会計印 書記印 副会長印 会長印
初等部生徒会室は結構な広さがあり、それ相応の権勢が味わえる作りになっている。
かといって、できることは思ったより少ない。
これは、中等部・高等部と一貫して生徒会及び委員会が続くからで、初等部生徒会の事を『下請けどころか孫請け』と言う見解はある意味正鵠を射ている。
「なってみたが、なっただけだったなぁ」
栄一くんのこの言葉が全てを物語っていた。
もちろんカルテットの面々で改善したり効率化できた事はあるし、それは誇ってもいい事だと思う。
だが、それは私達カルテットの個人スキルの賜物であり、システムの改革ではなかった。
その結果、次の生徒会では元に戻る事が分かってしまうのも私を含めたカルテットの全員が理解していた。
「政治ってそんなものだよ。
父さんがぼやいていたな。
『何かを成すためには、まず当選し続けないと何もできない』って」
「下積みとしては悪くない仕組みだが、問題はこの経験を活かせるのが三年後という所だな」
裕次郎くんが苦笑すると、光也くんが突っ込む。
来年からは中等部に上がる訳で、中等部の一年生が中等部の生徒会になるのは相当難しい。
できなくもないが、大体飛び越される学年の連中をまとめて敵に回す。
政治というのは、いかに味方を増やし、敵を減らすかというゲームでもあるのだ。
「実際、俺達要るのか?」
ある意味先が見え過ぎる栄一くんがその根本的疑問を呈したので、私が突っ込んであげた。
「何か文句を言う場合、高等部のお兄さんお姉さんを相手にしなくて済む」
「……。
瑠奈。あまりメリットに思えないが?」
「そりゃ私達、会社の経営者として大人を顎で使っているじゃない。
年が一つ違うだけでものすごく高い壁があるなんて気持ち、わからないでしょう?」
「桂華院は時々、まるで過去に見たかのようにそういう事を語るよな?」
「そうかしら?
ほら。
こんなナリのお嬢様だから、相手の気持に沿って生きようと努力しているのです」
「そこでお嬢様と言い切るのが桂華院さんらしいというか」
雑談をしながらも仕事はする。
栄一くんは書類を見ながら判子をペッタンと押し、裕次郎くんは書記として議事録を作成しつつ確認している。
会計の光也くんは持ち込んだ大きなノートパソコンの表計算ソフトを使って予算の配分とその消費を確認中。
私は私でやってくる生徒相手の陳情やアポイントの処理などで壁の予定表に日程を書き書き。
もちろん、予定表は二ヶ月書けるものなのは言うまでもない。
「なるほどな。
ここ最近続いていた政権の短期交代にもそれ相応の意味があった訳だ。
大臣の椅子に座れる人間が増えるからな。
システムが強固ならば、それを運用する官僚がまともならばどうとでもなる」
栄一くんが判子を押し終わってぼやく。
政治が混乱というか、総理の顔が一年交代なんて荒業でも国が持っていた理由はそこにあった。
もちろん、それで持たなかったからこそ光也くんが続きを口にした。
「で、政治が責任を官僚に押し付けた結果、官僚の力が肥大化してシステムとしての官僚の腐敗が始まった。
『権力は腐敗する』いい言葉だよ」
「本来、それを是正し政と官に金と人材を送り込んでいた財閥もバブル崩壊でそれどころではないと。
システムのメンテナンスは必要なんだよ。
ただ、だれもそれを面倒だからとしないだけでこの有様という訳だね」
裕次郎くんのツッコミに私がオチを付ける。
そういう会話から現実の生徒会にどう着地するかは見えてきた。
「じゃあ、せめて後輩たちのためにメンテナンスマニュアルぐらいは作ってあげましょうよ。
どこかの銀行みたいにシステムダウンして非難轟々になっても、私達みたいなバックアップがある訳じゃないんだから」
私のオチに乾いた笑いをあげる三人。
私達の会社に多大な利益を提供してくれていた某銀行のシステムトラブルは、桂華電機連合のシステム撤退によって作りやすくはなっているはずなのだが、だったら最新式にと欲張って計画段階でめでたく大炎上していた。
既に燃えているからって放置して新しい家の設計図を考えるその姿勢はどうかなと私は思っていたが、もはや他人事なので遠くからお祈りするだけである。
「で、マニュアルってどこから手を付ける?」
「とりあえず金の流れだろう。
ここは表計算ソフトで可視化できるから、パソコンを使えるならば楽に分かるだろうよ」
「光也くん。
後輩がパソコンを使えなかった場合は?」
「苦労しろとしか言えんだろう。
この椅子に座るサル山の大将は、いずれは日本の中枢で活躍したいと思っているから座るのだろう?
だったら、それ相応のスキルを身に付けろという訳だ」
「……で、現在のサル山大将のご感想は?」
「そこで俺に振るかよ?瑠奈。
予算配分の表計算ソフト使用は初等部生徒会名義で、各委員会に通達しておく。
中等部や高等部の上級生ならば、それの意味が分かってくれると信じているさ」
全く信じてない顔で栄一くんが言い放つ。
私達が特殊なだけであって、このあたりはぶっちゃけると中等部から先は学校に入ってくるお付きの人にぶん投げてしまえばいいのだ。
そう考えるとこの生徒会室の広さもある意味納得できる。
人を使わないと組織は回らない。
ここに来る人間は人を使うことを前提とする人たちなのだから。
「僕の方は、議事録の作成方法かな。
このレコーダーは便利だから、予算で購入して置いておくことにするよ」
裕次郎くんは穏やかな声と共に私物のカセットレコーダーとマイクをこんと叩く。
忘れそうになるが、私達はまだ小学生であり、小学生の会議なんて話が混線脱線なんてとてもよくあるのだ。
裕次郎くんはそれを武器に録音を宣言して、言った言わないを明確化させて会議の円滑化に努めたのである。
そのため録音は常に2つ録り、一つは常に録音し続けて、もう一つはその場で巻き戻しての確認。
おしゃべりと混線脱線が無くなったのは良いことだろう。
「じゃあ私はホワイトボードの予定表を年単位に更新するわ。
立憲政友党の部屋で見たんだけど、あれ一目で便利だってわかったもの!」
壁一面に貼られたカレンダーによって、部屋の人間はいやでもスケジュールが分かるというスグレモノである。
「パソコンのスケジュールソフトでよくね?」とも思ったが、こういう長期の可視化はアナログな分野の方が強いと思い知った。
たしかこれは一条も言っていたな。
「あれ?
じゃあ、俺は何をすればいいんだ?」
栄一くんの疑問の声に、私達三人は即座に行動に出る。
光也くんがレコーダーとマイクとノートパソコンとホワイトボード予定表数枚の予算を出して裕次郎くんに送り、裕次郎くんがそれを持って稟議書を作成する。
光也くんと裕次郎くんと私が判子を押した上で、私がその稟議書を栄一くんの前に差し出した。
「決まっているじゃない。
判子を押してちょうだい♪」
ドアがノックされて、天音澪ちゃんが入ってくる。
書類を持っているから、遊びにという訳ではないみたいだ。
「失礼します。
瑠奈お姉さま。
クラス委員として要望がありまして……って、何かやっておられましたか?」
栄一くんが苦笑しながら判子を押した稟議書を持ったまま私は楽しそうに笑ってそれを告げた。
「私達の代から、澪ちゃんたちの代へちょっとしたプレゼントを作っていた所よ」
大きなノートパソコン
まだ持ち運ぶのに重たいのだが、CD搭載モデルが安くなりだしてすごく欲しかった覚えがある。
結局、長く使えるからデスクトップにした訳だが。
権力は腐敗する
英国の歴史家ジョン・アクトンの言葉。
更に続きがあって正しくは、
『権力は腐敗する、絶対的権力は絶対に腐敗する』
である。
絶対的権力者である瑠奈達がこの毒でやられないようにというのもこの物語のテーマだったりする。
そうなると、なろうで受ける俺つえーから確定で外れる所が悩みどころなのだが……
年単位のカレンダー
これ、ですがスレだったか、我が党スレに出ていたネタの一つ。
参議院で敗北して法案を衆議院の優越で通す場合、予算は30日、法案は60日のタイムロスが発生する。
その為国会の会期と睨んで予算と法案を作らないといけないので、ラ党国対委員長室には壁一面にカレンダーが貼られていたという。
で、我が党が政権をとって翌年の参議院選挙で大敗した後、我が党国対委員長室には卓上カレンダーしか置いていなかったそうな。
ソース不明瞭なネタだが、その後の我が党の国会運営の杜撰さを見るに、ありそうだなとその時思った覚えが。
カセットテープレコーダー
まだこの時現役なのは、カセット録音で音質を気にしなければ、最長150分録音なんてのができるというのが大きい。
会議や生徒総会なんかは二時間構成の所が多いので、これをテープ一本で手軽に安く録音できるのは本当にありがたかった覚えがある。
稟議書
「稟議書って何ですか?」
「Lineの連絡網に既読をつけるのと似ているかな」
という会話を聞いて衝撃を受けて、『よし!ネタにしよう!!』を書いたのがこれである。