憑依先の悪役将軍の立ち回りが地獄過ぎる件 作:Mind β
「カイザーの将軍の動向は?」
「ここ数日は、大きな動きはないようです。他の子会社についても、兵器の増産が進められている以外に特筆すべき動きはありません」
「そうですか……良いでしょう、下がりなさい」
月明かりに照らされる、廃墟と化した旧教会跡。
崩れ落ちた尖塔は影の槍のように地面に突き刺さり、砕けたステンドグラスは風に揺れて冷たい光を散らしていた。
その中心に立つ影――ベアトリーチェは、まるでこの廃墟が自らの玉座であるかのように静かに佇んでいる。
「ふむ……動きがあれば付け込んでしまおうかと思いましたが、案外慎重なものですね」
冷ややかな声音が、ひび割れた石壁に鈍く反響する。
アビドス砂漠での一件以降、黒服の情報筋からカイザー・コーポレーションの動向を注視していた彼女だが、表向きの沈黙の裏には確実に膨張する影を感じ取っていた。
「歴史は常に、均衡を保とうとする……。ふふ、あの将軍も抗えましょうか」
それは呟きとも、嘲笑ともつかない言葉。
まるで『歴史の修正力』を知覚しているかのように、彼女の視線は夜空を突き抜け、遠くカイザー本社の方角を射抜いていた。
「引き続き監視を続けなさい。何か異変があれば、直ぐに報告すること」
「承知しました」
ベアトリーチェの言葉に部下のアリウス生は深く頭を下げ、音もなく後退する。
残されたのは月明かりと、夜気の中に溶け込む彼女の影だけだった。
「さあ――抗えるものなら、抗ってみせなさい」
静寂の中で、ベアトリーチェは微かに笑えんだ。
■
トリニティとの交渉について、俺の中では既に一つの筋道が定まりつつあった。
正面から「アリウス自治区に武力制裁を加えたい」と申し出れば、まず間違いなく拒否される。エデン条約の調印式前という、この微妙な時期に余所者がそんなことを言えば、疑心暗鬼に包まれたティーパーティーは逆に牙を剥いてくるだろう。
だからこそ、順序を逆にする。
先に秘密裏にアリウス自治区へと潜入し、そこで証拠を掴むのだ。
問題はその実態。前世の知識から分かる通り、アリウスは閉ざされた自治区の中で多くの未成年者を洗脳し、兵士として育て上げている。食糧も物資も不足した過酷な環境で、子供たちは教育という名の暴力に晒され、ただ戦う道具として生かされているのだ。
その上、アリウスはエデン条約調印式そのものを襲撃しようと準備を進めている。既に原作から展開が逸脱しているこの世界で、原作通りにミサイルによる攻撃が実行されるかは分からないが、手段は分からずとも襲撃が実行されるのは確実と見ていいだろう。
そして、それはカイザーを差し置いてもトリニティにとって見過ごせるものではない。
証拠を手に入れた後、初めて俺はトリニティの首脳陣へと接触する。
アリウス自治区の現状はこうであり、そして彼らは調印式に刃を向けている、と突きつければ、さすがのティーパーティーも黙ってはいられまい。むしろカイザーの力を利用してでも事態を収拾せざるを得なくなるはずだ。
もちろん、先生の存在も計算に入れてある。
アビドスでの一件を経て、俺に対して強い警戒心を持っていることは分かっている。だが、いくらカイザーが関わっていようとも、子供が虐げられ、道具のように扱われている現状を目の当たりにすれば、あの人が協力を惜しまないこともまた確信できる。
利用するようで心苦しくはあるが、戦局を動かすためには彼女の存在は避けて通れない。
問題は、どうやってアリウス自治区に潜入するかだ。
あの領域は物理的にも概念的にも隔絶されている。通常の大隊規模の部隊を展開することなど不可能に近い。だからこそ、選ばれるのは少数精鋭の特殊部隊――奇襲・偵察・証拠確保に特化した部隊である。
亡霊のように足跡を残さず入り込み、必要な情報だけを持ち帰る。まさに影の尖兵とも言える役割を担わせることになる。
「……まずは潜入、そして証拠だ。そこから交渉へと繋げる」
俺は改めてデスクの上の資料を見下ろし、深く息を吐いた。
この計画が成功すれば、アリウスへの制裁は避けられない。だが、失敗すれば――原作の流れどころか、世界そのものが大きく歪むかもしれない。
そう考え、俺が手に取ったのは一つの作戦立案書。
作戦の内容はアリウス自治区への侵入経路の確保だ。アリウス自治区は地上経由では侵入できず、全ては地下に広がる空間「カタコンベ」のみから侵入可能。そして、そのカタコンベは複数の入り口があり、今回はそのうちの一つから特殊部隊を侵入させるのだが、当然トリニティ自治区内というのもあって正義実現委員会が警備を行っている。
この現状に対して、特殊部隊の『橋頭堡』を築く作戦を立案した。
それがこれだ。
機密軍事文書(CLASSIFIED)
件名:OPORD 02-25 Operation BLACK HALO
発令元:カイザーPMC トリニティ第2警備大隊作戦室
発令日:XXXX年X月X日
分類:機密/非公式連携任務
作戦概要
作戦名BLACK HALOは、アリウス自治区への地下侵入経路の確保を目的とし、トリニティ第3外輪地区C丁目に存在するカタコンベ入口を制圧するものである。当該侵入路は、正義実現委員会が小規模部隊と耐地雷・伏撃防護車(MRAP)1両を用いて警備しており、現時点での地上からの直接侵入は不可能である。
作戦の最終目標は、正義実現委員会の警備部隊を委員会本部及びティーパーティーに感知されることなく完全に排除し、後続の特殊部隊(SOF)によるアリウス自治区地下空間への潜入を可能とするための橋頭堡を確保することである。作戦の主実行は、カイザーPMCの第2警備大隊が行うが、作戦行動はカイザー・マーセナリー経由で傘下に秘密裏に編入された地域の武装集団であるヘルメット団により遂行される。
兵站及び火力支援は第2大隊砲兵中隊が提供し、SD-01型自爆型自律徘徊ドローンによる心理的混乱を誘発後、迫撃砲・軽対戦車兵器による攻撃で敵拠点を一挙制圧する。電子戦分隊は同時に通信及び監視システムの無力化を担当し、全体作戦は夜間の短時間にて実施される。
なお、本作戦の最大の要件はカイザー・コーポレーションの関与をできる限り悟られないことであり、投入される全兵器・弾薬・装備は製造番号を削除・偽装し、戦闘後は薬莢、不発弾、ドローン残骸などの徹底的な証拠排除が命じられている。万が一、ヘルメット団構成員の捕虜化が確認された場合にも、身元・依頼主情報は一切判明しないよう匿名契約と非トレース型報酬で処理される。
作戦フェーズ
作戦は3つのフェーズに分割される。
・フェーズI:混乱誘発(0200-0205)
SD-01型自爆型ドローンを5機投入し、敵警備区画において徘徊→接近→自爆を実施。これにより正義実現委員会側の警戒ラインと行動パターンを混乱させ、主攻撃の機会を作る。さらに予備として追加の5機が後方に控え、必要時に増派される。
・フェーズII:敵拠点攻撃(0205-0212)
ドローン爆発を合図に、2km後方から第2大隊砲兵中隊による81mm迫撃砲(高爆榴弾)を6発投射。これと同時に、ヘルメット団先遣部隊が裏手より突入し、携行型対戦車兵器でMRAPを撃破。生存する敵兵は近距離射撃で掃討する。電子戦分隊は監視カメラおよび通信機器を完全遮断・妨害し、敵の支援要請・通報を不可能にする。
・フェーズIII:戦後処理(0212-0225)
拠点制圧後は、敵兵器・薬莢・ドローン残骸などの証拠物を焼却・埋設・粉砕処理により完全隠蔽。作戦地域からはカイザーPMC及びカイザー・マーセナリーの関与を示す痕跡を一切残さないことが厳命される。その後、特殊部隊へ「潜入可」の暗号信号を送信し、速やかに潜入作戦DUSK ANGELが開始される。
備考
・本作戦は軍事的成功以上に機密保持と隠蔽性が最優先事項である。
・ヘルメット団への報酬は匿名口座および非トレース性資源により遂行され、作戦後の余波を一切生じさせないよう情報統制が徹底される。
・特殊部隊作戦DUSK ANGELは、BLACK HALOが完全な成功を収めた後にのみ実行される。
要するに――このBLACK HALO作戦は、
どんなに精緻な作戦立案を重ねようと、現場に立つのは生徒であり、撃ち合う相手もまた生徒だ。
本来なら、俺が最も手を下したくない相手。
それでも――アリウスの歪んだ実態を暴き、ティーパーティーに突きつけ、そして最後にはハッピーエンドと呼べる未来へ辿り着くためには、この手を血に染めるしかない。
「……生徒を間接的とは言え傷付けるのは心苦しい。だが、全ては最後に皆が笑える結末のためだ」
俺は自分にそう言い聞かせ、席を静かに立ち、この作戦書をカイザーPMCに提案する為に事務室を後にした。
前半のシーン、分かりづらいと思うんで解説しますと、原作では無かった動きをしようとしていた主人公(カイザーの転覆を狙った)に対して歴史の修正力が働いてベアトリーチェがカイザーへ内部干渉(=会社の分断による社内情勢のリセット)をしている、ということになります。