怠惰な凡人男子生徒はシャーレで働く   作:怠惰らボッチ

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書いてて気が付いた、シナリオの進行速度が凄く遅い。


イカれたヤツへの対象法は、生贄を捧げること。

 

 

 教室を出て行ったセリカさんを追い、ノノミさんが教室を出て行った。

 再び静寂に包まれた教室。

 その静寂の中、ホシノさんは口を開く。

 

 「えーと、簡単に説明すると、……この学校、借金があるんだー。まあ、ありふれた話しだけどさ」

 

 え?ありふれてるの?

 

 「でも問題は、その金額で……9億円くらいあるんだよね」

 ”きゅっ…!?”

 「億ぅ!?」

 

 年末のドでかい宝くじの1等並みじゃないか。

 まともな方法では清算できんだろソレ。

 

 「……9億6235万円、です」

 「四捨五入したら10億じゃねぇか」

 「アビドス……いえ、私たち『対策委員会』が返済しなくてはならない金額です。ですが、実際に完済できる可能性は0%に近く……ほとんどの生徒は諦めて、この学校と町を捨てて、去ってしまいました」

 「そして私たちだけが残った」

 

 絶望的な状況じゃないか。

 正直なんで弾薬や補給物資の支援を連邦生徒会にお願いしなかったのか不思議だったが、あいつら、アビドスの連中を切り捨てたな?

 

 ”何故そんな額の借金を?”

 「…数十年前、この学区の郊外にある砂漠で起きた大規模な砂嵐の影響です」

 「それなら知ってる、確か家とかが砂に埋もれるレベルの大災害だろ?」

 「はい、その自然災害を克服するため、我が校は多額の資金を投入せざるを得ませんでした。しかし、このような片田舎の学校に巨額の融資をしてくれる銀行はなかなか見つからず……」

 「結局、悪徳金融業者に頼るしかなかった」

 ”……”

 

 ……理不尽過ぎるな。

 自然災害とはいえ、学生が何かをしたわけではない。

 ただ、波に流されていたら巨額の借金を返済する羽目になったと。

 にしても三年間の学生生活のために途方もない借金返済を頑張れる地元愛は凄いな。

 俺なら他の奴ら同様に、学校見捨ててこの町離れるけどな。

 

 「……まぁ、そうつまらない話だよ」

 「セリカがあそこまで神経質になってるのは、これまで誰もこの問題にまともに向き合わなかったから。話を聞いてくれたのは、先生とラク、あなた達が初めて」

 

 なるほど、そりゃ九億の借金がある学校と関わりを持とうとする大人なんておらんわな。

 先生とかいう生徒のためならなんでもする精神の例外を除けば、普通の大人がそんな学校をまともに相手するはずがない。むしろ相手にするようなヤツは何か裏があるとしか思えない。

 セリカさんがあそこまで嫌がっていた理由が分かった。

 助けてくれると言われて、9億の借金のことを知ったらとんずらした大人やらがいたのだろう。

 というか、俺が先生なら多分そうしていた。

 期待して損するぐらいなら、期待させないでほしいという考え方。

 俺も似たような考え方を持ってるし、気持ちは分かる。

 努力して得るくらいなら、努力しないという考え方。

 うん。大体一緒だ。 

 

 「まぁ、もしこの委員会の顧問になってくれるとしても、借金のことは気にしなくていいからねー」

 「ん。先生はもう十分力になってくれた。これ以上迷惑はかけられない」

 

 と、言ってくる二人。

 正直に言ってしまえば、彼女たちの言葉通り、借金を気にせずに関わりたい。

 面倒くさいし、ダルいし、帰りたいし、面倒くさいし。

 けど、信頼関係の崩壊と、上司の意向に逆らうほうが面倒臭い。

 つまり――。

 

 ”何言ってるの、私たちはもう対策委員会の一員だからね、一緒に頑張ろう”

 「俺からもよろしく」

 「そ、それって……は、はい!よろしくお願いします、先生!ラクさん!」

 「へぇ、二人とも変わりものだねー。こんな面倒なことに自分から首を突っ込もうなんて」

 「俺はともかく、先生は『生徒第一』のイカれた社畜公務員だからね」

 ”イカれた社畜公務員!?”

 

 事実じゃん、労基行けよ。

 

 「よかった…『シャーレ』が力になってくれるなんて、これで私たちも、希望を持っていいんですよね?」

 ”任せて!”

 

 そう声を上げる先生。

 頼もしいが…、うん。

 俺は少し不安になって小声で聞いてみる。

 

 「先生、シャーレで借金負担しようなんて言わないですよね?」

 ”しないよ。アビドスの問題はアビドスが中心になって解決すべきだからね”

 

 ”ホシノ達も受け入れなさそうだし”と続ける。

 よかった。流石に毎日もやし生活とかは勘弁したかったからな。

 

 ”……まぁどうしようもない時はするかもだけど”

 

 おい。

 この人マジで変な壺とか買わされそうだ。

 せめてシャーレの金で買わないでくれ。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 太陽と共に目が覚める。

 なんてことはなく、時刻はおよそ8時。

 昨日まで砂漠で遭難していたからだろう、睡眠時間がいつもより多い。

 俺を見習って先生も少しは長く寝るべきだ。

 だから今日はチェックアウトギリギリまで寝かしておこう。

 …なんて考えていたのをバレていたのか、スマホのトークアプリに八時半に起こしてくれとメッセージが来ていた。

 朝6時に。

 そろそろ死ぬのではなかろうか。

 俺は部屋を出て、隣の部屋をノックする。

 

 「ん?」

 

 ノックをして気が付く。

 アレ?先生の部屋どうやって入ればいいんだ?

 アビドスに来た俺たちは、町の方にある宿泊施設に泊まって一夜を過ごしていた。

 一部屋に先生と二人で泊まる…なんてラブコメはなく、”疲れたから羽根伸ばしたいでしょ?”とか言って二部屋とってくれた。

 イケメンかな?惚れました。

 さて話を戻そう。

 そんなわけだから、俺は先生の部屋に入れないため、起こすことができない。

 さてどうしよう。

 

 「とりあえずモーニングコールでもするか」

 

 ポケットからスマホを取り出そうと手を伸ばしたとき、カチャと鍵が開く音がした。

 

 ”……おはようラク”

 

 ドアから顔を出す先生。

 顔を見ると、一睡もしてませんよと主張する目のクマがある。

 

 「もしかして…まだ起きてたんですか?」

 ”どうせならできる仕事全部終わらせよう、と思ったら…つい”

 

 徹夜は偶にあるが、砂漠を歩き回った日に行う徹夜といつもの徹夜は訳が違うだろう。

 ほんとになんで生きてんだこの人。

 ヘイローとかあるんじゃないか?

 

 「チェックアウトまで寝てた方がいいですよ」

 ”そうさせてもらうよ”

 

 ”はい、この部屋のヤツ”と言って、先生は俺にカードキーを渡し、ドアを閉める。

 チェックアウトまであと1時間半。

 銃弾が飛び交うキヴォトスだが、先生の死因はおそらく過労死だろう。

 キヴォトスには予言者がいるらしいが、これで俺もその仲間入りだ。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 先生を起こし、チェックアウトを済ませた俺たちは、アビドス高校へ向かって歩いていた。

 

 ”……あれは”

 

 そう言う先生が見つめる方向に目を向けてみれば、黒髪猫耳ツインテの女子高生がいた。

 可愛い。

 この辺りで学校はアビドスだけだ。

 ということは、あの子はアビドス、つまり昨日いたメンバーの一人だろう。

 

 「あれ誰ですか?先生」

 ”昨日会ったでしょ……あ、そっか、顔見てないのか”

 

 合点がいった先生は、”セリカだよ”と言って観察を続ける。

 なるほどセリカさんか。

 確かに顔と声が一致してる気がする。

 ………まぁそんなことより。

 

 「なんでセリカさん追ってるんですか」

 

 先ほどからセリカさんの後を付ける先生、その後をついていく俺。

 

 ”だってセリカがどこ行くか気にならない?学校と反対の方向だよ?”

 

 まぁ確かに気になる。

 

 「ですけどプライベートですからね。暴くのはよくないですよ」

 ”ごめんね、ラク。好奇心は止められないんだよ”

 

 そう言って電柱の影に隠れながら進む先生。

 完全なストーカーである。

 どうやら先生の頭はイカれてしまったようだ。

 しかし珍しいことではない。

 俺の家に凸してきたとき然り、日々の激務からか、先生の頭は偶にイカれる。

 そのたびにエロゲ同時視聴やら、アロナとか言うクソAIに調べられた検索履歴の開示やら、その検索履歴にあった大人な動画や漫画の感想を言わされるやらの苦行をさせられてきた俺としては、俺に被害が及んでいないこの状況はかなりありがたい。 

 つまり――。

 

 「仕方ないですね、怒られたら先生が責任取ってなんとかしてくださいよ」

 ”もちろん”

 

 身代わりにさせてもらうぞセリカさん。

 恨むなら昨日俺にお礼を言わなかった自分を恨むがいい。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 セリカさんを追って30分。

 ずいぶんと歩き、景色は既に住宅街から商業施設のある町中に変わっていた。

 

 ”見て、ラク”

 

 そう言って指をさす先生。

 その先を見てみれば、『柴関ラーメン』という店に入っていくセリカさん。

 

 「見かけによらずガッツリですね」

 ”……でも今の時間からご飯っておかしいと思わない?”

 

 現在時刻は11時。

 うん。普通じゃないか。

 

 「普通ですよ」

 ”そうかなぁ?”

 

 納得がいかないような顔をする先生。

 何故昼ご飯の時間に疑問を持つ人が自分の労働時間に疑問を持たないのか。

 

 「じゃあセリカさんの行先も分かったことですし、俺たちも学校向かいますよ」

 ”え?”

 「え?」

 

 え?

 

 ”まだセリカの行先は分かってないでしょ?”

 「いやいや、ラーメンでしょ、今見ましたよね、分かりましたよね?」

 ”はぁ”

 

 溜息をつき、”まだまだだね”と言いながら首を振る先生。

 何がだよ。

 

 ”行先はね、最後まで調べないと分からないものだよ”

 「……?」

 ”もしかしたらセリカは目的地に向かう途中に偶然目に入ったラーメン屋に入っただけかもしれない。実際にセリカがラーメンを目的にしていたかなんて、ラーメン屋に入っただけで分からないんだよ”

 「……」

 ”だからセリカが家に帰るまで追おう。つまり今日は学校に行かない”

 

 見たか世界。これが労働で壊れた人間だ。

 俺の方がマシな登校拒否の理由じゃないだろうか。

 

 ”あっ、セリカが出てきた”

 

 指をさす先生の先にはラーメン屋から出るセリカさんがいた。

 え?食べるの速過ぎないか?

 

 「……ん?」

 

 よく目を凝らしてみると、セリカさんの服装が変わっていることに気が付く。

 

 「……あぁ、バイトか」

 

 どうやら『柴関ラーメン』はセリカさんのバイト先だったらしい。

 実際、制服のような服装をした彼女は、開店の文字が書かれた看板を設置し、再び店の中に入っていった。

 

 「バイトみたいですよ、先生」

 ”そうだね”

 「これで行先がラーメン屋ってことは分かったでしょう?まさか目的地に向かう途中に偶然目に入ったラーメン屋でバイトして働いてる可能性がある、なんて言わないですよね」

 ”なるほど、その可能性があったね”

 

 ねぇよ。

 

 「とにかく、もう気は済んだでしょ、行きますよ先生」

 

 何故元不登校の俺が、ストーカーを理由に登校拒否をしている先生の説得をしているのだろうか。

 ラノベのタイトルでありそうだな。

 なんてことを思いながら先生を説得していると、急に先生が妙な提案をしてきた。

 

 ”ラク、お腹空いてない?”

 

 勘の言い少年である俺は、その一言で先生の今後の行動が予想できた。

 スマホで誰かと連絡を取っている先生を見るに、ゲストは俺たち二人だけじゃないらしい。

 すまんセリカさん。

 俺はラーメン屋に向かって十字を切った。

 

 

 




ラクの視聴履歴は合法のものしかありません。
真面目な怠け者です。

ストーリーの進行ペース

  • もっと早い方がいい
  • 気持ち早めにして
  • 今のままでいい
  • 今より遅くして
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