どちらにしても保留である。
どちらの石も用意できる数は少ない。今の状態だと日にそれぞれ5つ程だろうか。
発生する原理もまだ未解明なので再現性も検証できていない。
実験に使う際は、取り扱いに気を配らないと。
また、神秘を貯め込んでおける器に関しても進展があった。
キヴォトスの大気中に含まれている『エーテル』。
キヴォトスに溢れた神秘と共に存在しているこれを中心に、神秘を長期保管しておける容器を作成してみた所……成功した!
手元から離れても封入した神秘が漏れず、即座に霧散しない。
流石に時間を掛けてしまうとじわじわと、それこそ水が空気中に蒸発するように容量を減らしてしまうのだが。
ともあれ大進展! 『神秘電池』は躍進を遂げた!
『エキストラクトンV2』から抽出した神秘の貯蔵庫として活躍しているそれは単三から500mlペットボトルサイズまで大きくなって容量もグンとアップだ!
神秘で満たした銃弾を装填したマシンガンを単純計算で5分間撃ち続けられる程度の神秘容量! それを一週間も保管できるぞ! すごい!
……が、うん。成功したはいいけど。
これまた壁に当たった。
製造コストが高い。工程がめんどくさい。
まず高純度に精製したエーテルとヴォルフスエック鋼鉄を絶妙な配分で溶かし込んで混ぜ合わせ加工し作り出した手のひら大の容器に、古代電池の中身、マンドレイクの濃縮液諸々の液体で容器を満たし、数時間置いて馴染ませる。中身を取り出し、神秘を必要量注入。すると晴れて保存容器の完成である。
いや、うん。
主要な材料のみを並べ、出来うる限り簡略化したが、まぁめんどくさい。量産体制を整えるよりも他の研究したいくらいには。
でも抽出した神秘を保管する数が要る。ので作らなくては……生みの苦しみ……!!
いけないいけない。気分を切り替えよう。
さっさとここら辺を探し切って他の地区まで足を延ばさないと……
「〇〇ー!!」
おや、モモイちゃんが帰って来───両手に何持ってきてんの?
後ろからトラックもやって来て……運転してるのミドリちゃんか。
「大型の金属探知機かっぱらってきたからこれ使って探しまくろう!」
「トラックもとってきたからこれに積んじゃっても良いよね?」
な、なるほどそうかっ!!
でも今かっぱらってきたって言ったね?
あとミドリちゃん免許って持って……あ、ない? レースゲームで鍛えてるから楽勝?
というかスピード出し過ぎ、アクセルベタ踏みしてるっていうかこのままだと私に直撃コース待ったなし────
「うぎゃーっ!?」
「あーっ〇〇が轢かれたっ!!」
凄まじい速度の5トントラックに吹き飛ばされたが、かすり傷程度で済んだ。
神秘によって高まった生身の耐久性を思わぬ所で実感できたので結果オーライといった所かな。
ハプニングはあったが、最終的に人数はそこそこ増え、ミレニアムサイエンススクール近くの神秘物質探しは順調に進んでいた。
最終的には「ゴミを集めたら金くれるんだってなぁ! もっと上等な鉛玉をくれてやるよォ!!」と噂を聞き付けた周囲の不良が乱入してきてちょっとした乱闘騒ぎになったのはいつものキヴォトスといった所か。
……戦闘時、あるいは興奮状態におけるヘイローは一時的に活発化をする事が判明。
その様子を間近で観察しようと思わず不良の子に組み付いてしまい、挙句力加減を誤ってぶん投げた結果ミレニアムタワーのガラスを派手にぶち破ってしまい、やってきたユウカさんに軽く叱られた。
でもユウカさんのヘイローを間近で見れたのでこっちも結果オーライ。
ちなみにユウカさんのは完璧な1つの円。
数字を愛するユウカさんらしいヘイローと言えるだろう。
……このヘイローだからこそユウカさんなのか、ユウカさんだからこそこのヘイローがあるのか。
ニワトリが先か卵が先か……
ひとまずは纏まった量の神秘を帯びた物質が手に入った。
けれど、これも研究に使用したらすぐに枯渇してしまうだろう。
ミレニアムの外からも集めなければ賄えない。
材料を集める時間も必要、それを研究し活用する時間も必要。
やりたい事もやるべき事も多い……
ともあれ、人手が足りない。
猫の手も借りたいが、それ相応の知識や技術も必要だ。
いっそ私を複製でもできたら楽になるだろうになぁ。