機械仕掛けの天使は透き通る世界の夢を見るか?   作:ヒカセン先生

2 / 6
EP2:物語の時計は動き出す

 

「様子を見てきてほしい、ですか?」

 

「そうなんだ。こういうの頼めるのミヤちゃんだけでね。なんとかお願いできないかな~?」

 

 アビドス高等学校。現在の自分が通う学校に登校し、同じ学校の友人でもある砂狼シロコと話をしている途中、ミヤはある人物から『ちょっといいかな?』と、呼び出された。

 

 小鳥遊ホシノ。現在のアビドス高等学校の実施的な生徒会長であり、唯一の三年生。現在は対策委員会の委員長を務めている。普段どこか抜けたようにだらけているそんな先輩は、今はいつもとは違い真面目な目で。そして同じような声のトーンで、自分と二人しか居ない部屋である話を切り出した。

 

「ミヤちゃんはニュースとか、見るよね。最近の治安というか、各学校の情勢というか……色々知ってると思う。特に、ミレニアムの方面についてはなにか聞いてるんじゃないかな」

 

「まあ、それは……。確かに最近のニュースでの治安の悪化については見てますし、ミレニアム方面の知り合いから色々と話は聞いてます」

 

「差し支えなければ、教えてもらってもいいかな」

 

「それは、はい。リオ先輩からも、別に聞かれたら話してもいいと言われてますし」

 

「うへぇー……流石ミレニアムの生徒会長。おじさんがこうやって聞くことも想定済みかぁ」

 

 アビドスに所属しているとは言え、ミアのミレニアムとの交友関係がなくなったわけではない。特に、向こうの中枢とも言えるセミナー関係者や生徒会長であるリオ、エンジニア部やヴェリタスとは交友関係がある。

 

 その交友関係から、ここ最近のキヴォトスの情勢についての話や、その裏話については聞いていた。その話について、リオからは『必要であれば、話しても構わないわ』とも言われていた。

 

 

「リオ先輩や向こうのセミナーの友人から聞いた話なんですが、ここ最近の犯罪発生率は異常だそうです。ミレニアムは他の学区と比べると比較的しっかりと抑え込めているものの、正直状況は悪化の一途で限界が見えているとも話していました。 ……どうやら今回のこの状況に乗じて、不法な武器や兵器を販売する人間や、略奪を行う暴徒の増加。ミレニアムの中枢にサイバー攻撃を仕掛けようとする輩もかなり増えたとか」

 

「最後のはちょっと命知らずじゃないかなぁ。おじさんでもヴェリタスに喧嘩を売る恐ろしさは知ってるよ」

 

「友人は喜々として、逆にカモだって喜んでましたね。売られた側だからやりたい放題とも」

 

「うん、知ってた。でも逆に言えば、そんな命知らずが増えているってのも異常だよね。なんというか、普通の犯罪者ならまず今のミレニアムに喧嘩を売ろうとは考えないよ。 ……ああ、なるほど。ミレニアムが苦い顔してるのは、数か」

 

「はい、ホシノ先輩の考えているとおりです」

 

 実際の所、並大抵の不良集団や犯罪者集団がミレニアムに喧嘩を売ったところで相手にすらならない。ここ最近ミレニアムの体制は大きく変わり、それによって学区としての力はより強固なものとなっていた。

 

 今まで殆ど表に出ることのなかった、生徒会長である調月リオの台頭。その主導のもとの組織改革に体制の改革。『ミレニアム自治区防衛機構』と銘を称した、防衛システムの構築。技術力を活かして新たに開発された、最新型デバイスとオートマトンの連携による全体的な生徒の強化。

 

 トリニティとゲヘナが『エデン条約』を前にしてにらみ合いをしている間に、ミレニアムは改革を推し進めた。そうして、ミヤが提案したある企画書からミレニアムはアビドスとの提携にも動いていた。まだ大々的に動いては居ないものの、実質的にアビドスとミレニアムは協力関係にある状態だった。

 

 そんな今力を急激につけているミレニアムに弱点がないわけではない。要するに、数である。

 

 いくらミレニアムが急激に力をつけ、改革が進んでいると言っても数で攻められれば現状はどうしようもなかったのだ。無論、そのための対策を講じなかったリオやセミナーではない。だが、ここ最近の急激な犯罪増加率があまりにも早かったせいでそれが間に合わない状況になっていたのだ。

 

 結果。その対応手段なしで現状の対応にあたることとなった。多少多いくらいの数であれば問題はない。しかし、日に日にとんでもない勢いで増加していく犯罪発生率や学区内のトラブルに対して、現状なんとか抑え込めているものの限界が見えていた。つまるところ、手が足りない状況になっていたのだ。

 

「まあ正直現状は良くないよね。うちだって、最近のヘルメット団の襲撃率は異常としか言いようがないし。 ……で、最初の話に戻るんだけど。ミヤちゃん、連邦生徒会の噂は聞いたことあるかな」

 

「――それは。その、連邦生徒会長が失踪した、って噂ですか?」

 

「失踪とか行方不明とか言われてるけど、まあ居なくなったんじゃないのかって噂だね。正直な所、ここ最近の犯罪増加率や治安の悪化。その他諸々の問題に対して連邦生徒会が何もしないってのはちょっとおかしいと思うんだよね。ここで出てくるのが例の噂。加えて、別の何か公にできない連邦生徒会内部での問題とかもあって動かないんじゃないかなと、おじさんは思ってるんだ」

 

 普段の気の抜けたような様子からは考えられない。まるで、普段がそう装っているのではないのか、と感じるくらいの真面目な雰囲気と口調で話されてミヤは改めて思う。時々この先輩がこういった真面目な口調になることはあったが、もしかすると。この先輩の本質は――

 

 そこまで考えて、一度目を閉じてその考えを自分の心の奥底にしまい込む。

 

「だから私に、一度D.U地区。サンクトゥムタワーまで行って、状況を確認してきてほしいということですか」

 

「うん、そうなんだ。おじさんは立場上あんまり動けないし、下手にアビドスを今離れるのは不味いと思う。そうすると他のみんなの中から誰かに頼まなきゃだめってことになるんだけど、シロコちゃんやセリカちゃんは公の場とか交渉事出来ないでしょ、ノノミちゃんもそういう経験あんまりないだろうし。そうなるとアヤネちゃんかミヤちゃんなんだけど、ミレニアムでの経験上から場馴れしてそうなのはミヤちゃんかなって。それに、アヤネちゃんは指揮の中枢だし、流石に指揮官不在なのはちょっと不味い」

 

「なるほど、そういうことですか」

 

「後は、多分だけど今おじさんが頼んでるようなこと。要するに、学区の誰かをサンクトゥムタワーに向かわせるってこと、多分他の学校もやると思うんだよね。もし、現地でそういった生徒とかち合って、そこに知り合いとか居れば他の学区の状況も聞いてきてくれると嬉しいかな。あくまで出来れば、でいいよ」

 

「その、ゲヘナとトリニティについてはあまり期待しないで貰えると助かります。ゲヘナには知り合いがそこまで多くなくて、会えるかもわかりませんし。トリニティは、その……今はあまり関わりたくなくて」

 

「あー……うん、ごめんねおじさんが無理言った」

 

 先輩であるホシノの言いたいことは理解できる。しかし、どうしても。ミヤは今は、トリニティと関わりたくはなかった。かといって、ゲヘナに知り合いが多いわけでもない。多くのトリニティ生と違い、彼女はゲヘナ生徒に対しての忌避感などはない。だが、とにかく知り合いが少ないのだ。

 

 知り合いと言えるのは、たまたま外食中に知り合った美食研究会の黒舘ハルナとそのメンバー。そして、いつも苦労してそうだなと思っている愛清フウカくらいのものだ。

 

「……でも、連邦生徒会になら知り合い居ますよ。今の状況からなにか教えてくれるかは怪しいですし、会えるかわかりませんが」

 

「え?れ、連邦生徒会に知り合い居るの?」

 

「趣味が講じて仲良くなったというか。味の好みが似ていて仲良くなったというか」

 

「ちなみに、誰?名前出してもいい人?」

 

「えーっと……ヤ……ぱいです」

 

「ん?ごめん、よく聞こえなかった」

 

 

 

 

「ぼ、防衛室長の不知火カヤ先輩です……」

 

 

 

 

「そっかあ、防衛室長の不知火カヤ……うへぇ!?」

 

 やや目を逸らしながらその名前を口にした後輩にホシノは思わず驚きの声を上げる。とんでもない大物の名前が出たからだ。ホシノとしては、せいぜい役職持ちでもなんでもなく、一般の生徒会員だと思っていたのだ。

 

 連邦生徒会所属にして、キヴォトスの治安維持の最高責任者。それが防衛室長である不知火カヤである。何故そんな人物とミヤが知り合いかといえば、趣味が講じてとしか言いようがない。

 

 トリニティ在学時に休日、偶々私服で知る人間だけが知るコーヒーショップにコーヒー豆を買いに来た際に、休みが一日だけ取れた私服姿のカヤと出会い、趣味で意気投合して知り合ったのだ。それ以降は、カヤは立場上会うことは殆どできない上に多忙を極めていたが、モモトークでコーヒーについて語り合うなどする仲であった。

 

「そ、そっかあ防衛室長かぁ……うーん……」

 

 確かに、もし話を聞けるとすれば現状これ以上の相手は居ないだろう。とんでもない大物の名前が出てきて流石のホシノも驚きはしたが。

 

 しかし、相手も立場が立場である。現状について恐らく多くを知る人物であることに間違いはないが、それについて多くを話してくれるとも思えない。また、今の状況であれば現状に対する対処や、もし例の噂が本当であれば連邦生徒会内部での対応に忙殺されているだろうということはホシノには容易に想像できた。

 

「まさかミヤちゃん、噂の連邦生徒会長とも知り合いとかそんなことないよね?」

 

「ないですよ、私だってカヤ先輩のこと知った時驚いたんですから。でも、カヤ先輩からどんな人かって話は聞いたことはありますよ。明るくて自由奔放、大抵のことはこなせるけど頻繁にトラブルの種に首を突っ込んで、でもそれを解決してしまう文字通りの『超人』。カヤ先輩はそんな生徒会長の背中を見て、"自分は生徒会長のように全てをこなせる超人にはなれない。全てを救えるヒーローになれるわけではない。それでも、このキヴォトスを守れる人間でありたい"と思って今の役職についたそうです」

 

「――そっか。おじさんが言うのもあれだけど、防衛室長って小柄だけどかなりの武闘派らしいね。噂だと、各学区の生徒会長とか委員長レベルで強いとも聞くけど」

 

「強さは私も知りませんが、防衛室長になる前はよく現場に出たり、生徒会長の突っ込んだ火種の解決に乗り出したりしていたそうです。 ……最近はモモトークでずっといいコーヒーが飲みたい、缶コーヒーは不味い、デスクワークは疲れた、ちょっとくらい現場に行きたいって言ってますが。そういえば、夢の中で調査員とか名乗る変な大人に缶コーヒーをおすすめされたとか言ってましたね」

 

「うへ……やっぱり忙殺されてるんだ……というか缶コーヒーをおすすめする大人ってなにそれ……」

 

 コホン、とホシノは咳払いすると話を戻した。

 

「まあ、もし知り合いに会えて話を聞けそうなら聞いてきてほしいってことなんだ。頼めないかな」

 

「わかりました。出発は明日でも?」

 

「うん、大丈夫。今の情勢が情勢だから、万全の体制で。後、大丈夫だと思うけどちゃーんと無事に帰ってくること。ミヤちゃんはうちの、アビドスの大切な一員なんだからね」

 

 こうして。ミヤのサンクトゥムタワー行きが決定した。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「不知火カヤ、か」

 

 

 ミヤが退出した後。自分ひとりになった空き教室でホシノは呟いた。

 

 

 その表情に、普段他のアビドスメンバーに見せているようなだらけているような表情はない。真剣な異彩色の眼は、何かを思い出すようにして教室の外。晴れ渡る空を見つめていた。

 

 

 ――『言い訳はしません。全ては、私達が遅かったことが責任です。本当に……申し訳有りません』

 

 ――『そんな言葉、聞きたくないッ!そんなことされたって、先輩はッ……ユメ先輩はッ!』

 

 

 大切な人を喪ったあの日。『大人』は誰も助けてくれなかった。

 

 その前からもそうだった。アビドスの危機、それに対して生徒は次々と去ってしまい。最後に残ったのは、自分と先輩だけだった。

 

 そうして、そんな大切な相手すらも喪った。

 多くの存在は自分たちを助けてくれなかった。

 

 それでも。そんな中で助けようとしてくれたのは、『防衛室』だけだった。

 

 あの時、冷静でなかったのは事実だろう。だがそれは、きっと言い訳にしかならない。もし不知火カヤが独断であの時防衛室の人員を動かしていなければどうなっていたか。それは、容易に想像できた。

 

 急激な砂嵐による砂塵災害の拡大。それは、まだ人が残っていたアビドスの区画を襲った。突然の災害を前にして、住民はどうすることもできなかっただろう。そんな住民の避難と救助に真っ先に。かつただ唯一動いたのが、防衛室のカヤだった。そのお陰もあってか、住民に対しての被害は回避され。砂塵による住宅街への被害だけだった。

 

 

 住民の犠牲者は居なかった。

 だが。生徒(こども)の犠牲者は居た。

 

 梔子ユメ。当時、アビドス高等学校の生徒会長であった少女が"行方不明"となった。

 

 当時、アビドス自治区にて住民の避難誘導と救助を行っていたカヤの元に現れたのは、必死の形相でボロボロになったホシノだった。ただならぬ事態だと察したカヤはすぐにホシノから状況を聞き、自らが動員していた人員の中での精鋭を連れて砂嵐の中捜索に赴いた。

 

 だが、カヤをはじめとした防衛室の人員は元々避難誘導と救助を目的とした装備であり、極めて強力な砂嵐の中での捜索活動を視野にした装備ではなかった。結局、数時間後に一度捜索を打ち切り、翌日から彼女の『当面の間、行方不明者の捜索を行う』という指示の元1ヶ月の捜索が行われたが、梔子ユメ本人を発見することは出来なかった。

 

 だが。成果がなかったわけではない。ある意味、悪い方向での結果ではあったが見つかったものはあった。

 

 それは、ユメ本人が使っていたと思われる折り畳み携帯式のタクティカルシールドと、その他幾つかの、本人の持ち物が見つかったのである。発見された周辺をカヤ主導のもと隈なく捜索が行われたが、本人の姿は確認できず。その後もその周囲を捜索するも結果は同様だった。

 

 そうして。予定していた捜索期間が終わり、梔子ユメは行方不明者として処理された。

 

「キヴォトスの守護者、か」

 

 後輩から聞いた、カヤの目指すもの。きっと今の状況では本人は忙殺されているだろう。それでも彼女は、現状を打開してなんとかしようと動いているだろうと思えた。

 

 

 何故ならば。あの時、手を差し伸べてくれたのはその守護者足らんとする人物と、その彼女が所属する部署だけだったのだから。

 

 

「うへ……だめだなぁ。おじさんもしっかりしなきゃ」

 

 ならばこそ。自分は自分のなすべきことを。アビドスの生徒会長として、守るべき場所を守ろう。

 

 一度目を閉じ、いつもの気の抜けたような表情に戻ると、ホシノもまた教室を後にした。

 

 




■不知火カヤ
 超武闘派、代行であるリンとの仲は良好。連邦生徒会の最高戦力にして治安維持の最高責任者。政治的発言力も強く、SRTの存続をねじ込んだりした。

 最近の悩みはコーヒー豆を買いにいけないこと。だが夢の中に現れる調査員と名乗る不思議な大人から缶コーヒーをお勧めされ、おいしい缶コーヒーを探すのにもハマっている。

■梔子ユメ
 行方不明。本人は発見されておらず、一定の捜査期間の後行方不明者として処理された。

■調月リオ
 ミヤをこれでもかというほどに可愛がっていたミレニアムの生徒会長。ミヤが一時的にミレニアムで生活していた時は事情を聞いて傍から見てわかるほどにキレていた。実は生徒会長室のデスクにはミヤからプレゼントされたミニウェーブキャットぬいぐるみが飾られている。ナギサが対応をミスっていたらミレニアムとトリニティは完全に対立状態になっていた。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。