憑依先の悪役将軍の立ち回りが地獄過ぎる件 作:Mind β
日が沈んだトリニティ外輪地区、カイザーPMC第2警備大隊の臨時作戦室は薄暗い。
蛍光灯は最低限しか灯されず、壁際に並ぶモニターの青白い光だけが空間を支配している。インジケータが点滅する光だけが、微かなリズムを刻んでいた。
誰が仕組んだわけでもないのに、空気は最初から葬式のように重たい。
まあ、これからやることを考えれば当然か。
目の前に並ぶのは、俺の指揮下に入ったPMC兵士たちと、特殊作戦部隊の精鋭。
雰囲気を見れば一目で分かる。特殊作戦部隊の連中は「やるべき任務」を既に飲み込んでいるが、警備大隊の方は完全に緊張で固まっていた。無理もない。普段は治安維持くらいしかしていない連中に、いきなりカタコンベ制圧戦なんて無茶を押し付けられるのだから。
そう考えると、本編でネームド生徒相手にカイザーの部隊がやられっぱなしなのも納得はできる。
「――作戦名《BLACK HALO》」
声を張ると、全員の視線が一斉に俺へ向かう。
こういう時の人間(今回はオートマタだが)は本当に従順だ。命令という形にしてやれば、恐怖も飲み込み、動き出す。俺自身もその例外ではない。
「目標はトリニティ第3外輪地区C丁目に存在するカタコンベ入口の制圧。正義実現委員会が小規模ながら防衛を敷いているが……これは突破しなければならない障害にすぎん。失敗は許されない」
手元のスイッチを押すと、モニターにカタコンベ周辺の地形図と、敵の配置推定が投影される。赤いマーカーで囲まれたのは、MRAPを中心とした監視拠点。そしてその周辺に散らばる十数名の警備兵。
「作戦は三つのフェーズに分かれる。第一、混乱誘発。SD-01自爆型徘徊ドローンを5機投入し、敵陣を撹乱する。ドローンの爆発は散発的かつ小規模だが、心理的効果は絶大だ。彼女達は何が起きたかも理解できず、混乱に沈むだろう」
俺は言葉を続ける。
「第二、敵拠点攻撃。砲兵中隊による迫撃砲斉射を皮切りに、ヘルメット団先遣部隊が突入、携行型対戦車兵器でMRAPを無力化する。残存兵力は近距離戦闘で掃討だ。電子戦分隊は敵の通信を完全遮断し、応援も救援要請も許さない」
そう言い切ると、兵士たちの背筋が強張る。
警備大隊の兵士はこれほどまでに綿密に組まれた作戦は今まで組まれてこなかったのか、感嘆が半分、不安が半分といったところだ。
「第三、戦後処理。証拠の隠滅だ。弾薬・不発弾・残骸・敵兵の死体……全てを徹底的に消せ。俺たちがここに居た痕跡を一つ残らず消し去る。忘れるな――これは徹底的に秘匿された作戦だ」
その言葉に、兵士たちの背筋が更に粟立つ。
静寂を切り裂くように、俺はモニターを消し、作戦室の中央に歩み出た。
照明が落ち、青白い光の中に俺のフェイスモニターだけが浮かび上がる。
作戦室の空気がさらに重く冷たくなった。
……内心は俺だって胃が痛い。生徒を撃たせるのは正直気分が悪いし、原作を自らぶっ壊しにいくのだって不安しかない。
だが、これは演習でも訓練でもない。
「敵は子供でも敵だ」と言わねば、この場の空気は一瞬で崩れる。
「――なぜ、我々は前に負けたのか。アビドスで対デカグラマトン大隊が敗れた理由を考えたか?」
「え……?」
突然、俺が皆に問いかけるように短く言い放つと、訝るような声が後方から漏れる。
「砂漠の異常存在に対抗する為に編成され、最高レベルの装備と人員で固められていた大部隊がなぜ負けたか――それは彼等が相手を“たかが子供”と侮っていたからだ。そして、彼等は部隊の壊滅と活動拠点の収縮という、屈辱的な結果を負うこととなった」
一瞬で空気が張り詰めた。誰も答えられないのは分かっていた。
だが、これは俺がキヴォトスでカイザーの軍人として過ごしていて痛感した事実だ。
カイザーの人間は、あまりにもキヴォトスの子供を舐めすぎている。
「いいか、相手を決して子供と考えるな。相手は敵だ。個人的な主観は捨てろ、俺達は兵士――個の為ではなく、公の利益の為に在る。社の障害となるものを排除することが我々の任務だ」
言葉を吐きながら、喉の奥が焼けるようだった。
俺自身も、似た甘さを抱えている。だが今ここでそれを許せば、彼等と同じ失敗を繰り返す。
「覚悟を決めろ。これからお前たちは、生きて戻れる保証のない場所へ足を踏み入れる。だが忘れるな、お前たちが背負うものは社の、そしてこのキヴォトスの明日だ」
最後の言葉が落ちると、作戦室の隅から小さな音が連鎖するように起きた。整列していた全員が一糸乱れぬ動きで敬礼をし、目線を俺に向ける。
それを見た俺は静かに頷き、最後に一言だけ付け加えた。
「作戦開始」
それが合図だった。兵士たちは整列の姿勢をとり、装備を最終確認する音が一斉に鳴り出した。扉の外で車両のエンジンが低く唸る。薄暗い作戦室のモニターに、ドローンの発進態勢が整っていることを示すマークが点滅していた。
□
深夜の街角。人気の途絶えた通りの片隅に停められたコンテナトラックは、一見すればどこにでもある古びた輸送車両にしか見えなかった。外装には安物の広告シートが貼られ、錆びついた荷台は残骸のように沈黙している。
その荷台の内部から静かに圧縮空気の逃げる音が響き、油圧制御の爪がロック機構を順に外していく。低音域で駆動音が唸り、小型ガスタービンが点火する。次の瞬間、内壁が開放され、ランチャー機構から一機目のドローンが滑り出た。
SD-01型自爆ドローン。
軽量なグラスファイバーと樹脂を組み合わせたフレームは、軍用機とは思えぬほど無骨で粗野な造形だが、その内部には炸薬と制御システムが組み込まれている。使い捨ての攻撃端末。安価で数を揃えられ、命令通りに破壊だけを遂行する空飛ぶ即席爆弾であった。
五機のSD-01が、2秒間隔で次々と射出される。短距離推進ユニットが起動し、翼を広げてすぐに安定飛行に入る。地形追従センサーが地面スレスレの高度を維持し、ビルの陰や街灯の死角を縫って、路地裏を這うように滑空していく。
目的地は一つ――正義実現委員会の詰所。
その建物の周囲では、見張りの少女たちが銃を抱きながら巡回していた。緊張感の無い立ち振る舞い。まるでここに敵など現れないと思い込んでいるかのようだった。
詰所正門前、門柱の上空に突如現れた一機のSD-01が、高速で下降しながら目標に突入。機体内部の炸薬が炸裂し、爆炎が夜空に花弁のように咲き乱れた。
衝撃波と過圧が一帯を襲う。門番の少女が爆風に吹き飛ばされ、悲鳴が闇を裂いた。
「うわぁぁぁぁ!?」
続けざまに二機、三機が突入。壁面に叩きつけられて火花を散らし、窓を破壊して内部で爆裂する。火災報知器が甲高く鳴り響き、詰所全体が混乱に包まれた。
数キロ離れた高層ビルの屋上で、砲兵中隊の射撃陣地が射撃準備を完了していた。
屋上に砂嚢を積み上げた即席の射撃台に、三門の81mm迫撃砲が設置されている。装填手が無言で動き、榴弾を次々と薬室に滑り込ませる。刻印された『HE』の赤文字が砲身に飲み込まれていく。
「――目標座標確認、射角よし。射撃準備完了、撃てッ!!」
砲兵長の短く鋭い指示。直後、最初の発砲音が空気を裂いた。
砲弾が砲身内を滑り落ち、砲尾の底に設けられた撃針によって砲弾側の雷管が作動、雷管に起爆されて発射薬が点火し、砲弾が発射される。
ドンという腹に響く低音が響き、白煙と共に一発目の榴弾が夜空へと放たれる。砲口炎が走り、炎の残滓が金属の筒先を照らした。
続けて第二、第三――合計六発の弾体が、正確な間隔で順に打ち出される。
砲列からは連続する砲口閃光、手際よく再装填される榴弾、排煙が風に散っていく様が一糸乱れぬ手順で展開されていた。
十数秒後――
最初の一発が、詰所の敷地中央に着弾した。大地を叩き割るような轟音と衝撃が響き渡り、高爆榴弾の炸裂で地面がえぐれ、コンクリート片と土砂が放射状に飛び散った。
続く弾が次々と降り注ぎ、爆煙と土煙が宙を埋め尽くす。
視界はゼロに近く、爆裂に続いて飛来する風圧と熱波が詰所全体を灼熱の檻へと変貌させていた。
いくらキヴォトス人と言えど、高圧榴弾の連続投射を受けてはまともな状況判断などできるはずもない。正義実現委員会の警備戦力は、この時点で戦術的な行動と統制された動きが不可能となった。
煙の幕の向こう、ビル屋上の射撃指揮所で、砲兵長が冷静に通信機に向かって効果の報告を行った。
「着弾確認。効果あり」
一方、詰所は既に戦場と化していた。自爆ドローンの爆炎と迫撃砲の直撃が混ざり合い、外壁は大きくえぐれ、瓦礫が散乱している。
木片とコンクリートの粉が空気を白く染め、遠くで聞こえる叫喚が断続的にこだました。
崩れた瓦礫の隙間から、一人の生徒が這い出してきた。頭を押さえ、唇を震わせながら呟く。
「い、痛ったぁ……なんでこんな辺境の施設が襲われるのさ……」
その言葉を聞いて、付近の数名の正義実現委員が手を差し伸べる。煤まみれの小さな手を掴み上げ、よろめくのを支える。
怪我はないかどうかを彼女達が確認している時、ふと一人の生徒が顔を上げると、遠目に複数の人影が裏手からこちらに滑り込むのが見えた。
匿名で雇われた武装集団――ヘルメット団だ。
彼女らの武装は雑多だった。改造小銃、古びたアサルトライフル、ショットガン、時折見える携行対戦車兵器。計画的な装備というより、実利重視の寄せ集め。
「へ、ヘルメット団…!? コイツらがやったのか!?」
詰所内から即座に応戦の銃声が上がる。正義実現委員会の生徒達が狭い通路や破れた窓から体を晒して反撃する。弾丸が瓦礫を弾き、火花が散る。状況は混沌と化した。
「クソ、チンピラ共め! これでも喰らえ!!」
呼応するように、MRAPが前に出て車載の重機関銃を連射する。弾幕がヘルメット団を抑え込み、前進を一度止めるかに見えた。しかし、裏手から構えていた一人が冷静にRPG-7を肩付け、照準を素早く合わせて発射した。狙いはMRAPの運転席。着弾、閃光、そして爆炎が一気に噴き上がった。
MRAPは爆炎に包まれ、音を立てて横転する。車体の金属が軋み、火が油を舐めるように延焼していく。車両の消失は、そのまま詰所の防衛ラインの崩壊を意味した。
ヘルメット団は力任せに突撃し、無作為に銃弾をばら撒いていく。混乱の中で統率は消え、指揮系統は断絶した正義実現委員会にそれを止める術は無かった。
数十分のうちに、ほとんどの正義実現委員会の生徒は抵抗力を失った。残ったのは断続的な炎のはぜる音と、遠くで鳴る火災報知器の甲高い音だけ。
上空と周辺で待機していた偵察ドローンがゆっくりと掃くように映像を送る。モニター越しにヘイロー信号の消失が確認される。死角や裏路地までもを丹念に洗い出し、PMCのオペレーターが短く句読するように報告を入れた。
「ヘイロー完全消失、対象群無力化確認」
指揮所では、後処理部隊の準備が始まっていた。彼等の任務は証拠の処理、人員の収容、現場の証拠隠滅である。
そして、捨て駒でもあるヘルメット団には即座に撤収命令が送られた。仕事をこなした彼女達は、約束された膨大な報奨に心を踊らせながら逃げるように現場を離れていく。
こうして増援要請が送られる前に正義実現委員会の第3外輪地区C丁目警備隊は無力化され、僅かながら空いた隙を突き、カイザーの特殊部隊がカタコンベへと侵入を始めようとしていた。
次回からアリウスとの交戦に移ります。
というか、新ストーリーめちゃくちゃ良かったですよね。展開が丁寧というか、とても読みやすかった気がします。新キャラのスバルとマイアも自分好みでした。まだまだキャラの掘り下げがされていませんが、独自解釈でこの後のアリウスの描写にも組み込みたいと思っています。