03-1.柔らかいパン
「「「ごちそうさまでした~!」」」
私たちはのんびりとした日常を過ごしていく。
例えばの一例だが、午前中はといえば、朝起きて、朝食を食べ、買い出しに行く。時間が余ったら本を読む。午後は昼食を食べ、おじいさまの遺した本を参考にしながら創薬をする。日が傾いてきたら夕飯を食べ、それぞれの時間を過ごし、就寝する。
至ってのどかな日々だった。
「何をしようかしら。……そういえば、食事に不満があるのよね、私」
そう、日々の主なイベントには食事がつきものだ。そこで出てくるもの、パン。それに私は不満を持っていた。
この世界ではパンはパン屋自身の家のかまどで焼いたものを市場に持ってきて売り、客はそれを買うのが一般的だ。
「……それが固いのよね」
どう言ったら良いのだろうか。ドイツパンとでもいえば良いのだろうか。とにかく固いのだ。
「……パン、作ろうかしら」
自家製酵母パンなら、前世で作ったことがある。料理好きでも、結構凝り性な方だったからだ。
パンは発酵。農園にある果物を発酵させて、それを酵母にして柔らかいパンが作れないだろうか。
「うん。やってみよう。農園なら常春だからなんでもあるけれど、何を元にしたら良いかしら」
私は腕組みをして悩む。
「……有名といったら、ブドウ酵母よね」
前世知識から、それにしようとぽんと手を打つ。小麦粉は前に市場で買っておいて運んでもらってあるし、蜂蜜もある。素材は大丈夫だ。
私は籠を持って農園へと足を運ぶ。
「あれえ? 農園に何か用?」
パタパタとアベルが駆け足でやってくる。
「うんっとね、酵母を作りたいの」
「酵母って、なぁに?」
「えっと、パンを柔らかくするのに必要なものなの」
「……?」
首を傾げて小一時間。そして「ええっ!」と驚いてアベルのまん丸な目をさらにまん丸にした。
「パンって柔らかくなるの? みんな固いよね?」
「うん、だから、柔らかいパンを、私が作ろうと思って」
驚きのまなざしが、尊敬のまなざしに変わる。
「パンが柔らかいの? それはすごいや。どんなんなんだろう! ふんわり? しっとり?」
「その両方よ」
そう言って答えると、アベルが驚いて尻餅をついた。そして、ぴょんと立ち上がってパンパンと汚れたお尻をはたいた。
「わぁ! それはすごいや!」
「だから、それに必要なブドウがほしいの」
「ブドウの木ならこっちだよ!」
心なしか心浮き立つ様子でアベルが先導してくれる。そして、案内してくれた先には、見事にデラウウェア風の葡萄が豊かに実っていた。
「この子でお役に立てるかなあ?」
「ええ、素晴らしいわ。きっとこの子なら役に立ってくれる」
私はアベルの頭をなでながら、そう答えた。
「はい。これ、ブドウを取るためのはさみ」
アベルが私に手渡してくれる。
「ありがとう」
そうして、私はレーズンを取って籠に入れ、はさみをアベルに返しつつお礼を言ってから屋敷の中へと戻るのだった。
その足で私は台所に直行する。
そうして私はパン酵母を作り、仕込み種を作った。計六日ほど掛かっただろうか。
パン酵母作りは一日ではいかない大変な仕事なのだ。
そうして終えてみて私は思いつく。
──そうだ。どうせなら今日のお昼ご飯は惣菜パンパーティーにしようかしら!