Blue Kenshi   作:外道カヤノ

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4.便利屋と万屋、どっちも同じ

 

 件の騒ぎ……セリカ誘拐事件から数日。

 D.U.区とアビドス領地の境目。砂漠の景色が薄らと見える街中に、ポツンと建つ二階建てのオフィスがあった。空き家になってから時間がかなり経過していたのか、見た目だけ見れば、コンクリートが剥がれかけていたり、看板が錆びていたりとボロボロだ。

 

 そんなボロボロのオフィスに訪れたのは、四人のゲヘナ生徒。

 一人は毛皮を使った焦茶のコートに身を包んだ、ワインレッドの髪の少女。四人の頭角である、“陸八魔(りくはちま)アル”は、とあるチラシを手に、入り口の前に立っていた。

 

「ここが、『万屋(よろずや)Kenshi』……」

 

 チラシと看板を見比べる。『万屋Kenshi』と、剣戟の痕めいたフォントで描かれた、独特な組織名。そこに間違いは無さそうだ。チラシに記載されている住所も合っている。

 

「社長、引き返す?」

「い、いいえ! 今は何であれ、手は必要だもの。そっそれに、この「学生なら依頼料金初回無料」ってのに惹かれたわけじゃないわ!」

(惹かれたんだ)

(まあ目についちゃうよね)

(アル様……)

 

 アルの他、仲間たちが思う程度には、彼女はチラシの文言に惹かれていた。

 チラシにはこう書かれている。

 

 

万屋Kenshi

 

 猫探しから傭兵稼業まで、何でもこなします。

 あなたのすぐ側へ、最強の剣士が駆けつけましょう。

 

  場  所 :D.U.区○○市□□町**ー*

 お問い合わせ:***ー***ー****

  依 頼 料 金:相談無料。基本料金****円

        依頼内容によって変動アリ

 

 依頼主が学生であれば、初回限定で依頼料金が無料となります。(※要学生証)

 

「ともかく、今は兵力の補充が最優先。それをタダで行えるのなら、使わないことはないでしょう?」

「そうだけど、今までこんな万屋なんて無かった……端的に言って、怪しくない?」

 

 アルに助言を促す仲間の一人、黒メッシュの白髪の少女、“鬼方(おにがた)カヨコ”は訝しむ。カヨコは、こういった『裏』の情報を熟知している方だ。しかし、そんなカヨコですら知り得ない存在、万屋Kenshiには懐疑的であった。

 まさに今できたばかりの、ペーパーカンパニー……実はまさしくその通りなのだが、仮にカヨコが今まで知り得なかった企業だとしても、怪しいことには変わりない。

 

「くふふっ☆ まあ聞くだけならタダなんでしょ? 行ってみる価値はあるんじゃない?」

 

 その逆、楽観的に状況を見ているのは、薄紅色がかった白髪の、赤いドレスを着た少女、浅黄(あさぎ)ムツキ。楽しげに笑う彼女だが、「社長(アルちゃん)に何かあれば爆殺すればいい」とひっそり考えているため、実はこの中で一番万屋を警戒していたりする。

 

「えっと……私は、アル様に従います」

 

 仲間の最後の一人、菫色の髪の少女、伊草(いぐさ)ハルカは、アルに従順を示す。意志薄弱な彼女だが、メンツの中で最もアルを慕っているため、アルがOKを出せば彼女もOKを出すだろう。

 

 状況は三対一。「相談してみる」という意見に傾いたのを察したカヨコは、ため息を吐く。

 

「……まあ、何となくわかってたけど。社長、まずは相談だけしてみよう」

「決まりね。開けるわよ」

 

 ピンポーン、とインターホンが鳴る。その数秒後に、「入って構わない」と声。アルは事務所の扉を開く。

 そこには、

 

「ほら、こうだ。この輪に穴を通す……惜しい、そこじゃない」

「っ、クッソ……なかなか難しいな。あやとりみてーじゃん」

「実際そんなもんだ。けどこれが上手く行くと、糸が解れなくなる」

 

 胸と下腹部にサラシだけ巻いた、機械の手足の少女と、黒いシームレスインナーとスパッツに身を包んだ、ガラの悪そうな金髪の少女の二人が、犬のぬいぐるみを裁縫していた。

 

((((どういう状況……?))))

 

 半裸の少女たちが、かわいいをちくちくしている。

 いやそうではなく、ぬいぐるみの皮の部分を裁縫しているのだろう。金髪の少女はアル一行に気付くと、隣の少女の肩を揺すった。

 

「アレサ、客来たぞ」

()()()()()()。あぁ、すまない。店の前で相談していたようでね、来るまで暇していた」

 

 カヨコはこの時点で、店の印象を──否、アレサと呼ばれた機械義肢の少女の評価を改める。

 どうやら、店の前で相談していたのは、気付かれていたらしい。しかし、そこはボロオフィス故に筒抜けだった可能性が否めない。問題は、アレサから感じるオーラ。

 

(……風紀委員長に並ぶ)

 

 それは彼女らが一応は所属している【ゲヘナ学園】の、『風紀員会』の長と同じ風格。圧倒的な制圧力を持つ少女にして、ゲヘナ最強と揶揄される者、”空崎(そらさき)ヒナ“に匹敵する、強さを感じた。

 

「エリ、もてなしを頼む」

「わーったよ……お茶とコーヒー、アンタらどっちが飲みたい」

「ふぅん。じゃあコーヒーを」

「私はいい」

「コーヒーでいいよ! あと砂糖とミルク、パックがあるなら多めにちょーだい」

「わ、私はお茶で……」

 

 アレサに指示され、ガラの悪い金髪少女ことエリが、部屋から出ていく。その後、アレサが四人を促し、ソファーの並んだ席へと着いた。

 

「さて……万屋Kenshiへようこそ。私は”鉄杖(てつじょう)アレサ“、ここの代表だ。よろしく頼む」

「『便利屋68』、陸八魔アルよ」

(半裸のままなんだ……)

(服は着ないんだ……)

(しょ、処した方がいいのでは……?)

 

 アレサは名刺を差し出し、アルもまた名刺を出して交換する。それぞれが対面するようにソファーに座り、ようやく相談に着く──中で、アルの内心はウッキウキだった。

 

(半裸!? って思ったけど、スッゴく任侠モノっぽくない!? 機械の手足なのが気になるけど、逆にイイ! こういうのって隠すものだと思ってたけど、むしろ見せびらかしてるわねコレ。私も真似してみたい!)

 

 陸八魔アルは、「アウトロー」に憧れる健全な少女である。

 アウトロー……一概に「カッコイイ悪」を理念とする彼女だが、どうやらアレサの隠すことのない姿に、少々憧れの火が着いたようだ。そんな様子を見てか、カヨコは頭を抱えそうになり、ムツキは笑いを堪えていた。

 

「さて、此度はどのような案件でこちらに?」

「傭兵としてあなたたちを雇いたいわ。とある依頼遂行のために、戦力を必要としているの」

「ふむ。失礼ながら、そのとある依頼についての詳細を聞いても?」

「そうね──」

 

 相談に入ると、事はスムーズに進んでいった。

 アルが受けた「とある依頼」とは、【カイザーコーポレーション】からの依頼だ。内容は、アビドス校舎の占領、並びに生徒たちの制圧。カタカタヘルメット団が同様の依頼を受けて()()してしまったことで、便利屋68にその依頼が飛んできたのだ。

 

 かの有名な企業から、しかも大口の報酬を提示されたアルは、もちろんソレを承諾。止めた方がいいと思いつつも止められないだろうなと思ったカヨコと、止めた方がいいが受けた方が面白いと思ったムツキ、アルの前ではYESウーマンなハルカが、止めることはできなかった。

 

 一方、話を聞きながら、アレサは脳裏で「そう来たか」と考える。

 アルは一言も依頼元を口に出していないが、十中八九依頼元は『カイザーPMC』……カイザー系列企業だと察した。何せ、つい最近までカイザーの依頼でアビドス襲撃をしていた全員が、万屋Kenshiの従業員になっているからだ。

 

 まさか企業が、学生が立てたペーパーカンパニーに依頼を出すとは思ってもいなかった。しかし四人の姿を見て、全員が推定南東勢力(砂狼シロコ)級と判断できるレベルの強さだと考察すれば、確かにこの者らに依頼を出すのはいい選出だろうと感じる。カイザーもそれを分かってて依頼したのかは、定かではないが。

 

 アレサはこの状況に悩む。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()カイザー系列と、調()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()アビドス。この依頼を受けるか受けまいかで、この均衡が崩れてしまう。

 どうするかな、と悩みつつも、アレサはアルに質問しては、逆に質問を受けたりと、話を進めていた。

 

「ふーむ……OK。万屋Kenshiは君たちに手を貸そう」

「ホントっ!?」

「ただ、とある事情から直接の戦力にはなれない。君たちが狙うアビドスには、我々の顔が割れているのでね」

 

 実は自分たちも顔が割れて(ラーメン屋でアビドス生徒と鉢合わせて)ます。と、言えないカヨコ。

 しかし、アレサが言わんとしていることに、カヨコは口を出す。

 

「それは、裏方に回りたいってこと?」

「そうだな。私たちはオペレーターを担当しよう。見たところ、君たちはチームで動くタイプだろう? 今まで指揮は誰が行っていた?」

「社長と私でやってた。どっちも戦いながらだけど」

「ふむ……もし私がオペレーターとなる話を受け入れてくれるなら、この案件を引き受けよう。どうだろうか?」

 

 アルは考える。言われてみれば、今まで自分達四人で行ってきたが、今回は傭兵を雇ってでの作戦となる。そして、ソレらを動かす指揮官役は、この場には自分(アル)とカヨコだけ。しかし自身もカヨコも、チームとして前線に出るつもりでいたため、ちゃんとした指揮官役が居ないのは確かだ。

 初めて大勢を動かす作戦となれば、やはりオペレーターが居た方が安定するだろう。だが、

 

「そうね。あなたの提案を受けましょう」

「……ふむ」

「──ただし」

 

 ビッ、とアルが提示した条件は一つ。

 

「あなたが我々のオペレーターを担うに値するか。実力を見せて頂戴」

 

 キメ顔で言い放つアル。その裏では、「決まった……!」と考えていた。雰囲気も対話も、上手く行ったと思っている彼女のテンションは、もう鰻登りである。

 そんなウキウキ感を薄らと感じているアレサは、「まあ道理だな」と、口角を上げて返す。

 

 しかし聞くに、アビドスを襲撃する日は明日。そこで実力(フォーリング・サン)を見せてもいいが、相手は顧客。わざわざ自身の手の内を晒す行為も、顧客を疲弊させるような行為もしたくない。

 そこで思いつく。確か、ヘルメット団アジトだった場所から、接収したアイテムが幾つかあったことを。

 

「少し失礼……あった」

「ん? それチェス盤じゃん」

 

 席を外し、棚を漁って取り出したものは、ムツキの指摘通りチェス盤。どこにでも売られているような、折り畳み式の安いチェス盤だ。チェス盤を開き、中に収められた駒を並べるアレサに、アルはどこかドキドキした様子を見せていた。

 

「戦略性を簡単に証明できるものといえば、いつだってテーブルゲームだと私は思っている。一局どうかな?」

「いい提案じゃない! やってやるわ!」

「ムツキ、社長ってチェスできるの?」

「えっ、知らないけど。麻雀は遊べたし、チェスも打てるんじゃない?*1

 

 テンション爆上がりで興奮したままのアルは、そのままチェスを打つ事となった。

 

 ──それが地獄の一時間を生むとも知らずに。

 

 

 

 

 

 △△▽△ ▽△ △▽  ▽ ▽  △?

 

 

 

 

 

「チェック」

「  」

「……その、ハルカ。支えてやってやれ」

「は、はい。アル様、気を確かに……」

 

 かれこれ一時間ほど、アレサとアルはチェスを打っていた。それも一局に留まらず、アルが連戦をねだったために五局も打った。

 そして「ガビーン!」と顔が白化しているアルの通り、五局全てアルが負けていた。

 

「絶望的に弱かったな……」

「気持ちはわかるけど、言葉にするのは……」

「あぁ、すまない。失言だった。とはいえ、リーダー格があのままなのも普通に可哀想だろう。暇な時に指南してやる」

 

 かくいうアレサも、チェスが強いかと言われると、ハッキリと強者だと言えるほどではない。ある程度のセオリーや戦術を知っているだけだったりする。しかし、アルは弱かった。駒の悉くを奪われ、素寒貧に剥がされたキングを晒すレベルに弱かったのである。

 

「い、要らないわ……慰めなんか……」

「貰えるものは貰っておけ。で、まあ。結果はこの通りだが、指揮を担うにはまだ不足か?」

「ううん。十分に見せて貰ったし、私は彼女にオペレーターをさせるのは賛成」

「カヨコっ!?」

「私も〜。背中は任せてもいいかなって」

「ムツキ!?」

「あ、アル様を、よろしくお願いします……」

「ハルカまでっ!? なんか雰囲気違くない!?」

「というか、オペレーターを任せるのは最初から賛成だったんでしょ。なんで反対してる風になってるのさ」

「う、うぐ……うぅぅ〜っ」

 

 ここでいい感じの勝負を魅せてカッコつけたかっただけである。

 結果はボロ負けだったが。

 

「…………実力は理解したわ。だから、当日はオペレーターをお願いするわね」

「了解した。では、改めて打ち合わせと行くが、構わないか?」

「えぇ、勿論……皆もいいかしら?」

 

 かくして、便利屋68のオペレーターを引き受けることとなったアレサは、そのままアビドス襲撃の打ち合わせをしてゆく。

 その後、打ち合わせが終わった後に、アルが雇った傭兵団に連絡を取ったり、編成のために個人個人の情報を漁ったりするのに大いに時間がかかり──

 

 ──翌日、作戦決行日。

 

 ──アレサからの応答は、無かった。

 

*1
雀魂出演ができる証拠





「Kenshi」

 Kenshi。というゲーム。今や知る人ぞ知る、ストラテジーゲーム。




 アルは仲間が天秤に乗っかった時にパワーを発揮するウソップみたいなタイプだと思っているので、こういった日常ではいつも通りのポンコツっぷりが表に出るものだと考えています。

 ここすき見るのがすき

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