アビドスの皆が、巻き込まれたトリニティの生徒が、彼女らを追って走った便利屋68が、ブラックマーケットから抜け出した頃。
闇銀行を中心に、ブラックマーケットは混沌と化していた。
謎の襲撃事件が発生してから、僅か五分の出来事である。
闇銀行に、大量の襲撃者が後からやってきたのだ。
「金だ!! 金を寄越せ!!」
「今日、ここはオレたちのシマになる! 金を寄越せ!!」
「散々搾り取られてきた怨みを晴らす。金を寄越せ!!」
「金を寄越せ!!」「金を寄越せ!!」「金を寄越せ!!」「金を寄越せ!!」
「金!!」「金!!」「金!!」「金!!」「金!!」「金!!」「金!!」「金!!」「金!!」「金!!」「金!!」「金!!」「金!!」「金!!」「金!!」「金!!」「金!!」「金!!」
誰が言ったか、「全面戦争」。
ブラックマーケットに所属する、あらゆるグループが、企業が、闇銀行に襲撃しに来ている。誰かが壁に穴を開けたロビーは、兵器の残骸と、気絶した人々によって埋め尽くされている。内部では銃声が絶えず響き渡り、札束欲しさに我も我もと、不良生徒だけでなく、獣人族や機械種族まで押し寄せる。
もはや地獄。しかし、いつかは予期されていた火種。
それほどまでに、この銀行は、あらゆる狙いを付けられていたのだ。
そんな中、
「ふぅむ、カイザーと……廃校済みの学園との取引明細か。これは連邦生徒会に売れそうだな。財務室が清廉潔白かどうか調べる必要はあるが」
火種となった銀行強盗に参加していたアレサは、誰もいない書庫の中でひっそりと調べものをしていた。外では仰々しい音が響き、耐震性のあるはずの闇銀行自体が揺れるが、涼しい顔で物漁りをしていた。
「これは、知らん企業だな。ん? 待て、──学園と、ほぉ~……で、これはその関連か。確かこの学園はトリニティと縁があったはず。どの派閥だったかはこれも調べる必要があるな」
皆が金品を求める中、アレサが求めたのは情報。闇銀行間での取引、闇に葬られたであろう歴史の一端を、アレサは一つ一つ見分してゆく。価値がありそうなものは、
なお情報だけでなく、ちゃっかりいくつか札束も入れているのはご愛嬌だ。
「よし、これくらいでいいだろう。直近のものは殆どアビドスに預けたし、後でコピーを取れるか聞いてみよう。まあ、しばらくは無理そうだが」
それぞれ床に下ろしていた収納の類を身に着け、アレサはその場で手足を
元より身長が10cmほど高くなったアレサは、その場でピョンピョンと跳ね、感触を確かめる。脚の動き、腕の動きをそれぞれ調整すると、彼女は腰を低くしてその場から走り去った。
「火の手が止まらん! スプリンクラーは稼働しているはずだろう!?」
「奴らだ! いや奴らがなぜここに!?」
「[キヴォトスFワード]しか居ないのか!? アイツら何としてでもここを破壊しに来てやがる!」
「クソッ! クソォッ! 何なんだ今日は!!」
喚きながら走る職員たち。その横をしれっと通り過ぎるアレサ。慌てているのか、気配を消しているからか、アレサの存在に、誰も気付かない。
しかし、アレサは嫌な情報を耳にする。
「破壊だと? 金目的でなく、か……」
アビドスの銀行強盗後に、闇銀行は他のブラックマーケット派閥や、便乗して金を盗もうとする勢力がやってくることを、アレサは想定していた。というか、そうなるように少しばかし、仲間に扇動の布石を打たせていた。
こうなれば、九割がた金を目当てに、残り一割は情報や他の物品を目当てに襲撃する者たちが来るだろう。そう目論んでいたが、ここに来て「破壊」を目当てにやってきた襲撃者がいるという情報。
(少しばかし覗いてみるか)
階段踊り場から、ロビーへ繋がるフロアへ。身を隠したまま、アレサはこっそり様子を見る。そこには、
「ふっふっふ、まさかこんなところに源泉の
何故『温泉開発部』がここにいる?
小さな背丈に、インテークロングの黒髪。悪魔らしい尻尾と角。赤いゲヘナのワイシャツの上に白衣をダボっと着た少女は、アレサの知る要注意人物の一人である。
“
アレサは即座にスマホを取り出し、電話番号を連打。通話を開始した。相手はエリ。今彼女は、万屋Kenshiで暇しているはずである。二回のコールの後、彼女は出てきた。
『アレサか。どうした?』
「どうしたじゃない。何で温泉開発部が襲撃ポイントにいる……!」
『あー……そういえば、お前に頼まれたヤツか。ついでで温泉開発部にそれっぽい情報タレ込んどいたんだよ。情報錯乱のためにな。あと他のヘルメット団とか、カイテンジャーも来るよう仕込んだから』
「加減しろ馬鹿!! 私ごと闇銀行を壊す気か!?」
温泉開発部はまだいい。ヘルメット団も、かつての縁を使って呼び寄せたのだろう。だが神出鬼没の指名手配であるカイテンジャーはどうやって呼び寄せた???
アレサは苦悶の表情を浮かべながらスマホを切った。
「さあ掘るぞ! 地脈がここだと言っている!」
「「「おっしゃ~~~!!」」」
と言っている間にも、温泉開発部の部員である、ヘルメットを被った土方姿の少女たちが集まってくる。この銃社会の中、近接武装とも言えるスレッジハンマーを背負う彼女らには親近感を覚えるが、問答無用で床にダイナマイトとドリルをブチ込む姿には殺意が湧いた。
(ふざけんなやめろ馬鹿!! 急いで脱出せねば!!)
このままでは、地盤と基礎が緩んで、建物が崩落する。しかし脱出しようにも、ロビーはめまぐるしく勢力が変わる戦場と化していた。今のところ温泉開発部がその場を仕切っているが、マーケットガードや、ヘルメット団も混ざって、誰が誰なのか分からないカオス状態だ。
そんなところに、
「登ッ場!!」
「あーアレか、カイテンジャー。実物初めて見た」
またしても破壊音。いい加減この闇銀行が倒壊するのではないか? と思えるほどさらに大きな穴ができ、現れたのは五人のカラフルな少女たち。全身を単色のヒーロースーツに包み、皿を彷彿とさせるヘルメットを被った彼女たちこそ、『カイテンジャー』。指名手配犯である。
アレサはもはや全てがどうでも良くなりそうになったが、寸前でモチベーションを戻した。
(指名手配犯共、見た限りでは
今こそ影に身を潜めているが、アレサは彼女たちからは逃れられないだろうと感じていた。現在、逃げ道は混沌としたロビーを突き抜ける一本のみ。裏口はシャッターが閉められており、下水道や地下道といったパイプは排除されている。おそらくそういう設計だったのだろう。
だったらロビーを突き抜ける他ないのだが、そのロビーにいる指名手配犯たちからは、確実に目を付けられそうな予感がしていた。今いる踊り場と違って、ロビーは穴だらけでもはや屋外と変わっておらず、さらに闇銀行周辺も戦争状態で人集りが多い。遮蔽物は悉く破壊されており、どこもかしこも更地になる勢いである。いくら気配も存在も薄めて隠密できると言っても、ここまで光や目があると、専用装備無しでは流石にバレる確率の方が高い。
今、アレサは自身の存在を表沙汰にしたくない。それはれっきとした身分証明がまだ無いというのもあるが、カイザーに自身の存在を嗅ぎ付けられると、計画していることが全て泡と化してしまうからである。
仕方がない、バレる覚悟で突き抜けるか。と悩んでいたところに、チョンチョンとアレサの肩をつつく者がいた。
「ッッッ!?!?」
「静かに、リーダー」
振り向けば、見覚えのある装備に身を包んだ、小さな背丈の少女がいた。思わず足元にキュウリを置かれた猫の如く飛び上がりそうになったが、寸前でビビるだけに留めた。
万屋Kenshiの戦闘装備。鉄傘から覗く黒髪と、彼女と違って普通の喋り方をする性質に、アレサは彼女が誰か把握した。
「カト……何故ここにいる」
「エリからのお使いで。こうなりそうかなって」
──“
彼女もフリデと同じく、隠密技術に長けた人材である。フリデとカトに関しては、アレサが持ちうる以上の隠密技術がある。あの混沌とした状況下で、ここまで誰にも跡を付けられずに、師匠たるアレサにもバレずに来ているのが証拠だろう。
「リーダーの装備を持ってきた。荷物は半分受け持つ」
「わかった、ありがとう……だが、急に肩をつつくのはやめてくれ。死ぬかと思った」
「? リーダーが踊り場に着いた頃からつついてたけど」
「お前…………」
確かに薫陶を与えはしたが、ここまで恐ろしくなるとは想定していない。
とはいえ、カトが装備を持って来てくれたおかげで、アレサは脱出準備が整った。万屋Kenshiの戦闘衣装は、隠密効果を高めるように作られている。すぐさま彼女と同じ格好になると、アレサはカトと一緒に踊り場を飛び出した。
「ついてきて」
淡々と告げるカトの背を追い、激戦区を潜り抜ける。
限界まで低くした前傾姿勢で、両手を伸ばし、風の抵抗を限りなく減らした姿となる。脚を大股に回転させつつも、音を立てぬよう爪先で走る。力強さと繊細さ、それらを同時に、かつ最速で、風の如く駆ける。
「ハーハッハッハ!!」
「ぬぅッ!?」
「カイテンジャー如きに止められはせんよ! この温泉魂はァッ!!」
なんか聞こえるが無視。滅茶苦茶気になるが無視。
瓦礫と亀裂、隆起した床や死体*2の山をくぐり抜け、ロビーからは簡単に出ることができた。
ロビーからは。
「ヒャハハハハハハ!! もっと燃えるがいいや!」
「28箇所の銃創だぞ! 確実に殺したかったんだろう!」
「ガードはまだ来ないのか!? 銀行が襲われてるぞぉぉぉぉぉ!!」
「闇銀行の支配……うぅっ、素晴らしい響きだ……」
「うみみゃぁ!」
「あああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
かつての世界でもここまで世紀末ではなかったぞ。と叫びたいアレサだが、キヴォトスではこれが日常茶飯事である。いやちょっと今回ばかりは激しさが増しているが。
バスト*3もおっかなびっくりな戦場を走る。時間的には強盗が始まって十分程度だが、今のブラックマーケットはどこもかしこも紛争状態だ。一般学生でも、こんなところには居られないだろう。
銃声が、怒声が、罵声が、嬌声が、悲鳴が、飛び交う。ブラックマーケットまでの道のりは、小ぎれいと言わずとも、ある程度は整った道があったはず。しかし、今や見る影もない。側に停められていたキッチンカーも、アスファルトも、闇銀行に影を落とすように建てられていたであろうビルも──今何か変なの混じっていなかったか?
その疑問に、答える弾丸が一発。
「ッ!?」
殺気。確実に
咄嗟に体を横へ捻り、走る方向を変えた直後に、左肩を銃弾が掠める。直後、ズダァンッ!! と破壊音が響き渡り、火薬の匂いと共に花の香りがした。あと一歩回避が遅ければ、こめかみに直撃していたであろう銃弾。それを放った者の姿を、私は捉えた。
「チィッ、エリめ! どれだけ縁を持っている!?」
「フフッ。音に寄られて来てみれば、まぁ……あなたは面白いお姿をしていますね」
──流石のアレサも、"
「スコーチランダー」
通常の人肌種族、いわゆる人間枠の「グリーンランダー」とは対照的に、黒い肌と色素の抜けた白髪が特徴的な種族。手足の指が尖っており、戦闘に特化したステータスになっている。普通に浅黒い肌から、藍色じみた黒肌とバリエーションがあり、グラデーションが人外め。
青黒肌っ娘を作れるので個人的に好み。
ブルアカステータス風のプロフィール
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