神秘探求したいミレニアムモブ生徒とゲマトリアがガッチャンコ 作:ハイパームテキミレニアム
「それでは、私はここで。お疲れ様でした!」
「うん、お疲れ様。気を付けるんだよ」
工具を片して、バッグに詰めて。
銃と一緒に肩に背負って、マイスターの皆に挨拶をしてから部室を出て行く。
今日も気分は晴れ晴れ、足並みはスキップ気味に。思わず鼻歌まで歌っちゃいながら、今日も今日とてあの場所へ、黒服さんの元へと向かう。
黒服さんの所へ行ってからというものの、神秘について更なる理解が得られたことで私のモチベーションはうなぎ登り。部活の活動も滞りなく進められる。
全く、胸のつっかえが取れたというか、詰まっていた物事が一気に快方へ向かう爽快感は堪らない。
胸のモヤモヤが静まった代わりに、空いた隙間を埋めるように好奇心がもりもりと湧いてくる。
あぁ、今日は何の実験をするのかな。どんなデータが取れるかな。そのデータをどうしてやろうかな……。
何て道すがら考えてたら、また見慣れた大人の姿を見つけた。
顔は黒服さんみたいに異形でもなく、かといって機械でも犬でもない、私達と同じ人の形。けれど頭の上にヘイローは着いてない、ただの人間。
キヴォトスの外から赴任してきた、シャーレの『先生』。
“あ、〇〇。今帰る所? ”
「先生じゃないですか、こんにちは! そうですね、今から帰りですよ」
ふわりと微笑みながら優しく声をかけてくれる先生。
どんな生徒にも分け隔てなく、こうして優しく接してくれる先生は、生徒の為ならばと私生活を投げ出す超お人好しで有名だ。
かくいう私も、神秘の研究にと連邦生徒会の資料庫の閲覧の許可を得るのに先生に無理を言って通してもらった事がある。
結局大した収穫は得られなかったものの、私個人ではどうしようもなかった事をパパっと解決してくれたのでお礼に何かお返しを、と言ってみた所。
──“じゃあ、一番作りたい物を作れた時は見せてくれる? ”
なんて言われた。もっと欲張っても良いと思うけれど。
“……何だか調子が良さそうだね? 良い事あった? ”
お人好しなのはさておき、先生は人の事をとにかく良く見ている人なのだ。ほんの些細な機微も読み取ってくるから、人間観察力が極めて優れてる。これが先生の器ってやつなのかな。
「あ、分かります? 実は最近研究が軌道に乗り始めてですね〜」
黒服さんと出会った後に結んだ契約がある。
それがあって、黒服さん自身の事についての口外はできない。黒服さんの所で行っている実験の事やその内容だが、この程度の事ならば問題無いと言われている……まぁ先生に言っても大丈夫でしょ。
“本当? 良かった、ようやく実を結び始めたんだね”
「はい、これからもバリバリ励みますからね!」
「───先生、いらっしゃってたんですね?」
とか話してたら、ユウカさんが向こうからやってきた。どうも先生に用事がある様子だし、私はさっさと退散しよう。
「あ、2人の邪魔をしたら悪いですし、そろそろ行きますね、それでは」
2人への挨拶はそこそこに、少し駆け足にその場を去ろうとすると、背中越しに先生の声がかけられる。
“〇〇。”
“無理はしないでね。”
“何かあったら、何時でも私を頼って。”
本当に先生は優しいなぁ。生徒を気遣ってて自分の事を疎かにしがちって聞くから、そこは少し治して欲しいとは思うけど。
まぁ、頼りになるし親身にしてくれるから、その言葉は遠慮なく受け取っておこう。
「はいっ、ありがとうございます、先生!」
「うあ〜……結構キますねコレ……」
「クックック……お疲れ様でした。今回の実験は少しばかり負担の掛かるものですので、本日はここで切り上げましょう」
各種計測機器や数多のケーブルが連なった機械から体を出して、今日の実験を終える。
黒服さんと共に、この人の所属している組織……『ゲマトリア』の施設の一画にある実験設備での実験を始めてから早一ヶ月。
今回はより神秘に密接なアプローチを仕掛け、神秘と深く結び付く私の体に負荷を大きく掛ける事で、より明確な神秘のデータを取るというものだった。
実験中、私の体の中に何かと繋がる感触と、体の内側を異物がうぞうぞと動き回る変な感覚が続くものだから、中々にグロッキーとなってしまった。
慣れれば大丈夫になるだろうけど……。
「こちらとしても良いデータを得られました。もちろんフィードバックをお送りしますので、役立てて下さい」
期待以上の成果を得られたらしく、黒服さんは白い口……口? みたいなものを何時もより高く吊り上げて、何時にもまして愉しげだ。私としても実験に協力したついでにデータの一部を提供してくれるので、実験が上手くいくのは有難い限り。
黒服さんに出会ったあの日、速攻で弟子宣言をした私だが、結局は師弟ではなく、互いを互いの協力者とするギブアンドテイクの関係に収まった。大人と子供という立場であるものの、お互いを利用し合う関係が丸いだろう、という事で。
黒服さんは私の体を使って実験を行う代わり、そのデータの一部を私に譲渡する。
私は神秘のデータを得られる代わり、体を差し出し実験をさせる。ただし死に至る実験は無しで。
黒服さんは私という生徒を通して、神秘の探究を。
私は得られたデータを元に、神秘を用いた何かしらの設計を試みたり。
そしてこの実験を繰り返す中で、解った事として。
神秘というものは私達の中に内包されていて、その強度や総量は生徒自身の体調や気分によって増減されたりする精神的エネルギーに近いもの。
神秘が齎す力によって、私達生徒は、先生のような脆い体ではなく、物理的な強い衝撃にも耐えられる頑強な体を有している。毒物や有害物質には人間同様弱いし、酸欠や出血多量も致命打となるけれど。
私達の中に満ち満ちて、なお溢れ出す神秘は、頭上に浮かぶヘイローとして現出している。このヘイローは意識の有無によって明滅する。
更に、黒服さんによれば、生徒によってヘイローの形状や色が大きく異なるらしい。
これには結構驚いた。
私達生徒側ではヘイローによって個人を判別するのは不可能だからだ。
精々できるのはヘイローの有無による意識の判別くらいだ。
試しに私のヘイローを黒服さんに模写してもらったが……黒服さんの説明では■■■な形状なのに、イラストを見ても私は飾り気のまるでない、丸い白色の輪っかとしか認識できなかった。
これは大人と子供……生徒という概念じみた立場の違いによる隔絶なのだと考えてみるが、まだ研究が必要そう。
「よし、と」
私に開け渡してくれた部屋にて、端末を起動して早速作業に取り掛かる。
私の体に負荷を掛けたり薬品を投与したりして得られたデータを、神秘というものを解析したものを使って、神秘に何かしら働きかけた物を作り出す。
私のしたかった事が、できるのだ。
楽しい。
楽しくてたまらない。
さぁ、どんどん作って、試して、形にしよう。
もの作りは試行錯誤の繰り返しだ。
神秘に関わる製品の開発に着手した私がまず最初に設計したのは、体の内にある神秘の量を増幅する装置。
この装置は黒服さんが私の神秘を調べる為に使っている装置を参考に、外部から対象の神秘の増減を行い、かつ設定した値通りに出力を安定させられるようにするもの。
私の内包する神秘の量というのは存外多くないらしい。なのでまずは神秘の絶対量を自在に増やせたりしないか、と思った次第だ。
何事も多い事に越したことはないからね。
これは黒服さんが使ってた装置というお手本があったから案外上手くいった。
両手で持てるくらいの小型化を施した、神秘増幅ユニット。
増幅器だから『アンプちゃん』と名付けよう。
対象者の神秘に向けて接続を行い、ある程度の負荷をかける事で神秘を増幅し、また指定した神秘量に安定して留めることもできた。
ただし許容量を大きく超えた値を指定すると、対象者側が耐え切れずフィードバックがかかる。
かなり痛いから、何かしらの対策を積んでおこう。
とりあえず私の神秘を増幅させる手段が手に入った。
しかも!
私は生涯で初めて、神秘に関わる物を作ることが出来た!
革命だ! 革新だ! 大いなる一歩だ! この調子でガンガン作ろう! そして私の夢を叶えるぞ! とテンションはサンクトゥムタワーよりも天高くうなぎ登りになった私は製作により励むこととなった。
ただ、この装置は小型化した影響で常に身体に密着する程の距離に置いていないと対象の神秘との接続が切れてしまう。
……使用の際はベルトを付けて体に巻いておくことにした。結構重たいから軽量化も考えておかないと。
加えて作ったのは、逆に神秘を抑制、減衰させる装置。
単体での活用というよりも、アンプちゃんで増幅し過ぎたり事故で神秘が許容量を超えてしまった際の補助、安全装置のようなものだ。
名付けて『ディスアンプちゃん』。
単体で使用すると、鎮静剤のような作用を引き起こすことが確認できた。けど効果がありすぎる。
使うと神秘が抑制され続ける影響で、腰が抜けたように力が抜けて立っていられなくなる。自分から何かが欠落して零れ落ちていくような感覚が心細くて、言いようの無い寂寥感に襲われて、どうにもいけない。
なので出力は最低限に絞り、あくまでも緊急用に発動するものとした。
……道端で暴れてる不良を沈静化させるにはぴったりの一品ではあったけど、あまり使いたくはないかな。
次に設計したのは、神秘を他の物体に付着、貯蔵させる装置。
神秘を付着といえば、キヴォトスの生徒はもっぱら銃弾に神秘を篭めて発射する事で、攻撃力を高めてやる手段がある。
これはやり過ぎると疲れたりするので数は撃てない。ここぞという時に使ったりするのだ。
かといって神秘を予め銃弾に篭めておいて、それをいっぱいに保存しておくことはしない、というかできない。
時間が経つと神秘が霧散するからである。
もしくは、神秘を篭めた物が手元を離れた途端、急速に神秘が霧散してしまう。
なので、神秘を貯めておける器的な物、加えて貯めておいた神秘を他の物体や誰かに移せる装置を作ろうと思った次第。
これの製作は難航した。
というより満足する結果を得られなかった。
やはりどうやっても、手元から離れた途端に神秘が飛び散ってしまう。
神秘を溜め込める物質も探してみた。
一部の物は一定量の神秘を篭められる。が、どれも関連性を見出せない雑多なものばかり。
上手くいかない。
篭める神秘の量や物体の素材を吟味して調べてみたけど、どうにも上手くいかない。
辛うじて作り出したのが、『神秘電池』と名付けたもの。
バッテリーのように神秘を貯蔵しておける単三電池サイズのもの。
内容量は銃弾3発分。放っておくと3分で神秘が空になる。
これについては一旦保留にした。ひとまず形にはなったので、他の研究の礎になるように保管をしておく。
こういう発明、研究においては上手くいかないことは付き物であるし、何より万の失敗に行き詰まりは当たり前。
ふとしたひらめき、ひょんなきっかけが光明を開くのだ。
なので一度置いといて、次の開発にシフトした。
余談ではあるが、神秘を付与された物体は軒並み耐久性が向上したり、元々持っていた性質が増幅されるらしい。
何の変哲もない布でも銃弾一発では焦げもしないし、手触りも良くなった。
何かに活かせそうなので書き留める。
そして今開発に取り掛かっているのは、物体を粒子化して、自由に取り出す装置。
これは確か、エンジニア部とゲーム開発部が一緒になってゲームを遊んでる時にその場のテンションで思い付いたやつだったかな。
何も無い所から無数の武器を取り出してはそれを使いこなして敵を倒すキャラを見て、「道具をたくさん収納出来る装置があると便利そう」とかそんな感じで設計図も手早く作られたっけ。
なので物体を粒子化して収納し、それを元に戻すという理論と装置自体はエンジニア部でも実現されていた。
これさえあれば装置以外何も持たず手ぶらでお出かけ! トラブルがあっても武器や道具を一瞬で取り出せる優れもの! そんな感じの売り文句で開発もされた。
……のだけど、色々と問題作だった。
まず粒子化にあたる変換効率がハチャメチャに悪かった。
一挺のハンドガンを粒子化してから取り出すまでの1回の試験動作だけで電気代をバカ食い、銃弾も装填すると激烈に電気を吸い尽くしていった。あんまりにも効率が悪過ぎた為に後日電気使用量を見た憤怒のユウカさんが乗り込んできてエンジニア部に隕石が落とされた。
めちゃくちゃ怖かったので製作はあえなく中止されたのだが、設計図自体は残っていたのでそれを持ち出し改良する事とした。
動力源を外部電力ではなく、神秘に置き換えたらどうなるか。
それを試してみたかったのだ。
動力源を私の神秘に置き換えると、粒子化における変換効率は劇的に向上を見せた。
フルに装填したハンドガン一挺でやっとだった粒子化収納が、私の体の体積程度の質量までなら装置内部に取り込む事ができた。
……色々と試した結果、粒子化収納の容量は動力の神秘量に依存するらしい。
ならアンプちゃんを用いて、私の神秘を増幅させれば……
結果は上々!
神秘を最大限増幅させた状態であれば、20m四方いっぱいに詰まった物体を装置に収納、取り出しが可能になった!
ただ、稼働の際は負荷がかなり大きい。すぐに許容値を振り切ってしまう。
アンプちゃんの挙動も安定しない。
増幅した神秘が溢れてしまう。改良の余地あり。
……神秘が溢れるなら、それを流し込む先を作ってあげれば良いかな?
常に神秘を充填させておくみたいに。
そうだ。
パワードスーツというのはどうだろう。
粒子化収納しておいたパワードスーツを瞬時に纏って、溢れ出てしまう神秘でそれをコーティングするように流し込む。
戦闘においても作業時においても、緊急の際に瞬時に展開できて、神秘によって装着者を守る。安心安全、力が無い子でも平気でブラックマーケットすら自由にぶら付けるような、そんなものが良い。
このキヴォトスにおいて、身を守れる防具に関しての需要は高い。
普通に歩いてたって、喧嘩の流れ弾に被弾するのは割かし日常茶飯事だし、誰だって痛いのは嫌だしね。
幸いにもパワードスーツのノウハウは山ほどある。
ミレニアム、エンジニア部万々歳。
早速設計、製作、開発だ。
……出来た。
出来たぞ。
もしも起動が成功したら傑作になる。
早速試そう。
独自解釈盛り盛り。
この作品ではこういう解釈なんだね……と生暖かい目で見て♡