13-3.
私はテントの中で回復に追われていた。
そこに、ユリウスさんが二人の騎士に抱えられて運ばれてきた。
「ユリウスさん!」
私が、手当をちょうど終えて駆け寄ると、騎士が私に尋ねてくる。
「お嬢さん、ユリウスさまのお知り合いかい?」
「はい。魔法薬師のクリスティーナ・ベールマーです」
すると、二人のうちの騎士の一人の顔が明るくなる。
「クリスティーナさんというと、例の噂に高い店の主の!」
エリュシオンでの私の評判を知っていらっしゃる方だったようだ。そして、ユリウスさんの体を空いたスペースに横たえながら、私に尋ねてくる。
「見ての通り、ユリウスさまは深い傷を負われていらっしゃる。この通り、右手は切断され、腹は深く裂かれている」
見ると、目も背けたくなるような惨状であったけれど、腹をくくってしっかりと状態を確認する。
右手は切断され、その先は、騎士が持ってきている。
腹は内臓を切り裂かれるように損傷していた。
──これはどちらもハイポーションが必要ね。
もうハイポーションは使い切り、創薬するしかなかった。
「もうハイポーションはありません」
「そんなっ!」
「大丈夫。私が今ここで作ります」
私はマジックバッグから器材と材料を取り出した。
「癒やしの葉、エタノール、太陽花の種をすりつぶしたものを入れて……」
私は祈る。
──どうか、ユリウスさんを助けて。
「生成!」
素材の入ったビーカーに向かって、私は、強い願いを込めて両手のひらから強力な魔力を注ぐ。すると、それは溶け合い混じり合い変成し、ポーションへと変わっていく。強く輝いたかと思うと、魔力を注ぎ込んで出来あがったそれは、ハイヒールポーションだ。
念のため、鑑定眼鏡を使って確認する。
『ハイヒールポーション、最高級』
鑑定結果は上々だった。
「これで、治せるわ」
私がそう言うと、ユリウスさんを連れてきた騎士がつぶやく声が聞こえた。
「ユリウスさまは右目が不自由だ。そのハンデさえなければ、あの局面で遅れなど取られることはなかっただろうに……」
その言葉を聞いて、彼の右目を見る。そして、眼帯を外した。そこに、眼球は存在していなかった。
──これは、エリクサーじゃないと、治らない。
この局面、彼の右目が不可欠のようだ。
──それと……。
かれは、私に対して、右目のことで負い目に思っている。
ポケットを探る。
エリクサーを胸に、おじいさまに問う。
──おじいさま。王都を守るために。そして、私のこの想いをかなえるために使ってもいいですか。
すると、ひときわ明るくテントの中に日の光が差し込んできた。それはまるで天にいるおじいさまからの答えかのように。
それを見て、許されたのだと思うことにした。
エリクサーを使う覚悟をする。
私は、ユリウスさんの治療に当たることにした。
まずは、腕と腹。
最初に、消毒液を使って傷ついた部分を清潔にした。
それから腕を、切断面同士をくっつけた状態でに出来たばかりのハイポーションを必要量かける。すると、まだ新しい切断面から肉が盛り上がり、切断された筋肉や神経といった体組成分がつながっていく。
「おお!」
ユリウスさんを連れてきてくれた騎士が、その回復の様子を見て、感嘆の声を上げた。
この様子なら、そのうちきれいに接合されるだろう。
次は腹だ。
残りのハイポーションを、腹にかけた。すると、傷ついた内臓がくっつき、回復していく。私はその回復した内臓を中に押し込む。すると、それに沿って、傷口が接合されていった。
最後に、目だ。
この右目が。ハンデがなければ、きっとユリウスさまはこの難局を乗り越えて王都を救ってくださる。
私は覚悟を決めて、おじいさまの遺産のエリクサーの瓶の蓋を開けた。そして、眼帯を外されてあらわになっている閉ざされた右目を手で開け、そしてエリクサーをかけた。
ボコン、と失われたはずの左目と同じ紫石英色の眼球が再生する。グリンと、それは正しい位置に納まる。そして、眼球周りにあった、切りつけられたような切り傷も消し去っていった。そこには、一度深い傷を負ったとは思えない、美しいだけの男の顔があった。
「……すごいわ、エリクサー……」
私は感嘆の声を漏らす。
これが稀代の魔法薬師と呼ばれたおじいさまの最後に遺した遺品。使ったからには、いつか私が責任を持ってこれをつくりあげなければならないのだと胸に深く刻まれる。
そんな覚悟を胸に刻んでいると、「う……」と、ユリウスさんが目覚める気配がした。
「……私、は?」
ユリウスさんが目を覚ます。そして、両方の目で私を見た。
「……おかしい……。何かが……。……まさか、右が見えている?」
その言葉に、私はにっこりと微笑んで答えた。
「はい、右目も治しました。右目が死角だったとお聞きしたので」
「……治した? あの古傷は実在しないというエリクサーでもなければ治らない代物で……」
そこで、ユリウスさんがはっとした顔をする。
「君が?」
それを聞いて、私はうなずいた。
「はい。この難局を、あなたに征していただくために、私がそのエリクサーを使って治しました。ただし、エリクサーは私が作ったものではなく、祖父の遺産ですが」
それを聞いて、ユリウスさんが両目を大きく開く。
「……そんな貴重なものを……」
ユリウスさんが、体を起こそうとする。私は背に手を添えてそれを手伝った。
「必ずや、その思いに応えると誓おう」
体を起こして、ユリウスさんが私の両手を握る。
「はい。もう、右の死角はありませんから。今度こそ、王都を救ってください。私はここであなたを待っています」
「……ああ」
ユリウスさんは私の手を借りて立ち上がった。
「ああそうです。ヒールポーションとミドルヒールポーションを持って行ってください。万が一の時のために」
「ありがとう」
そう言って手渡すと、ユリウスさんは素直にそれを受け取ってくれた。
そして、二人の騎士の名を呼ぶ。
「アダム、アドバン」
「「はっ!」」
「もう一度あいつ元へ行くぞ。もう私には死角はない。今度こそ、あいつにとどめを刺してやる」
「「はいっ!」」