Blue Kenshi   作:外道カヤノ

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13.モノを食べる時は、誰にも邪魔されず、自由で、何というか……

 

 翌日。

 昨日の戦争で疲れたアレサは、珍しく事務所のソファーに寝転がっていた。

 ここ最近、ずっと働き詰めであったのもあるが、たまには休息も必要だろうということで、いい加減休むことにしたのだ。

 

 ──情報入手のためにフリデとカトと共にカイザーPMCの駐屯地に潜入捜査し、帰ったら情報の精査をエリや他内務が得意な者に任せつつ、仲間の戦闘技術の手解きをし、集まった情報をまとめながら、アビドスの復興案を真面目に考えつつ、仲間の戦闘訓練の手解きをし、記憶している機械装置や武器防具クロスボウ義肢建築物家具家電設備等々の設計図をキヴォトスに合った改修案を元ミレニアム生徒のメンバーと話し合い、やってきたアビドスの対応を行い、戦闘訓練の続きをし、とある人物と連絡を行い、せっせと装備を作りながら、持っているメイトウたちの整備と強盗の準備を行い……

 

 率直に言って、働き過ぎていた。

 メンバーから「いい加減寝ろ」と言われたアレサは、やむなくソファーに張り付けられていた。

 

「眠れん」

「寝ろよ。っていうかその格好心臓に悪いからやめてくれないか」

「無理だ。義肢があると動きたくなるし落ち着かん」

「アタシは今の状態のお前が居る方が落ち着かねぇよ」

 

 義肢を外し、衣服を外し、ついでにサラシも外し、見た目だるま状態の全裸でソファーに寝転がるアレサ。その横で、普通に制服を着たエリが、編み物の練習をしていた。

 

「そろそろミシンも使ってみたいな……そういや、あのぴっちりスーツなんだけど」

「Exスーツ*1のことか?」

「あぁ、ソレ。アレって、お前が言うには、作った鎖帷子を薄膜状に伸ばして布状にしてるんだろ? 物理的に考えたら無理じゃねぇか?」

「まあ、うん。確かにそうだが、そうなんだが……まあそういう作りなんだ」

「ミレニアムと物理法則に喧嘩売ってるじゃん」

「アレもかつての世界では失われた製法らしいからな。設計図があっても原理が理解できん。レシピ通りに作るとああなる」

「ふーん……」

「そうだ、鎖帷子の編み方も教えておこう」

 

 チクチクと編み物の音と、たわいもない会話が、事務所の中を満たす。

 事務所の中は、現在アレサとエリしかおらず、地下の工房や訓練道場、倉庫といった部屋には何人かメンバーがいるが、昼頃になるまで上がってくることはないだろう。

 

「という感じで、鉄を編むんだ。鎖帷子はとてつもなく時間がかかるが、一度作れれば後は慣れさ。ヴォルフスエック鋼鉄を素材に利用できれば、面白そうなんだが……」

「あん? あー、なんか聞いたことあるようなないような」

「カイザーPMCの中で(ひろ)った、青色の金属素材だ。他にも何か惹かれる素材も盗ってきた。奴ら、「オーパーツ」なんて大層な名前を付けて保管してたみたいだが」

 

 『ヴォルフスエック鉄鋼』。他、『ファイストス円盤』*2『水晶埴輪』*3、『マンドレイク』*4、『レヒニッツ写本』*5など。フリデとカトと一緒にPMC駐屯地を漁った際に見つけたものだ。

 どれも神秘を纏っており、アレサは本能のままにそれを盗んだ。

 

「へー……どこにあんの?」

「地下倉庫に置いてある。盗むなよ?」

「盗む意味ねぇだろ。ウチの資産なら」

 

 尤も、持ち帰ったは良いものの、今のところ使い道を見つけられていない。一番使い所がありそうなヴォルフスエック鉄鋼に関しては、アレサにはやってみたいことがあった。が、今はその時ではない。

 

「鍛治設備さえできれば、皆に剣を渡せるのだがな」

 

 ──実のところ。

 現在、万屋Kenshiで剣を使っている者はアレサしかいない。それぞれ『フォーリング・サン』、『板剣』、『フラグメントアックス』、『パラディンクロス』、『ムーンクリーヴァー』、『ショートクリーヴァー』、『ポールアーム』、『杖』、『十手』、『重十手』、『異国のサーベル』、『穴あき環刀』、『九環刀』、『長剣』、『デザートサーベル』、『野太刀』、『忍び刀』、『刀』、『鍔無刀』、『脇差し』のメイトウを持ち込んでいるが、どれもメイトウでキヴォトスには無い貴重品なため、誰かに託すことができていない。

 

 今はゴムで覆った鉄パイプや、刃を丸めた軍用ナイフ、木刀などで訓練をさせているが、いずれ実物の剣を渡さなければ、訓練の意味をなさない。

 そのためにも鍛治設備を作りたいと考えていたのだが、アレサの頭の設計図だと、何故か上手く鍛治設備が作れなかったのだ。

 

「完璧な設計図(ブループリント)のはずだ。見落としも、作成ミスもなかった。だが、()()()()()()()()()()()設備を作ることができん。困ったものだな……」

 

 これも、この世界の神秘が齎しているのか?

 アレサのつぶやきは、エリには不可解だったらしい。

 

 

 

 

 △▽△▽△▽△▽△▽△

 

 

 

 

「というわけだ。何か力を貸してくれないだろうか」

"ううん……"

 

 場所は変わって、柴関ラーメン。

 昼になったので、アレサたち万屋Kenshiのメンバーが、昼飯がてらに柴関ラーメンに行った。店の中を見れば、ちょうど先生と柴大将が話し合っていたのだ。

 珍しく一人で居た先生の横に、アレサは座っていた。カウンター席以外のボックス席は満員御礼。エリが気を利かせ、メンバーを誘導してアレサと二人切りの状態にしたのだ。

 

"鍛治設備、かぁ。想像が付くような付かないような。けど、一つだけ力になれるものはあるかも"

「本当か!?」

"うん。『クラフトチャンバー』っていうのがあってね、素材を入れれば自動でモノを製造してくれるんだ"

 

 自動。その言葉にアレサは強く顔を顰めた。

 

「……それは、製造する物品を指定できるのか?」

"……出来上がる物の傾向をある程度指定することはできるよ"

「つまりガチャか」

"ガチャ"

「背に腹は代えられん……」

"無茶しないでね……"

 

 気のせいでもなく、互いに目が曇ったのを見て何かを察した二人は、注文したラーメンを待とうと向き直る。すると、そのタイミングで新たに柴関ラーメンの扉を開く者がいた。

 

「あっ」

「おっ」

 

 便利屋68──その筆頭、アルはアレサの姿を見た途端、思わず声を荒げた。

 

「やっと見つけたわ!? さあ、あの時しらばっくれたことについて、教えて貰おうじゃない!」

「まさかここで会うとは……分かった話そう。しかしまずは席に着かないか?」

 

 ぷりぷりと怒るアルが歩み寄るが、その前にアレサは立ち上がり、アルを迎えるようにカウンターへ誘導する。

 そんなやり取りを見ていた先生は、ただただ困惑するしかない。

 

"し、しらばっくれ……? アレサ、何したの"

「先生も居たんだ。やっほー☆」

"ムツキ、こんにちは。何があったのか教えてくれる?"

「……もののついでだ。先生にも状況説明しよう。それでもいいか」

 

 そんなこんなで。

 

 万屋Kenshiに便利屋から依頼が舞い込んだこと。その内容がアビドス襲撃であり、アレサは彼女らのオペレーターとして協力。初回依頼ということで金銭でのやり取りは無かった。

 しかし、ここで別口から依頼が舞い込み、どうしても便利屋68との依頼内容とダブルブッキングしてしまう事態が発生した。その別口の依頼は企業であり、金を持ち込まれたためにそちらを優先せざるを得なかった──

 

 という内容をアレサは話した。前半は事実であるが、後半は全くのでっち上げで、当時は普通に万屋Kenshiの業務を優先して便利屋68のことをガン無視していた。

 

「ふ、ふ~ん……そう。まあ、ダブルブッキングなら百歩譲りましょう。けど、連絡が無かったのはどうしてかしら?」

「そこは話せない。依頼主の守秘義務に反する」

「……しらばっくれたね」

「何とでも言うがいい。私もアウトローの端くれなのでね」

 

 アウトローの言葉にアルはたじろぐ。が、横で聞いていたカヨコはそうもいかなかった。

 アルはそのまま呑み込んだが、カヨコは半分ほど噓が混じっていることを察していた。しかし、アレサの態度は見た通りだ。絶対にそれ以上話すことはしないだろう。

 チラリと先生を見る。彼も話の内容に噓があると分かっているようだが、それ以上口出しをする様子はない。

 

「……とりあえず、だ。食事にしないか? 昼食に来たのだろう」

「……ふん。いいわ、今はそれで手打ちにしましょう。けれど……?」

 

 突如、アルが扉の方向を向く。つられて、アレサや先生らもそちらを向いて──アレサは叫んだ。

 

「音……? いや、まさか! 伏せ──」

 

 瞬間、柴関ラーメンが爆ぜた。

 

 

 

 

 

 

 △▽△▽△▽△▽△▽△

 

 

 

 

 

 

 命中。淡々とした報告が、"銀鏡(しろみ)イオリ"の耳に届く。イオリはその現場をしっかりと見ていたが、報告を聞き届けた彼女は、よしと呟いた。

 彼女のすぐ隣には、ロケットランチャーを構えた少女が一人。銃口からは硝煙が漂っていた。

 

「さて、アレで伸びていれば楽なんだけどな」

「……よろしかったのでしょうか?」

「ん? 何がだ」

「見たところ、あのラーメン屋は普通に開店中だったように見えましたが」

 

 おずおずと質問するのは、先ほどの少女。紺色のベレー帽と制服──【ゲヘナ学園】、『風紀委員会』の腕章を嵌めた──に身を包んだ、おかっぱの少女だ。委員の一人たる彼女は、面倒くさそうに悪魔の尻尾を揺らすイオリに、どこか怯えていた。

 

 腰よりも長く伸ばした銀色のツインテール。焼けた肌に、赤色の瞳を宿した鋭い目付き。アイアンサイトのみというシンプルなスナイパーライフルを背負った少女は、さも当たり前のように答えた。

 

「どうでもいいだろ、そんなこと。そもそも()()()()()()()()()()()。誰か居たとしても、便利屋68の仲間とかじゃないか?」

「そう、ですかね……?」

 

 イオリたちの視線の先は、土煙に覆われた、柴関ラーメンだったものの跡だ。ロケットランチャーによって酷く無惨な姿になった店の中では、今頃標的である便利屋68と、その仲間たち? が急な爆撃で伸びている頃だろう。

 しかし、相手は同じ生徒。キヴォトス人だ。あくまでロケランの一発でノックアウトするのは、希望的観測に過ぎない。

 

 だが、彼女たちは最も最悪な未来を見せつけられることになる。

 

 

 

 カァンッ!!

 

 

 

「あ……?」

 

 イオリの横に居た少女が、消えた。

 

 否、吹っ飛んでいた。人から鳴ってはいけない、金属音とも言えない音が響いた時には、五メートル以上も少女は吹っ飛んでいたのだ。

 

 ──刹那、イオリは強烈な悪寒に襲われ、本能のままに横へ回避行動を取った。

 

 ブゥンッ!! と、風を千切る音。ほんの一瞬、視界の端に収めたのは、何かノコギリめいた白い物体が、自身の真横を通り過ぎるシーン。何か、明らかにキヴォトスにあってはならない物体が、自身の体を真っ二つにせんとしたのを感じた。

 

 気づけば、目の前の土煙は晴れていた。

 

 柴関ラーメンがあった場所の前に、人型のナニかが居た。

 

「──そ、総員! 戦闘開始! 繰り返す──戦闘開始だ!!」

 

 イオリは、この時ヤケクソで放った命令を、間違いだったとは思っていない。それは、イオリの後ろで控えていた風紀委員会のメンバーも、頷くだろう。

 

 見えてしまったのだ。

 

 煤けた姿になった、四肢が機械義肢の少女。

 

 銃を持たず、素手の状態で佇む彼女に、

 

 

 

 

 

 

 

 

 風紀委員長(空崎ヒナ)の姿を、幻視した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「万屋Kenshi、緊急依頼を受諾する」

 

*1
External muscle suit。MOD装備の一つ。

*2
白と黒の円盤状の物体。

*3
ピンク色の水晶でできた埴輪。何故だか分からないが卑猥に見える。

*4
美しい翡翠色の植物。今回は種と、成長中の芽が手に入った。

*5
謎めいた文字で記された文章、その写し。誰も解読できていない。





 メイトウ弁慶セットは、原作Kenshiの仕様上、バックパックを二つ持っても入らない量とマス目を使いますが、アレサは全部抱えて持ち込んだ、ということにしてください。

 本日は一口紹介シリーズはありません。

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