悪役令嬢 Meets 占い師 その2
神奈のオフィスビルは、神保町の奥まった所にある。
私の住む九段下の隣じゃないかという事で、アポイントを取って神奈水樹の顔を見に行く事にした。
彼女、ゲームだと月ごとに彼氏を変えるという恋愛乙女だったので、色々とお付き合いについては考えたくなるのだが、彼女自身の友好度がそのままゲームにおけるクリア指数を反映しているという裏設定があったりする。
高等部における特待生改善運動の学生世論のバロメーターが神奈水樹だったりするのだ。
このあたりはゲームに描かれていなかったが、神奈水樹は桂華院家のお抱え占い師として、桂華院瑠奈のアドバイザーを務めていたのだろう。
彼女が居た三年生一学期までは、対立も決定的になる事はなかったのだ。
ところが、彼女が海外留学に行くことになった三年生二学期を境に激変が起こり、一気に対立が表面化する。
これも設定資料集の情報だが、神奈水樹を留学させるべく暗躍した面子に帝亜栄一、泉川裕次郎、後藤光也の三人が絡んでいるとか。
そんな人物を放置できるほど私の心は大胆ではなかった。
という事で、橘由香と一条絵梨花を連れてのお出かけである。
「じゃあ、車を用意しますので」
「車で行く距離じゃないでしょうに」
私の否定に露骨に不機嫌になる橘由香。
メイドとして仕込まれてはいても、人間形成がまだ子供だから感情の制御に失敗しているのだろう。
そのことに多分気付いていない。
そういうのが垣間見えるだけに、ちょっと私は楽しくなった。
なお、九段下から神保町は徒歩でも十分は掛からない距離である。
「じゃあ、散歩がてらに歩いて行きましょうか」
こういう時の一条絵梨花の常識的物言いの安定感たるや。
本当に彼女をスカウトしてよかったと心から思う。
という訳で、メイド二人を連れてお出かけとなった。占い師一門のビルだから占い屋でもやっているのかと期待していたのだが、普通のオフィスビルだったのでちょっとがっかりしたのは内緒だ。
「桂華院瑠奈様ですね。
お待ちしておりました」
アポを入れての訪問なので、向こうの事務員らしい女性が私を待合室に通す。
この時点で橘由香と一条絵梨花は別室でお留守番。
八階建てのビルの一階と二階が事務所で、それより上階は神奈一門の居住エリアとなっているそうな。
このクラスの占い師ともなると、向こうからオファーが来て相手の家に行くという事が前提になる。
また、ここの一門は女性しか占い師にしないという特徴があり、そっち系の依頼も多くあるという。
神奈一門を率いる神奈世羅は占い師としての才能もあるがそっち系の才もあり、祖父桂華院彦麻呂の妾としてここまでの隆盛を築いた訳だ。
背後を調査したアンジェラが結果を一言でまとめてくれるとこうなる。
「この方、ハニトラ系のスパイですね」
納得。
見ると、政財界の偉い人に連なる関係者がちらほらと。
祖父と共に日本の闇に君臨し続けた神奈は、それだけ闇の情報をしっかりと握っているという訳だ。
「神奈の占いはよく当たると評判ですからね」
よく問われるのだろう。
事務員の女性が営業スマイルで勝手に答えてくれる。
神奈一門は基本女性しか占い師になれない。
それも、頭領である神奈世羅のスカウトによって孤児から引っ張られてくるので、彼女たちの事を『神奈世羅の娘たち』という。
だから頭領たる神奈世羅への忠誠心が高いのと同時に、この頃の桂華院家の代替わりに加え、バブルの崩壊でパトロン達が受けた打撃が神奈一門にも影響を与えており、一線を退いた神奈世羅の後釜を巡ってお家争いが勃発していたからだ。
(おい。あれ桂華院公爵の……)
(あのクラスが直にやってくるのか)
(急遽スケジュールが狂ったとか言っていたけど、アレが理由かよ……)
聞こえているから。言わないけど。
この手の相談は人に話せない=スキャンダルだからこそまず相談するまでが長く、紹介者の紹介が無いと占えないという形で部外者を排除している。
うちというか、桂華院家はこの神奈一門の後ろ盾になっていた経緯があるから、こういう力業が可能だったというわけだ。
なお、神奈の占い料は『時価』である。
「今日は占ってもらいに来た訳じゃないんだけど」
「あら?
でしたら、うちにどのようなご用事で?」
私の小声を聞き漏らさなかった事務員の女性が確認を取りに来る。
後で知ったが、彼女も神奈一門ではかなり高位の占い師だったらしい。
「中等部に来る神奈水樹さん。
その顔を見ておこうと思って」
「ああ。
そっちの件ですか。
だから師匠が全部の予定をキャンセルした訳ですね」
おい。ちょっと待て。
私、そこまで聞いていないぞ。
「だって、水樹ちゃん。
神奈一門の後継者なんですから」
そんな事をさもあっさりとこの事務員さんはおっしゃってくれたのでした。
神保町
この話を書くために神奈の事務所がある場所を決めたけど、歩き回って雰囲気が分かっている神保町に決定。
九段下が隣というのに気づいたのは後からだったりする。