フリーダムトレイン 2019/10/6 投稿
感想や活動報告で盛り上がる鉄道ネタおまけ
フリーダム鉄道。
誰が呼んだかというか米軍だろうこんな名前を付けたのと言われるこの鉄道、サウジアラビアのダンマーム港とアル バディン間を結び、米軍が駐留しているキング・ハリド軍事都市から北上し、イラク国境を超えて伸びる支線で構成されていた。
戦争そのものは多国籍軍が優勢に進めているのだが、それでも手違いがあるのが戦争というもの。
その手違いに多国籍軍司令部は頭を抱えていたが、それとて有利に進めている戦況を覆すほどではない。
「バスラは『シーア派住民の保護』を名目にイラン軍の革命防衛隊が完全に抑えたらしい。
街外れで英軍と自衛隊とイラン軍が対峙して動けない」
「北部のクルド人自治州が独立宣言を出したのはいいが、トルコ政府が態度を硬化させている。
内部のクルド人が呼応する動きがあるそうだ」
「イラクの奴ら首都に戦力を集め始めたらしいぞ。
こちらの占領地にゲリラ戦を指示しているらしい」
「後がないのは分かっているからな。
クルド人の蜂起にイラン軍がイラク南部のチグリス川北岸を制圧しつつある今、イラク首脳部は支持基盤のスンニ派支配地区の防衛以外は割り切った腹なんだろうよ」
線路は伸びる。いや、伸ばされる。
彼のドクトリンとは真逆のこの鉄道について国防長官は懐疑的だが、現場の将軍たちはこの線路の延伸を支持した。
戦場ではよくある光景だが、政治の要求が戦線を押し上げ移動に兵站が追いつかず、大国米国とも言えども破綻しかかっていたのである。
おまけに、介入したイラン軍への警戒のために日英軍が釘付けにされた上に、首都に近付けば近付くほどイラク軍の抵抗が増えていた。
早急な後詰めを、安定した兵站線を最前線は要求していたのである。
このフリーダム鉄道は24時間のフルシフトで伸ばされていた。
そして、伸ばされた先からトラックが最前線に向かってゆく。
「ありがたいと言えばありがたいが、何処にあったんだ?こいつ?」
「ロシア鉄道軍のお古だそうだ。
アカマツショウジだっけ?
それが買い付けて来て用意していたんだと。
こうなる事を読んでいたんだろうよ。
でなければ、ここにPMCを3万も用意する訳無いだろうが」
この戦争において、PMCの存在は外す事はできない。
お古とはいえ旧北日本製のT-72を主力とする機械化部隊を持ってきた上に、元軍人の日本人とロシア人で編成されたPMC混成部隊は、当然のように米軍のダミー会社に買収されて占領地の警備に就いていた。
日本政府の裏支援と言われているが、そのお膳立てをしたのが当時まだ小学生だった少女だなんて話はこの前線の彼らが知る訳もなく。
その少女が総理に叱られて引っ込まなければ、彼らだけで10万を用意するつもりだったなんて想像も付かないだろう。
「で、こいつか」
北日本出身傭兵の一人がロシア製の車体を叩く。
金属の音を聞きながら、相方のロシア人傭兵がその由来を話す。
原油を始めとした資源高によってロシア経済は回復基調にあるが、そうは言っても金融危機があったのは98年、わずか5年ほど前である。国内の雇用は十分な水準とは言えず、国外に働き口を求める層は未だ多い。
そして、ソ連崩壊から10年以上が過ぎた今、ソ連しか知らないロートル兵たちにとって、慣れ親しんだ兵器が揃うこの戦場はあつらえ向きの稼ぎ場所だ。それゆえ彼らは、かつての対立国に傭兵として志願したという訳だ。
それは、日本に併合された北日本こと樺太でも同じだった。
「こいつは元々核ミサイル搭載列車で、だからこそ装甲列車に等しい武装と装甲を用意している。
専属の工兵部隊も乗り、修理機材も乗せているからゲリラ相手の攻撃ならどうとでもなる。
俺らの爺様世代がナチ相手に戦った時、この鉄道を巡って色々あったからこの手のノウハウはあってな。
という訳で、引っ張り出されてきたって訳だ」
「けど、ゲリラにとって格好の的だろう?
これ?」
「そりゃそうだ。
ある意味それが狙いでもあるんだ。
ゲリラだって戦力は無尽蔵じゃない。
こいつを破壊する為にはそれ相応の準備がいる」
話しているロシア人傭兵が空を見上げる。
ラジコンみたいな飛行機が呑気な音を立てて彼らの上空を飛んでいた。
「アフガンで使用されだした無人機だ。
あれが常に線路を偵察している。
それだけじゃない。
偵察用のヘリもハインドが二機体制で飛ぶし、監視用の衛星も見張っているから、仕掛けるにも多大な準備が掛かる。
そうして準備に手間が掛かるほど、こちらも察知しやすくなる」
「あー。
飛んで火に入る夏の虫な訳だ」
「なんだそりゃ?」
「日本のことわざだよ」
開戦については核まで撃てよという最強硬派に属していたこのお嬢様、軍事作戦においては彼らと違い堅実な手を好んでいた。
兵站を整え、戦力を整えた陣地を用意し、敵に攻撃を強要する事で戦力の消耗を狙う。
3/4ロシア人なので、血がそのドクトリンを選択させるのは必然なのかも知れない。
だから、ネオコン派閥と見られているくせに国防総省というか現場の将軍たちの受けがすごく良い。
そんなお嬢様の残したものは十全に機能していた。
「ほら!
サボるんじゃないよ!
今日はカレーなんだからしっかりと見張る!!」
慌てて敬礼して工事現場を見張る傭兵に一喝して、女将校はため息をつく。
ソマリア・アフガンと戦場を歩いて、最後という事でこのイラクまで来た。
少なくとも前の雇い主はそれにきちんと報いた。
多額の報酬に家族を含めた全員の日本国籍付与と、子どもたちへの高等教育機関への推薦。
もちろん、それ相応の頭が無いといけない訳だが、自慢の娘たちはちゃんと優秀な成績を残してその推薦を受け取れたらしい。
現在は米軍指揮下で働くことになっているが、半年もすれば契約は終わり家族の元へ帰れるだろう。
そのためにも、こんな砂漠の真ん中で死ぬ気はさらさらなかった。
「少佐。
ちょっと困ったことが」
「なんだい?」
大尉で退役した彼女も、戦場を渡って少佐と呼ばれるようになった。
大隊規模に膨れ上がった傭兵部隊の最古参指揮官だった事で傭兵の間で少佐と呼ばれるようになり、その傭兵大隊が正規に組み込まれた際に野戦任官されたのだ。
そうしないと、多国籍軍故に色々問題になることが目に見えていたし、今は離れたお嬢様は彼ら傭兵を使い捨てることがないように最後まで手を打っていた。
彼女がそれを知ることはないが。
「その飯の件でして。
他所の連中が『俺も食わせろ』と。
移動する予定の米軍連中なので、相談を」
「カレーだからってあいつら……」
アフガンで微笑ましい騒動を引き起こしたカレーとカップ麺だが、それが米軍全体に行き届くには米軍という組織は大きすぎた。
何しろワシントンで戦争を主導したネオコン連中は、ハイテク兵器を用いて寡兵でイラクを制圧することを目論んでいたので、この手の増援すら嫌がったのである。
湾岸戦争時60万も集めた兵力に対して、今回は30万。
それで勝てるという判断はよしとするが、占領後撤退するつもりだったので最低限の戦力しか用意しておらず、現場からは罵倒の嵐がワシントンに向けられていた。
挙句に、戦後のプランがこの時点でまだ白紙に近く、占領後に発生した治安悪化とゲリラの蜂起に対して、戦争から追い出されたイスラエル系シンクタンクの提案した核容認ジェノサイドプランが有力案になったというのは皮肉以外の何物でもなかった。
「いいよ。
食べさせてあげな。
貸しにするって米軍の上に言っておくように」
「了解」
「……まぁ、これがありゃ、いくらでも運べるしね」
事実、バーレーンに巨大ロジスティクスターミナルがあり、この鉄道で前線まで運べるならば問題はないのだ。
その物量を米軍は有しており、その下準備をお嬢様は完璧に済ませていた。
それをこの少佐は知らない。
フリーダム鉄道。
この鉄道の真価はイラク戦後に発揮される。
イラクのナシリアを経由しサマワまで伸ばされたこの鉄道の支線はイラク南部のゲリラの最重要目標になるが、それへの攻撃の激化に伴い他の治安が改善傾向に向かったのだ。
そして、装甲列車を始めとした防御策によってその運行に遅延はあれど中断する事はついになく、混沌とするイラクにおいて数少ない希望と称されることになった。
その功績を本当に受取るべき人物は、ついに表に出ることはないのだが。
戦略目標を提示して、そこを強力な防御陣地で囲み、敵に攻撃を強要させる。
まんまクルスクの戦いだなと書いて気づいた。
無人機
RQ-1 プレデター
このあたりから本格的にドローンが戦場に参加しだす。
サウジの石油施設に対するドローン攻撃を見ると、現在規模のドローン技術だとこの戦略が崩壊するかもしれんなぁ……
お嬢様の立ち位置
話がわかるネオコン。
そりゃ引っ込められるし将軍たちも安堵はしたが、下準備の完璧さに『戻ってきてくれ』と言えないジレンマ。
カレーとカップ麺
もちろん削ったのはネオコン連中。
このあたりも現場の将軍たちから罵倒されたとかなんとか。
戦後プランがほぼ白紙
嘘だと思うだろう?
ネオコン連中、イラク首脳部を叩いて撤退する事しか考えていなかったから、撤退しやすいように少ない戦力でという頭があったらしい。
大量の兵の駐屯がかえって存在理由に転ずる、大日本帝国の満州然り、ベトナム然りだから言うことに一理はある。
その結果、ごらんの有様だよになったわけだが。
嘘だと言ってほしかった……(遠い目をしながら)
少佐の娘さん
多分九段下のメイドカフェで働いているんじゃないかなぁ……
高校時の側近団拡張人員の一人にしておこう。