「転生」と「アンチ・ヘイト」タグを追加しました。
一応、本作主人公の鉄杖アレサは、現代日本生まれKenshi世界転生育ちではなく、Kenshi世界生まれKenshi世界憑依転生しまくり育ち、キヴォトス転移です。
ややこしい。
次回が長くなりそうだったため、今回は短めにしております。
『シロコ、銀行強盗してみないか?』
「する」
「──ちょっと
"ストップストップストップ!! ちゃんと目的を話して!!"
翌日の朝。
いつも通り会議──ではなく、前回ホシノに渡された資料の中身は、一部を抜粋してアビドスの皆に共有された。
カイザーがアビドスの土地をほぼほぼ支配し、柴関ラーメンが退去勧告を受けているという噂、カイザーグループが「アビドスに眠る兵器」を巡ってアビドスを潰そうとしているという眉唾な情報、返済金が正しく返済されていないという、想像したくもない情報が一気に流れ込んできた。
セリカの怒りは成層圏を越え、アヤネはガラス産業プランのことが頭すっぽり抜ける程度には慌てた。特にアヤネは、最高速でタブレットを動かし、先に土地情報を調べて──結果はもたらされた資料通りであった。
「カイザーグループが、殆どのアビドスの土地を、買い取ってました。柴関ラーメンがあった区画も……っ!」
ゾッとするほどの大当たり具合に、アヤネの意識は飛びかけた。
兵器を狙っているという情報に確度は取れなかったものの、それ以外はほぼほぼアタリ。土地の契約情報を見れば、確かにアビドスの九割以上はカイザーグループが買い占めており、中にはしっかりとアビドス高等学校がカイザーに売り渡した跡がある。しかも、大半が正式手続きを踏んだ上での売買。反論の余地もない。
アヤネの眼鏡は、何もしていないのに割れかけた。
「過去の生徒会が、苦肉の策で売り渡したっていうのは知ってる。けど、それ以上は知らない……」
ホシノの言う通り、カイザーが買い占めた土地は、どう見てもアビドスから売り渡していない土地も含まれている。
懇意にしている柴関ラーメンがある土地。あそこはアビドスの面々の中では、最後に残ったアビドスの土地だと思い込んでいた。しかし現実はとっくに買収済み。唯一、正式手続きを踏んでいない買取のものだった。
今のアビドスは、チェスで言うところの、王以外の駒が全部剥がされた状態と言っても過言ではない。
彼女たちは、決してこの状況を放置していた訳ではない。アビドスという
現代日本に当てはめるのならば、東京に住んでいたら、知らぬ間に移民がこぞって集まり、移民たちに東京の名前が変わらぬまま海外の領地として乗っ取られていた状態である。じっくりと、既成事実で塗りつぶされるように。
静観していたシロコも流石に怒りが顔に出て、ノノミの翳りは増した。
「兵器だが何だか知らないけど、もう我慢する必要はないよね?」
「…………」
「っ、ちょっと冷静になって! まだ柴大将に確認取れてないでしょ!?」
柴関ラーメンにアルバイトに行っているセリカは、そこの店長である"柴大将"に連絡を取る。すると、「前々から店を畳もうかとも思っていた。退去勧告を受けていたのもあったが、アビドスの皆のために中々決意できず、話すこともできなかった」と返答が来た。
紫関ラーメンをバイト先にしているセリカは、怒髪天を通り越して滅茶苦茶落ち込んだ。
「どうしてっ! 言ってくれれば、私たちも何か考えたのに!」
『本当にすまねぇ……けど、今ので気付けた。俺はこのままラーメン屋を続けるよ。無理矢理店が破壊されるとかでもねぇ限り、お嬢ちゃんたちの憩いの場でありてぇ』
「大将……ッ!!」
大将の言葉に、セリカは崩れ落ちた。アビドスを応援してくれる味方がいる。それだけで涙が漏れそうになったが、ぐっと堪え立ち上がった。
『雰囲気からして、嬢ちゃんたち、戦うんだろ? だったら休みな』
「……いいの、大将?」
『嬢ちゃんらがアビドスのために頑張るんだ。元々俺一人の店だったんだ。寂しくなるが、いつも通りの環境に戻るだけさ……良い報告、待ってるぜ!』
──以降は、情報の確度を取るための作業が始まった。
もたらされた情報を纏めると、新たに判明した情報は三つ。
「アビドスの土地の大半は、カイザーグループが所有していることになっている」
「アビドスの借金は、正しく返済されずカイザーPMCの兵力補強に利用されている」
「カイザーグループの目的は、アビドスに眠る兵器を掘り当てること?」
内、土地の情報は確度が取れており、二つ目と三つ目の情報は確度が取れていない。眉唾な三つ目はともかく、二つ目は調査できそうだと、アビドスの皆は考えていた。
「今朝、オクトパスローンに預けた利息……あの現金輸送車のルートを追えば、真相が分かると思います」
実は会議が始まる前。早朝に、アビドスの元に現金輸送車が訪れていた。毎月の利息回収に、借金元の銀行が取り立てに来る。返済方法は常に現金であり、今回は七百万以上の現金を預けていた。
思えば、『オクトパスローン』はカイザー系列の企業であった可能性が高い。カイザーグループは企業ロゴとしてタコのエンブレムを採用しており、そのタコ……「オクトパス」ローンは、まさしくカイザー系列企業である証拠だ。
何故今まで気付けなかったのか。アビドスの面々は頭を悩ませたが、とりあえずはアヤネの言葉の続きを待つ。
「ただ、輸送車のルートを調べたところ、途中で追えなくなっていました。地下トンネルを多く利用されたか、ジャミングをかけられた可能性が高いです」
「もう真っ黒じゃん……! ホシノ先輩、アイツから貰った情報に、なんかそれっぽい行き先とか書いてない!?」
「んー多分、ブラックマーケットかな。一番大きい闇銀行を調べるって書いてあったし」
「それです! 以前、カタカタヘルメット団と交戦した際、彼女らが使用していた兵装を覚えていますか? あの兵装は、使用を禁じられた兵装ばかりでした。その出元として、ブラックマーケットが候補に上がります」
皆は思い出す。カタカタヘルメット団だった少女たち、リーダー格の洲端エリが「カイザーグループから依頼されていた」とこぼしたのを。となれば、カイザーグループが借金の利息を利用し、彼女らに違法な兵装を買い与えた可能性が高い。
【ブラックマーケット】。キヴォトスにある闇市であり、あらゆるアウトローが集う、連邦生徒会も手出しできない区画だ。透き通った世界には似つかわしくない、違法な取引が跋扈するエリア。そこであれば、違法な兵装の売買も可能だろう。ついでに、カイザーが売買を行った証拠も獲得できれば、確証も得られる。
「あそこに、一番大きな闇銀行があるって書いてあった。カイザーの息がかかってそうな場所って、そこじゃない?」
「そうですね、今すぐ準備を……」
「ん、待った」
闇銀行へ直談判しに行く腹積もりであったアヤネたちに、シロコがストップをかけた。
「闇銀行はそんな甘くない。ただ話を付ける気なら、逆にむしり取られて終わる」
「シロコ先輩……!」
「相手は大人だから、舐めてかかっちゃ駄目。まず武力で優位性を見せて、恐怖を煽って相手から金を集めさせるよう促す」
「シロコ先輩???」
──砂狼シロコは、毎日銀行強盗をシミュレートしている。単純に趣味の領域だが、趣味であるからこそ、銀行に対する造詣は誰よりも深い。
相手がブラックマーケットで一番大きな闇銀行となれば、銀行強盗の難易度は、シロコが考える中でも最高レベルに匹敵する。強盗らしく派手に襲撃するプランも、あまり考えはしないが穏便*1に対話交渉するプランでも、だ。
一応、シロコは銀行強盗を全くしていない、善良な生徒ではあるものの、ただの銀行強盗よりも説得力のある一言に、アビドスの皆は踏みとどまった。
しかし、
~♪ ~♪
"ごめん、私の携帯だ……アレサ?"
静観に回っていた先生のスマホの着信音。先生は一言言って電話に出た。相手は、画面に映った名前通りの人物。
"もしもし?"
『アレサだ、先生。大方、私が渡した情報について調べていたんじゃないか?』
"なんで分かるんだよ……"
『私がその情報源だからな。今ちょうど裏取りに励んでいると思ってね。ところで──』
そんなやり取りの後──冒頭へ至る。
情報源かつこの阿鼻叫喚の元凶。そんな情報源が、担当している学園の生徒に犯罪を唆そうとしているのだから、ホシノはマジギレ寸前になり、先生も若干青筋が立った。色々と言いたいことが多すぎるのである。
なお、シロコのテンションは誰よりもハイになった。銀行強盗ができるからである。
『現金輸送車だろう? フリデにGPSを付けておいたから、ルートは辿れる……ほら座標情報とGPSのID』
「えっ? あの場には私たちしか居なかったはずだよね?」
『いたぞ。具体的にはノノミの背中辺りに、私とフリデが』
「ヒッ!?」
思わず全員がノノミの背中の方向を向いたが、当然ながら誰も居なかった。
……居ないよね? と、念の為皆で会議室を見回ったが、本当に隠れている者は居なかった。
『で、今のところ車はウロウロしているわけだが、最終的にはブラックマーケットの闇銀行に落ち着くだろう。奴らはデジタルなやり取りは必ず傍受されると考えているから、完全孤立状態のローカルネットワークか、書類での管理を行っている。前に襲った銀行も、ほぼ全てが紙の帳簿での管理だったな』
「じゃあ、取引明細をゲットできれば……!」
『そうだ。現金ではなく、取引明細を強盗する。まあ相手はどう考えても犯罪者だ。犯罪証拠を暴くための強制捜査という名目なら、納得いかないか?』
「ん、異存なし。私は行く」
"あんまりそういう狡賢い言い訳を使わないで欲しいなぁ……"
シロコ、行く気満々。先生は、止められなかった。
襲撃も立派な犯罪ではあるが、暴く手段が犯罪しかないというのなら……先生は、止めるべきか止めまいか、悩むことしかできなかった。結局、止められはしないのだろう、と諦めている部分もあったが。
『ようし、ではブラックマーケットに来てくれ。あと二時間後くらいに現金輸送車が銀行へ到着するから、そうだな、場所は少し距離を離して……で合流しよう!』
「OK。準備して行く」
"……皆は、こうなっちゃダメだからね"
シロコとアレサ以外の皆が、静かに頷いた。
△▽△▽△▽△▽△▽△
お嬢様学校と揶揄される、キヴォトス三大学園の一つ。高貴であり、有翼種や獣人種の生徒が多く集うその学園は、煌びやかで、一般の学生からも憧れの目で見られやすい。
ヒフミはそんなトリニティの生徒であるが、自分のことを没個性──ごく普通の、キヴォトスに生きる学生──と思うきらいがあった。しかし、この阿慈谷ヒフミは、どう見ても普通の学生ではなかった。
何故なら彼女は、趣味で集めている物品を求めて、一人でブラックマーケットに何度も行っているからである。
「はぁ、はぁ……た、助かりました。えっと……」
「ん。砂狼シロコ、シロコでいいよ」
「鉄杖アレサだ。それとこれはチラシ」
「あはは……ど、どうも?」
これは、ブラックマーケットに訪れるべきではなかった、ある二人。
二人との出会いにより、彼女は今日、より一層──普通の学生でなくなる。
「強盗」
Kenshiにおけるスキルの一つ。「窃盗」なるスキルも存在するほど、かの世界で盗みは日常茶飯事。当然アレサはカンストしている。
「隠密」
Kenshiにおけるスキルの一つ。一番最初にカンストするであろうスキルで、名前通り敵対存在から身を隠せる。といっても、光がある場所に居たら普通に視認される。
キヴォトスだと神秘で強化されてしまうため、より上位の隠密行動が可能。
ブルアカステータス風のプロフィール
-
見たい
-
いらない