ですがこれから少し忙しくなるので、投稿ペースが遅くなるのは本当です。
「いやぁ~まさか勝っちゃうなんてね」
「まさか勝っちゃうなんて、じゃありませんよホシノ先輩。勝たないと学校が不良のアジトになっちゃうじゃないですか…」
「先生の指揮が良かったね。私たちだけの時とは全然違った」
なんて言って先生を褒める砂狼さん。
そう。先生の指揮は素人目で見ても優れていることが分かる指揮だった。
いつも書類仕事してるからこんな能力があるんなんて知らなかった。
軍司とかの方が向いてるんじゃないか?
先生曰く、アロナとか言う謎のAI美少女の協力のおかげだと言っていたが、この人他人のこと変に持ち上げるせいでホントかどうか分からない。
「砂狼さん。俺の応援は?」
「ん。大きい声だった」
「力が湧いて来たりとかは?」
”ヒーローショーじゃないんだから……”
「……少し?」
「セーフ!!これはセーフです先生。ちゃんと働いてましたよ俺!!」
”シロコの優しさに感謝しようね、ラク”
先生俺にだけ若干厳しくはないだろうか。
「あはは……。少し遅れちゃいましたけど、あらためてご挨拶します、先生方」
その言葉で、そういえば自分たちしか自己紹介をしていないことを思い出す。
「私たちはアビドス対策委員会です」
対策委員会?
アビドスを対策するのか?
自分の敵は自分!的な?
「私は、委員会で書記とオペレーターを担当している1年のアヤネ…、こちらは同じく1年のセリカ、」
「どうも」
「2年のノノミ先輩とシロコ先輩」
「よろしくお願いします、先生~」
「…よろしく」
「そして、こちらは委員長の、三年のホシノ先輩です」
「いやぁ~よろしく、先生たちー」
どうやら全員の自己紹介が終わったらしい。
姿が見えないから声と名前を一致させる必要があったが、まぁなんとかなった。
「美少女いますか?」
先生に小声でそう聞いてみると、”失礼でしょ!”と言われながらハリセンで叩かれる。
”まぁ全員美少女だけど”
小声でそう返される。
なるほど、あとで写真とかで見せてもらおう。
「御覧になった通り、我が校は現在危機にさらされています。ですが先生が……先生方がいらしてくれたことで、その危機を乗り越えることができました」
今俺のことを忘れていなかっただろうか。
俺も応援とかしてただろ。応援とか。
「先生がいなかったら、さっきの人たちに学校を乗っ取られてしまったかもしれませんし、感謝してもしきれません……あ、先生方」
「そんな語尾付けても誤魔化せんぞ」
まあ俺がいてもいなくても良かったのは事実なのでそれ以上は何も言わないが。
だが悲しい気分になるので話題は変えさせてもらう。
「さっき言ってた対策委員会ってなんだ?」
「そうですね、ご説明いたします。対策委員会とは…このアビドスを甦らせるために有志が集った部活です」
「うんうん!全校生徒で構成される、校内唯一の部活なのです!」
「といっても、私たち5人だけなんですけどね」と、ノノミさんは続ける。
「てことは…全校生徒は5人だけ?」
「ん。他の生徒は転校したり、学校を退学したりして町を出て行った」
なるほど、そりゃそうか。
普通は砂漠地帯で毎回不良の襲撃に遭う学校なんていたくない。
ということは、こいつら全員、地元愛の化け物か。
「現状、私たちだけじゃ学校を守り切るのが難しい。在校生としては恥ずかしいかぎりだけど……」
「もしシャーレからの支援がなかったら…今度こそ、万事休すってところでしたね」
「だねー。補給品も底をついてたし、さすがに覚悟したね。なかなかいいタイミングて現れてくれたよ、先生」
ん?つまり俺たちがあのまま遭難してたら、アビドス共々ゲームオーバーだったのか?
砂狼さんがいなかったら俺たちもこいつ等も終わってたじゃん。
「ですが、こんな消耗戦をいつまで続けなきゃいけないのでしょうか…。ヘルメット団以外にもたくさん問題を抱えているのに……」
「そういうわけで、ちょっと作戦を練ってみたんだー」
「え?ホシノ先輩が!?」
「うそっ……!?」
ホシノさんの発言にアビドスの奴らは驚愕する。
「いやぁ~おじさんだって、たまにはちゃんとやるのさー」
と言うホシノさんだが、正直作戦内容より、今の一人称の方が気になる。
おじさんって一人称特殊すぎないか?
俺もおばさんとかにしてみようかな。
個性で負けることはなさそうだし。
”おじさん…、ホシノは男…?”
先生が小さく呟いた言葉を耳が拾う。
それは多分違うと思う。……違うよな?
”ホシノの年齢でおじさんなら…私はお婆さん?”
姿が見えなくても、先生が落胆しているのが目に浮かぶ。
その場合、俺は熟女好きになってしまうのだが。
自分の名誉のためにも後で否定しておこう。
「……で?どんな計画?」
「いやぁ~このタイミングでこっちから仕掛けて、奴らの前哨基地を襲撃しちゃおうかなって」
なるほど。確かに不良集団が最も消耗している今ならかなり有利に立ち回れるかもしれない。
「い、今ですか?」
「そう。今なら先生もいるし、補給とか面倒なことも解決できるし」
「応援もいるよ!」
「……なるほど。ヘルメット団の前哨基地はここから30キロくらいだし、今から出発しようか」
無視ですか。
………。
……分かってます。応援がただうるさいだけってことくらい。
けど俺それ以外できないし…。
「良いと思います。あちらも、まさか今から反撃されるなんて、夢にも思ってないでしょうし」
「そ、それはそうですが……先生方はいかがですか?」
「外部コーチ兼応援団長的にはいいと思う」
”そうだね、行こうか”
「よっしゃ、先生たちのお墨付きも貰ったことだし、この勢いでいっちょやっちゃいますかー」
「善は急げ、ってことだね」
「応援も行くよ!」
”ラクはアヤネと一緒にお留守番ね”
「……」
……。
………。
……狙撃とか…覚えようかな。
分かりやすく落ち込んでいたのだろうか、アヤネさんが「こ、ここから応援頑張りましょう」と肩を叩いて励ましてくれる。
あ、女の子の手だ。と思うくらいには、俺はダメな人間です。
◇
「お帰りなさい。皆さん、お疲れ様でした」
「ナイスファイト―」
そう言ってみんなを出迎えるアヤネさん。それに続く俺。
無事に不良集団を叩きのめした先生たちは、特に問題が起きることなく、学校に戻って来た。
「アヤネちゃんも、オペレーターお疲れ」
セリカさんの労いの言葉を貰うアヤネさん。
あれ?俺は?
「応援団長も頑張りました」
「あんたはうるさかっただけよ!」
酷い。
”こ、声は大きかったよ”
気遣いが傷に染みるなぁ。
「火急の事案だったカタカタヘルメット団の件が片付きましたね。これで一息つけそうです」
「そうだね。これでやっと、重要な問題に集中できる」
「うん!先生のおかげだね、これで心置きなく全力で借金返済に取り掛かれるわ!」
ん?
「ありがとう、先生!この恩は一生忘れないから!」
先生に感謝を述べるセリカさん。
俺に対する感謝は?というツッコミをしたいが、少し後回しにする。
”借金返済って?”
先生の疑問を問いかける一言に空気が凍る。
「……あ、わわっ!」
セリカさんの態度を見るに、どうやら冗談の類でもないようだ。
「そ、それは……」
「ま、待って!!アヤネちゃん、それ以上は!」
アヤネさんが言いかけた時、セリカさんが静止する。が――。
「いいんじゃない、セリカちゃん」
ホシノさんはそれとは反対に話すように促す。
「隠すようなことじゃあるまいし」
「か、かといって、わざわざ話すようなことでもないでしょ!」
「別に罪を犯したとかじゃないでしょー?それに先生たちは私たちを助けてくれた大人でしょー?」
「ホシノ先輩の言う通りだよ。セリカ、先生たちは信頼していいと思う」
「そ、そりゃそうだけど、先生たちだって結局部外者だし!」
生徒たちが言い争っているが、先生は静観を決め込む。
まぁ喧嘩ってわけでもないから気にするほどでもないのかな。
「確かに先生たちがパパっと解決してくれるような問題じゃないかもしれないけどさ。でも、この問題に耳を傾けてくれる大人は、先生たちくらいしかいないじゃーん?悩みを打ち明けてみたら、何か解決法が見つかるかもよー?」
「う、うぅ……」
反論内容がないためか、何も言えなくなるセリカさん。
分かる、分かるよその気持ち。俺も先生に同じことされるから。
そのせいで働いてるし、アビドス来てるもん。
「でっでも、さっき来たばかりの大人でしょ!今まで大人が、この学校がどうなるかなんて気に留めたことなんてあった?」
「それに」と続け、
「この学校の問題は、ずっと私たちだけでどうにかしてきたじゃん!なのに今更、大人が首を突っ込んでくるなんて……私は認めない!!」
そう宣言するセリカさん。
なるほど、どうやらセリカさんは借金の内容を話すことではなく、借金問題に首をツッコむことを嫌がっているらしい。
気持ちは分からないでもない。
参加するだけ参加して、場が散らかったら責任も取らずに逃げられるとかされたらクソダルい。
それなら下手に干渉してこないでほしいと思うのも分かる。
だが――。
「異議あり!!」
俺は左腕を伸ばしながらそれを高らかに否定する。
「な、なによ!」
「確かに先生は勝手に家に入ってきて、勝手に人のパソコンを覗き、勝手に就職活動をサポートするような大人だ」
”ら、ラク!?”
「だが、裏を返せば、引きニートを社会復帰させ、なおかつ自分の職場で雇うような面倒見の良さを持っている」
”ら、ラク…”
「確かに先生は偶に頭がおかしくなってバカみたいなことをさせられることもある」
”ら、ラク!?”
「だが、裏を返せば、『生徒のため』という理由で一日平均20時間労働とかいう頭がおかしくなるくらい働ける人でもあるんだ」
”私のこと下げて上げないで!”
ハリセンが飛んでくる。
痛い。
「確かにセリカさんが今まで見てきた大人はアビドスを気にしてくれなかったかもしれない、だけど、先生はアビドスを助けただろ?」
「……」
「別に信じる必要はない。とりあえず助けてもらって、なんか都合が悪いことになったら連邦生徒会に抗議入れて詫びでも貰おうって気持ちで頼ればいいんだよ」
数秒の沈黙が教室を覆う。
「……それでも」
絞り出すようなセリカさんの声が静かな教室で聞こえたかと思うと、
「私は認めない!!」
そう強く声を上げた。
それと同時に誰かが走り去ろうとする音が聞こえる、目が見えないので分からないが、このタイミングならおそらくセリカさんだろう。
「待て」
俺はその推定セリカさんを呼び止める。
「なによ!!」
「不良たちの件、先生だけにしか礼を言ってないだろ。俺にもくれ」
「あんたは何もしてないでしょ!!」
「酷い!」
捨て台詞を吐いて教室を出ていくセリカさん。
俺の心は傷ついた。
”ら、ラクはいてくれるだけで助かってるよ”
どんな人権キャラだろうか。
先生の気遣いが身に染みる。
「ありがとうございます。あ、先生はとても若くてお綺麗なのでお婆さんではないですよ」
ハリセンが飛んでくる。
俺の頭は傷ついた。
ラクは狙撃の練習をし始めようと考えるだけで結局やらないタイプの人間です。