Blue Kenshi   作:外道カヤノ

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6.夢を見るなら

 

 一仕事を終え、柴関ラーメンで功労者を讃え合う打ち上げパーティーをした翌日。

 万屋Kenshiに、特に休みは設けていない。しかし昨日は大規模な作戦決行をしたからか、皆疲れた様子で事務所内をくつろいでいた。昨日の姿のまま……というわけではなく、昨日の姿は戦闘用装備なため、皆制服姿でいる。違いはヘルメットが無いことと、どれも()()()()()()()()()()だということだろう。

 

 アレサはというと、事務所の地下──無許可で掘り抜き、拡張して作った工房にいた。

 シャッシャッ、ガリガリ……チュィィィイン!と、様々な機械が自立稼働して動く中で、アレサはひたすらミシンを動かして服を作っていた。

 

「まだだ……まだ全て傑作等級ではない……熟練等級ばかり生産して、私は恥ずかしくないのか! やるならば皆の手元に最高品質だ! それでこそ真の職人ッ!!」

「お前……そろそろ休めよ……」

 

 アレサはいつもの姿(胸にサラシ、股もサラシ)だった。事務所に帰ってきてからも、ひたすら裁縫作業に没頭しているアレサの姿に、副社長の座に就いたエリはドン引きしていた。

 最初に会った頃から「様子がおかしい奴」と思っていたエリだが、このアレサを見るのは三回目。既に「奴隷根性で動く狂人」にイメージがランクアップ*1している。

 

「まだ余裕があるぞ私は。あの時は朝までに傑作等級の装備を皆に渡す予定だったんだ。だが無理だった。なんで傑作等級が出来なぁい!!」

「……その等級とやらって、ガチャみたいに変動するのか?」

「え? する」

「普通はしねぇだろ!?」

 

 する。何故ならアレサは専門職人(スキルカンスト)級の防具作成技術を持つが、それでも一割の確率でしか最高品質である『傑作』等級の作品を生み出せない。*2昨日皆が着ていた装備は、その一個下の『熟練』等級作品ばかりだったのだ。

 

 ──職人としての矜持が、アレサの心を傷つけた。

 

「とにかくお前はもう休め! そんなアホみたいに働いてっから最高品質のものが作れねーんだよ!」

「コイツで最後だ。コイツで最後にしてくれ! 今回は出る気がするゥ〜〜〜!!」

「って言って今何回目だクソボケ! もう手ェ止めろ殴るぞ!?」

 

 とても職人とは思えない社長の肩を、もう作業の邪魔とか気にしてられんと揺すりまくる副社長。二人が争い合っているその時、地上へ出るハッチが急に開いた。

 

「アレサアレサアレサお客様来たお客様来た」

「よし出よう」

「切り替え早ッ!」

 

 ついでに服*3も着ていた。

 

 

 

 

 

 

 △▽△▽△▽△▽△▽△

 

 

 

 

 

 

「それで、万屋Kenshiに依頼かね?」

 

 『アビドス廃校対策委員会』。

 加えて、先生も入れて六名の客が、談話スペースに収まる。今回は長い話になると思ってか、アレサは隣にエリを座らせていた。

 

「ん、相談。聞きたいことがあっただけ」

 

 真っ先に発言したのはシロコ。感情に乏しい彼女は、常に無表情である。しかし、どこかウキウキした様子を見せている彼女は、アレサ……ではなく、隣のエリに顔を向けた。

 

「ここにいる人、元カタカタヘルメット団の人たちだよね? どうやって起業したの」

 

 単純な質問だった。聞いていたアレサは、押し黙ったエリの代わりに顔を動かす。先生の方向へ。

 

“えっ?”

「ん? ん」

 

 視線が先生に向けられると、さらに視線が向く。先生は一瞬にして全員に注視された。

 

「先生、もしかしてこの人たちに何か関わったの?」

「どうなんですか、先生」

「先生?」

「ちょっと、まさかアイツらに金渡したとかしてないでしょうね!?」

「おじさんも気になるな~」

“待って待って、一から話させて!”

 

 目の前でワチャワチャしだしたアビドスの面々と先生に、アレサは笑いが込み上げた。こうなることを分かっていてやった彼女の行動に、エリは居たたまれなくなり、わざとらしく咳払いを挟む。

 

「アタシから説明する。あと、先に言っとくけど、先生からも【シャーレ】からも、金のやり取りはビタ一文たりとも無い。そこはアレサの魂をかけて誓う」

「何ッ」

「お前はややこしくなるから黙ってろ……でもまあ、アタシらがアレサの元で起業するにあたって、ある程度「大人のアドバイス」っつーもんは貰った」

 

 事はセリカ誘拐事件が収束し、アレサたちがアビドスから追放を受けてからの話になる。先生はアレサと話し合い、互いに取引をした。

 

 先生はアレサに「元カタカタヘルメット団を路頭に迷わせないようにして欲しい」と頼んだのだ。

 この頼みを引き受けるため、アレサは先生から「彼が知る限りの『キヴォトス』という世界」の情報を知った。

 

 先生は「全ての生徒の味方」である。しかし、『先生』という立場が、【シャーレ】という肩書が、皮肉にも()()()()()()()()()を味方にできない。まだ実績も何もかもが足りないというのもあるが、それを言い訳にはできないのが先生だ。

 だからこそ、そこに肩書も戸籍も無いが、力がある者が居たのが、途轍もない幸運だった。

 

 一旦シャーレのオフィスがあるD.U.区辺りまで彼女らは歩いた後、先生とアレサたちは離れ離れになった。先生は当然シャーレとしての義務があるためだが、アレサたちはここからがスタートだった。

 

 まず資金集め。これはアレサが行なったが、詳細は絶対に話さなかった。

 次に必要な設備や資材、拠点となる場所の確保。これもアレサが行ったが、詳細は絶対に話さなかった。

 最後に起業。ここは夜、先生から企業のし方を通話越しに、一緒に模索していた。

 

 そして、成り立ったのである。──『万屋Kenshi』が。

 

「そこからは、全部アレサとアタシらの力でやってきた。ま、大半はアレサ頼りだったけどな」

「……ん、すごい」

「だろ?」

 

 自慢げにするエリ。隣で誇らしげに頷くアレサだが、先生が手を挙げた。

 

“ちょっといい? アレサ”

「なんだ?」

“実は最近さ、銀行強盗事件が起きたんだよね”

「あぁ、私も耳にしている」

“実行犯は一人で、怪力の機械種族がとてつもない速度でお金を奪っていくんだって。カメラに映っていても何故か認知しづらくて、しかもそこら辺の鉄パイプや、拾った銃とかで銀行員やガードをなぎ倒して行くらしいんだ”

「ほう、それは凄いな。さぞ力ある者なのだろう」

 

 

“これアレサだよね?”

「ハハッ。エリ、しばらく事務所を預ける」

“ホシノ、発砲許可を出すよ”

「OK」ズドン!!

 

 

 アレサは全身散弾めり込み全裸土下座をした。かの聖人君主たる先生の前では、手足を投げだして床に頭を擦り付けることしかできなかった。アレサには倫理観が無い。アレサは、犯罪が身近にある世界の住人である。モノは奪い、それで作ったモノを金にしてきた。けれども善人の前では、成すすべもなかった。

 

「おまっ……お前、いやどっから金持ってきたかと思えば……マジで銀行強盗してたのかよ!?」

「仕方がないだろう。これが一番早かったのだから……!!」

“「資金集めには策がある」って言ってたけど、強盗しちゃったかぁ……”

 

 アレサは床に頭を埋めたまま、ポツリと話し始めた。なお、現在アレサの頭上にはホシノのショットガン、背中にはノノミのガトリングが突き付けられている。

 

「【ブラックマーケット】なるエリアがあることを知ってな。まずはそこで資金稼ぎをしようと考えた」

“うん”

「物品の転売を考えたが、ブラックマーケット内は仲間意識がかなり高いと見た。となればブラックマーケット間の転売はまず不可能。戸籍のない私にはブラックマーケット以外の場所で買い物はできないし、彼らは表の商品には興味を微塵も示さないだろう」

“うん”

「だから手始めにブラックマーケットで一番ガードが甘そうな銀行を襲った」

 

 バララララララララッ!!!! ズガンッ!!ドゴォッ!!

 

「やっぱり君だったのかぁ……シロコちゃんを誘惑させたのは」

「アレサちゃん……こんな悪い子だったなんて……」

 

 さらに床にめり込んだアレサだが、実は銀行強盗以外にも、かつての世界で様々な大罪を犯していた。とは口に出さなかった。

 

「ごほっ、ぐぶッ……ま、待て。今ので砂狼シロコのどこに繋がる? 銀行強盗は完全に一人でやったのだが……」

「ん、銀行強盗したかった。これは私の夢」

 

 聞けば、シロコは銀行強盗をしたがっていた。がっていたのであって、全て未遂で終わっている。

 おそらく膨れ上がるアビドスの借金に鬱憤が溜まったのだろう。カイザー系列の銀行を見ては、襲撃から逃走ルートまでのプロットをノートに書き記していたらしい。構成人数から監視カメラの位置、狙い目の金品や帳簿まで、全て把握していながら、良心と法律が実行を堰き止めている。

 それほどまでに、彼女は“銀行強盗”というものに憧れを抱いていたのだ。

 

 アレサは理解してしまった。「コイツ借金云々抜きに銀行強盗がしたいだけだ」と。シロコ以外もそこは察している。

 

「まあそういうことでね、いい子なんだよ? それを、君が……」

「知らん知らん今初めて知った……いや待て、完全にシロコに関しては事故では……???」

「このままだとシロコちゃん、本当に銀行強盗しかねないからさ。君たち責任取ってよ」

「なんの責任だ……ッ!」

 

 本当に何も知らなかったアレサに、突如舞い込んできたアビドスの面々。

 シロコの高揚など露知らず。しかし、ただそれだけで襲撃……ではなく訪問しに来たわけではないのだろう。アレサは、「ついにこの時が来たか」とため息を吐いた。

 

 ──アビドスが、万屋Kenshiに依頼を持ってきた。

 

 

 

 

 

 

 △▽△▽△▽△▽△▽△

 

 

 

 

 

 

 荒れた談話スペースを軽く直し、改めて八人は向き合った。

 

「さて……また話は脱線するが、君たちの依頼内容を聞く前に、質問がある」

「ん?」

「仮に、約九億の借金を返済できたとしよう。その後のことを、考えたことはあるか?」

 

 アビドスの面々は、一斉に顔を見合わせる。

 全く考えたことが無かったのだろう。その様子が、ホシノからも見て取れて、アレサは顔を顰めた。

 

「考えたことがないか」

「あ、当たり前じゃない! 九億なんてそう簡単に、返せるわけ……」

「だが、返す腹積りではあるのだろう?」

「……そうよ。けど」

 

 確かに、考えたこともなかった。

 セリカは小さく呟く。初めて顔を合わせた時と違って、威勢を全く感じない。

 彼女以外もそうだった。シロコは漠然と何かを考えているが、思い詰めている様子は見えない。ノノミには、宛があるのだろう。しかし、悩んでいるのが見て取れた。アヤネもセリカと同じらしい。今を生きるのに、精一杯といったところだろう。

 

 ホシノは──じっとアレサを見つめていた。

 どこか遠くにいる、違う誰かに見えたのか。

 

「まあ仕方がないか。九億だったか、返済するには五人じゃあまりにも力不足だろう」

「……そこまで把握してるんだ。どうやって知ったの?」

「企業機密だ。あぁ、先生が言いふらしたわけではない。そこはちゃんと言っておこう」

 

 それは置いといて、とアレサは続ける。

 

「どうなんだ? パッと思いつくものでもいい。言ってみるだけならタダだ……エリもどうだ?」

「えっアタシにも? あー……」

 

 ポリポリと頭を掻く彼女は、数秒ほど置いて、言葉にする。

 

「……服を、作ってみたい」

 

 咄嗟に頭に浮かんだものが、口に出す。すると、顔に痒みが襲いかかった。痛いほどではないのに、思わず顔を手で隠したくなるような。

 

「まっ、待った! 今のは……」

「服か、いいじゃないか。最近は裁縫練習につきっきりだったしな」

"良い夢だね"

「お、おおおおいっ!? やめろ……恥ずかしい……

 

 赤いまま萎むエリの肩を、アレサはパンパンと叩く。そんな様子を、先生は穏やかな笑顔で見ていた。

 

「……ん、思いついた」

「次はシロコか」

「銀行強盗」

「言うと思った」「先輩、犯罪は駄目です」「シロコちゃーん?」「なんかそんな予感してたわ……」"ははは……"

 

 アビドスシオシオスナオオカミが誕生してしまった。

 

「……じゃあ、アンタは何か夢があるの?」

「私か……あぁ、あるとも」

 

 矛先がアレサに向けられると、彼女は立ち上がる。何事かと見る皆だが、アレサは両手を広げ、ゆっくりと肩で呼吸をする。そのまま数秒ほど、静かな時間だけが流れていき……

 

「勿体ぶらずに早く言いなさいよ」

「わかったわかった。まあそう焦るな」

 

 皆がそう思っていたことを、(セリカ)の一声でアレサは言う。

 この世界に来て考え、そして「やってみようか」と思ったことを、言葉にする。

 

 

 

 

「──「学校を作りたい」と、思ったんだ」

 

*1
あるいはダウン

*2
Kenshiバニラの仕様

*3
存在しない学園の制服





「等級」

 主に防具、義手義足、クロスボウ等につくレアリティ。傑作等級が一番強く、熟練、高品質、普通、見掛け倒し、試作品とランクが下がってゆくと、当然アイテムのステータスが弱くなる。
 最終装備は基本的に全て傑作で固定するのが嗜み。




「スキルカンスト」

 Kenshiはそれぞれに割り当てられたステータスを、0~100まで成長させることができる。100を超えることは可能だが、それ以上はシステム的に想定されていない数値なので、OFする可能性が出る。
 バニラでステータス一個を100目指そうとすると、最短でもリアル時間二日はかかる。




「夢」

 目標なくしてモチベは無い。目指すべき道を決めよう。






 改訂版と銘打っての投稿になりますが、本作に赤色評価を頂けました。
 前作を未完で打ち切ってしまい、それでも創作意欲が止められず、改訂版として新しく本作を投稿しました。

 高評価およびここすき、感想、誤字脱字報告等、皆様からのお声を頂き、大変励みになっています。これからも本作を完結まで続けられるよう執筆します。


 先生のセリフの"←ですが、スマホとPCを併用して入力しているので、殆ど安定していません。いずれこの部分は修正予定です。

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