生徒会のお仕事 その4 2019/5/17 投稿
この手の問題解決に際して、目的の可視化というのが大事である。
という訳で、ホワイトボードに『中等部からの花壇権限の回復』と書いて、栄一くんに注意される。
「瑠奈。
そこ違うぞ。
『花壇が使えること』でいい」
「それだと、中等部美化委員会に申請に行っておしまいじゃないの?」
「ああ。
俺たちが苦労して終わるなら、それでいいんだよ。
そのための生徒会だしな」
私の確認に栄一くんがあっさりと頷く。
あ。そうか。
中等部美化委員会への面倒な申請を初等部生徒会が代行しても問題がない訳だ。
そっちの方が問題解決早そうだななんて思いながらホワイトボードにこんな感じで書く。
目的 『花壇が使えること』<<中等部美化委員会への申請<<初等部生徒会が申請代行
「なるほど。
たしかにやらないといけない事がはっきりしたな」
光也くんの言葉に裕次郎くんがいやな顔をする。
探り出したことを前提にすると、こんな事を言わざるをえなかったのだ。
「けど、中等部美化委員会がすんなり許可を出すかな?
花壇水増しの証拠になるからとぼけられないかな?」
「泉川。
そこはとぼけられた方がいいんだ」
そう言って光也くんが笑う。
悪巧みの笑みが実に似合うと言いたいが黙っておこう。
「中等部美化委員会がこの花壇の許可を出せばこちらは何もしなくていい。
けど、不許可理由は『存在しない』とは答えないだろう。
多分、適当な理由で不許可にするはすだ。
それを以て、中等部美化委員会に不許可理由を初等部生徒会として尋ねればいい」
そこまで言って、光也くんはため息をつく。
この流れだと初等部生徒会と中等部生徒会及び美化委員会の全面戦争になるからだ。
一貫教育の厄介な所は、付き合いが長く続く所にある。
花壇一つで、中等部のOB・OG相手に喧嘩を売るというのはという訳で。
「全面戦争になるな」
「ああ」
栄一くんの確認に光也くんが頷く。
もちろん、代替案も用意しているのがこの面子。
「で、それを避けるには?」
「簡単な話だ。
桂華院。
花壇を新設してしまえばいい」
「?」
首をかしげる私に、光也くんがその理由を告げる。
考えてみれば盲点だったそれを。
「あの場所が初等部の敷地なのは間違いがないだろう?」
光也くんの確認に裕次郎くんが頷く。
この話の前に、事務局に行って初等部の敷地確認をしていたのだ。
お役所との仕事はたらい回しと揶揄されるが、きちんと進めるならば詰め将棋と考えた方が分かりやすい。
たらい回しで逃げられないように、詰め駒をどれだけ確保できたかが大事なのだ。
「初等部の敷地は初等部生徒会の管轄だ。
花壇のある場所を初等部美化委員会に申請を出させて、それを初等部生徒会が承認する。
これで、花壇については問題解決だ」
この話はつまる所花壇の責任を誰が持つかという話なのだ。
水増ししているから管理ができず、管理ができないから荒れさせる。
それで何か言われても、責任は初等部生徒会が持つならば、中等部側も文句は言わない。
「それでも妙に動いた俺達への害意は残るがどうする?」
栄一くんは楽しそうに尋ねる。
どっちに転んでも責任は取るつもりなので、実際楽しいのだろう。
自身を含めた私達が考えて何かをするという事が。
「だから、俺達は悪くないという免罪符を用意する。
泉川。
たしか理科の授業で植物の育成の課題があったろ?
理科の先生に頼んで、課題として花壇を使うという言質をもらってきてくれ。
帝亜は、泉川の言質を名目に、その花壇に置くプランターと土を生物部から借りてきてくれ。
授業の一環で花を育てる。
もちろんそれは見える所にあるのが望ましいという訳だ」
問答無用の授業の一環という切り札。
なまじ、裏工作をしているから正当事由で押し切ろうという訳だ。
「何でプランターなんだ?
その場所の花壇を使えばいいだろう?」
栄一くんの確認に、光也くんは少し視線をそらしながらそれを言う。
なるほど。
ここまで考えている訳だ。
「動かせるからに決まっているだろう。
理科の授業で『なにもない場所』にプランターを置きました。
中等部は介入すらできない。
介入しても問題ない場所にずらせばそれ以上は文句を言わんよ。
バレると困るのは向こうだからな」
これで処理そのものは見通しがたった。
あとは中等部側のリアクション待ちなのだが、私は念の為の手を口にする。
「じゃあ、私は中等部側の手を封じる保険を掛けてくるわ」
「やりすぎるなよ」
という栄一くんの声が男子三人の私の評価だと分かって憮然とするが、やりすぎないように保険を掛ける為のお手紙を書くことで返事を拒否することにした。
「こういうのは大歓迎よ。桂華院さん」
「いえいえ。
中等部でのご活躍はこちらにも聞こえていますので。リディア先輩」
帝都学習館学園中央図書館の人気のない本棚を挟んで、リディア先輩と私は本を立ち読みしているふりをしての密談中。
かつての樺太はガチの密告社会だったので、この手のやり取りは上流階級の作法みたいなものとは聞いていたが、スパイ映画さながらのやり取りに興奮しなかったと言えば嘘になる。
この秘密は私達がばらしても制度的には中等部に介入できない。
じゃあ、中等部クラス委員であるリディア先輩がそれをバラせば、途端に容赦ない政局の武器になる。
樺太出身という新興派閥で常に逆風の中を歩いているリディア先輩なら、周囲の配慮より相互確証破壊の武器としてうまく使ってくれるだろう。
もちろん、中等部生徒会や美化委員会が何か言ってきたらリディア先輩経由でこれが炸裂するのは言うまでもない。
「けど良いの?
無事に終わったのでしょう?」
万一を考えてロシア語でのお話な上、決定的なワードを出さないあたりガチである。
こっちもロシア語習得したので困りはしないのだが、ちゃんとこっちの状況を把握しているからこの人はやり手なのだ。
とはいえ、リディア先輩一人ではクラス委員までが限界なのは彼女自身がよく分かっている。
結局、初手の初等部生徒会の申請が中等部美化委員会で承認されてしまい、今までの苦労は何だったのかというお役所仕事あるあるで終わってしまった。
とはいえ、後でいちゃもんを付けられないように、花壇を利用するのではなくプランターを置き、理科の授業の一環という体裁を整えておくのは忘れない。
リディア先輩とのお話も、そんな保険の一つである。
「構いませんよ。
察していると思いますが、リディア先輩が自由に動けば動くほど、後輩の私は動きやすくなりますので」
私も多分同じなのだろう。
一人で頑張って、空回りして、それでもあの三人と共にと思いながら、最後その三人と決別して。
何かを成し遂げたいのならば、一人ではなくみんなで。
私はこの世界に生まれて、やっとそれを学んだ。
「いい性格しているわ。
貴方、肖像画の前の椅子に座れるわよ」
社会主義国ジョークで、党の書記長の椅子の後ろに自身もしくは建国の英雄の肖像画がある事から、偉くなることを指して肖像画の前の椅子に座ると言うらしい。
なお、互いに本を読んでいるふりなので本棚に向かってポソポソ呟いている感じになっている。
「どうせバラす気無いのでしょう?」
「ええ」
「バラされたら困るからこその武器でしょう?これ?
桂華院さんのそういう所、私大嫌いよ」
「それをストレートに私に言ってくれる、リディア先輩のそういう所、私大好きですよ」
「……ありがとうね」
パタンと本が閉じる音がして、私の耳に去ってゆく足音が聞こえる。
私も本を閉じて教室に戻ろうとすると、ちょうどそのプランターの置かれている花壇に明日香さんと蛍さんが花を植えていた。
「おーーい!
見てよ!!
この花!
綺麗でしょ♪」
育てるのは多年草で育てやすいやつで、種類も多いあの花である。
ジャージ姿の明日香さんと蛍さんが楽しそうにその花を見せてくれた。
「全部同じ花だから、色で適当に選んできたのよ」
差し出された花からゼラニウムの良い香りがした。
このプランターはカルテット・明日香さん・蛍さん等で管理し続け、常に花が咲いて良い香りを教室に届ける事になる。
肖像画の前の椅子に座る
創作ジョークだが、社会主義国の場合党の書記長の肖像や建国の英雄の肖像の前に時の権力者が写るプロパガンダが多い。
なお、政権が交代するとその肖像も変わる。