吸血鬼はニートと大体一緒
”アビドスに行こう”
突然そんなことを言いだした先生。
アビドス、そう聞いて思い出すのはキヴォトスにある砂漠地帯。
ラクダでも見たいのだろうか。
この先生のことだ。あり得る。
「アビドスって、あの砂漠地域ですか?何でまた…」
”それはね”
そう言いながら先生は一枚の手紙を俺に差し出す。
手紙にはアビドス高等学校の文字。
おぉ、字が凄く優等生の女子の字してる。
なんて思いながら手紙を開く。
”どうやら、アビドスが暴力組織から攻撃を受けてるらしいんだ”
手紙の内容を読むと、確かに先生が言ったようなことが書かれていた。
”先生として放っておく訳にはいかない”
そう言う先生の胸…失礼、目には、強い決意の様なものが見えた。
「なるほど。じゃあ頑張ってください」
”?何言ってるの。ラクも行くんだよ”
思わず持っていたペンを落とす。
「嫌です」
”え!?なんで!?”
「面倒くさいです」
”行こっか”
「先生、実は俺吸血鬼なんですよ。日に当たると死にます」
”はいはい。じゃあ準備しておいてね”
クソぅ、軽くあしらわれる。
え?ホントに行くの?
夏だぞ。砂漠だぞ。死ぬだろ。
絶対外出たくない。
なんとしても言い訳を考えなければ…。
「そ、そうだ先生!」
”どうしたの?”
「俺も先生もアビドス行ったらこの仕事誰がするんですか!?」
俺は机や床に山積みになった書類を指さす。
”帰ってきたら二人で終わらせようね”
「死にますよ。ホントにあんた死にますよ」
”冗談だよ。一応持っていける仕事はアビドスのほうでやるつもり”
「持っていけない仕事が大半ですよ」
”そこは申し訳ないけど、ユウカ達にお願いしようかなって”
以前から時折、俺たちは早瀬さんをはじめ、先生の知り合いの生徒に手伝いをお願いしていた。
てっきり早瀬さんがイカれた書類仕事のスピードをしているのかとも思ったが、他の人もみんな総じてクソ早かった。
まぁその中でも早瀬さんがずば抜けて早くはあったが。
さて、話を戻そう。
確かに早瀬さん達に頼めば、溜まった書類もかなりのスピードで片付くだろう。
先生もおそらく死ぬことはない。
しかし、しかしだ。
それでは俺がアビドスに行けてしまう。
つまりエアコンが効いてる部屋の外に出なければいけないということ。
それは絶対嫌だ。
「外にエアコン付けたら行きます」
”うーん、地球環境を操作できる権限はないかな”
「じゃあ無理です」
”ダメです”
「お願いです。外にエアコン付けてください」
”私に土下座されても何もできないよ”
くっ、先生の権限じゃダメか。
「ていうか、なんでそんなに俺を連れて行きたいんですか?」
”うーん、なんとなく”
「今回はご縁がなかったということで」
”待って、今の無し”
先生は姿勢を少し変え、腰を曲げ、上目遣いをしながらこちらを見る。
”……不安だったから。ラクがいれば、心強いかなって”
「行きます」
アビドス高校の奴らが困ってるなら助けるのが人としての道理。
他意はない。
”……チョロい”
何か先生が言った気がしたが、俺は気にせずに身支度を始めた。
◇
「し、死ぬ…」
”が、頑張って、もう少しだよ…きっと”
砂に塗れた住宅街を歩いて数日。
はっきり言おう。道に迷った。
水も食料もないし、クソ暑い。
もう無理。死ぬ。
というか死のう。暑いの辛い。
俺は護身用の拳銃を取り出す。
”え?ちょっ、ラク!?”
「潔く死にましょう先生。このまま苦しむくらいなら死んだ方が楽ですよ」
”ら、ラク?落ち着いて!!まだ助かる可能性はあるよ!!”
俺を止めようと羽交い絞めにする先生。
ちょ、苦しい。ガチで死ぬ。
しかも抵抗できない。先生もしかして武道経験者?
というか、なんか柔らかい感触が。
……。
………。
…………なるほど。
「偶には…苦しんで死ぬのも…悪くない、か……」
”あれ、ラク?お、おーい?”
拘束を解き、俺を揺さぶる先生。
脳が揺れる…。
「………さっきの体勢の方がいいです」
”よ、よかった。やり過ぎて死んだのかと思った”
”ごめんね”と謝る先生。
元はと言えば俺が悪いのだが。
というか謝るくらいならもう一度やってほしかった。
「む、無駄に体力を消費しましたね」
”そうだね…”
◇
息も絶え絶えになってきている俺たち。
もはや会話する余裕もなく、無言で歩き続ける。
しかし―――。
「…元ニートに……砂漠歩きはキツイで……す…………」
足の力が抜け、地面に倒れこむ。
”ら、ラク!?”
あれ?何故だろう。
暑いのに、苦しいはずなのに、何故か心地よい。
”ラク!?起きてラク!!”
あぁ、快適だなぁ。
先生の声を子守歌に、俺は瞼を閉じるが――。
「………あの」
聞きなれない声が耳に届き、すぐに目を開ける。
「……大丈夫?」
そう言ったのは、自転車に跨る女子生徒だった。
”ごめん!何か飲み物持ってない?”
「ライディング用のエナジードリンクなら…」
”ホントに?お願い!後で新しいの買うからその飲み物を譲ってくれないかな?”
「ん、分かった」
謎の女子生徒は鞄を漁り、エナジードリンクを取り出す。
「はい、これ。エナジードリンク」
”ありがとう。ラク、これ飲んで”
そう言って先生は俺にエナジードリンクを飲ませてくれる。
あぁ、何かに目覚めそう。
哺乳瓶で乳を飲まされる赤子の気分だ。
「……ただ今は、産まれてきたことに感謝を」
”よかった、無事だ”
「…無事なの?」
「なんか変なこと言ってるけど…」という言葉を尻目に、俺は助けてくれた女子生徒の方を向く。
ふむ。
獣耳、スカートの丈、美少女、ダウナー。
ふむ。百点だ。
それでいて命の恩人である。
俺でなくても惚れるだろう。俺は惚れた。結婚したい。
”ありがとう、助かったよ。……えぇと”
「……砂狼シロコ。よろしく」
”ありがとう。シロコ”
「ありがとう砂狼さん。おかげで助かった」
「どういたしまして」
砂狼さんの言葉を聞きながら、俺はマフラーを顔に巻く。
最近先生で視線制御の特訓をしているが、視線は相変わらず制御できない。
むしろ悪化している気がする。
「……何してるの?」
「これ?俺の力を封じるための封印」
「……中二病?」
”もっと悪い病気かな…”
おい。
「……見た感じ、連邦生徒会から来た人みたいだけど……学校に用があって来たの?」
”うん。アビドス高校ってところなんだけど”
「……そっか。久しぶりのお客さんだ。」
”ということはもしかして…”
「ん、私たちの学校。」
「ホントか!?」
や、やっとつく。
長かった…ここまでの道のり。
まさか人生で遭難することがあるなんて思わなかった。
もう二度と外でない。絶対。
”……誰かの引きこもり化を加速させてしまった気がする”
「?、それじゃあ、私が案内してあげる。すぐそこだから」
”ありがとう、助かるよ”
◇
「ただいま」
『対策委員会』と書かれた教室の扉を開けた砂狼さんに続いて、俺と先生は部屋に入る。
もちろん俺は目隠し状態であるため前が見えない。
なので先生に手を引っ張ってもらっている。
紐を使って。
だって手が触れるとか緊張するだろ言わせるなよ恥ずかしい。
けど、それをお願いして実際にやってくれる先生ってやっぱいい人過ぎないか?
他所からみたら特殊なプレイにしか見えないぞ。
「おかえり、シロコせんぱ…い…うわっ!?何っ!?その変態たち誰!?」
「わあ、シロコちゃんが変態さんを連れてきました!」
「も、もしかしてシロコ先輩を脅して!?」
ほらな。
「みんな落ち着いて、速やかに変態たちを――」
”誤解だよ!!”
「ん。この人たちは変態じゃない……と思う」
「え?変態じゃ、なかったんですか…?」
「もちろん。先生に「目隠しして前が見えないから引っ張ってください」とお願いしたら犬の散歩プレイになってしまっただけだ」
「やっぱり変態じゃない!!」
”ラク!?話をややこしくしないで!!”
何かで叩かれる。おそらくハリセン。
なんでだ、普通に今の状況を説明しただけだろ。
あとハリセンなんであるの?
「結局、変態さんは変態さんなんですか?」
”私は違うからね!?”
俺のことも一緒否定してくれよ。
まぁ世間一般的な意見としては変態という枠組みに収まってしまうかもしれないけども。
「……一応、お客さん」
「え?来客の予定ってありましたっけ……」
”紹介が遅れたね、私はシャーレの顧問先生です、よろしくね”
「「「!?」」」
目で見ずとも、思わず漏れたであろう声から驚愕の表情を浮かべているのが分かる。
「同じくシャーレの外部コーチ、魚沼ラクです。よろしく」
「「「……?」」」
目で見ずとも、困惑の表情を浮かべているのが分かる。
この反応の違いは何だろう。役職の肩書かな?肩書だよね。俺もそう思う。
「……外部コーチ、ですか?」
「そう、反面教師みたいな感じ」
「「「……?」」」
「そ、それよりシャーレって連邦捜査部のシャーレよね!?」
”そうだよ”
「わあ☆支援要請が受理されたのですね!良かったですね、アヤネちゃん!」
「はい!これで…弾薬や補給品の援助が受けられます」
「私、委員長に知らせてくる!」
一人の女子生徒がこの場にいない誰かに知らせるため、部屋から出た瞬間。
教室の外からダダダダダダダとライフルを連射したような激しい銃声が響く。
「じゅ、銃声!?」
「ひゃーっはははは!」という笑い声と共に、銃声の元凶と考えられる人物の声が届く。
「攻撃、攻撃だ!!奴らはすでに弾薬の補給を絶たれている!襲撃せよ!!学園を占領するのだ!!」
どこの地区にも、やっぱり世紀末チックな不良はいるもんだなぁ。
ここほど攻撃的ではないけど。
「わわっ!?武装集団が学校に接近しています!カタカタヘルメット団のようです!」
「名前のセンスよ」
アビドス卍会とか拳王軍とかもっとあるだろ。
「ホシノ先輩連れてきたよ!先輩!寝ぼけてないで、起きて!」
「むにゃ……まだ起きる時間じゃないよー」
どうやら先ほどの女子生徒が委員長とやらを連れてきたらしい。
「ホシノ先輩!ヘルメット団が再び襲撃を!こちらの方々はシャーレの人たちです」
「ありゃ~そりゃ大変だね…あ、先生と………?、まぁよろしくー、むにゃ」
……仕方ない。初対面で変なヤツだと思われても仕方ない。
胸とか足見て「あんたってそういうやつなんだ、キモっ」とか言われて嫌われたら軽く死ねる。
それに比べたらイカれたヤツ扱いやら変態扱いやらを受けた方が致命傷で済む。
あぁ、出血多量でそろそろ死にそう。
「すぐに出る。先生のおかげで、弾丸と補給品は十分」
どうやら先生がいつの間にか弾丸やら補給品やらを渡していたらしい。
前が見えないから気が付かなかった。
「はーい、みんなで出撃です☆」
その言葉に続いて、何人かが教室を出て行った。
「私がオペレーターを担当します。先生方はこちらでサポートをお願いします!」
”分かった”
「任せた。俺は応援を頑張る」
「……」
視線を感じる。
何も言わなくていい。自分の無力さは自分が一番分かる。
クソ、ミレニアムの近くなら俺の顔見るだけでスケバンどっか行くのに…。
対策委員会冒頭見直したら思ったより「ん。○○」がなかった。