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13-2.

 王都中に警鐘が鳴り響いていた。


「避難命令だ!」


 王都中の人たちが、右往左往して大騒ぎになる。


 そしてその時だった。一人の衛兵の怒鳴り声が聞こえてきた。


「南からはぐれ魔獣がやってくるぞ! 平民街の人間は貴族街に入ってもかまわん! 北側への避難を急げ!」


「戦える冒険者、衛兵、騎士は応戦準備だ! 魔法薬師など、ヒールポーションを持っているものはできるだけ介護団の元に運べ! 治癒魔法が使えるものも集まれ! 急げ!」


 街の衛兵の声に、街が騒然となる。着の身着のまま家族で逃げ出す者、家財をまとめるのに苦心するものなど様々だ。


 私の屋敷は平民街にある。カインとアベルを連れて貴族街のある北へ逃げなければならないだろうか。


 ──でも、私は。


 たくさんのヒールポーションを持っているし、魔法薬師だ。……介護団に入って、傷を負った人たちを助けるべきだわ。


 後衛とはいえ戦場に出ることは恐ろしいと思うけれど、私はそう決意を固める。


 だって、戦える冒険者、衛兵や騎士たちは応戦に向かうんだもの。


 そして多分あの人──ユリウスさんも。


 だったら、私も出来ることをしないと。そう私は意を決する。


「カイン、アベル。二匹で貴族街の方へ逃げなさい」


 そう言うと、二匹がふるふると首を振る。


農園(ユートピア)に避難しているニャン。あそこは王都とは別の異空間になっているから安全ニャン」


 そうアベルが私に説明すると、カインもうなずいた。


「それにしても、クリスティーニャはどうするんだにゃ?」


「私は、一人でも多くの人を救うために、介護団に志願するわ。ヒールポーションを持って」


「「……クリスティーニャ……」」


 カインとアベルが不安そうに私のスカートの裾を握る。目はうるうるとしていて、今にも泣き出しそうだ。


「お願い、行かせて。私は、今私が出来ることを成し遂げたいの。大丈夫。ちゃんと無事にあなたたちの元へ帰ってくるわ」


 決意を胸にそう告げると、二匹はスカートをつかむ手を離してくれた。


「絶対帰ってくるんだにゃ」


「待ってるんだにゃ」


「うん、待っていて。必ず、戻るから。じゃあ、あなたたちは農園(ユートピア)に避難していてね」


 そう言って私と二匹は別れた。


 そして私はポーション類が入っている時間停止の保管庫(ストップ・ストレージ)の方へと急ぐ。


 マジックバッグを持ってきて、その中に時間停止の保管庫(ストップ・ストレージ)の中に入っているすべてのポーション類を入れた。


 さらに、それでも足りなくなった時のために、その場で出来るような最低限の器材と、農園(ユートピア)の素材、蒸留済みのエタノール


 そして、マジックバッグを背負って屋敷を出て、王都の南門の方へと向かう。


 すると、衛兵にとがめられた。


「お嬢さん! 今は待避だと言っているだろう!」


「私、魔法薬師です! ヒールポーションやミドルヒールポーション、そしてハイヒールポーションを持ってきました!」


「ハイポーションまでかっ!」


「はいっ! ですから、介護団に入れていただきたくてきました!」


「だったら、門のすぐ横のテントの中だ。頼んだぞ、お嬢さん!」


「はいっ!」


 そうして、私は教えられた場所にあったテントをくぐって入り、介護団志願だということを告げた。人手の少ない現場では即歓迎して受け入れられた。


 すると、もう魔獣たちとの戦闘は始まっているらしい。


 次々と負傷兵が運び込まれてきた。


「ヒールポーション、あります!」


 私は、マジックバッグからヒールポーションを取り出し、他の回復要員とともに怪我を癒やして回るのだった。




 ◆




 一方でユリウスと騎士たちは黒い(シュヴァルツヴァルド)の奥深くへと潜入していた。途中出会った魔獣は剣でなぎ倒して排除した。


「……どいつが原因なんだ」


 ユリウスたちは、一体、また一体となぎ倒しては、スタンピードの原因となった新たな森の主を探す。何か強い魔獣が住み着き、居座っているはずなのだ。それを排除しない限り、それから逃れようとそのほかの魔獣たちが人里へと逃げ込むのだ。


 ザッ、と彼らが一歩慎重に森をかき分けたときだった。


 自分たちの上にひときわ深い影が落ちたのに気が付いた。


 顔を上げる。


 すると、爛々とした獣の大きな瞳を光らせ、自分たちを見下ろすものがいた。


「……フェンリル狼だったか」


 ユリウスがつぶやく。


 それは、神話上の魔獣のフェンリルの名を冠した、小山ほどの大きさの大型の狼だった。そして、その周りには、無数の狼たちがフェンリル狼を守るように存在していた。


「……アダム、アドバン。おまえたちには、小物の狼を任せる」


 そう名を呼ばれた騎士たちがユリウスに尋ねる。


「ユリウスさまは?」


「私はフェンリル狼を狙う」


「お一人でですか!?」


「ああ。私があれと対峙する。その邪魔をされないよう、他の小物の排除を頼んだ!」


「「承知しました!」」


 その言葉とともに戦闘が始まる。


「風の(ウィンド・クリング)!」


 ユリウスは向かってくる小物の狼たちを複数まとめて、剣圧で生じた風の刃でなぎ倒し、道を切り開きながら先に進んでいく。


 そして、そう長くはかからずにフェンリル狼と対峙した。


 フェンリル狼は、ユリウスの存在を認めると、コウッと息を吐き瞬きする。そして、大きなかぎ爪を掲げてそれをユリウスめがけて振り下ろした。


飛翔剣スプリンゲン・シュウィアト!」


 ユリウスは地を蹴って高く飛び上がり、そして、剣を振り下ろす。しかし、その刃は反対の手のかぎ爪で阻まれる。


「ならば、一閃(スウェートリッシュ)!」


 そのかぎ爪を剣で払って、ユリウスは返し刃でフェンリル狼の肉を剣を切り裂いた。


「ぎゃぁぁ!」


 腕を切りつけられたフェンリル狼の目が、怒りで金から赤に変わる。そして怒りをあらわにユリウスをねめつけた。


「まだいける! 飛翔剣スプリンゲン・シュウィアト!」


 再びユリウスが地を蹴る。そして、フェンリル狼のその胴体に一閃を入れようとする。


「ユリウスさま! 我々も!」


 小物の狼たちを倒し終えた騎士たちが参戦する。そして、三人でフェンリル狼に立ち向かった。


 ユリウスが下ろそうとした剣を、再びフェンリル狼の左手が遮る。ユリウスはそのフェンリル狼の手を蹴って、さらに高く飛翔する。


雷土剣(ドナー・シュウィアト)!」


 天から突き刺すように、フェンリル狼の額に剣を突き刺す。


「ぎゃあああああ!」


 フェンリル狼が怒り猛ったように頭を振り回し、両手で外敵であるユリウスを排除しようとする。右手を避け、そして……。


 ユリウスをフェンリル狼の左手のかぎ爪が大きく裂く。


「ぐっ……ッ」


 それは、ユリウスが右目がないが故に死角となった右側からの攻撃だった。


「ぐはっ……ッ」


 どうっとユリウスの体が地にたたきつけられ、口から大量の血を吐く。深く、腹を切りつけられていた。そして、右手を切断されていた。


 だが、彼らと、今の自分では無理だろうとユリウスはまだある意識の中判断する。


「私を連れて撤退しろ……」


 そう言うと、ユリウスは意識を手放した。


「グルルルル……」


 フェンリル狼はまだ怒りに駆られている。

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