神戸教授の恋住総理評 その2
オフ会で受けた私の発言たち
「野党は現場が無いが、与党は現場しか無い」
「安倍総理がトランプ大統領と仲が良いのは当然だろう。
だって、あの人、小泉元総理の下で働いたんだぞ」
「思ったのですが、野党と組んで恋住総理を倒すというのは駄目なのですか?」
一条絵梨花の空気を読まない発言に私は苦笑する。
実際、この冬に野党の再編が発生し、友愛民主連合、略して友民連が誕生し、源議員が代表に就き『政権交代可能な野党ができた』とマスコミが盛んに煽っていた。
かつての野党連合政権の成立よろしく、与党立憲政友党の党内派閥を煽って分裂させて政権奪取というのもできない話ではない。
もっとも、校内生徒会選挙でわざわざこっちに歯向かってきた源貫太郎くんの父親の事は前世でよく思い知っているからこそ、私はまったく組む気は無かったのだが。
私は野党がどれほど使えないかを知っているが、神戸教授はどう返事をするのだろうと興味を持ったのだ。
彼の解答は、私を満足させるものだった。
「そうだね。
泉川副総理の派閥と野党が組んでというプランも無いわけではないが、お勧めしないね。
与党が『政治家・官僚・財界』というトライアングルを持っているように、野党側もトライアングルを持っている。
これが本来与党政治家にとってすごく相性が悪いのさ」
「何なんです?それは?」
一条絵梨花の言葉に神戸教授はホワイトボードに三角形を書いてその言葉を刻んだ。
そして、呪文のように、その三角形を口にする。
「『政治家・マスコミ・アジテーター』の三つさ。
野党の政治プロセスは、アジテーターが騒ぎ、それをマスコミが拡大させ、最後は政治家が問題化させて与党に解決を押し付けることによって成り立っている。
それを可能にしたのが……」
神戸教授はゼミ室に据え付けられていた四角い箱をぽんと叩く。
この時代はビデオと一緒に付いていたその四角い箱の正体をテレビと言った。
「テレビという訳だ。
つまり、野党のお仕事というのは基本政治家でもなく、政治屋ですらない、国会という舞台での役者という所かな」
そういえば、神戸教授はTVのコメンテーターとしても活躍していたな。
つまり、彼はその三角形の中で、アジテーターの位置にいると自覚しているわけだ。
だからこそ、こんな辛辣な意見が言えてしまう。
自分に害が無いからこそ、客観的にかつ無責任になれるのだ。
「野党もそんな人達ばかりではないですよ。
事実、金融国会の時は、野党案を与党が丸呑みしたりしたじゃないですか。
かつての野党連合政権やその後の三党連立政権でも、今の野党政治家が活躍したと記憶していますが?」
私はわざと神戸教授に誘い水を向ける。
神戸教授は私の誘い水に乗った。
「しかし、それは彼らを支持する有権者にとても受けが悪かった。
政治とは妥協の芸術だ。
妥協するという事は、面白くないという事なのだよ。
それならば、面白いほうがテレビ受けするだろう?」
この四角い箱の中で繰り広げられた『政治』というコンテンツは、それゆえに虚構として国民に認識されてしまった。
このコンテンツが現実として己の身に降りかかるまで約十年ほど待たねばならないが、それはそれで幸せなのだろう。
私は微笑んで、神戸教授に意地悪な質問をする。
「ですが、そんな演技を与党の先生が派手におやりになっているじゃないですか」
神戸教授は私の質問を理解している。
その上で、彼があの人をどう評価しようとしているか聞きたいと分かっているからこそ、神戸教授は最高級の賛辞を彼に与えた。
「恋住総理。
君の考えているとおり、あの人は今世紀最高級の『俳優』だよ」
その評価にやっぱりと納得する私が居た。
かつて、泉川副総理は恋住総理の事をこう評価した。
「生粋の派閥政治家」
と。
天が二物を与えた例なのだろうが、両方ともトップクラスだからこそ、テレビには『俳優』恋住総理しか映らない。
彼の主演ドラマに、国民は酔っていた。
「総理の基本政策は結構簡単でね。
『都市偏重・緊縮財政・対米重視』。
これ、なんだか分かるかい?」
「総理の宿敵である端爪派の真逆の政策ですよね。
『地方バラマキ・拡大財政・大陸重視』。
与党内の派閥争いを劇場で隠しているとも言えますが」
「そう。
桂華院君。
君が背負っている政策でもある」
スタートが山形の酒田で、金融危機対処から北海道に地盤を築き、鉄道事業やデパートやスーパーで地方経済に関与している桂華グループ。
その維持発展は必然的に地方に金をばらまき、拡大財政を取らざるを得ない。
私は自然に己の金髪を触る。
あの大陸国家であるロシアは生まれから否応なくついて回るわけで。
日米同盟堅持は基本方針として、私も大陸の呪縛からは離れられない。
私は、己の政治的立ち位置が端爪派に近いと、ここで認識させられたのである。
そりゃ、渕上元総理と仲良くなれた訳だ。私は。
「国民は、いや、テレビは、君と総理の対決を待っている。
そしてどちらかが勝ったり負けたりする様を娯楽として消費するだろう。
ドラマが終われば、次のドラマが始まるようにね。
どうするかな?
君が決意をするのならば、総理は喜んでこのテレビという虚構の中でダンスを申し込むよ」
「その虚構のために、親兄弟を切り捨てろとおっしゃるわけですね。
お断りです」
私の即答に神戸教授が満足そうに頷く。
多分、話に乗ってもこの人は今のように満足そうに頷いたのだろうなぁ。
「いいね。
権力とは基本孤独なものだ。
というか、孤独でないと権力は取り扱えない。
この国の最高権力者の一人である内閣総理大臣が申し込むダンスなのだから、それ相応の資格がいる。
親兄弟どころか、友人や恋人まで切り捨ててその権力を食らい尽くさないと、踊るどころかコケて恥をかくよ」
「恥をかくならまだ良いもの。
笑われた時に、それを耐えるのは一人でないといけない」
神戸教授が真顔で諭す。
こういう時に大人の顔をされると、私は何も言い返せない。
「桂華院くん。
君は君自身の幸せについて、もう少し考えてもいいのだよ。
いや、はっきりと言おう。
この国の幸せより、君自身の幸せを目指すべきだとね」
神戸教授の言葉が、面持ちが真摯だからこそ、私は何も言い返せない。
私は良い人たちに出会えた。
そして、そんな人達を裏切り続けているのだと自覚する。
「この国は一応民主主義国家だ。
という事は、この国の責任は、我々国民全員が分かち合うものだ。
一人の天才によって救われるものではないのだよ」
横で聞いていた一条絵梨花が唖然とし、私がジト目で茶化す。
真摯なアドバイスであることは間違いがない。
何しろ、神戸教授の常日頃の主張を裏切っているのだから。
「天才学を主張する神戸教授らしからぬ発言ですよ。それ」
「そうでもない。
同じ時代に天才役者が二人出て、舞台は一つしか無い。
主役は一人である以上、どちらかが悪役に回る。
つまる所、そういう話な訳だよ。
桂華院くん。
君は、あまりにも早く出過ぎた。
君が主演の舞台はこれから先、必ず上演されるだろう。
その上でこの舞台に上がるのかい?」
「上がりませんよ。私は。
教授も忘れているようですけど、私、まだ小学生ですよ?」
私がぼやき、神戸教授と一条絵梨花も笑う。
今日の話はそれでお開きとなった。
「珍しいね。
瑠奈が九段下ではなく、こっちの屋敷に顔を出すなんて」
その日の夜。
桂華院家本邸に顔を出した私は、清麻呂義父様に面会する。
久しぶりに会いに来た私を見て嬉しそうな清麻呂義父様に、私は神戸教授との話をかいつまんで話す。
「神戸教授とお話してきました。
恋住総理と対決したいならば、お義父様とお兄様を切り捨てて桂華院家を継げとおっしゃいましたわ。
お断りしましたけど」
「……瑠奈。
やっと君は足りたのかい?」
私の爆弾発言に驚くわけでもなく、怒るわけでもない清麻呂義父様の顔に映る感情は安堵だった。
それを見て、よほど私が恋住総理とガチバトルをするのだと皆が思っていたと悟る。
そんな事を思いながら、私は本心を清麻呂義父様に告げた。
「足りてはいませんが、時代に逆らいたくはないという事ですよ」
時代は、私ではなく恋住総理を選んでいる。
それだけは確信して言える私が居た。
友民連
最初は民友連にしようと思って確認のためググったら『民主友愛太陽国民連合』が出てきた。
あったなぁ……そんなの……
源代表
なお、現実では2002年冬に鳩山代表から菅代表に変わっている。
自由党小沢代表は保守党分裂に伴って力を失っており、支持率が低かった小泉政権が北朝鮮訪問で支持率を回復させる間、野党側は与野党のスキャダルと議員辞職の嵐で政界再編の仕掛けができなかったという幸運もあった。
政治屋
本来蔑称なのだが、私は我が党政権からこの言葉がいかに優れているかを力説している。
だって、国や自治体から利権を吸い取れる頭と手腕を持っているんだぞ。彼ら。
それすらできなかった我が党政権ェ……
ウケが悪い
これはその手の集会に顔をだすと今でもガチで言われたりする。
野党支持者の中核がこの手の妥協を我慢できない理想主義者が担っていた事で、野党のというか小沢さんの現実回帰の動きがことごとく挫折したのは歴史の通り。
で、2009年に正義を行使した結果、誰も幸せになりませんでしたとさ。
『俳優』総理
私はあの人をTVが生んだ化物と考えている。
民主党政権はそういう意味でも、小泉政権の正当な後継者だった事は否定しない。
だが、天才俳優の演技を三流役者が真似をしたというよりも、派閥政治家『小泉純一郎』を民主党側は小沢さんしか理解できなかった所に、民主党政権の悲劇があると思っている。
時代が総理を選んでいる
丹念にこの時期の動きを追っかけると、総理は北朝鮮訪問での支持率回復という神風が吹く前に、およそ党内のライバルの排除に成功していたりする。
特に総理のライバルに成り得た田中議員と加藤議員の失脚は党内基盤の確立に繋がり、10月の内閣改造と補選の勝利でその基盤が盤石になったのは大きい。
そういえば似たような台詞を思い出した。
『地球へ』(竹宮惠子 中公文庫コミック)のキース・アニアンだったかな。
「時代がミュウに味方している」
というあの言葉は、何をやっても勝てなくなった地球側の絶望感を現していて本当に好きだった。
もちろん、キース・アニアンはこの作者の超大好きなキャラである。
あの作品のメリーバッドエンドみたいにはするつもりはないのでご安心を。