「現代の奴隷制度」と呼ばれる人身取引の実態が明るみに出た。女性や子どもを虐げるような非道な行為の根絶が急がれる。
タイから6月に連れて来られた12歳の少女が、違法な個室マッサージ店で性的サービスをさせられていた。9月に東京出入国在留管理局に助けを求め、保護された。警視庁は経営者の日本人男性を労働基準法違反の疑いで逮捕した。
少女と一緒に来日した母親は翌日に姿を消した。客の相手をするのは嫌だったが、母親からは働いて待つように指示された。「家族の生活のために」と我慢し、店の台所で寝泊まりしながら客の対応をしたという。心に負った傷は計り知れない。
父親は亡くなっており、母親はたびたび海外で出稼ぎをしていた。少女を残してタイに帰った後、渡航した台湾で売春に関わった疑いがあり拘束された。
母親はなぜ少女を海外の性産業で働かせたのか。人身取引を手がけるブローカーの関与を含め、全容を解明しなければならない。
人身取引は売春や強制労働、強制結婚などを目的に行われる。弱い立場の人が搾取される人権侵害である。
2024年に日本で保護された被害者は66人だが、表面化していない事案も多いとみられる。
加害者がパスポートを取り上げたり、借金を負わせたりして逃げられないようにしているためだ。ホストが恋愛感情を利用して売春をさせる手口では、女性自身が被害者であるとの認識を持っていないこともある。
米国務省が今年公表した報告書は、日本の現状について「子どもを性的サービスに従事させる人身売買業者の大半が摘発・処分されていない」と厳しい目を向ける。実際に検挙しても多くが執行猶予や罰金にとどまり、犯罪の抑止につながっていない。
日本政府の対応は不十分と言うほかない。人身取引の実態を明らかにした上で、加害者を厳しく取り締まる必要がある。被害者を保護する仕組みも強化すべきだ。
今回のようなケースでは男性客も犯罪に加担していたことになる。身近な場所で起きていた人権侵害だ。社会全体で向き合うべき問題である。