13-4.
「馬を持て!」
「「はっ!」」
騎士たちが走っていって、馬を迎えに行く。
その間に、ユリウスさんが私の方を向いた。
「……必ず、君の住むこの王都を守ってみせると誓うよ。そして、戻った暁には……」
そう言いかけて、「いや」と言いよどむ。
「それは後でいい。必ず、君の元に帰ってくる。君に伝えたい言葉がある。だから待っていてくれ、いいね?」
「……はい」
私は素直に頷いた。その間に、馬を三頭引き連れた騎士たちがやってくる。
「ユリウスさま、馬を連れて参りました!」
「では、行くぞ」
ユリウスさんたちがテントを出て行く。私も後を追った。
私は馬に乗るユリウスさんに声をかける。
「ご武運をお祈りしております」
「ああ」
私を馬の上から見下ろしながら、ユリウスさんが両目を細めながら私に笑いかけた。
そうして、ユリウスさんたち三人は馬で駆けていく。
その背が見えなくなるまで、私は見送った。
──どうか、ご武運を。
私はただ彼を信じて祈るしかないのだった。
◆
そうして、再びユリウスたちとフェンリル狼は対峙していた。フェンリル狼を除いて、ほぼ殲滅し終えていたから、再戦までの道のりはたやすかった。馬はとうに後方で待機させていた。
「グルルルル……」
自らに深い傷を負わせた見知った顔を見て、フェンリル狼がうなり声を上げる。
「ガルルル!」
先ほど効果のあった右への攻めを覚えていたのか、フェンリル狼が左手のかぎ爪を振り下ろす。
「はっ! もうそちらの死角はない! 飛翔剣!」
ユリウスは地を蹴ってそのかぎ爪をよけ、高く飛ぶ。そして、その左手に向けて、剣を振り下ろす。
「風の刃!」
剣を横に薙ぎ、フェンリル狼の左手に剣をたたき切った。
「ギャオオオオオオン!」
左手を切断され、三本足でバランスを崩したフェンリル狼が咆哮する。
そして、両者が再び対峙し合う。
フェンリル狼は一本前足を失っている。体を支えるためにも、もう片方のかぎ爪で攻撃をすることは不可能だった。だからだろうか。ぐんっと体を前のめりにして口を寄せ、その巨大な牙で攻撃しようとする。
「かかったな。……飛翔剣!」
地を蹴って飛翔し、口吻の上に乗り、剣を横に振って、その両目を切断する。
「ギャオオオオオオン!」
痛みに、フェンリル狼が首を左右に振る。そして、己の口吻の上にいるユリウスを振り落とそうとする。ユリウスはしかと足をつけ、それに振り切られずに駆け上がる。
だが、両者相打ち。ユリウスは胸に大きな傷を負っていた。
「クリスティーナさん、助かった」
バシャッと傷口に、彼女から受け取ったミドルヒールポーションをかける。すると、みるみるうちに傷は回復した。
「さすがだクリスティーナさん!」
回復するとすぐに、口吻の上からフェンリル狼の頭頂部に駆け上がっていって、そこにたどり着く。
「これで最後だ! 雷土剣!」
天から突き刺すように、両手で深く剣を突き刺す。それは、硬い頭蓋を貫通し、脳天を串刺しにした。
ドウッとフェンリル狼が倒れる。そして、舌を出して脱力した。
ヒラリ、とユリウスがフェンリル狼から飛び降りて地に足をつける。
「「ユリウスさま!」」
ともに来て、固唾を呑んで戦いの行方を見守っていた騎士たちがユリウスに駆け寄った。
「無事か?」
「「はい!」」
「……まだ生きてはいるようだが、時間の問題だろう。事後処理班を呼んできてはくれないか」
「はいっ!」
騎士の一人が応じて、馬のいる方へ駆けていった。
「おまえは国王陛下の元へ行って、無事元凶を退治したと伝えてくれないか」
「承知しました!」
もう一人の騎士も、馬のいる方へ駆けていった。
そうして一人きりになり、ユリウスは天を仰ぎ見る。
「クリスティーナさん、成し遂げたぞ」
万感の思いを込めて、同じ空の下で自分を待っているであろう愛しい人のことを思い出す。
木にもたれかかり、天を仰ぎ見ていると、美しいカーテンのような木漏れ日が差し込んできていて、これですべてが解決したのだと、そして、これからの展望も明るいのだと、そんな気持ちにさせてくれる。
あの人を、クリスティーナさんを愛したのはいつからだろう。最初は、居心地の良い、明るい朗らかな人柄に惹かれた。
やがて、ほぼ毎回のように遅い昼の食事をともに採るようになって、日々の何気ない会話からさらにその人柄に触れて惹かれていった。会話から漏れ伝わる、魔法薬師としてのプライドと研究熱心さに、尊敬の念さえ覚えた。
国王である兄や義姉である王妃にまで伝わるほどの発明をしてみせる、その手腕に。そして、そもそもの相談者へのいたわりに、敬意を抱いた。
一方で、私生活はというと、放任主義な冷たい家庭に生まれたこと、妻だったクリスティーナさんを顧みない夫に別れを告げて離婚したなど、朗らかな様子とは裏腹に過酷な過去を持っていること。それでも、彼女の明るさを絶やすことなくいられる強さなど、彼女には惹かれる一方だった。
それに対してどうだ、自分は。
と、ユリウスはそう思う。
おそらく、あの様子だと、彼女だって自分のことを憎からず想ってくれているはずだ。だというのに、自分は右目に負った傷の醜さを理由に彼女を遠ざけ続けた。
「……彼女の方が、ずっと、強い」
空を仰ぎ見ながら、彼女の笑顔を思い浮かべる。
「今度こそ、伝えよう」
この想いを、愛を、打ち明けよう。
彼女はいつもの朗らかさで受け入れてくれるだろうか。
そう思いながら、ユリウスは愛馬シュヴァルツの元へ行く。
そして、ヒラリと馬の上にまたがると、王都へと向かったのだった。