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12-1.アドルフの誤算②

「いつになったら、ミドルヒールポーションとハイヒールポーションを納品するんだ! それに、ヒールポーションだって、品質がよその店と大して変わらないままじゃないか!」


 アドルフとオリビアは相変わらず納品係に叱責されていた。


 ヒールポーションについては頭が上がらない。どんなにオリビアが工房で働くものたちの補助をしようと、品質が上がることはなかったのだ。どうしたって、腕の差だった。


「ミドルヒールポーションとハイヒールポーションとはどういうことです!」


 御典薬師であるブルーム公爵家との契約はヒールポーションだけだったはずだ。叱責され続けたアドルフはとうとう逆に問い返すことにした。


「ある日、クリスティーナ嬢はミドルヒールポーションとハイヒールポーションを混ぜて納品してきてな。それが我が軍で重宝するから、彼女に頼んで納品してもらっていたのだ。だが、さすがに彼女が納品してくれた分も底をつきた。次の納品までにミドルヒールポーションとハイヒールポーションを納品できないというのなら、御典薬師の地位も、他の家に変えることを考えなくもないぞ!」


 そう責め帰された。


「……クリスティーナのやつ、余計なことをしやがって!」


 アドルフは激高した。




 そうして、イライラしながら過ごしていたある日、美容品の噂に鋭いオリビアが、美容剤シワトールとシミトールの噂とともに、王都にあるその店で質の良いヒールポーションとミドルヒールポーション、そしてハイヒールポーションを扱っているという噂を耳にした。


 そして、それをアドルフの耳に入れる。


「しかも、店主の名がクリスティーナっていうんですって。偶然かしら?」


 それを聞くと、アドルフはニヤリと笑う。


「偶然でも何でもいい。本人でもそうでなくても問題ない」


「……そうよね?」


 オリビアもにっこりと笑う。


「まずは、我が家に戻ってこないか打診の手紙を出してみよう。あの甘ちゃんのクリスティーナのことだ。ホイホイ乗ってくるかもしれないぞ。他人なら……まあ、公爵家の名でおだてれば良いのさ!」


「……まあ、前みたいに形だけ正妻ってしてあげても良くてよ」


「ああ、なんて優しいオリビア!」


 アドルフはオリビアを抱きしめる。


 それから文机に向かった。


「じゃあ、早速手紙を書こう! ああ、いつものように、花束もつけて送ってやろうか!」


 ところが。


 帰ってきた手紙の返事はけんもほろろといった内容だった。


『店の経営も順調ですのであしからず』


 要約するとそういった内容だった。


「クリスティーナ~あぁ!」


 怒りに駆られて苦々しげにその名を呼んだあと、手紙をぐしゃりと握りつぶす。


 そして、ふと思いついたように、そばにいたオリビアに尋ねた。


「なあオリビア。おまえのうちには多少後ろ暗い仕事でも引き受ける奴らと縁があったな?」


「ええ、そうね」


「そいつらに連絡を取れ。……クリスティーナは我が家がもらう。さらってきて、我が家で働かせればいい」


 アドルフはニタニタと笑った。




 ◆




 一方ユリウスはというと。


「……ずいぶん繁盛している。ここまで彼女自身の価値が上がると、彼女の身の上が危ないのではないか」


 それに、彼女は離婚したと言っていたが、ここまで彼女の価値が上がると、元夫が彼女の腕を惜しんで、彼女自身の意思を問わずに取り返そうとしては来ないだろうか。


 そう心配した。


 調べてみれば、彼女がかつて嫁していた家は御典薬師であるブルーム公爵家だという。


 軍部の納品係ものに聞いて調べてみれば、ブルーム公爵家の納品は芳しくなく、ミドルヒールポーションとハイヒールポーションも底をつきてしまったのだという。


 それを先日強く叱責したとも聞いた。


 ミドルヒールポーションはともかく、ハイヒールポーションまで高品質に作れるものはそうそういない。


 ──取り返しに来る可能性が高いのだよな。


 そして、彼女が言っていた身の上話からすれば、取り返され、ブルーム公爵家に戻ったとしても、大切に扱われるとは考えにくい。


 彼女はベールマー侯爵令嬢。


 彼女が笑っているのが好きだった。彼女との時間が好きだった。ずっと、あの時間が続けば良いと思っていた。こんな年になるまで、こんな想いを抱くのは初めてだった。


 こういう想いを、恋心とでもいうのだろうか。


 だが、私は醜い。美しい、光に包まれたような明るい彼女にはもっとふさわしい男がいるだろう。


 だから、私がしてやれるのはこんなことだけ。


 それだけでもしてやりたい。


 ──しばらく、屋敷の周りを警護しておくか。


 万が一ということもある。衛兵に知らせるための呼び笛も携帯した。


 そうして、店には立ち寄らず、ユリウスはあたりを警護していたのだった。


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