憑依先の悪役将軍の立ち回りが地獄過ぎる件   作:Mind β

16 / 22
リツちゃん可愛いね…


第15話:スクワッドvs特殊作戦小隊

 

 数時間に渡る戦闘の末、第2小隊は瓦礫の市街を抜け、アリウスの奥地へと進撃していた。

 

 当然、損害は出た。担架に乗せられる仲間のパーツ破損は激しく、その度に残された者の顔は強張った。それでも誰ひとりとして立ち止まらない。止まれば、自分たちが消耗した意味すら消えてしまうからだ。

 

 背後では後続の第4小隊がカタコンベを突破し、必死に追い上げてきている。第1小隊と第3小隊は未だに連絡が付かないが、増援が来ただけマシと言える。

 

 その最中、第2小隊は特に厳重に警備されたコンクリート製の建造物に突入した。

 厚い扉を爆薬で吹き飛ばし、火薬の煙が晴れる間もなく制圧射撃を浴びせる。銃口が四方に散り、暗闇の隅々にまで殺気を注ぎ込む。

 

「クリア!」

 

 響いた報告に、張り詰めた空気が一瞬だけ緩む。

 薄暗い室内の奥には複数の端末、耐火性コンテナ、そして重ねられた書類の山。警備の厚さも納得できる光景だった。

 

 コンソールを操作していた一人の隊員が、画面に浮かび上がった文字列を見て息を呑む。

 

「ゲヘナの……万魔殿?」

 

 そこには確かに、ゲヘナの生徒会組織であるパンデモニウム・ソサエティー(万魔殿)とアリウス分校の間で取り交わされた暗号化文書が保存されていた。そして、その内容はエデン条約調印式の襲撃。

 記録された計画図には、エデン条約の調印式を狙った襲撃のタイムラインと、部隊編成の概要まで克明に記されている。

 

 ぞわりと背筋を撫でる嫌な予感。

 偶然か必然かは分からない。だが、カイザー本社が欲していた交渉の切り札は、ここにあったのだ。

 

「こちら2-5、任務内容の外交証拠の確保に該当する重要物品を発見。回収を要請する」

 

 数秒の沈黙の後、リーダーの落ち着いた声が返った。

 

「こちら2-1、了解。2-3及びは2-4は回収に当たれ」

 

 即座に外部ストレージが接続され、データ転送が始まる。暗号化処理のランプが点滅する間にも、他の隊員はロッカーをこじ開け、書類や設計図を次々と引き出していった。

 

「調印式会場の配置図……奴ら、本気でやるつもりだ」

 

 埃を被った設計図を見下ろしながら呟いた隊員の声は、誰の心にも重く沈んだ。

 ここまでくれば確証は揺るがない。だが同時に、彼女たちが踏み込んだ場所が、最も危険な核心部であることも明白だった。

 

「第4小隊には陽動を任せる。この施設は徹底的に漁れ。――引き揚げる価値は十分だ」

 

 小隊長の判断が下されたその刹那、遠方から響いた足音が全員の注意を引いた。

 監視ドローンが捉えた映像がヘルメット内に投影される。

 

「アリウス・スクワッド……将軍の情報通りか」

 

 低く呟いた声に、全員の背筋が凍る。

 ただの歩哨や即席の寄せ集めではない。訓練を受けた精鋭、アリウスの切り札とも言うべき存在。彼女たちがこの施設を守りに来たということは、ここに眠る情報が致命的に重要である証だった。

 

 銃器を構え直す音が、室内に連鎖するように響く。

 

 ――回収が先か、迎撃が先か。

 

 選択を迷う余地は無い。

 特殊作戦中隊第2小隊は、データ転送が完了する前に、必然的に迎撃態勢へと移らざるを得なかった。

 

 

⬜︎

 

 

「敵は?」

 

「二十人ほどです。殆どが重装備の特殊部隊、迎撃に向かった部隊はいずれも壊滅しています」

 

 リーダーである錠前サオリの問いに、部下のアリウス生が即答した。

 

「そうか、分かった」

 

(たかが二十人、と口にしたいが……その数でこれだけ抵抗しているのなら、相当な練度と装備だろう)

 

 サオリは心の奥でそう呟き、眼前の建物を鋭く睨んだ。

 

「ミサキ、ヒヨリ。お前たちは建物の外から援護射撃。私とスバルの部隊の数人で突入する」

 

「了解、リーダー」

 

 ミサキは落ち着いた声で答え、ヒヨリは無言のまま頷いた。彼女の目は、既に獲物を狙う狙撃手の目に変わっている。

 

 周囲の兵士は各々の銃器を確認し、マガジンの装填音が一斉に響いた。空気が張り詰め、息を呑む暇もなくサオリが低く号令を下す。

 

「――突入!」

 

 次の瞬間、分厚い扉が蹴り破られ、鉄と木材の破片が飛び散る。その残骸を踏み越え、アリウスの兵士たちが一斉に雪崩れ込んだ。

 

「来たぞ! 2-2から2-8は応戦、2-9は証拠回収を続けろ!」

 

 敵特殊部隊のリーダーが無線越しに鋭く叫ぶ。反応は迅速で、侵入した瞬間にクロスファイアの網が張られる。正確無比な弾幕に、突入した数人のアリウス兵が壁際に叩き伏せられた。

 

 だが、次の瞬間、その銃撃の嵐が途切れる。

 

「ぐはっ!?」

 

 廊下の壁がコンクリート片を撒き散らしながら砕け散る。

 壁に叩きつけられた兵士の呻き声と共に、轟音が建物を揺らす。

 

「……目標に命中。えへへ、痛そうですね…」

 

 外に居たヒヨリが、力のない声で笑う。

 吹き飛ばされた兵士は、彼女の対物ライフルによる狙撃で壁越しに撃ち抜かれたのだ。

 狙撃痕は正確で、弾道はまるで線を描くように一直線だった。

 

 その隙を見逃さず、サオリが一気に飛び込む。

 

「ぐっ、この女……!!」

 

「ぐはっ!?」

 

 最初の一人はフェイスモニターを蹴り砕かれ、視界を奪われて即座に沈む。二人目は銃口を押し付けられるように撃たれ、胸部を貫かれて吹き飛んだ。

 

 だが、敵もただの兵士ではない。背後から回り込んできた兵が無駄なくサオリの腕を取る。CQB――近接格闘術だ。瞬時に体重を掛け、サオリを床へと叩きつけようとする。

 

 しかしサオリは転倒の勢いを利用し、相手の脚を絡め取って自分もろとも引き倒す。倒れ込んだ瞬間、相手を抱き寄せて盾にし、仰向けのままハンドガンを突き上げる。

 

 銃声。至近距離で撃ち抜かれた兵士のフェイスモニターが砕かれ、強化プラスチックの破片が辺りに巻き散らかされた。

 

 盾にされた兵士は関節パーツが破損して動けない。

 自分で抵抗することができない中、彼は瞬時に部隊にとって最善の行動を導き出した。

 

「俺に構わず撃て!」

 

「…了解!」

 

 自分ごと撃て敵を撃て。

 冷徹な返答と共に、四方向からの銃弾が容赦なく飛び込む。

 

「……ッ!」

 

 流石のサオリも一瞬たじろぐが、アリウスで受けていた自爆攻撃や仲間ごと撃つ訓練のことを思い出し、盾の兵士を投げ捨てて応戦に転じようとする。

 

 だがその瞬間、投げ捨てられた兵士が震える左腕を無理矢理持ち上げ、手榴弾を握っていたことに気付く。

 

「くたばれ、クソアマッ!!」

 

 怒号と共に炸裂する閃光と爆炎。床が跳ね上がり、破片が突き刺さる。咄嗟に身を捻ったサオリは辛うじて直撃を免れるが、薄い戦闘服は裂け、僅かに鮮血が滴る。

 

 歯を食いしばりながらも銃を構え直し、牽制射撃で敵の足を止める。息は荒く、服越しに血が滴る音が自分にだけ聞こえていた。

 

「思った以上に……しぶとい」

 

 辛うじて遮蔽物に隠れ、呟いたその頭上に、小型ドローンが舞い降りる。

 花弁のように広がった機構から柔らかな光が降り注ぎ、サオリの身体を包み込む。裂けた服の隙間から光が染み込み、痛みが和らいでいく。

 

「……姫」

 

 サオリは小さく呟き、崩れかけたマスクを被り直す。再び鋭い眼光が戻り、彼女は迷いなく再突撃を開始した。

 

 既に特殊部隊は三人を残すのみ。アリウス兵たちの援護射撃が雨のように降り注ぎ、彼らを押し潰す。最後の一人が沈黙すると、通路は一瞬だけ静寂に包まれた。

 

 サオリたちは硝煙の漂う中を駆け抜け、データセンターへ到達する。

 だが――そこにあるべき証拠は、既に持ち去られていた。

 

 

⬜︎

 

 

 施設の外へと駆け抜ける二人。2-1と2-9は、黒塗りの防弾容器を抱えながら瓦礫混じりの路地を走る。

 夜風を裂くように呼吸が荒く、靴底が石畳を叩く音が耳に重く響いた。

 

 だが――その頭上を掠め、赤い閃光が尾を引いた。

 瞬間、鋭い金属音と共に小型クラスターミサイルが着弾する。

 

 衝撃波が地面をめくり上げ、粉塵と破片が奔流のように押し寄せた。幸いにも軌道が僅かにズレていたため致命打は免れたが、吹き飛ばされる衝撃に二人は咄嗟に伏せざるを得なかった。アスファルトが削れ、破片が装甲を叩く乾いた音が重なる。

 

「……ッ!?」

 

 耳鳴りの中、規則的な足音が響く。

 

 砂煙の向こうから現れたのは、戒野ミサキと数名のアリウス兵たちだった。赤外線サイトの光が夜気を切り裂き、銃口の黒い影が2人を確実に捉えていた。

 

「データは渡さないよ。マダムからの指示――貴方達はここで消えてもらう」

 

 淡々と告げるミサキの声と同時に、鋭い銃撃が放たれる。

 曇天を裂くような連射音が響き渡り、火花が石壁を抉った。

 

 リーダーと2-9は即座に身を翻し、防弾容器を前に掲げて盾とする。銃弾が次々と叩きつけられ、硬質な衝撃が全身に伝わった。

 

「2-9、俺の合図で容器を抱えて脱出しろ。何としてでもコレは持ち帰らなければならん。命に替えても、だ」

 

「了解しました。ですが、小隊長は何をするおつもりで――」

 

 2-9の問いが終わるより早く、リーダーが動いた。

 弾倉のリロードで一瞬銃撃が止む。そのわずかな隙に、遮蔽物から身を乗り出す。

 

 マークスマンライフルの銃口が閃き、連射ではなく確実な単発射撃が放たれる。

 乾いた発砲音と共に、ヘッドショットが連続して命中。ミサキ以外のアリウス兵は次々と倒れ、沈黙した。

 

「……やるね。でも――ッ!?」

 

 ミサキが目を見開く。彼女の反応速度をもってしても、次の動きは完全には捉えられなかった。

 

 リーダーの脚部パーツが悲鳴を上げるほどの出力で点火され、地面を砕いて跳躍する。その巨体が弾丸のように飛びかかり、タックルの衝撃でミサキの身体を大きく吹き飛ばした。背後の壁に叩きつけられたミサキの視界が一瞬白む。

 

 跳躍の反動でリーダーの脚部パーツにヒビが走る。だが構わない。

 その隙に、2-9は容器を抱え全力で走り去った。

 

 粉塵を振り払うようにミサキが立ち上がり、眼前に立つリーダーと視線を交わす。二人の間の空気が、鋼鉄同士を擦り合わせたように火花を散らした。

 

 リーダーはライフルを投げ捨て、拳を握りしめて低く構える。対するミサキも口元のマスクを下げ、静かにナイフを抜き取る。

 

「一般生徒ならまだしも、戦闘訓練を受けてきた私達とオートマタじゃ基礎スペックが違う。死ぬよ?」

 

「こっちもお前と同じ特別仕様(・・・・)なもんでね、それに将軍になら命を捧げる準備はできてるさ」

 

「……そう、じゃあ遠慮なく」

 

 地面を蹴る音が重なった瞬間、二人は交錯する。

 鋼と肉体の激突が闇夜を裂き、格闘戦が幕を開けた。

 




特殊作戦DUSK ANGEL第2小隊損害報告

▶︎第2小隊消耗率:最大88.29%
▶︎各隊員破損率:平均62.7%
▶︎破損項目詳細
 ▷表面装甲破損:1人
 ▷頭部パーツ要交換:6人
 ▷関節パーツ要交換:3人
 ▷全体パーツ要交換:9人
 ▷素体の交換が必要:4人
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。