元々高層ビルだったのだろう。
全てのガラスが破け飛び、風化してざらつきが目立つ。鉄筋コンクリートと、僅かに残ったオフィス用品だけが残った、その一室。薄暗いが、差し込む日の光が部屋中を照らしている。
アレサたちは、避暑地としてそこに留まっていた。
"疲れた……"
「アタシも……」
先生はぐでっと項垂れ、エリらカタカタヘルメット団も、重たいため息を吐いて腰を下ろしていた。ちなみに、先生とヘルメット団は壁越しに分けて座っている。格好の問題で、先生は彼女らを直視できないからだ。
アビドス砂漠は広い。半径数十キロにも及ぶ広大な砂漠は、元々アビドスの領地。かつては別校舎や、街が幾つも並んでいたとされているが、今や誰もその歴史を知らない。ここもそのかつての名残だが、歴史を知らなければ、その事実を知ることもないだろう。
そんな歴史を知らない者しかいない空間。二組とは別所にいるアレサは、カンカンと義手で事務机をやかましく叩いていた。
"アレサ、何をしているの?"
「ここにある鉄材から裁縫道具を作ろうと思っていてな」
"いや、流石に無理がある気が……"
「できたぞ」
"なんでぇ???"
と、壁越しから機械の指が伸びたのが見えた。指先にあるのは、小さな針。よく見ると糸通しの穴があるため、本当に裁縫道具を作ってしまっている。アレサはそのまま見せびらかすように、壁から腕だけを出して作業を始めた。
服代わりに纏っていたシーツを器用に千切り、ほぐして糸にしてゆく。先生は裁縫に関しては、授業で習った程度の知識と技術しか持ち得ていない。しかし、アレサの手つきは素人目で見ても熟達しており、専門家にも思えた。
"機械の腕、なんだよね?"
「そうだとも。といっても、手先の神経は通っているし、動かすにあたって人の手だった頃と何ら変わりない。むしろ強化されている。義肢はいいぞ、先生」
"……どうして義肢を着けているか、聞いてもいいかな?"
踏み込み過ぎたか。そう思ったが、アレサの様子は変わらない。むしろ、彼女はようやく話のネタが見つかったと、楽しげに口を緩ませた。
「自ら手足を斬った。強くなるためにな」
"────"
あっけらかんと、さも当たり前のように言ったその言葉に、先生は思考が停止する。
強くなるために、手足を自ら? この時点で、理解が及ばなかった。
苦渋の決断でもなく、まるでどの服を着ていくかを決めるかように、彼女は「斬った」と言った。
「人は脆い。肉の手足は、人よりも大きな生物が蔓延るあの世界では、簡単に取れてしまう。だから、代替となるパーツが必要だったんだ。あの世界は、店に商品として並ぶ程度には、義肢に需要があったのさ」
──代替があるからといって、手足を簡単に斬り捨てるのか?
ちくちく、と針を通す。薄いシーツから生地を作り、目測で寸分違わずに袖を通してゆく様は、職人技と言えるだろう。しかし、頭に入らない。言葉だけが、先生の脳裏を通り過ぎてゆく。
「私の手足は自作だ。機械工学は趣味でもあったし、クラフトはあの世界だと必要スキルでもあったし……流れで自分なりに強いと思える手足を造った」
アレサの手足。先生が住んでいた『外』と遜色なく、あるいは少し上回るくらいに発展を遂げた、このキヴォトスでも見ない、機械の四肢。
装甲は耐久性を高めるため。手先に感覚があるのは、拳を強く握りしめるため。機械であるのは、人の身では持てない物を持ち上げるため。
──巨大生物と戦うため、と言われれば納得しただろう。
──しかし、何かが違う。まるで、
──その、あらゆるには。
「まあ、それは
“……待って、明らかに死んでいない?”
「あぁ、死んだことがある。何十回とな。だが、私はその何十回と一回、見知らぬ誰かに意識が切り替わって、
──死ぬごとに、見知らぬ誰かに生まれ変わっている?
いわゆる転生というものだろうか。しかし、アレサの話を聞くに、いわゆる『異世界転生』とは違うようにも思えた。同じ世界で、何度も死を繰り返している。それも、誰かに憑依する形で。
"
「
──あぁ、この子は、おそらく。
先生は、あまりの情報の多さに、「ごめん」と一言残して離れた。
アレサは咎めることをせず、むしろそのまま「行ってこい」とだけ返した。
あの男は美徳に溢れているが、慈しみも兼ね備えている。
かつての世界には存在しえなかった善人。それが先生という生き物なのだろう。常に
と、アレサは考える。
「存外、いい人じゃないか。それに、この世界では唯一の人間の男性だろう。アレはモテるだろうな」
と言ってみるが、実のところ、アレサにもどうして自分の人生がここまで波乱万丈なのか、理由を知らない。
ただ生まれ変わるだけであれば、輪廻転生は実在したのだ、と片付けることができただろう。しかし、実際は生まれ変わりではなく、移り替わり。憑依とも言えるソレは、アレサに幾度となく数多の経験を齎した。ありがたいことではあるが、何故自分がこのような終わりない人生を送っているのか、と考えたことは何度もある。
先生は彼女を"アレサ"という、この世に生きる女子学生として見ている節がある。違うとは言えないだろう。何せ、アレサの頭には、キヴォトスの住民の象徴たるヘイローが生えている。
だが、その以前までのアレサを、先生は知らない。しかし知ろうとすればするほど、世界の違いというものに、苦しめられるだろう。アレサは、先生が居た『外』は、かつての世界より、キヴォトスの世界よりも、穏やかで平穏な世界だと予想していた。そして、先生の反応を見て確信する。
「あの男は、どのような人生を送って、大人になったのだろうな」
自分には一生経験できなさそうな人生に、アレサは少し羨んだ。
△▽△▽△▽△▽△▽△
「ほらエリ、コイツはやろう」
「んぁ?」
アレサは先に、完成物をエリに渡した。薄手の無地のTシャツ。シンプルな一枚だが、エリの知る服屋の商品よりも高級品に思えてくる。
全裸だったため、ササッとTシャツを纏うエリ。その時、こわばっていた顔が、ようやく綻んだ。
「元はシーツだったはずだろ……? 思った以上に丈夫だし、めっちゃ着心地いい。サイズもピッタリじゃねぇか」
「そうか。試しで作ってみたものだが、良いモノであったのなら何よりさ」
「お前、そんなナリで裁縫が趣味だったりするのか?」
「いいや? 単純にこういうこともできるというだけさ。設備さえあれば、鎧とか武器とか、それこそあのフォーリング・サンも造れるぞ。ついでに義肢はさっきも話したが自作」
「何でも作れるじゃん」
何せ、彼女は
流石に肉体そのものの強度や経験までは引き継げなかったが、技術と知識は、溜まってゆく一方なため、肉体に関してはそこまでこだわりがない。
「まあ、流石に人やスケルトンは作れないし、大型の工業装置とかは複数人居ないと時間がかかる」
「時間かかる、ってことは、装置とやらは作れるのかよ」
「頭に
「チートじゃん」
「積み重ねた経験を若者にそう言われるなら、老齢冥利というものだな」
「同い年くらいのくせに何言ってんだ……」
ふとアレサは思い出す。自称「おじさん」とやらの、小鳥遊ホシノのことを。似たような経験があって、自らを大人と自称しているのだろう。しかし、ホシノはアレサから見て「おじさんと言えるほど成熟しているのか……?」と脳裏で疑問をこぼした。アレサからしてみれば、ホシノは肉体的な要素を抜いても、未だに幼い子供のように思えたからだ。
「さて、次はサラシとパンツにする。全員分配ろうと思うと、シーツが足りなさそうだ」
「そうかよ……って待て、アタシはまさかTシャツ一枚だけってか!?」
「え? あ、うん。我慢してくれ」
「コイツ……」
何か言いたげなエリを無視して、アレサは作業に戻った。サラシ、パンツ用の包帯は、Tシャツよりも早めに作られていった。それぞれ作っては全裸のヘルメット団員を呼び、アレサとエリが巻き付けてゆく。
といった作業を繰り返していると、先生が戻ってきた。
"ごめん、今戻ったよ"
「あぁ、おかえり」
壁越しから聞こえる声に、アレサは応答した。
今、場は半裸と全裸が混じる女子しかいないために、席を外さざるを得ない。そこはしっかりと把握しているため、アレサは大声で先生に声をかける。
「あと四、五人ほど、サラシを作れば終わる……今終わった!」
「手際良過ぎんだろ……」
「服を剥ぐのに慣れれば、着せることも容易いのさ」
"……ごめん、やっぱりアレサがこっち来てくれないかな?"
「いいのか? 私は全裸のままだぞ」
「オメーもサラシ巻けや! 余ってんだろ!」
ベシィッ! という音が聞こえたが、先生は無視した。
「はぁぁ……やっと、全裸から解放された……」
「え? 全裸から解放……いや、なんだろ。もうどうでもいいか」
「……意外と全裸生活も良かったなぁ」
「嘘つけ。お前一番裸嫌がってただろ」
壁越しからそんな声が聞こえるが、見るわけにもいかないため、先生はそのまま待つ。しばらくすると、包帯で胸と下腹部を巻いたアレサと、Tシャツ一枚のエリが、先生の元へとやってきた。
"……ありがとね、アレサ"
「何、問題ないさ。売り飛ばすまで品質を保たせるのも、売人の仕事だろう」
「だから人身販売なんて無いってんだろ」
「……エリらのことだが、どうすればいいだろうか、先生」
"そこで私に振るかぁ……"
ガシガシと頭を掻きつつも、先生はタブレット端末を手に考える。
アレサのような、完全な身元不明の生徒ならばともかく、エリたち元カタカタヘルメット団は、学園からドロップアウトされた不良生徒たちだ。それに、現在身を置いているアビドスにとって、元々敵だった相手でもある。
シャーレの権限を使えば、彼女らを一時的に保護することはできるだろう。あるいは、復学の手助けだって可能かもしれない。しかし、それはできない。何故ならシャーレは【連邦生徒会】直属の中立組織であり、多くの学園の敵となっているであろう、不良生徒に手を差し伸べる行為は、中立という属性を揺るがす行為になる。
そもそも、どうしてドロップアウトしてしまったのかの理由も、人によってバラバラだ。単純に不登校になった者もいれば、本当に犯罪を犯して退学処分となり、行き場を失った者だっている。助けた相手が後者のような重罪人であれば、所属していた学園から反発を喰らう可能性がある。
まだ大人でもない学生が、
だからこそ、悩む。
"私はシャーレとして着任してまだ日は浅いし、盾にできるような実績は無いんだ。情けないし、とても悔しいけど、君たちに対して明確な手助けをすることはできない"
「……そこは、なんとなく予想はしてたよ」
"だけどね、私は全ての生徒の味方でありたいんだ"
『先生』、だからね。
告げた言葉に、エリは顔をしかめる。優しい嘘でも、誤魔化しのための甘言でもない。それは、自分がそうであると言い聞かせるような。
"そこで、アレサ"
「おや、私に何か?」
先生は立ち上がる。タブレット端末──『シッテムの箱』──の画面を見せながら、アレサにある提案をする。
"これは取引なんだけど──"
──君が、アレサが蓄えてきた、豊富な知識と経験を借りたい。
画面に映し出された、箇条書きの文面。散文的なソレを読み、先生がこれからやろうとしているものを察し、彼女は「へぇ」と溢す。
"君には、私や生徒会長……いや、こう言えばいいかな。王様や外交官みたいな立場になった経験はあるかな?"
「王様、か。あいにくと王にはなったことはない。だが──」
──多くの仲間と共に、国を築いたことはある。
「義手義足」
Kenshi世界だと当たり前にある存在。切断した直後でも取り付け可能なハイテク装備。強くなるためならコイツは必須。サイバービィィィィィップ!!
「【
Kenshi世界に存在する宗教国家。ホモ……ではなく、単純に宗教上の理由で人間男性以外を露骨に差別している。人間女性はまあ戒律従ってるならええわの精神。それ以外は奴隷。特に人外女性なら絶対に奴隷にする。機械は殺す。
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