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尻焼温泉と陰鬱な雨

本来であればスクープや裏情報を発信したいところだが、この旅行については大したエピソードもなく、ただの日記になってしまった。申し訳ない。

『川から湯が沸く混浴温泉があるらしいのよ!』

…と、ひかるちゃんから声を掛けられ、群馬県吾妻郡にある尻焼温泉という場所に小旅行に行った。

この温泉の存在はSNSのフォロワーから話を聞いて知ったらしい。勢い任せな性格のひかるちゃんは『聞いたからには確かめに行かなきゃ!』と私を誘ってくれたのだ。

こうして人に誘われなければ、1人悲しく毛布を被って死体のように寝転がる日々を送る私なので、腕を引っ張ってくれる友人の存在はありがたい。

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しかし、一見明るく活動的なひかるちゃんの性格には、実は重大な欠陥がある。

というのは、端的に言うと躁鬱が激しいのだ。

彼女の気分はジェットコースターのように乱高下し、計画を立てる段階ではワクワク気分だったものの、いざ旅行の日に顔を合わせたら、運悪く鬱状態に陥っていた。


そしてあろうことか私も私で日常生活が上手く回っておらず、いつにも増して根暗を加速させている最中だった。

なので旅の初日は殆ど出歩く事がなく、2人とも石の裏にいるダンゴムシのように旅館に籠城し、ジメジメと奇妙な時間を過ごすこととなってしまった。


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まぁ、それはそれで面白い体験だったので良いのだが。

そんな中でもちょっとは温泉を楽しめたので書き記しておく。

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尻焼温泉は先述の通り、川全体からお湯が沸いている天然温泉である。

伝承では昔の人は、この川に尻をついて、岩の熱さを利用して痔を治したらしい。

どこの旅館に所属している訳でもなく、フツーに川なので24時間好きな時に入れる。

カイドには

大自然に囲まれた風景をご覧になりながら、また、夜は懐中電灯を持ちながら大露天風呂に行くまでの期待感、恐怖感(中略)をお楽しみください』

と書いてあった。

恐怖感…ね。ホラーアトラクションとしても楽しめるのか。

確かに夜の川に浸かるなんて、フツーでは体験し得ない事だ。

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今回は川のすぐ横にある旅館『光山荘』に宿泊さてもらう事にした。


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長野原草津口駅からバスで30分。
花敷温泉停留所が最寄りのバス停だ。
光山荘はそこから更に上がった所にあり、バス停から旅館まで、女将さんに送迎をしてもらった。

ちなみにこのバス路線はGoogleマップでは廃線と表示されている。
実際、一度財政難で廃線になっていたそうだが、今はコミュニティバスとして再び運行されている。


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旅館入り口には湯あみが販売されていた。
全裸で川風呂に入るのが恥ずかしい人は湯あみ着用でも入れるっぽい。
湯あみの値段は男性770円、女性は1100円。

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で、肝心の川風呂なのだが…。
あいにく今日は雨で増水し、川に入れない状態。

旅館の女将さんいわく、今年は雨が多く4月から川の増水で入浴困難な日が続いてるのだそう。
まぁ、天候については文句をつけられないからしょうがない。
いつでも入れてしまったら秘湯の価値が薄れるもんな。入れるのが珍しいくらいが丁度良いのかもしれない。

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▲六合の里組合温泉郷組合の写真より

女将さんは冬場の方が気候が安定するから入れる事が多いと言っていた。

冬は寒くないのか?と聞いたら、尻焼温泉は冬でも入れるくらい暖かいらしい。
冬は雪が積もって、雪景色と温泉を楽しめて良いそうだ。

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▲本来であれば人々が自然に還り混浴を楽しんでいるはずなのだが…。


うーむ、今回は混浴好き仲間と戯れる夢は叶わなかった。また冬に最チャレンジしに行こうかな。


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光山荘には男湯、女湯、家族風呂がそれぞれ1つずつあったので、今回はそれで温泉を楽しむことにした。

小さな風呂だがほんのり硫黄の香りがして〝温泉らしさ〟を感じられる。

ここからちょっと登れば草津温泉だから、源泉の成分としては同じものなのだろう。

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夜、広縁で外を眺めていると、暗闇にまみれて何組か川を見にくる団体が散見された。懐中電灯を持って様子を見に行くが、ダメそうと分かると車に乗ってすぐ帰ってしまう。

みんな残念そうにしていた。


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旅館の料理は豪華だった。
ここの旅館の名物は鹿刺し、らしい。

本来鹿肉を生で食べるのはNGとされているが、多分一回冷凍してあるっぽい味と食感だったので、最低限は殺菌されてるのだろうか。

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肉厚に切られており、意外と癖がない。
馬刺とあまり変わらない感じだった。

体調が芳しくなく、一切れしか食べれなかったのが惜しい。

この後も天ぷらにご飯とご馳走が続くらしかったが、具合が悪く、ひかるちゃんを置いて先に部屋に戻ってしまった。

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部屋に戻ってからは意識を失うように眠ってしまった。

起きてからもダンゴムシ状態は変わらず。
ひかるちゃんと目的もなくポツポツと会話する。


話題は暗い話ばかりだ。

思い返せばこんな会話、世間からしたら滑稽で、意味がない会話でしかないんだろうけど。

でも会話をするという行為自体が我々石の裏のダンゴムシにとっては何よりも栄養になった。


私の活動のモットーは〝来世で陽キャになること〟

陽キャなら悩み事もないし、鬱々とした考えも『ツマンネ』で一蹴できるんだろうな…。

しかし『ヤベー』『スゲー』『マジデェ』で返せるトピックしか話せない人間関係ってのもどうなんだろう。

徒然草(つれづれぐさ)を書いた兼好法師は、『友とするにわろき者』として『病なく身強き人』を挙げていた。

つまり『病気一つしたことがなく身体の強い人は友達にしない方がいいよ』って話。

病気になったことが無い人は、その痛みや苦しみが分からないからだ。

…うーん。まぁしかし、痛みが分からないってことは本人にとって幸せな事なのかも?

むしろ「弱いのは自己責任」「病気になったら勝手に死んでれば?」と切り捨てて、強者同士で群れるほうが合理的なのかもしれない。世界は弱肉強食でできているのだから。

でもひかるちゃんとの旅の思い出や、答えのない会話にも飽きずに寄り添ってくれたひかるちゃん気持ちを全部無駄だとは思いたくないんだけどな…。

陽キャと陰キャ、どちらの人生がいいのか。
そう考えている内に疲れてしまい、再び眠りについた。

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尻焼温泉と陰鬱な雨|ひよわ水産
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