香具師と映画監督 2019/3/31 移動
「だからよー。
俺に彼女を使って映画を作らせろって言ってんだよ!
それを何だあのスポンサーどもめ。
NG出しやがってよぉ」
世界には映画監督と呼ばれる人種が居るには居る。
そんな一人の著名な映画監督が馴染みの香具師相手に酒を飲みくだを巻いていた。
「分かる!
分かるんだよ!!
その気持ちは!!!
俺だってなぁ、彼女をスターにしようと突貫して散った口よ!!」
「まったく財閥の令嬢が何だってんだ!
あれがそんなものに収まっているわけがねぇだろうが!!」
海外からの評価の高いこの映画監督は、批判もゴシップもあるが彼の手掛けた映画がその全てを帳消しにする。
その映画監督が彼女を見付けたのは、再放送された『帝都護衛官』の特番を見たからに他ならない。
今やこのシリーズはシーズン3まで行く人気番組となっていたが、かたくなにゴールデンへの進出を拒んでTV局と暗闘を続けている事でも有名だった。
「皆、あのお嬢様の容姿や歌声に騙されていると思うが、あんなのは序の口だ。
あのお嬢様、天性の俳優だよ」
都内の屋台も少なくなったが、そんな場末の屋台で大の男二人が酒を飲んでくだを巻いているだけの事。
聞かれても痛くもないし、聞く人間もいない。
「俳優?
そりゃ、ドラマにも出たから出来るだろうよ」
「そんなんじゃねぇ。
あれの凄さがわからんか。
まぁ、それに気付いた連中がどれだけいるかって話だろうがな」
安酒をかっくらって、映画監督は語る。
彼も映画界で鬼才とか天才とか呼ばれている人物だ。
それを見抜けたのはある意味当然と言えよう。
「あれはそもそも、お嬢様。
つまり、公爵令嬢という芝居をずっと続けているんだ。
才能も努力もあっただろうが、生まれて十一年だが二年だが知らんが、その演技を破綻させること無く演じ続けている。
あのお嬢様にとっては、この現実が既に舞台なのさ。
だからこそ惚れた。
あのお嬢様の演技は世界を魅了するぞ」
映画監督が荒れているのは、スポンサーの意向で抜擢した女性タレントがまた演技が下手だった事が挙げられる。
その演技を叱責した結果、女性タレントが降りると言い出し、スポンサーに話が行ってという結果、こうして香具師と飲みに来た訳で。
なお、香具師も映画監督が作る映画が好きだったから、この騒動鎮火の為に一肌脱いでいたりする。
その結果、今はそのお礼の三次会という訳だ。
「とはいってもなぁ。
あの桂華グループの箱入り娘だぞ。
しかも、政財界中枢に影響力を発揮しているなんて噂もある」
「だからどうした!
俺の映画には関係ない!!」
どんとカップをテーブルに叩き付ける映画監督。
あの写真家先生と同類だった。
だからこそ、言っている事が結局同じになる。
「あれは化物だぞ。
何者にもならない、何者にも染まっていない化物だ。
それを永遠に銀幕に記憶させるのは俺の、映画界の義務だろうが!!!」
彼は仕事柄知っていた。
人が天才でいられる時間は短いという事を。
それでも、銀幕の中に映る天才達は時を止めて永遠にその天才を輝かせる事を。
「お前そこそこ伝はあるんだろうが。
なんとかして彼女を引っ張り出せ」
「無茶を言うな。無茶を。
実際突貫して親しくさせてもらってはいるが、映画ともなると彼女のスケジュールは数ヶ月潰れる。
それを桂華グループが許すと思うか?」
金で彼女は動かない。
その金を彼女は十二分に持っているから。
コネで彼女は動かない。
そのコネが彼女を守っているから。
ならば手は一つしか無い。
彼女に出てきてもらうまでだ。
「帝都護衛官シリーズ。
たしか映画化の話があったろ?」
「ああ。
次はシーズン3が終わったら、最後お祭りみたいな形でするとか。
まだ企画段階だぞ」
人気番組の上に桂華グループの全面バックアップがある番組だけに、企画やタイアップもあちこちから来ていたが、そういうものをこの映画監督は嫌っていた。
「それでいい。
その監督に俺を潜り込ませろ」
「…………正気か!?」
「そうしないと彼女が撮れないだろうが!」
また酒をかっくらって映画監督は吐き捨てた。
偽り無い本音を。
「何よりも腹立たしいのは、俺以下の連中が彼女を映像に撮って、彼女を汚すことだ。
あんなものを彼女と後世に残すのは、歴史が認めても俺が認めん!!」
後に、海外の映画賞を獲った有名監督が『帝都護衛官』シリーズの映画化に立候補したと界隈を沸かせる事になる。自身が出演を懇願したというお嬢様が謎の銃術を極めていることに監督が狂喜し、直前に脚本の全面差し替えを行うという大トラブルを引き起こしたが、出来上がった映画は国内外で大ヒットして日本映画史に残る作品となった。
そして、アカデミー助演女優賞に彼女の名前が刻まれるなんて未来をその時の彼女は知らない。
2019/3/31 移動