弁護人もあっけにとられた法廷の「告白」 恩人を殺した被告、なぜ今
ラーメン店で働いていた男(37)は何年もの間、店長の男性と二人三脚でカウンターに立っていた。だが一昨年9月に2歳年下の親戚でもあった店長を何度も刺して殺害。店内にあった現金を手に新幹線に飛び乗った。なぜ困窮していた男を雇ってくれた「恩人」に刃を向けたのか。
今年9月9日、被告の男は紺色の長袖シャツに眼鏡姿で横浜地裁であった初公判の法廷に立っていた。
裁判長から起訴内容について聞かれ、「金を取ることは目的ではなかった」と一部を否認。表情に目立った動きはみられなかった。
被告は2023年9月15日午後5時ごろ、横浜市内の勤め先のラーメン店内で、店長の胸を包丁で刺して失血死させ、現金約21万8千円とバッグを奪ったとして、強盗殺人罪に問われた。店長の胸や腹などには、53カ所もの刺し傷が残っていた。
鑑定医も首をかしげた動機
動機を巡り、検察側と弁護側は真っ向対立。検察側は、借金に困っていた被告がインターネットで「強盗 放火 殺人 量刑」などと検索していたとして、計画的な犯行だったと主張した。
一方、弁護側は「怨恨(えんこん)が動機で金は目的ではなかった」と反論。強盗殺人罪より量刑が軽い殺人罪と窃盗罪を適用するべきだとした。動機については「被害者から長年、日常的に嫌がらせを受けていた」と訴えた。
弁護側によると、嫌がらせの内容は、シフト交代の際に引き継ぎをきちんとしてくれず、頭をたたかれたり、顔にアルコールスプレーをかけられたりなどといったものだった。
被告は逮捕後、刑事責任能力を調べるために鑑定留置され、その期間が延長されていた。その際、鑑定医は「『引き継ぎをされないから殺す』というのはない」と動機について疑問を投げかけていたと、被告は後の法廷で語った。
あっけにとられた弁護人
被告が突然、「告白」を始めたのは初公判の翌日のことだ。弁護人が嫌がらせの内容を尋ねていた時だった。
弁護人 「いじめを受けていたと言ってましたね」
被告 「一番嫌だったのは、過去に複数回、性処理をさせられたことです」
弁護人は一瞬目を見開き、あっけにとられた。ようやく質問を重ねると、被告は淡々と答えた。涙ぐんだように見える瞬間もあった。
供述によると、店内が二人きりになった18年から22年ごろまでの間に10回弱、「性被害」を受けたという。店長の性器を手で触らせられるなどしたと述べた。
「気持ち悪くて言いたくない」
捜査段階でも公判前整理手続きでも一切話していなかった内容だ。弁護人にも明かしていなかった。なぜ今になって――。
弁護人 「これまで誰かに相談した?」
被告 「話していません」
弁護人 「どうして?」
被告 「だって、気持ち悪くて言いたくないですよ。親戚同士、職場で」
弁護人 「なぜ今、言おうと?」
被告 「このままじゃ、ただじゃれ合っただけで自分がこんなこと(殺人)をしたことになる。それは嫌なので、今日言おうと思いました」
自殺に踏み切れず、殺意を向けた先は
検察側も問うた。
検察官 「それ以外の嫌がらせだけだったら?」
被告 「殺してないと思います」
検察官 「鑑定医には(話したか)」
被告 「言ってません」
店内に監視カメラが設置されてからは「被害」はやんだという。だが被告はその後も細かい嫌がらせが続いたと感じ、いらだちを募らせた。
被告 「ストレスでおかしくなっていた」
弁護人 「ロープや自殺マニュアルを購入しましたね」
被告 「ストレスで自殺しようと」
しかし恐怖から踏み切れず、次第に殺意を店長へ向けるようになった。
困窮時に手をさしのべてくれた親戚
店長は年の近い親戚で、幼いころから交流があった。5歳ごろには一緒に旅行もした。誕生日会に呼ばれたり、正月に集まったりもした。
被告は両親と兄の4人家族。小学生までは友達に囲まれ、楽しく過ごしていた。ところが、中学でバスケ部の友人とのトラブルを機に不登校になった。
卒業後、配送業や介護職として働いたが、長続きしなかった。やがてパチンコやギャンブルに手を出した。借金を重ね、自己破産した。
そんな時に雇ってくれたのが、数年前にラーメン店を開業した店長だった。被告の親の口利きだった。
16年9月ごろから働き始めた。月給は手取り16万~18万円。店長は被告に住まいも提供した。
18年ごろから2人で店を回すようになった。店長は開店前の仕込みから午後5時まで、被告はそこから翌午前3時の閉店まで。
「やりがいがあって楽しい。ラーメン屋に行って本当によかった」。当時を振り返って、被告は母親にこう報告している。しかし、やがて「嫌がらせ」が始まり、関係が悪化していく。
なぜ店を辞めなかったのかと問われた被告。「逃げられないと思った。(店長に)お世話になっているし……」。
包丁が刺さったまま「話し合おう」
被告は徐々に自暴自棄になっていった。事件前には、動画投稿アプリのライブ配信を見て投げ銭(視聴者による金銭支援)を繰り返すなどして、借金は100万円を超えていた。
そして事件は起きた。
23年9月15日夕、被告が出勤して店内で店長とすれ違った時だった。
被告 「ニヤついているのが見えて、スイッチが入った」
事前に購入していた包丁を背中に突き刺した。
店長は包丁が刺さった状態で、被告の腕を両手で押さえた。
被告が「毎日毎日よぉ」と言うと、店長は「ごめん、話し合おう」と止めた。しかし被告は何度も突き刺し、殺害した。
持ってきたボディーソープで体を洗って着替え、店に置いてあった現金を持ち去った。新幹線に乗って名古屋へ逃げたが、2日後に逮捕された。
「告白」は「にわかには信用できない」
最終弁論で弁護側は被告の「告白」が「第一の動機」だと訴えた。
「頭をたたかれるなどでは、人を殺すほどのものとは言えない。性被害を受けた事情があって、ようやく理解できる」
一般論として性被害は打ち明けにくいといった特性を主張しつつ、被告が捜査段階で供述しなかったとしても責められず、信用性がないと言い切れないと主張した。
これに対し、検察側は「被害者が反論できないことにつけ込んで虚偽を述べた」と反論。取り調べや2年近くに及んだ公判前整理手続きでも一切説明しなかったことを挙げたうえで、「被害を受けたのに2人しかいない職場で働き続け、誰にも相談しなかったことも不自然だ」とたたみかけ、信用性はないと言い切った。店の売上金を奪うことが動機だったと強調して無期懲役を求刑した。
被害者参加制度を使い証言台に立った被害者の兄は、涙ながらに訴えた。
「(性被害の供述で)尊厳がさらに傷つけられた。何も反論の機会が与えられない弟がふびんでなりません」
結審の日、裁判長からの問いかけに被告はこう話した。「僕が何を言ってもうそと捉えられるので、何も言いたくありません」
今年9月24日、判決が言い渡された。
求刑通り無期懲役だった。「計画性を備えた残虐な態様による強盗殺人」と指摘した。
被告の「告白」については検察側の主張を認定。「にわかに信用することはできない」と断定した。
裁判長が判決を読み上げている間、被告は小刻みに体を揺らしながら聞いていた。言い渡しが終わると、まっすぐ前を見て「はい」と答え、深々と頭を下げた。
判決後、被告は「罪状の事実誤認がある。量刑が重すぎる」として即日控訴した。
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