一仕事を終え、柴関ラーメンで功労者を讃え合う打ち上げパーティーをした翌日。
万屋Kenshiに、特に休みは設けていない。しかし昨日は大規模な作戦決行をしたからか、皆疲れた様子で事務所内をくつろいでいた。昨日の姿のまま……というわけではなく、昨日の姿は戦闘用装備なため、皆制服姿でいる。違いはヘルメットが無いことと、どれも
アレサはというと、事務所の地下──無許可で掘り抜き、拡張して作った工房にいた。
シャッシャッ、ガリガリ……チュィィィイン!と、様々な機械が自立稼働して動く中で、アレサはひたすらミシンを動かして服を作っていた。
「まだだ……まだ全て傑作等級ではない……熟練等級ばかり生産して、私は恥ずかしくないのか! やるならば皆の手元に最高品質だ! それでこそ真の職人ッ!!」
「お前……そろそろ休めよ……」
アレサは
最初に会った頃から「様子がおかしい奴」と思っていたエリだが、このアレサを見るのは三回目。既に「奴隷根性で動く狂人」にイメージがランクアップ*1している。
「まだ余裕があるぞ私は。あの時は朝までに傑作等級の装備を皆に渡す予定だったんだ。だが無理だった。なんで傑作等級が出来なぁい!!」
「……その等級とやらって、ガチャみたいに変動するのか?」
「え? する」
「普通はしねぇだろ!?」
する。何故ならアレサは
──職人としての矜持が、アレサの心を傷つけた。
「とにかくお前はもう休め! そんなアホみたいに働いてっから最高品質のものが作れねーんだよ!」
「コイツで最後だ。コイツで最後にしてくれ! 今回は出る気がするゥ〜〜〜!!」
「って言って今何回目だクソボケ! もう手ェ止めろ殴るぞ!?」
とても職人とは思えない社長の肩を、もう作業の邪魔とか気にしてられんと揺すりまくる副社長。二人が争い合っているその時、地上へ出るハッチが急に開いた。
「アレサアレサアレサお客様来たお客様来た」
「よし出よう」
「切り替え早ッ!」
ついでに服*3も着ていた。
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「それで、万屋Kenshiに依頼かね?」
『アビドス廃校対策委員会』。
加えて、先生も入れて六名の客が、談話スペースに収まる。今回は長い話になると思ってか、アレサは隣にエリを座らせていた。
「ん、相談。聞きたいことがあっただけ」
真っ先に発言したのはシロコ。感情に乏しい彼女は、常に無表情である。しかし、どこかウキウキした様子を見せている彼女は、アレサ……ではなく、隣のエリに顔を向けた。
「ここにいる人、元カタカタヘルメット団の人たちだよね? どうやって起業したの」
単純な質問だった。聞いていたアレサは、押し黙ったエリの代わりに顔を動かす。先生の方向へ。
“えっ?”
「ん? ん」
視線が先生に向けられると、さらに視線が向く。先生は一瞬にして全員に注視された。
「先生、もしかしてこの人たちに何か関わったの?」
「どうなんですか、先生」
「先生?」
「ちょっと、まさかアイツらに金渡したとかしてないでしょうね!?」
「おじさんも気になるな~」
“待って待って、一から話させて!”
目の前でワチャワチャしだしたアビドスの面々と先生に、アレサは笑いが込み上げた。こうなることを分かっていてやった彼女の行動に、エリは居たたまれなくなり、わざとらしく咳払いを挟む。
「アタシから説明する。あと、先に言っとくけど、先生からも【シャーレ】からも、金のやり取りはビタ一文たりとも無い。そこはアレサの魂をかけて誓う」
「何ッ」
「お前はややこしくなるから黙ってろ……でもまあ、アタシらがアレサの元で起業するにあたって、ある程度「大人のアドバイス」っつーもんは貰った」
事はセリカ誘拐事件が収束し、アレサたちがアビドスから追放を受けてからの話になる。先生はアレサと話し合い、互いに取引をした。
先生はアレサに「元カタカタヘルメット団を路頭に迷わせないようにして欲しい」と頼んだのだ。
この頼みを引き受けるため、アレサは先生から「彼が知る限りの『キヴォトス』という世界」の情報を知った。
先生は「全ての生徒の味方」である。しかし、『先生』という立場が、【シャーレ】という肩書が、皮肉にも
だからこそ、そこに肩書も戸籍も無いが、力がある者が居たのが、途轍もない幸運だった。
一旦シャーレのオフィスがあるD.U.区辺りまで彼女らは歩いた後、先生とアレサたちは離れ離れになった。先生は当然シャーレとしての義務があるためだが、アレサたちはここからがスタートだった。
まず資金集め。これはアレサが行なったが、詳細は絶対に話さなかった。
次に必要な設備や資材、拠点となる場所の確保。これもアレサが行ったが、詳細は絶対に話さなかった。
最後に起業。ここは夜、先生から企業のし方を通話越しに、一緒に模索していた。
そして、成り立ったのである。──『万屋Kenshi』が。
「そこからは、全部アレサとアタシらの力でやってきた。ま、大半はアレサ頼りだったけどな」
「……ん、すごい」
「だろ?」
自慢げにするエリ。隣で誇らしげに頷くアレサだが、先生が手を挙げた。
“ちょっといい? アレサ”
「なんだ?」
“実は最近さ、銀行強盗事件が起きたんだよね”
「あぁ、私も耳にしている」
“実行犯は一人で、怪力の機械種族がとてつもない速度でお金を奪っていくんだって。カメラに映っていても何故か認知しづらくて、しかもそこら辺の鉄パイプや、拾った銃とかで銀行員やガードをなぎ倒して行くらしいんだ”
「ほう、それは凄いな。さぞ力ある者なのだろう」
“これアレサだよね?”
「ハハッ。エリ、しばらく事務所を預ける」
“ホシノ、発砲許可を出すよ”
「OK」ズドン!!
アレサは全身散弾めり込み全裸土下座をした。かの聖人君主たる先生の前では、手足を投げだして床に頭を擦り付けることしかできなかった。アレサには倫理観が無い。アレサは、犯罪が身近にある世界の住人である。モノは奪い、それで作ったモノを金にしてきた。けれども善人の前では、成すすべもなかった。
「おまっ……お前、いやどっから金持ってきたかと思えば……マジで銀行強盗してたのかよ!?」
「仕方がないだろう。これが一番早かったのだから……!!」
“「資金集めには策がある」って言ってたけど、強盗しちゃったかぁ……”
アレサは床に頭を埋めたまま、ポツリと話し始めた。なお、現在アレサの頭上にはホシノのショットガン、背中にはノノミのガトリングが突き付けられている。
「【ブラックマーケット】なるエリアがあることを知ってな。まずはそこで資金稼ぎをしようと考えた」
“うん”
「物品の転売を考えたが、ブラックマーケット内は仲間意識がかなり高いと見た。となればブラックマーケット間の転売はまず不可能。戸籍のない私にはブラックマーケット以外の場所で買い物はできないし、彼らは表の商品には興味を微塵も示さないだろう」
“うん”
「だから手始めにブラックマーケットで一番ガードが甘そうな銀行を襲った」
バララララララララッ!!!! ズガンッ!!ドゴォッ!!
「やっぱり君だったのかぁ……シロコちゃんを誘惑させたのは」
「アレサちゃん……こんな悪い子だったなんて……」
さらに床にめり込んだアレサだが、実は銀行強盗以外にも、かつての世界で様々な大罪を犯していた。とは口に出さなかった。
「ごほっ、ぐぶッ……ま、待て。今ので砂狼シロコのどこに繋がる? 銀行強盗は完全に一人でやったのだが……」
「ん、銀行強盗したかった。これは私の夢」
聞けば、シロコは銀行強盗をしたがっていた。がっていたのであって、全て未遂で終わっている。
おそらく膨れ上がるアビドスの借金に鬱憤が溜まったのだろう。カイザー系列の銀行を見ては、襲撃から逃走ルートまでのプロットをノートに書き記していたらしい。構成人数から監視カメラの位置、狙い目の金品や帳簿まで、全て把握していながら、良心と法律が実行を堰き止めている。
それほどまでに、彼女は“銀行強盗”というものに憧れを抱いていたのだ。
アレサは理解してしまった。「コイツ借金云々抜きに銀行強盗がしたいだけだ」と。シロコ以外もそこは察している。
「まあそういうことでね、いい子なんだよ? それを、君が……」
「知らん知らん今初めて知った……いや待て、完全にシロコに関しては事故では……???」
「このままだとシロコちゃん、本当に銀行強盗しかねないからさ。君たち責任取ってよ」
「なんの責任だ……ッ!」
本当に何も知らなかったアレサに、突如舞い込んできたアビドスの面々。
シロコの高揚など露知らず。しかし、ただそれだけで襲撃……ではなく訪問しに来たわけではないのだろう。アレサは、「ついにこの時が来たか」とため息を吐いた。
──アビドスが、万屋Kenshiに依頼を持ってきた。
△▽△▽△▽△▽△▽△
荒れた談話スペースを軽く直し、改めて八人は向き合った。
「さて……また話は脱線するが、君たちの依頼内容を聞く前に、質問がある」
「ん?」
「仮に、約九億の借金を返済できたとしよう。その後のことを、考えたことはあるか?」
アビドスの面々は、一斉に顔を見合わせる。
全く考えたことが無かったのだろう。その様子が、ホシノからも見て取れて、アレサは顔を顰めた。
「考えたことがないか」
「あ、当たり前じゃない! 九億なんてそう簡単に、返せるわけ……」
「だが、返す腹積りではあるのだろう?」
「……そうよ。けど」
確かに、考えたこともなかった。
セリカは小さく呟く。初めて顔を合わせた時と違って、威勢を全く感じない。
彼女以外もそうだった。シロコは漠然と何かを考えているが、思い詰めている様子は見えない。ノノミには、宛があるのだろう。しかし、悩んでいるのが見て取れた。アヤネもセリカと同じらしい。今を生きるのに、精一杯といったところだろう。
ホシノは──じっとアレサを見つめていた。
どこか遠くにいる、違う誰かに見えたのか。
「まあ仕方がないか。九億だったか、返済するには五人じゃあまりにも力不足だろう」
「……そこまで把握してるんだ。どうやって知ったの?」
「企業機密だ。あぁ、先生が言いふらしたわけではない。そこはちゃんと言っておこう」
それは置いといて、とアレサは続ける。
「どうなんだ? パッと思いつくものでもいい。言ってみるだけならタダだ……エリもどうだ?」
「えっアタシにも? あー……」
ポリポリと頭を掻く彼女は、数秒ほど置いて、言葉にする。
「……服を、作ってみたい」
咄嗟に頭に浮かんだものが、口に出す。すると、顔に痒みが襲いかかった。痛いほどではないのに、思わず顔を手で隠したくなるような。
「まっ、待った! 今のは……」
「服か、いいじゃないか。最近は裁縫練習につきっきりだったしな」
"良い夢だね"
「お、おおおおいっ!? やめろ……恥ずかしい……」
赤いまま萎むエリの肩を、アレサはパンパンと叩く。そんな様子を、先生は穏やかな笑顔で見ていた。
「……ん、思いついた」
「次はシロコか」
「銀行強盗」
「言うと思った」「先輩、犯罪は駄目です」「シロコちゃーん?」「なんかそんな予感してたわ……」"ははは……"
アビドスシオシオスナオオカミが誕生してしまった。
「……じゃあ、アンタは何か夢があるの?」
「私か……あぁ、あるとも」
矛先がアレサに向けられると、彼女は立ち上がる。何事かと見る皆だが、アレサは両手を広げ、ゆっくりと肩で呼吸をする。そのまま数秒ほど、静かな時間だけが流れていき……
「勿体ぶらずに早く言いなさいよ」
「わかったわかった。まあそう焦るな」
皆がそう思っていたことを、
この世界に来て考え、そして「やってみようか」と思ったことを、言葉にする。
「──「学校を作りたい」と、思ったんだ」
「等級」
主に防具、義手義足、クロスボウ等につくレアリティ。傑作等級が一番強く、熟練、高品質、普通、見掛け倒し、試作品とランクが下がってゆくと、当然アイテムのステータスが弱くなる。
最終装備は基本的に全て傑作で固定するのが嗜み。
「スキルカンスト」
Kenshiはそれぞれに割り当てられたステータスを、0~100まで成長させることができる。100を超えることは可能だが、それ以上はシステム的に想定されていない数値なので、OFする可能性が出る。
バニラでステータス一個を100目指そうとすると、最短でもリアル時間二日はかかる。
「夢」
目標なくしてモチベは無い。目指すべき道を決めよう。
改訂版と銘打っての投稿になりますが、本作に赤色評価を頂けました。
前作を未完で打ち切ってしまい、それでも創作意欲が止められず、改訂版として新しく本作を投稿しました。
高評価およびここすき、感想、誤字脱字報告等、皆様からのお声を頂き、大変励みになっています。これからも本作を完結まで続けられるよう執筆します。
先生のセリフの"←ですが、スマホとPCを併用して入力しているので、殆ど安定していません。いずれこの部分は修正予定です。
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