仲代さんが最初から堂々の主演だった「乱」の最大の見せ場は、建設費4億円と当時話題になった城を実際に燃やし、その中で演じた「乱心の表情」だったように思う。黒澤作品ならではの豪華すぎる一発勝負だった。実はこの撮影も、間近で見学する幸運にも恵まれた。

城はセットというより本建築のようだった。「汚し」と呼ばれる経年劣化のリアルな再現も、黒澤組ならではのていねいな仕事が施されていた。

周囲には消防車も待機し、その城を一気に燃やしてしまう何とも言えない緊張感。分単位の時間が経過したに違いないが、一瞬にしか感じられなかった。一定の距離があったので仲代さんの様子は見えなかった。

その時の迫力の演技、そしてここでも圧倒的な「目力」が映像に焼き付けられていた。

後に仲代さんは「監督から『君が転んだら4億円がパーだ』と言われていたので、本番中も『4億円』『4億円』と唱えてました」と明かした。この撮影でやけどを負い、1週間撮影を休むことにもなったが「役者って絵(映像)になりさえすれば、何でもやってしまうんですよ」とも。

タイプはまったく違うが、勝さん同様の「役者バカ」である。

「代役特訓」にもきっと当事者にしか分からない互いの思いが込められていたのだろう。「七人の侍」の端役出演に始まった黒澤監督との長き縁は、勝さんにも健さんにも果たせなかった「映画俳優・仲代達矢」のかけがいのない宝だったのだろう。【相原斎】