神秘探求したいミレニアムモブ生徒とゲマトリアがガッチャンコ   作:ハイパームテキミレニアム

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透き通るように純粋な!

 

 

 ……装置を弄り、パワードスーツの展開を解く。

 

 

 

 成功だ! 

 起動実験は滞りなく、かつ円滑に終了した! 

 機器類から弾かれた数値も誤差の値も全て許容範囲内だ! 

 トントン拍子に神秘開発が進んでいると逆に怖いぞ! そろそろ足を踏み外しそう! 

 

 過ぎるそんな不安もすぐさま掻き消えるくらいには調子に乗っていた。

 研究開発設計を進める中で大きな問題にぶち当たらずスムーズに進行できてると失敗するんじゃない? みたいな変な予感が走るけども。

 

 ともあれ何がなんであれ、パワードスーツの開発も成功したのだ。

 以前とは比べ物にならない程の開発スピードに自分で涙が止まらない。ついでにクリエイティブな欲求も止まらない。

 とめどなく溢れ出る欲望と歓喜に打ち震え、自我を忘れる程に踊り狂おう。

 

 今日は1人でパーリナイ! 

 

 

 

「──おや。クックック……お元気そうで何よりですね」

 

 

 歌いながらはしゃぎ回りの即興の謎ダンスが2週目に入った頃合。

 ふと後ろを振り向くと部屋入口に佇む黒服さん。

 何時から居たんだろう。

 すごく顔が熱くなってきた、まずい。

 

 

「お気になさらず、つい先程入ったばかりですので」

 

「ぁ、はい。どうもお気遣い頂きまして……」

 

 

 すごい大人の対応だ。流石大人。頼もしいぜ。

 

 

「ふむ……貴方が装着しているソレが今回の発明品ですね」

 

 

 言いながらこの開発部屋の椅子に腰掛け、デスクの上に散らばったままのパワードスーツの資料を手に取っていく黒服さん。

 顔はこちらに向けないまま……視線は分かりにくいけど、資料の文字をひたすらに追っては時折興味深げに頷いている。

 

 同じ技術畑の人にそういう反応をされると何だか嬉しい。相手が『大人』という事もあって余計新鮮に思えてしまう。

 

 

「ふむ。今回の物も良い逸品かと。では、実際に稼働している様子を見せて下さいませんか?」

 

「了解しました!」

 

 

 黒服さんに促されて、改めてパワードスーツの稼働準備に移る。

 

 私の腰部前面にベルトで取り付けた装置。神秘増幅器アンプちゃんを中心に据えた、これまでの作品の総結集ともいえるパワードスーツ展開装置。

 ミレニアム校章の意匠もない、シンプルな白一色に染められた外見。見た目に遊びはあんまり組み込めなかったけど……遊びがあるのは次の部分からだ。

 

 

extension(展開)

 

 

 装置上部のボタンを押し込む。流れる音声ガイダンスと共に装置が起動する。

 

 装置と私の間。ズブリ、と見えない何かが繋がって、突き立てられるようなほんの少しの圧迫感が生じながら、接続が果たされる。私の神秘とアンプちゃんが同調し、神秘の増幅が開始される。

 

 お腹から広がる、体の内側を這いずり込まれて、血管のように全身に行き渡っていく感覚が爪先にまで伝播していく。

 異物感、違和感を跳ね除けず受け入れて……増幅した神秘を、体中に染み込ませる。

 

 

 私の体に染み渡った神秘の蒼白い光のラインが浮かび上がり、次の工程が始まる。

 

 

 着ていた服が粒子化され、装置に収納される。

 装置からすぐさま全身タイプの黒いインナースーツが首から下を覆い尽くして、ぴっちりと包み込む。

 続けて肩から手首、胸元から下腹部、股下から足を覆うようにワイヤーフレームが浮かび上がり、それに沿う様に装置に収納されていた装甲が一斉に装着される。

 そして最後に目元を覆うバイザーががちゃん、とセッティング。併せて手元に私のハンドガンも呼び出され、握り込む。

 バイザーからモニターされる各部位、各種センサー、装甲、その他諸々の要素、オールグリーン。問題無し! 

 

 

《armored over》

 

 

 そうして私は力強くメカニカル、しかしシャープで流麗なフォルムに。纏うは頑丈かつ軽量を目指し、誰でも装着できる動きやすさを求めたアーマー。

 巨大大型機械らしくゴテゴテとした装甲ではなく、あくまで人型のオートマタのような出立ち。

 

 

 各部に増幅した私の神秘を充填し、耐久性と運動性能、攻撃性能を向上。稼働の都合でアーマーに覆われていない部位にも神秘は行き渡るので問題なし。

 そして血液のように神秘を絶えず循環させ続ける事で攻撃により消耗した箇所に素早く神秘を再充填。耐久性を損なわない。

 

 

 こうして神秘を用いて私の体に構築された、装着式防護機構装甲プロトタイプ。

 

 

 名付けて『S.F(サイエンス・フィクション)アーマー』! 

 

 

 私の想像を現実と化した、硝煙と弾丸飛び交うキヴォトスの世を生き抜く為の、新世代型パワードスーツの走りだ! 

 

 

 

「素晴らしい。この短期間でここまでの物を作り上げるとは」

 

 

 パチパチ。控えめで、確かに讃えるような拍手が鳴る。

 そう言ってもらえるならば、嬉しい限り。

 認められる為だけにやっている訳ではないけれど、それはそれとして誰かに褒められたりするのは良いものだ。

 

 ……徐ろに拍手を止めて、指を組んでこちらを見つめてくる黒服さん。

 釣られて姿勢を正してしまう。

 何だろ、上げて落とされるのだろうか。

 

 

「……しかし。まだ納得が行っていないのでは?」

 

 

 

 ぐぅ、と小さく息が漏れる。

 

 そう。

 

 確かに神秘を原動力にしたパワードスーツを実現できた。

 私が想い描いていた空想が現実となった。

 机上の空論から、実体を持った形となった。

 

 

 けれども。

 この程度なのか? と。

 物足りなさがどうしようもなくある。

 

 耐久性は確かに抜群だ。戦車砲の接射にも理論上耐えられる。無論装着者の安全は込みで。……ただ、削れた分の装甲の補填などは装着者の神秘に依存する為、連射されまくって神秘を削られてしまえばそれまでだろう。

 その他のスペックは確かに既存のパワードスーツを超えている。しかし目を見張る程に圧倒的ではない。

 粒子化収納という技術を使った革新的なものではある。しかし革命的ではない。既存の社会をひっくり返す程にはまだ届かない。

 

 

 まだ、私の目指す物とは程遠い。

 

 

 神秘とはこの程度ではないと確信しているからこそ、納得できていない。

 まだやれる。やれる。神秘の真価はここに留まるものではないんだ。

 

 むしろここからなのだ。まだまだ果てには届かないけれど、そこへ至る道筋は確保できている。後はそれを辿り、駆け上がるのみ。

 その為にも燻らずに開発、設計、改良を重ねなければ。

 

 そう、心にある欲求のままに突き進む。

 神秘を形にする理想は現実となった。

 ならば更なる理想を追い求めていくだけだ。

 

 ここまで成功を重ねてきて、何処か慢心があったのだ。それを改めて突き付けてくれた黒服さんに感謝しなくては。

 

 

「クク。……貴方が更に神秘の深淵を目指すというのならば……助言を致しましょう」

 

 

 向き直っていざ感謝を、とした所でそんな言葉がかけられる。

 黒服さんがタブレットでパワードスーツをモニターしている画面を指差してこちらを伺っている。慌てて駆け寄った。

 

 

「今の状態から大きな変化を起こすとするならば、弄るべきは此方の部分かと。例えば……」

 

 

 黒服さんが指す部分は、装置の根幹。改良したアンプちゃんの、私の神秘と接続、増幅を行っている箇所において、更なる介入を果たすのだという。

 

 その為の理論と説明がなされていく。

 私の神秘と装置の接続を深く、強く。

 溢れ出る神秘をもって、飛躍とする為に。

 無意識にうぅん、と首をひねる。

 

 

「神秘の量の増幅が今以上になされるというならありがたいのですけど……やはり問題は溢れる神秘の行先です。今は全身とアーマーに循環させる形を取っていますが、これ以上に溢れるとどうしても外部に漏れてしまって、エネルギー効率が……それに、過剰に増幅し過ぎるとフィードバックが起きてしまう問題もありまして……」

 

「その溢れ出てしまう神秘も、自身を覆う盾とするのです。……幸いにして、参考になりそうな装置と資料があります。そちらを融通しましょう。是非とも組み込んでみてください」

 

「なっ、なるほどそうか!」

 

 

 思わず膝を打つ。

 今以上に出力を上げると溢れてしまう過剰神秘という問題点を、身体を覆う二重三重の膜として構築、形成を行い、更に堅牢な防壁とする。

 しかもその機能のノウハウがあるという。最初の取っ掛りすら用意されているとは何とも至れり尽くせり。

 

 

 ……ん?

 確かに性能向上には一役、いや二役も買うだろうけど、それだけでここから大きな躍進を遂げるのだろうか? 

 

 

「ご安心を。貴方の懸念は尤もでしょうが……これを成した時、貴方は今より一段上の領域に登り詰める。……そう、私は確信しておりますので」

 

 

 ご機嫌な微笑みと共にそう諭される。

 うぅむ、なるほど。

 

 まぁ黒服さんがこういった場面で嘘を吐いてまでの励ましをする人柄ではないのは、短い付き合いだけども分かっている。

 恐らく、本当に私ならばできて、そうなれるのだと思ってのことなんだろう。

 

 神秘に関して造詣が深いのは間違いなく黒服さんであるし、その人がそう言うのであれば、まずは試す他ない。まずは試して、自分で考察して、また試していって知識としよう。

 私は黒服さんの期待になるべく応えるように努めるだけだ。

 何より此方の事を分かってくれるパトロンの言う事を無下にするのはありえないしね。

 

 

「分かりました! ではやってみますね!」

 

 

 その後、黒服さんが持ってきた機材と資料をお借りして、早速S.Fアーマーの改造へと取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 そうしてひとまずの改造を終えた頃。

 見計らったように黒服さんが部屋に戻ってきて、動作試験を促してきた。

 

 いや、いいんですけど……まだ一度も動かしてませんし、普通に失敗するかもしれませんよ? 

 とか伝えてみるけど。

 

 

「そう気負わずとも良いですよ。それに、貴方ならば必ずや成功すると……私は思っていますので」

 

 

 期待が何だか重い! 

 嬉しい悲鳴だよ!

 いや、私も開発を何もかも順風満帆に成功させるスーパーエンジニアではないですから! 

 今まで作ってきた製品の中でももちろん失敗は多かったし理想の製品を一度の失敗もなく作れた事も無いのに! 

 というかここに来てからも神秘製品の開発でとりあえず作れたけどその過程で何個もボツにした物もあるって黒服さん知ってるでしょ! 開発資料とか全部共有してるんですから! 

 

 

 そんな言葉も柳に風とばかりに受け流され、"まずは試してみるのが一番でしょう? "とまで言われた。確かにそうだけども……! 

 成功して当然だろうみたいな期待を乗せられると吐いちゃうからやめて欲しい。なまじ黒服さんが相手なばかり、もし失敗してため息吐かれでもしたらヘイローが割れるかもしれない。

 失望されて見放されるのだけは絶対にごめんだ。

 まだ作りたいものはたくさんあるんだしね! 

 

 

 

「あー、では起動させますね」

 

 

 

 ふぅ、と緊張を外に吐き出す。

 乾く唇を無理やり湿らせて、装置を腰部に取り付ける。

 

 黒服さんが持ってきてくれた機材は、その機構、中身を解析して、各種パーツに分けて……元の機能を損なわないように装置に組み込み、馴染ませた。

 これによって、S.Fアーマーに革命が起きる…………らしい。黒服さんが言うからにはそうなのだと思いたいけど……

 まぁ……動かしてもない内にうだうだ考えても仕方がない。まずは動作させてからだ。

 

 

 装置を取り付けて、起動開始。

 

 ぎゅぅん、とうねるような音と共に、私の神秘と装置が接続、同調、増幅。

 

 ただし接続は、より深く、強く。

 

 

「う、ぐ……」

 

 

 比例して強くなった異物感と圧迫感に思わず息が漏れる。

 接続は、もっと奥まで。

 私の神秘。私の神秘が生み出される場所。私の脳髄へと至り、神経へ、血管へ、筋肉へ……私の全てに一度接続を果たし、全てに宿る神秘という神秘に同調を行い、増幅を実行する。

 

 

「お、おお、おおお!?」

 

 

 どん、と頭の中から音が響く。

 

 これ以上無いほどに溢れ出る神秘が私の体から勢いよく噴出する。とめどなく、滞りなく。枷から外れたように、活火山の噴火みたく果てしない出力が私の体から溢れ出す。

 

 

 っていうかコレ、増幅され過ぎ、想定よりも何倍も出力されて……

 

 

「あっ、ぐ、ぅぎぃあっ!?」

 

 

 フィードバックよりも何倍もすごい衝撃が、体に打ち込まれる。痛い、痛い! 

 頭が痛い、割れる、くだける、痛い! 

 明らかに、許容値をオーバーして、挙動が、というか、安全装置……起動、して、ない、熱い、痛い! 装置、止められ……停止できな……

 

 

「ぁ、が、あっ、ぐ」

 

 

 ぱきり、なにかがひび割れる音が、頭のなかに、響いて……

 視界、白んで、飛んで…………色とりどりに、弾けて、混ざって…………

 

 

 

 

 意識が、透き通る。

 

 

 

 

 

 

 

 

「────、っ、ぁ、あ、あぁ……あー……ぅ、あれ……」

 

「わた、し……?」

 

 

 意識が浮き上がる。

 

 頭がぼぅっとする。

 何が、起きたんだろ。

 

 

「……調子はいかがですか、〇〇さん」

 

 

 黒服さんの声が、私を呼んでいる。

 あぁ、そうだ。改造した装置を起動させて……途中で神秘が増幅しすぎて、止められなくて……暴走して。

 失敗、したのかな……? 

 

 

 あれ、でも……S.Fアーマーが装着されている。

 私の意思に合わせて、手指が動く。腕が上がる。歩けもする。

 

 

 

「ご自身のお姿を、よくご覧になって下さい」

 

「何が、見えますか?」

 

 

 いつの間にか用意されていた姿見を黒服さんが私の前に置く。

 

 

 映し出された、私の姿。

 問題なく、S.Fアーマーを装着している。

 

 見て分かるのは、外見じゃなくて。

 体の細部。その隅々に至るまで、神秘が漲って、溢れて、満ち満ちているのが、鏡越しでも良く分かる。

 

 神秘の総量は、これまでとは桁違い。

 爪先から頭の天辺まで、これ以上無いほどに、溢れて、溢れて……私の全てを満たしている。

 

 

「あ、は」

 

 

 そして、頭の上部。

 頭の上に浮かんでいるはずの、私のヘイロー。

 

 

 

「きれい……」

 

 

 白い円ではない。

 違う形。

 

 中空に浮かぶ、黒い丸型。

 そこから一対の翼を広げたそれらを囲うように、光の束が二回り。

 

 きらきら、きらきら。星のような煌めきを携えて、神秘に満ちて、満ちて、力強く輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

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