Blue Kenshi   作:外道カヤノ

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 まだ諦めきれなかった。それだけなんだ。


Vol.1:アビドス廃校対策委員会編 第一章
1.何処までも広く果てなき世界


 

 どれほど歩いただろうか。

 

 

 

 どれほど時間が経っただろうか。

 

 

 

 小麦色に焼けた砂漠を歩き、今自分はどこに居るのだろうか。

 

 

 

 魔法陣のような、幾何学的な光の線が浮かんだ、透き通った青空の下。()()()()()()()()砂漠を歩き続けて、いくつ日を跨いだだろう。昼と夜を何度も繰り返したというのに、何故か二十四時間ずっと日の光を浴びているかのような。

 

 暑い。ただひたすら暑い。水分が、体力が、魂が、ひたすら焼けて揮発してゆく。

 日影になるものがどこにもなければ、オアシスもない。

 

 今すぐにでも、歩みを止めたくなった。

 しかし、今ここで足を止めれば、動けぬまま死ぬだろう。

 

 青空に浮かぶ、円陣の中心。そこに光の柱がある。

 北極星の代わりにそこを目指し、歩いて行けば、いつかは砂漠から抜け出せるはずだ。

 

 その先には、何があるだろうか。

 街だろうか。あるいは、海か。できれば食人族の村でないことを祈りたかった。

 

 ──その時だった。

 

 ブロロロロ……と、聞いたことのない音。

 まるでエンジンの唸る音。否、それそのものだ。音源が、砂埃を散らしながら、こちらに向かって来ている。

 

 なんだ? アレは。

 

「おい、アレは何だ?」

 

 一方、音源たるトラックの運転手、フルフェイスヘルメットを被った少女は、車窓を指差す。その先にいるのは、人?であった。

 何故「?」が付くのか。それは、金属の光沢を持つ黒い四肢の、全裸の少女だったからだ。

 

 手足以外は肌色で、隠すところが一切ない。そして手ぶら。リュックサックも無ければ、その辺に服やそれらしきものもない。こんな暑い砂漠のど真ん中で? 何かがおかしい。

 

「全裸……え? 何アレ?」

 

「アタシに聞くなよ。クソッ、めっちゃ気になるけど無視だ無視! 作戦中だろ!?」

 

「なんか、こっち見てない?」

 

 装甲付きトラックを運転する少女の隣、同じくフルフェイスヘルメットを被った少女は、気になってスマホを取り出す。カメラを起動するが、写真を撮るのではなく、ズーム機能。望遠鏡代わりに全裸の少女の詳細を知ろうとした彼女は、見た。

 

 虚空から、全長二メートルはあろう鉄の塊を。

 

「!? 方向を左に変えろ! 今すぐにッ!」

「なんっ、だ──!?」

 

 それは、見たことのない形状だった。

 しかし、パッと見ればそれが「剣」だと分かる。

 だが、「剣」にしてはあまりにも「剣」らしくない。

 

 刃と柄が、それぞれ一メートルずつ分けられた、大剣じみたもの。「ノ」の字に反った刃は分厚く、それを吊り上げるように柄が伸びている。そのデザインは薙刀にも見えなくもないが、一番近いものとして包丁が挙げられるだろう。

 

 ──全裸の少女の得物。その名は、『自殺刀(フォーリング・サン)』。

 

「向かってくるか」

 

 全裸の少女はそう呟くと、フォーリング・サンを片手に、トラックへ突撃した。

 

「はあぁァァッ!?」

「何ッ!? ひゃっ!!」

 

 飛び上がり、体の軸を横に。回転し、傘を彷彿とさせる残像を見せつけながら、トラックに真正面からぶつかる。運転席にいた二人からしてみれば、いきなり回転ノコギリが襲いかかってきたかのように思えただろう。

 事実、運転席を真っ二つにするかの如く、フォーリング・サンが刺さった。

 

 窓ガラスが割れ、ちょうどヘルメットの少女二人を分断するかのように、赤熱を帯びた刃がフロントに傷を入れた。もし、ギアチェンジのために腕を伸ばしていたら、と考えた途端、運転席の少女はあまりの恐怖に失神する。

 

「ん? 思った以上に柔らかいな。っと、なんだっ?」

 

 そうして制御を失ったトラックは、ゆらり、ゆらりと左右へ揺れ始める。地面が安定しない砂地を、とある報復のために時速70km超えの速度で走っていたために、制御を失えば転けるのは、必然であった。

 が、そんな必然を起こしてしまった全裸の少女は、自分が原因であると微塵も理解していない。

 

 全裸の少女は、トラックの真上。ちょうど運転席とコンテナの間あたりに、フォーリン・サンを下に突き刺したまま這っていた。()()()()()()と思ってしまった彼女だが、手応えの無さと、突然死にかけてゆくトラックの挙動に驚く。そうしながらもバランスを取るが、慌ててフォーリング・サンを引き抜いて、彼女は飛び上がった。

 

 ズザァッ!!と盛大に砂煙を立てて横転するトラック。その衝撃か、コンテナ後部の扉が弾けるように開き、中身が飛び出した。ヘルメット、ヘルメット、黒い猫耳少女、ヘルメット……誰もが目を回して倒れていた。

 

 全裸の少女はというと、音も立てずに着地する。フォーリング・サンを片手に、横転したトラックを一瞥した。

 なるほど、アレは生き物ではなく、乗り物だったらしい。人を運べる機械という、これまで思いつきもしなかった発想に、少女は感心を抱く。

 

「しかし何なんだコイツらは……ん?」

 

 そして、新たな音を耳にする。

 空に浮かぶ、白い金属の物体。巨大カマドウマ(スキマー)から脚を全て取り除いたかのようなフォルムのソレが、近付いて来ているのが見えた。

 

(上のは、回転しているのか? 羽根を高速回転させて浮いている、のだろうか。凄まじい技術だ。先のといい、明らかに古代帝国の技術ではない)

 

 彼女は知らぬが、この世界の者ならば誰もが知る乗り物。ヘリコプター。

 天使の輪と十字架が架けられたマーク。下部に「S.C.H.A.L.E」と記されたソレは、トラックと同等のスピードで少女に近付いている。

 

 もしや、先程の謎の金属塊(トラック)と同じか。

 再度フォーリング・サンを構え、飛び上ろうとした時──ヘリコプターの側面がバンッと翼らしきものを開き、そこからピンク色の塊が飛び出たのを視認した。

 

 ──殺気。同時に最強の拳士(ティンフィスト)レベルの、強者の圧!

 

 瞬間、全裸の少女が吹き飛んだ。

 咄嗟にフォーリング・サンを盾にしたが、それでも抑えきれなかった衝撃が、全裸の少女を五メートルほど後方へ下がらせる。

 一点、否。線での攻撃ではない。刀身を盾にしてもなお、そこをすり抜けて粒のような痛い攻撃が、腹部に散り散りに直撃している。貫通はしていないが、久々に痣が出来そうなほどの痛み。

 

「──良いな、ソレは」

 

 やったのは、ピンク色の塊……ではなく、ピンク色の髪の少女だ。工学的なデザインの盾を持ち、白く短い鉄の筒を構える、オッドアイの少女は、敵意を剥き出しにしてこちらを見ている。

 

 彼女は、強い。

 見て解る事実が、全裸の少女を昂らせた。

 

「ねぇ、君は誰かな? おじさんちょっと気が立ってるからさぁ……そこを退いて欲しいんだけど」

 

 ピンク髪の少女は、どこかおどけた様子で問いかける。しかし、おどけた様子とは裏腹に、敵意は膨らみ、圧を仕掛ける。普通ならば、これだけでも恐怖に染まるほど。しかし、全裸の少女にはただのそよ風でしかない。

 

 だが、そんな圧よりも、少女はピンク髪の発言を深く読み取ってしまった。脳裏に過ぎったノイズ。それは彼女の思考を停止させるに十分な矛盾を及ぼした。

 

(ん? 今彼女は自らを「おじさん」と言ったか? 少女らしい格好をしているが、実は幼い少年なのだろうか)

 

 すると、無礼極まる思考を察知したのか、ピンク髪が動く。

 ズダァンッ!!と、またも細い筒──ピンク髪の少女が持つ散弾銃──から、火が噴いた。

 剣を盾にするのは無意味。そう見て判断した全裸の少女は、横に飛び退いて避ける。

 

「退いたぞ。この通りだ」

「……ちょっとおじさん、本気出すね」

 

 にこやかではあるが、こめかみに血管が浮き出ているのが見えた。全裸の少女は、先程のは失言ならぬ失想だったか、と考えつつ、音速で盾を斜めに構えて突進してきたピンク髪を、フォーリング・サンの一振りで勢いを相殺させる──つもりが、いなされた。

 

 フォーリング・サンの刀身が、斜めに構えられた盾によって滑らされる。勢いのままに振るってしまった全裸の少女は、大きな隙を晒した。

 パリング、あるいはパリィと呼ばれる「攻撃を弾く、あるいは逸らす」カウンター技術。そんなカウンターと、突進を両立させて来たピンク髪の少女は、驚愕に染まった全裸の少女に散弾銃を向けた。

 

 ダァンッ!!と、今度こそ散弾の全てが、全裸の少女の腹部に着弾した。

 

「ぐガッ──!!」

 

 吹き飛ぶ。なんてレベルではない、飛び散る!!

 実際には飛び散ってはいないが、全裸の少女は、久方ぶりに肉体がバラバラになった……かのような感触を味わいながら、今度は十メートル以上も遠くへ吹き飛んだ。

 

 とてつもない衝撃と痛み。一発で失神しそうになるほどの一撃。なるほど、ティンフィストと同等というのは、やはり間違いではなかったらしい。

 

 砂地の上をバウンドし、転がり、起き上がる。全裸の少女は砂を被りながら、フォーリング・サンを杖にして剥き出しの戦意をピンク髪へぶつけようとする。しかし、ピンク髪はこちらに顔を向けていなかった。

 

『──シノ先輩! 目を回して泣いてるセリカを確保! そっちは!?』

「こっちは大丈夫。目を回して泣いてるセリカちゃんは確保できたみたいだし。あっちがどうなのかは分からないけど」

『その()()()()()()については、先生からも距離を取るようにと指示が出ました! ホシノ先輩、早急に撤退をお願いします!』

「うへー……それちょっと、難しそうかなぁ」

 

 耳に何かを当て、話す様子。近くにいるのであれば、会話内容を全て聞き取ることができる全裸の少女は、聴き取った内容を咀嚼し、把握する。

 

(ホシノセンパイ、いや先輩か。なるほど、あのピンク髪はホシノというのか。で、セリカという同胞を助けに来た。先生というのは、司令塔か? 様子を見るに、動くコンテナから出てきたヘルメットと、ホシノとやらは対立関係。となると、私は両者にとってポッと出のイレギュラー……か)

 

 離れた距離から、砂埃に混じって、知らない少女たちが動いているのが見える。ピンク髪のホシノ。その後ろで、猫耳黒髪少女を支える、狼耳灰髪の、水色のマフラーを巻いた少女。仰々しい六本筒の機械を手にした、やけに体格の良いプラチナブロンドの少女。

 

 その反対。ギャリギャリと近付いてくる音。遠方から、ヘルメットを被った少女が、黒い筒の武装を手に集団で来ている。それと、コンテナ(トラック)とも空飛ぶスキマー(ヘリコプター)とも違う、また異なる動く金属塊が、二体ほどだろうか。こちらに敵意が向いている気がした。

 

(となると、セリカ──恐らくあの猫耳少女か。あのヘルメット少女共に攫われて、ホシノはそれを取り返しに来た、か? 情報が足りんな。可能性は高くても確実ではない。脅威度はホシノの方が高いが……)

 

 風を貫く音。同時に、風を斬る音。

 非現実的な金属音が響き渡ると同時に、全裸の少女の脇を高速で何かが通り過ぎ、二つの爆発が背後で起きた。

 

『!? 何が起きた!』

『──ありえねぇ。今、アイツ……砲弾を斬った!?』

『馬鹿言え!! 骨董品とはいえ元々トリニティで使われてたヤツだぞ!?』

『そもそも砲弾を斬るヤツの方がありえねぇよッ!!』

 

 雑音混じりだが、先の砲撃をしてきた金属塊からだろうか。声が聞こえる。確実に全裸の少女を狙ったのだろう。だが、あちらにとっては大誤算だったらしい。

 大量の数の、敵意がやってくる。これほどまでの数を相手にするのは、拠点を防衛した時か。あるいは、人喰い族の生息地へ遠征しに行った頃か。

 

 あぁ、懐かしいな。全裸の少女は思い出に耽け、少ししてホシノに視線を向けた。

 

「行くといい。私は奴らと遊ぶ」

 

 ホシノは表情を変えず、距離を保ったまま、全裸の少女へ銃口を向けていた。しかし、その脳裏では疑問と疑念が浮かんでいた。コイツは何を考えているんだ? と、純粋に行動が読めず、困惑する。

 それは、ホシノ以外の、ヘルメットを被っていない少女たちも同じようだ。

 

「……何のつもり?」

「いや、少し懐かしい光景を見た」

 

 ──とてつもなく、遥か昔の記憶。

 

 ──ようやく組めた徒党が、飢えた野盗たちに襲われ、ボロ雑巾のように、皆砂漠の上で倒れた。

 

 ──自分以外が、皆奴隷商に連れて行かれた。

 

 ──その時はまだ若かった。何も策が無いのに、仲間を助けに行った。

 

 ──無力にも、殺されてしまった。

 

 ──その日と、同じ意志を感じた。

 

 ──四肢を失い、芋虫のように這ってでも、成し遂げたい気持ちを。

 

「とても大切な事を、思い出したんだ」

 

 だから、行け。

 

 全裸の少女は、大勢のヘルメット少女集団の前に、剣一本で立ちはだかった。

 

 

 

 

 △▽△▽△▽△▽△▽△

 

 

 

 

 【アビドス高等学校】。この世界、学園都市『キヴォトス』における学園の一つで、かつてはマンモス学校と揶揄されるほどに、巨大な学園であった。

 それが、今や見る影もないほど萎縮し、たった一校舎と、あまりにも広すぎる砂漠だけが残った、寂れた学園となっている。

 

 そんな学園からのSOSを聞き、駆けつけたのは、キヴォトスで発足したばかりの、超法規的組織。【連邦操作部『S.C.H.A.L.E(シャーレ)』】。

 この世界では唯一無二らしい、()()()()の、大人の男性。『先生』と呼ばれる男性が、アビドスを助けに訪れていた。

 

"ふぅ……っ"

 

 先生はアビドスの屋上で、一息ついていた。

 シャーレの上層組織である【連邦生徒会】から、無理を言って輸送用ヘリコプターの手配を頼んだ。お陰で、攫われてしまったアビドスの生徒、“黒見(くろみ)セリカ”の救出が叶ったが、その始末書に追われることとなった。

 とはいえ、後悔はないし、その選択は絶対に間違ってなかったと言える。他にも始末書モノの行為をやらかしたが、その辺りも気合で何とかしたため、就労時間外を超えての業務で済んでいる。

 

"流石に疲れたかな"

「先生〜、お疲れのようだね」

"ん、どうも。ホシノ"

 

 手すりに項垂れるように休んでいた先生の元へ、一人の少女がやってくる。“小鳥遊(たかなし)ホシノ”。現在五人しかいないアビドスの生徒の、唯一の三年生だ。

 ホシノも両腕と背を伸ばしながら、手すりに背もたれをかけた。先生とは、少し距離を空けて。

 

「セリカちゃんのこと、ありがとね。お陰で、どうにかなったよ」

"ううん、気にしないで。先生として、当たり前のことをしただけだから"

「ふーん。セントラルネットワークにハッキングすることが、大人として当たり前の行為なのかぁ」

"こ、今回は必要なことだったから……"

「……嘘だよ。本当に、今回は感謝してるから」

 

 当時、焦っていたのはホシノだった。表には出さなかったが、攫われたセリカ以上には、焦燥していたのは、ホシノが一番自覚している。

 そんな時に、助け舟を出したのは、先生だった。それも、体を張って、彼女を助けようとしたのだ。

 

 だからこそ、ホシノは迷う。

 この大人を、信用してもいいのか、と。

 

 セリカが攫われたのは、先生の来訪が原因でもあった。

 端的に説明すると、アビドスは約九億もの借金を背負っている。当然ながら、借金返済のためにアビドスの生徒たちは活動していたのだが、誰もそこに救いの手を差し伸べなかった。むしろ、足を引っ張り、騙し、ただ遠目で眺めるだけの者ばかりしか、居なかった。

 

 そんな悪意の中を振り払い、やがて誰も目を向けることも無くなった学園に、突然救いの手を差し伸べてきた者が来た。当然、敵意と悪意に晒された者たちが──セリカが先生を信用できるはずもなく、仲間たちの声も届くことなく、振り切るように学園を飛び出したのだ。

 その結果、不幸にも不良集団(ヘルメット団)に攫われることとなり、今に至る。

 

「けど、ちょっとあの子には驚いたかなー。先生、本当にあの子については何も知らないの?」

"……うん。これは本当"

 

 セリカが乗せられたトラックを、ヘリを使ってまで追跡したその先にあったのは、明らかな事故現場。横転し、中にいたヘルメット団共々放り出されたセリカの横に居たのは──四肢が機械化した、全裸の少女。

 銅色のショートボブに、黄金色の瞳。百五十センチ程度と、ホシノと同じくらいの体格の少女。

 

 それは銃社会であるキヴォトスでは、裸でいる事と同義とされる、銃を持たない者であった。

 しかし、銃の代わりに、古代の処刑道具と揶揄できそうなほど、巨大な剣を持つ者でもあった。

 

 未知。不明な存在。危険性。──その者が持つ、強者の圧。

 それらを感じ取ったホシノは、ヘリから飛び出して吶喊したのだ。あのまま眺めていれば、セリカによからぬ事態が訪れるのではないか、と。

 

「すごく強かったなぁ。銃の代わりに剣を振ってたけど、間違いなくアレ、当たったら死ぬかと思ったよ」

"キヴォトスの人たちって、銃弾が当たっても大丈夫なんだよね? だったら斬撃は……?"

「うーん、そこまでは知らないかな。けど、()()()()()()()

 

 確信はないが、おそらく当たっても胴体が泣き別れ……ということはない。ホシノはそう感じていたが、受けたくないことには変わりない。今回は上手く退けられた上に、勝手にあちら側から手を引いたために、ホシノがそれ以上接触することは無かった。

 

 ただ、自身が撤退する直前の、あの少女の発言。

 「懐かしい」。そう彼女は、自分たちを見て言っていた。

 

 朗らかに笑い、そして悔やむ。

 ──二律背反の感情を、瞳に映して。

 

 一方、先生は彼女と違い、アビドス校舎の一室でオペレーターを行っていたために、実際のことはドローン越しにしか知らない。

 このキヴォトスにおいては、少女の姿をしている者は、皆何かしら制服と銃、スマートフォンを持ち、頭に個性的な光輪(ヘイロー)を浮かばせている。

 

 未成年の少女が銃を持っている時点で、キヴォトスの『外』からやってきた先生にはとてつもない違和感があるが、キヴォトスは銃社会。少女たちにとっては、銃の一撃は致命傷どころかかすり傷程度でしかない。

 そのため、喧嘩になれば銃撃戦は当たり前。グレネードと砲撃の応酬は、キヴォトスでは日常茶飯事だ。だから、先生以外のキヴォトス人にとって、怪我とはそこそこ無縁な生活を送っているだろう。

 

 しかし、あの全裸の少女は違った。両肩から下、太ももから下が、人間の肉体ではなかった。四肢が古めかしい機械で出来ており、それは普通の手足と遜色なく動いている。先生にとっては、アニメや漫画で見た義肢。ロマン溢れるカッコいいモノだ。だが、それを実際に着けている様を見ると、ロマンやカッコよさなど二の次に思えてしまった。

 

 ──ただ、痛々しい。

 あの少女は、()()()()()()()()()()()()彼女は、何をもって四肢が機械化してしまったのか。

 想像してしまうと、暗いものしか浮かび上がらなかった。

 

 

 

 

 △▽△▽△▽△▽△▽△

 

 

 

 

 夜が明け、また新しい一日が始まる。

 セリカとのわだかまりは無くなり、ようやく先生はアビドスに受け入れられたと言えるだろう。

 これからがスタートだ。そう言い聞かせ、タブレット端末──『シッテムの箱』──を片手に、アビドスの校門にたどり着く。

 

 確か、今日は対策委員会の会議が入っていたはず。

 そう思いながら門をくぐった先には……

 

「何しに来たの?」

「ご覧の通り、我々は素寒貧だ。だから何もしないし出来もしない。代わりに、近くの街の場所を教えて欲しい」

 

 なんか昨日の全裸少女が訪れており、他にも全裸になった少女がめちゃくちゃ増えていた。





「スキマー」

 乾燥した土地に生息する、クソデカくてキモいカマドウマ。初心者の手足をもぐことで有名。可食部が少ない代わりに、剥ぎ取れる牙が金策元になる。



「フォーリング・サン」

 自殺刀と呼ばれる剣。動物に対して特攻性能のある、重武器。個人的に一番好きな見た目の武器。

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