転生者達の新エリー都、二足のわらじ生活 作:フライパンソルジャー
六分街に位置するカスタムショップ『TURBO』
店の主であるエンゾウは開店に向けていつものように工具の並びを確認していた。自身の咥えたパイプの煙の匂い、鉄と機械油の匂いが入り混じった空間が、今日も変わらずに彼を包んでいる。
エンゾウは優れたプロのエンジニアであり右腕の義手で多種多様な機械を改造、修理を行っている。特に精密機械の集合体のボンプに関する知識が豊富で、六分街において彼の右に出る者はいないだろう。
コンコンーー
不意に店に扉をノックする音が響いた。
「ん?まだ開店時間じゃないが……。お客さんか?」
訝しみながらも扉の施錠を外し、開く。
「すまねえがまだ準備中だ。もうしばらく……」
そこで扉の先の人物を認識し、エンゾウは一瞬動きを止めた。
「やっほ、久しぶりエンゾウおじさん。ボクだよ。可愛い一番弟子のドク。」
そこにいたのは数年前まで店で雇っていた子供、ドク・オークであった。目の前で快活に笑い、相変わらず元気そうで良かったよと告げる。
「おま、今までどこに」
「あれ?言ってなかったっけ?ルース機械工科大学に飛び級で進学することになったんだけどつい最近卒業したから六分街に戻ってきたんだ~。……ところでちょっと相談なんだけど、またここで働かせてくれない?」
エンゾウは思わず頭を抱える。数年前、目の前のドクはいきなりお世話になりましたと置手紙を残して、突然消えたのだ。今内容を思い出しても雇ってくれたことの感謝とこれから頑張ると書かれており、無論大学への進学のことなど書かれていなかった。
何か不満があり飛び出したのではないかと不安に苛まれたのを覚えている。
「はあ、相変わらず突飛な……」
「ごめん、ごめん。次からはちゃんと気を付けるからさ。……それで返事はおーけー?」
確か初対面でもこんな風にぐいぐいと要求を押し付けてきたように思う。断ってもしつこく食い下がってくるだろう。
ため息をつきながら渋々了承する。
「ああ、どうせ断っても無駄だろうしな。だが一つ聞かせてくれ、何で俺のところなんだ?正直ただの冴えないカスタムショップだしお前のことだから大学でもかなりの結果を出したんだろう?企業からのスカウトとか来なかったのか?」
「あったよ、TOPS傘下のとことか他にもそこそこ。あ、それとホワイトスター学会からもあったかも。ただ自分の持つロマンは大学生活で一通り満たせたんだよね。まあそれで何回か問題起こして停学食らったんだけど……ボクが大学で起こした出来事についてエンゾウおじさんは興味ある?」
いたずらっぽい笑みを浮かべるドクを見てエンゾウは急激に嫌な予感がした。
思い出されるのは昔ドクがインスピレーションを得た後に、依頼品を勝手に特殊カスタムし、起こした問題である。
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納品名:
《雷鳴機関サンダーフォースΛ(ラムダ)》
依頼内容:バイクのマフラーを静音仕様に変更したい
ドクの回答: 静音 → 音で戦慄を与える方向へ
特徴:
・エンジン起動音が**“超重低音で叫ぶ獣の咆哮”**
・走行中、車体から青いスパークを自動演出
・マフラー内部に小型プラズマ発生器(完全に意味はない)
オーナーの感想:
「近所から通報されたけど……、息子が“パパ、ロボット乗ってるの?”って聞いてきて泣いた。ありがとう。あ、嫁さんはぶち切れてたよ」
納品名:
《ガントレット・グリル》
依頼内容: アウトドアで使える調理器の修理、火が点火しないため直して欲しい
ドクの回答: 肩から構え、音声で発火指示を出せる火炎式焼肉兵器。発射口から炎を放出し、串焼きを高速で仕上げる。
特徴:
・肩に装着する簡易ロケット砲風火炎式BBQ調理機であり「焼けろ、肉ッ!!」で点火
・カーボンフレーム装着、見た目は完全に戦場用
・装備者にだけ「咀嚼タイミング支援AI」が指示を出す
使用者の声:
「隣のキャンパーが逃げた。でも俺は……焼きながら泣いた。“これが俺の戦場(キャンプ)だ”って思った。後に、知らない少女が目を輝かせながら買いとっていったな……」
完成車名:
《Type-CΩ "カーミネーター"》
依頼内容:クラシックカーの内装を“少しモダンに”
ドクの回答: モダン → 近未来戦闘機にカスタム
特徴:
・ダッシュボードが戦闘機のコクピット風3Dホログラム表示
・運転開始と同時にAIが「戦闘開始」のカウントダウン
・ハンドル操作と連動して機関砲発射音(効果音のみ)
被害者の声:
「正直、運転中にテンションが異常に上がる。
でも、後部座席の母が“命をかけて買い物に行く気分”って言ってた」
納品名
《スターバスター・アラーム》
依頼内容: 目覚まし時計の修理
ドクの回答: 枕元に据え付けられた対宙砲が、時刻になると“地球防衛の名目で”自動起動、爆音で起こしてくる
特徴:
対隕石砲台付き目覚まし時計、鳴るたびに「地球を救った」感じになる
起動音:「全砲門、対宇宙空間へ照準完了……発射!!!」
止めるには、起床して“戦闘報告書”を書く必要あり(紙)
被害者の声:
「3日で寝不足。けど、俺が地球を守ってるって思えば、眠気も使命感に変わる。……わけねぇだろ、ふざけんな」
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惨状を思い出し全力で首をふり、拒否する。ドクはそれを見てつまらなそうにちぇ、とそっぽを向く。
まさか大学でも同じことをしたというのか、まるで笑えないが。
前見た時より背が伸びたが、肝心なところは成長できていないようだ。
ドクの法にギリギリ触れない浪漫兵器開発は、ニッチなファンも少なくなかったため、完全に否定することもできない。そのファンは男が大半を占めており、なにか心に訴えかけられているようだ。自分も迷惑を掛けられながらもなぜか嫌いになれない“夢”を感じてしまう。
「あ、そうそう。なんでエンゾウおじさんのところがいいかって質問だっけ?それは勿論おじさんの腕だったりボンプに対する深い知識だったりもあるんだけど、一番はやっぱり……立地かな?」
「はあ?」
理由の意味が分からず首を傾げるが、ドクは曖昧に笑う。詳しく話す気はないようだ。
「……まあいい、今日は頼まれた仕事が多い。人手が増えるんなら大助かりだ。時間がないから後で雇用書類を渡すから記入しとけよ」
「ありがとう。うん!任せてよ。」
「ちゃんと客の”要望通りに”だからな!」
それはそれとしてちゃんと釘を刺しておくが。
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ドクは驚くほど手際がよかった。持ち込まれた古い工作機械を一発で調整し、さらにバイク用パーツの精密削り出しも、エンゾウが一言も口を挟む間もなく仕上げていた。
格段に腕が上がっている。若い恐るべき才能に舌を巻きながらも仕事を次々に終わらしていく。
仕事を片付け時間は正午を少し過ぎるころ、備品整理を行いながら軽く世間話をしていた。
「そういえば、前来た時に隣に店なんてあったっけ?確か名前はRandom Playだっけ?」
「ああ、最近六分街に引っ越してきた兄妹が営んでるビデオ屋だ。話してみたが今時じゃあ珍しいくらい社交的だったな。もう街に馴染んでるくらいだ。」
「ふーん、なるほどね。今ちょっと手が空いてるし挨拶してこようかな?お隣さんだし」
「珍しいな、お前が機械以外に興味を持つなんて。だがまあいいんじゃねえか?歳もそう離れてないだろうしな」
エンゾウの言葉にドクは少しむっとして答える。
「失礼な、ボクの興味の対象は機械だけじゃないよ。……まあ何か菓子折りでも持っていこうと。じゃあちょっと行ってくるね」
「おう、気を付けろよ」
ドクが備品を元の位置に戻し、軽く身綺麗にして店の扉に手を掛ける。
そこでふとエンゾウはドクについて、あることが気になり声をかける。
「そういえばドク」
「ん?なに、どうしたの」
「ああいや、お前って……その、
その瞬間、両者の間に妙な沈黙が流れる。
「「…………」」
やがてドクは薄く笑みを浮かべ、静寂を切り裂いた。
「ふふ、さあ?どっちなんだろうね?行ってきまーす!」
その声は明るく悪戯っぽい笑みを含んでいた。
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午後、リンは店内の掃除をし、商品のビデオを整理していた。
本日の客足は少なくプロキシの仕事も入っていない。兄であるアキラはお昼ごはんを買い出しに行っているため店にいるのはボンプとリンだけである。
入口の扉が開く音に、お客が来たのかと顔を上げた。
「こんにちはー!」
店内に響いたのは、驚くほど明るく澄んだ声だった。入り口に立っていたのは、短く刈り込んだ髪にだぼっとしたサイズの大きいシャツと腰に巻き付けた作業着を着ているというラフな格好の、自分たちより少し幼い人物だった。目がぱっちりと大きく、皮膚は日焼けして健康的。男とも女ともつかない、そんな中性的な美しさを持っていた。
対応したリンは少し戸惑いながらも、笑顔を作った。
「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
「!いえ、あの、六分街に引っ越してきたばかりで。今日から隣のカスタムショップで働くことになりましたドク・オークです。ご挨拶にと思って」
目線をやや逸らしながら彼?彼女?は要件を告げる。
今日は日差しが強いからか、少し顔が赤いように感じる。
少し心配していると手に持っていた紙袋をこちらに差し出した。中には、包装された六分街の和菓子の羊羹が入っていた。
「うわ~、ありがとうございます。引っ越してきたんですね。実はうちも最近引っ越してきて……でも街並みにも慣れてきて、気になるところがあれば紹介しますよ。そういえば隣って……エンゾウおじさんのカスタムショップですか?」
「はい、あそこです。実は以前にも働かせてもらっていて、しばらく大学進学でこの街を離れることになったんです。でも最近大学を卒業したので再びこの街に帰ってきたんです。」
そこへ、ドクの後ろからから兄のアキラが顔を出した。二人の様子を見て「あれ?お客さんかい?」と首をかしげる。
「新しいご近所さんだって。ご挨拶に来てくれたの」
「へぇ、それはご丁寧にどうも。……あの、すみません、お名前は?」
「あ、失礼しました。ボク――じゃなかった、私、ドク・オークといいます。あのそんなに歳も離れていないと思うので敬語はいいですよ。気楽に仲良くしてくれたらなと。」
アキラとリンは一瞬だけ視線を交わす。「ボク?私?」という言い直しに、小さな混乱が走る。
だが、ドクの屈託のない笑顔に、それもどうでもよくなっていった。
「ありがとう、じゃあドクって呼ぶね。こっちこそ敬語なんか使わなくていいよ。私はリン、こっちは私のお兄ちゃんのアキラ。気楽に呼び捨てで良いからね。あ!そうそう、ドクは映画とかドラマは好き?うちは見ての通りビデオ屋なんだけど結構幅広い品揃えだよ。なんか貸りてく?」
リンの言葉にドクは「お、いいですね! ちょうど映画観たかったんですよ」と乗り気になり、即座に商品棚を見渡す。
「何か好きなジャンルはあるかい?良ければ選ぶのを手伝わせてくれないか?」とアキラが補足すると、ドクは目を輝かせた。
「勿論お願いするね。ボクはSF映画が良いな!特にロボットが出てくるような機械映画が好物。なんか、現実では再現できないようなロマン溢れるとかない?」
「いいね、機械の魅力が詰まった作品か……。実は僕も最近男心を擽られる出来事にあってね、そのジャンルに嵌ってしまったんだよ。特におすすめなのがこれかな、少し古いけどかなりの名作だったよ。」
アキラが手に取った作品はドクが見逃した数年前に流行ったSF映画である。
「これ!?放映されなくなってからずっと観たいと思ってたんですよ。ありがとうございます。借りますね。いやあ、これで
「お気に召したようで何よりだよ。」
笑顔を浮かべレジでお会計を済ませる。帳簿に名前を書きレシートを渡したリンは思い出したように手をたたいた。
「そうだドク。これから常連になるかもしれないし、もしよかったらうちに入会してみない?」
「ふふ、先に言われちゃった。勿論そのつもりだったよ。一番高い会員でお願いするね。」
「やった!ありがとー。どうぞ、これからもうちを御贔屓に常連様。」
「はぁ、リン……まったく。すまないドク、うちのリンは押しが強いんだ。」
「いいんだよアキラくん。初めから長い付き合いになりそうだなーって思ってたし、それに
「ええ!そんなに無理やりな感じだった?そりゃあちょっとはドクが常連になってくれたら良いなとは思ったけどさ。ごめんドク気を悪くさせちゃった?」
「いいんだよ、むしろ嬉しい。さっきも言ったように初めからそのつもりだったから気にしないで」
登録を済ませると、ドクは上機嫌で入り口に向かう。
「それじゃ、またちょくちょく来るね。二人も、御用があればうちを頼ってね。修理も改造も大歓迎。」
「ああ、その時はお願いするよ」
「ばいばーい、またね」
ドクが出ていったあと、リンがぽつりと呟いた。
「結局、女の子だったのかな?」
アキラは腕を組んで笑った。
「うーん、男心を理解してる機械を好きと見るに……男の子かもしれないな。……まあ、どっちでもいいんじゃないか? 」
「……うん、そうだね!なんか”オクトパス”と話が合いそうな感じがする子だったなぁ」
「確かに似た感性かもしれないな。機会があれば彼を紹介してみてもいいかもしれない」
「あの見た目を兼ね備えた彼に目を輝かせそうだね」
二人はドクの去った後を見つめ、仕事仲間のことを考えていた。
暫くして突然アカウントへのメールの通知音が響く。確認してみると裏の仕事依頼であった。
「おや、噂をすれば”オクトパス”からだ」
「仕事だね~、内容は何?」
「ホロウ内で違法エーテル資源を採掘しているギャングの調査らしい。発明した装備品の性能実験も兼ねているそうだ。メンバーは依頼主本人と、あと”ライノ”さんだって」
「よかった。ちゃんとストッパーがいるね、絶対後者が本命でしょ。」
「彼の発明品は凄いけど時々過激だからな。ホロウ内といえど廃墟地帯の一角をエーテリアスごと消し飛ばして巨大クレーターを作るなんてね。確か映画で見た宇宙船に取り付けられた固定レールガン砲台を再現したと言っていたな」
「その後皆からぶち切れられて、袋叩きにされてたもんね……」
”何やってんだ!お前ぇ!”、”プロキシに何かあったらどうすんだよ”、”このキチ機械オタクが!”、”明らかに過剰だろうがボケが”
全員がキレながらオクトパスを囲んで蹴りつけていた。けたたましい金属音と罵倒が響き渡っていたが、オクトパスは体を丸めつつも怯むことなく言い放った。
”火力こそ正義である、一片の悔いなし!!”
その後、蹴りの速度が上昇したのは言うまでもないだろう。此方が止めに入るまで続いていた。
「ああ、今でも鮮明に思い出せるほどの衝撃だった。それで今回の依頼はどちらがナビをするんだい?本人も流石に反省してたことだしあそこまでの規模にはならないだろう。」
「そういうのってフラグっていうんだよ、お兄ちゃん。うーん、じゃあ私が受けようかな。ライノさんと久しぶりに話したいし、オクトパスに今日あったことを伝えようと」
「わかったじゃあ、返信しておくよ」
六分街に新たに一人の住人が増え、その日、「Random Play」には確かに一筋の新しい風が吹いたのだった。
ドク・オーク、コードネームはオクトパス。タコのシリオン。
転生者達の活動に技術提供を行っている凄腕エンジニア、いなくてはならない存在だが如何せん癖が強く、自分のロマンを優先するトラブルメーカーである。転生者たちの身バレ防止金属スーツを作ったのはこいつであり、定期的に改良、メンテナンスを行っている。スーツが返ってきたときに皆が先ず確認するのは自爆機能が付いていないかどうかである。
今回は生兄妹に会う為、転生者達に伝えずに六分街へ引っ越した。