側近団たちの憂鬱 その2
放課後の九段下桂華タワー会議室。
側近団に護衛スタッフを加えた全体ミーティングが行われたのは、春日乃明日香のアドバイスを聞いたからである。
まぁ、余計な置物が中央に正座して鎮座しているのだが。
『わたしはごえいをこえてテロリストをせいあつしました』
そんな看板を持って正座中のお嬢様はそろそろ足が限界らしく震えている。
「これすっごく恥ずかしいんだけど……」
「自業自得じゃない」
(こくこく)
正座で足が痺れつつある桂華院瑠奈を容赦なく座らせる春日乃明日香と開法院蛍の二人。
笑顔なのに目が笑っていないのを見て、やっと側近団も気付く。
あの二人もお嬢様の暴走を心配していたのだと。
「で、だ。
今回のミーティングはあの前の置物をどうお淑やかに避難させるかという話になるのだが……」
「ちょっと。
おきものってひどく……はい。私が悪うございましたから、明日香ちゃんに蛍ちゃん笑顔で私を睨むの止めてくださいおねがいします……」
テロリストを制圧できるお嬢様でもこの部屋においては味方は一人も居なかった。
正しいことなのはわかるし、やった事も理解できなくはない。
だが、それが許せるかどうかは別問題なのだ。
「劉さんの提案じゃないけど、紐付けますか?」
「わたし、ちゅーがくせい!
りっぱなレディですぅ!!」
「そのレディがどうしてテロリストを鎮圧できたんですかねぇ?」
「……」
秘書の時任亜紀へ投げたお嬢様ブーメランは自身に見事炸裂。
最適解は黙ることとお嬢様は悟った。
「とは言えだ。
反省点は幾らでもある訳で。
今回一番の反省点は、成田空港に突っ込んでしまった事だろう。
せめて成田駅で引き返していれば、あの混乱については避けられた」
警備隊の中島淳隊長がその点を指摘し、それに情報関係者であるエヴァやアニーシャが発言を求める。
側近団はこの時点では発言せずに、なりゆきと痙攣しだしているお嬢様をハラハラ見ていた。
「逃げるという選択肢は間違ってはないのですが、退路が一つしか無かったのは問題ですね」
「東京にテロリストが潜伏して九段下桂華タワーを襲撃するという警告が出たので避難しました。
ですので東京から逃げ出すのは間違っていないのですが、その東京からの退路が思った以上に無いんです。
道路は慢性的な渋滞が発生しますし、ヘリの場合今回のテロリストは対空ロケットを持っていたという情報もありましたから。
列車で成田は最適解の一つだとは思っています」
「ただ、臨時列車を走らせた時点でほぼ特定されたのは問題ですね」
「複数の退路の用意とセーフハウスの確保は必要では」
ここで震えているお嬢様が手を上げる。
こういう時でもちゃんと必要な発言はする辺りこの中の頂点に君臨するお嬢様である。
「とりあえず、成田と羽田の近くのホテルを買います。
あと、西船橋駅前の手頃なビルを買って、セーフハウスにします。
これは、今橘に探させているので、近く報告ができるはずです」
一応己の身の安全についてそれ相応の対処は考えているらしい。
既に影響力を考えるならば、合衆国大統領とまでは行かないがアラブの石油王ぐらいの影響力はあるので、それぐらいの警備体制の拡充は急務とさえ言えた。
「瑠奈ちゃんの警護は大人がちゃんとしているとして、じゃあ、みんなの役割を定義しないと」
いやどうしてお前が場を仕切る春日乃明日香、と言える人間はこの場に居ない。
幼稚園から続く疑似姉妹ごっこも長くなればもはや身内みたいなものである。
なにしろ、この傍若無人なお嬢様を笑顔で正座させられる人間はそうは居ないのだ。
この時点で、桂華院家というか瑠奈の周囲は春日乃明日香と開法院蛍、この場には居ない天音澪の三人を時任亜紀と同列辺りに位置付けしていた。
という訳で、話が側近団に戻ってくる。
「私達いらない子?」
その側近団を代表して野月美咲が茶化すが、それをお嬢様自身が否定する。
正座できずに、四つん這いで震えながら。
「まさか!
うちは人材が足りないのよ!!
圧倒的に!
10年、20年先を見据えてあなた達を育てているのよ!!!
……おねがいだから蛍ちゃんふくらはぎつつかないでぇ……」
フリーダムな開法院蛍がニコニコしながらふくらはぎをつつくのでまったくしまらないが、その言葉には説得力があった。
何しろ、十年も経っていないのに総資産十兆円を超える企業グループをこのお嬢様は作り上げたのだ。
内部統治と統制は常に問題を抱えており、次代、次次代の人材確保すら追い付いていないのだった。
それでも、十年先の人材を育成する辺り、このお嬢様は先を考えていると言える。
なお、ゲーム設定では彼女たちが社会に出る前にお嬢様は破滅するのだが、そこはそれという事で。
「明日香ちゃんも蛍ちゃんも、家があるからね。
こっちの人材にカウントできないのよ。
その分、あなた達は最初から桂華グループの中に入ってもらう人材よ。
だからこそ、共に学び、共に遊んで、私を助けて……明日香ちゃんもふくらはぎつつかないでぇ!!」
そういう感じで、側近団はその存在の定義をきちんと提示された。
彼女たちは瑠奈の側近として主に学内を担当し、学外は大人たちに任せるという線引が成された事で、役割分担によって組織の整備を進めることになる。
「それはそれとして、お嬢様には反省を世間に示してもらいます!」
「あ。それはするのね……」
『桂華院瑠奈公爵令嬢!エンジェルハーネスを付けられる!!
真っ赤に震える公爵令嬢にかわいいとの声が殺到!!!
成田空港テロ事件を機に桂華グループの北樺警備保障は警備訓練を公開した。
護衛対象者である桂華院瑠奈公爵令嬢にはエンジェルハーネスが付けられ、秘書の時任亜紀女史が引っ張って逃がすという茶番が公開された。
これは、警護を乗り越えてテロリストを勝手に制圧した桂華院瑠奈公爵令嬢へのお仕置きであり、こうして公にする事でテロへの危険性を世論に周知したいと桂華グループ広報はインタビューに答えてくれた。
なお、この公爵令嬢が付けたエンジェルハーネスは即座に注文が殺到し、帝西百貨店では注文待ち……』
【お嬢様に】桂華院瑠奈スレ198【エンジェルハーネス】
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け
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い
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か
13
い
14
ん
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る
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な
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グイッ!
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きゃう!!
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ほら逃げますよお嬢様
ヤのつく自由業ちっくで説明するお嬢様周辺の序列
春日乃明日香・開放院蛍・天音澪 >>桂華院瑠奈との姉妹盃を交わした仲 (別名マリみて姉妹)
朝霧薫・華月詩織 >>桂華院家親族扱い
待宵早苗・栗森志津香・高橋鑑子>>ご学友
--彼女たちは格は上だけど内部に口出しできない--
橘由香>>側近団筆頭 若頭格
久春内七海>>若頭補佐格
側近団以下