14-1.アドルフたちの顛末と尻拭い
私たちは婚約者関係となって、仲良く穏やかな日々を送っている。茶化してきそうだったカインとアベルも、それを温かく見守ってくれるからありがたい。
そういえば、私の屋敷に侵入して私を誘拐しようとしたアドルフと悪漢一味。それとオリビア。
彼らはその後について語っていなかったわね。
アドルフは、侯爵令嬢誘拐未遂の罪で、ブルーム公爵家は爵位を剥奪されたらしい。その上、最もつらいとされる北方の鉱山労働に、悪漢たちと共に従事させられているという。
そしてオリビア。彼女は誘拐幇助の罪で、伯爵家から除籍された。そして、アドルフたちと同じ鉱山へ送られ、相手を問わず鉱山奴隷たちの相手をさせられているらしい。
元貴族であった身分を剥奪され、奴隷同然の平民に落とされ、未遂だったとはいえ、なかなかに厳しい処分が下りたらしい。特に、私が王弟殿下であるユリウスと婚約したということで、王家のものに手を出したことに準ずる、としてなおさら厳しい沙汰になったようだ。
そして、ブルーム公爵家が請け負っていた御殿薬師の地位はというと……。
これが困ったことに、なかなか十分な腕を持った貴族家がないらしい。
ヒールポーションを作ることが出来ても、一般の魔法薬師レベルのものしか作れないらしいのだ。ましてやミドルヒールポーションとハイヒールポーションの良質なものを作れる魔法薬師を抱える貴族家はいなかったらしい。
本来なら普通のヒールポーションを作れればいいだけのはずだった。だが、私のせいで良質なヒールポーションとミドルヒールポーション、そしてハイヒールポーションの利便さになれてしまった騎士団たちは、「どうしてもあれが良い」とごねるのだそうだ。
そこまでは他人事だったのだ!
ところが、降って湧いてきたように、候補者に私の名が上がる。
ある日、王城から使者がやってきたのだ。なんと国王陛下自らの書簡を携えて。
内容はこうだ。
『クリスティーナに御殿薬師を担ってほしい』
──いえ、私この店でのんびり仕事をしていたいんですけれど。
国王陛下の手紙を見てから前のめりになり、私は両手で頭を抱えてため息をつく。
そんなとき、ちょうど我が家に訪れていたユリウスが、私がいる自室に訪ねてきた。
「クリスティーナ?」
ノック音と共に声をかけられる。
私は「どうぞ」と声をかけながら、一旦手紙を文机の上に置いて、もう一つの椅子を私の椅子の向かいに動かした。
「……王城から使者が来てから、クリスティーナが部屋に閉じこもりきりだとカインが心配していたが。そんな難しい薬の製作を頼まれたのか?」
私は、ふうとため息をつきながら、「どうぞ」と手振りで、空いた椅子を指し示す。それに促されてユリウスが腰を下ろす。
そうして、ユリウスが腰を下ろしてから私は口を開いた。
「……国王陛下直々に、私に、御殿薬師になれって言うのよ。ここ、エリュシオンとの両立は無理だわ」
そう言ってから私はまた一つため息をついた。
「……この店は……エリュシオンはどうするんだ」
「やめたくないわ。だってここはあなたとの思い出の場所。私はこのお店をのんびり経営したいの」
「どうしたものかな……。彼らのほしがるポーション類を作れる人は、クリスティーナ一人しかいない。クリスティーナがいっそ三人にも四人にもなったら良いのに」
とんでもないことを言い出すユリウス。でも、私がほしかったヒントはそれだった。
「それよ! ユリウス!」
「え?」
ユリウスは瞳を大きく開いて私のはしゃぐような声に驚いている。
「クリスティーナが三人にも四人にもなるのか? そうしたら私は誰を愛したら良いんだ? それとも全員か?」
真面目に頭を抱え出すユリウス。
「違うわ、ユリウス。私と同じ力を持っている、別の存在を作るの」
「同じ力を持つ存在?」
「そ。魔導人形よ」
「空の魔力格納器に、私の魔力を注ぐの。それを核にして、魔導人形は動く。私の核の魔力を使って、魔法を使う……だから、私同等に魔法薬師として働くことも可能だわ!」
私は、早速おじいさまの創薬ノートからレシピを探しに行こうと、椅子から立ち上がる。そうして、扉を開けて部屋を飛び出した。
ユリウスをそっちのけにして。
「クリスティーナ、階段に気をつけ……、ってアレは聞こえてないな」
なんてぼやいているのは、同然私の耳には届いていなかった。