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13-5.

「ユリウスさまがフェンリル狼を退治なさったぞー!」


「もうこれで王都は安心だ!」


 先触れとばかりに、ユリウスさんと一緒に黒い(シュヴァルツヴァルド)へ向かった騎士たちが馬を操りながら駆けてくる。


 それを聞いて、王都中の人たちから歓声が上がる。


「やったぞ、これでもう安心だ!」


「黒騎士様々だね!」


「さすが我が国の英雄騎士だ!」


 国民たちが口々にユリウスさんを褒め称える。


 私は、いても立ってもいられずにその騎士たちの方へ駆けだしていった。


「ユリウスさんは! ユリウスさんは無事なのですか?」


 すると、騎士たちは晴れやかな笑顔で私に答えてくれる。


「ユリウスさまは見事に森の主を退治してくださった。御身もご無事だ! もうじき戻ってこられるだろう」


「そうなんですね!」


 私は躍り上がりそうな心持ちでその返事を聞く。


 そして、森のある方へと視線を向ける。すると、小さな馬と人の影が見えた。その影がだんだん大きくなってきて、明瞭な人の姿に変わり、それがユリウスさんだとわかるようになる。


 彼にも私の姿がわかったのだろう。


「クリスティーナさん!」


 彼は私の名を呼んで、馬の上から大きく手を振ってくれた。


 それを見て、私は思わず彼の元へ駆けていった。そうせずにはいられなかった。


 彼は私のすぐそばまで来ると、馬からひらりと飛び降りた。そして、私の元へ駆けてくる。


「クリスティーナさん!」


 そして、私のことを抱きしめた。


「ユリウスさん!」


 私も、彼の大きな背に腕を回して、抱きしめ返す。胸の鼓動が聞こえる。そのとくんとくんと繰り返す音を聞いて、彼が無事に帰ってきたのだと実感がわいてくる。


「ただいま。約束通り帰ってきたよ」


「ええそうね。……お帰りなさい、ユリウスさん。ありがとう、街を救ってくれて。そして無事に帰ってきてくれて」


 そうして、しばらく抱擁を続けた。


 周りは英雄の帰還に歓声が上がる。


「さすが王の黒騎士だ!」


「アイベンシュッツ王国の英雄騎士、王弟陛下、バンザーイ!」


 そんな中、私たちは抱擁を緩め、お互いの視線を重ね合わせ、見つめ合う。


「……もう目は治りましたね」


「ああ、そうだな」


「私に、好きだといってくださる資格、もうおありになりますよね? それとも逆に今度は私では王弟殿下のお相手には役不足でしょうか?」


 私がそう尋ねると、そんなことはないとでも言うように、ユリウスさんが首を緩やかに横に振った。


 そして、その場で私の前に跪く。次に、私の片手をすくい取った。その面持ちはやや硬い。


「クリスティーナ・ベールマー侯爵令嬢。どうか私と結婚してくれないだろうか」


「……はい! もちろんです!」


 私は笑顔で快諾した。すると、ユリウスさんの表情も晴れやかなものに変わる。


「私の愛しいクリスティーナ。愛している。誰よりも、海よりも深く!」


 そう言ってから、私の手のひらにそっと口づけを落とした。


 周りの大衆からわっと歓声が上がる。


「国の英雄騎士が求婚なさったぞ!」


「そのお相手も救国の魔法薬師だ! 我が国は安泰だ!」


 わあっと騒ぎになる中で、ユリウスさんが立ち上がる。私たちは自然と寄り添い、再び抱擁し合った。


「……信じていなかったわけではなかったのですが、それでも、無事お帰りになるか、心配でした。ご無事をお祈りしていました。無事に帰ってきてくださってありがとうございます」


 私は、ユリウスさんがいなかった時間、胸の中で抱えていた不安を吐露する。


「ならば、その祈りが私に力を与えてくれてくれたのだろう。実際、あなたの持たせてくれたポーションが役に立ったよ。……こうしてあなたの元にいられるのも、あなたのおかげだ。ありがとう」


「いいえ、ユリウスさ……」


 そう言いかけたとき、唇にそっと彼の指先をあてがわれる。


「ユリウスだ。そう、呼んでくれ」


 間近に顔を寄せられて、そう請われる。私は、頬から耳朶まで熱くなってしまう。


「……ユリ、ウス……」


 そう請われたとおりに名を呼ぶと、りりしい顔がふうわりと優しい空気をまとって笑みを浮かべる。


「そうだ、クリスティーナ」


 そして、唇に一つ、優しい口づけを落とされた。


 私は驚いて、ぱっと離れて唇を両手の指で覆う。


「ああ、そんなそぶりも愛らしい」


「からかわないでください」


「からかってなどいない。そうだ! 兄上に、国王陛下に正式なお許しをいただきに行こう」


「お許し……、いただけるのでしょうか?」


 私は首を傾げた。私は一度は人に嫁した身。そんな身で、王弟陛下との結婚のお許しをいただけるのだろうか。そう、ほんの少し不安がよぎったのだ。


「私の、この討伐の報償として、あなたを花嫁にいただきたいと申し出るさ」


「ユリウス……」


 そう言ってもらって、彼がとても頼もしく思えて、私は彼の大きな手をすくい取って、口づけを落とした。


 そして、ふと思い出す。


「あっ。他にも、許しを得なければいけない子たちがいました!」


「……子たち?」


 ユリウスが首を傾げた。


「そうです。うちのケットシーのカインとアベルです! あの子たちにも理解をしてもらわないと!」


 そう言うと、ああ、と思い出したようにユリウスが頷いて、そして私の意見に賛成した。


「そうだな。あの子たちにも君をもらい受ける許しを得ないと。だけど、この状況上、戦勝と、君との結婚の許しを国王陛下に報告するのを先にすべきと思うんだ。……あの子たちを次にしていいかな?」


「それはそうですね。陛下のお許しをいただいたあと、あの子たちに理解してもらいましょう」


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