憑依先の悪役将軍の立ち回りが地獄過ぎる件 作:Mind β
カイザー本社主導で行われたPMW-1の解析作業が始まってから3日。
ようやく解析も大詰めを迎え、兵器の全貌が分かってきた。
まず、解析したデータを元に解析班がまとめたPMW-1の諸元をご覧頂こう。
それがこれだ。
■概要
・名 称:
・開発元:第45戦闘工学研究所
・分 類:多脚型戦闘無人兵器
■基本仕様
・全 長:4.8メートル
・全 高:2.1メートル(センサーポッド含む)
・重 量:7.4トン(弾薬搭載時)
・構造材:カーボンナノチューブ強化複合装甲
:タングステン合金外骨格
■動力系
・動 力:小型重水素核融合炉
・稼働時間:約72時間(フル出力時)
・排熱処理:高温ガス放熱バッファ
:液冷チューブ
:内部放熱ダクト
■機動性能
・移動方式:8脚多関節歩行(低騒音油圧駆動)
・最大速度:20 km/h
・登坂能力:45度以下の傾斜
・ジャンプ機能:なし(恐らく重量過多の為非対応と推測)
■武装
・主武装:双連装35mmレールアシスト機関砲
・搭載弾薬数:約600発
・搭載弾種:徹甲弾/神秘干渉弾(仮名称)
・有効射程:1,500m
・副武装:タングステン合金製マニピュレーター2基
・最大破断力:約3トン
■センサー/電子戦装備
・センサーユニット:360度IR
:LIDAR
:マルチスペクトラムセンサー
・味方識別装置:IFF-III自動照合システム
・通信方式:暗号通信
:バックアップでの低周波パルス通信
・制御:制限付きセミオートマトン制御
■防御機能
・装甲:対徹甲弾複合装甲(第3世代)
:正体不明自己修復素材
・能動防御:マイクロドローン干渉網(弾道迎撃補助)
・自己修復機構:あり
……やはり、つくづくオーバーテクノロジーだと感じるデータだ。
コイツが便利屋をボコボコにしたと考えると思う所もあるが、はっきり言って男の浪漫だろう。
実際、解析中も警備の為のPMC兵や職員が見物に来ていたし、解析を担当していた研究員も未知の技術や未来技術がてんこ盛りで狂喜乱舞していた。
まあ、それは置いておいて。
問題なのは、解析データでも示した防御機能項目の『正体不明自己修復素材』というところだ。
最初は戦闘データの解析の結果、ナノマシンによる自己修復が最も有力な説として見られていたのだが、研究所に持ち込んで本格的な調査が始まると、それはナノマシンとは全く異なる性質を持つ何かであると判明した。
通常、ナノマシンによる自己修復とはナノマシン自体が修復対象をカバーするか、自律的に修復作業を行う事で知られているのだが、この装甲は全く違った。
顕微鏡や高精度の解析カメラでどんなに見ても、損傷を与えた部位は明らかに自分から修復され、ナノマシンらしき影やそれに準ずるものも見つからなかったらしい。
これを見た研究員は皆一様に疑問符を浮かべたが、俺だけはそれに心当たりがあった。
憑依前、最後に読んだブルアカのメインストーリーに登場した名も無き神々の遺産である技術の一つ――
自分でも閃いた時には荒唐無稽な話だと思ったのだが、そんな出鱈目な技術はそれ以外に考えられない。
もし違うとすれば、致命的な技術を持つ俺の知らない勢力が新たに登場したことになり、それもそれで大問題だ。
まあここではデカグラマトン関連の勢力が関わっていると想定して話を進めるが、その仮定にしてもどうやって反乱因子が技術を手にしたのかは謎だらけであった。
まずミレニアムの『廃墟』はセミナー及び連邦生徒会によって管理されており、北極経由にしてもあの大海と氷河を超えられるだけの艦船や航空機をカイザー・コーポレーションは保有していない。
よって、この件については俺の独力で解決する事は困難と判断した為、本社の諜報部やPMCの情報中隊に情報収集を任せる事にした。
研究室に残された通信記録や物理的証拠、拘束した人員からの尋問などを総括すると、結果が出るのは数週間後であるとの見込みらしい。
その間、俺は別の仕事をする事になる。
それこそが、今後の俺の計画やカイザーを手中に収める為に必要な計画の一つである『大規模な軍事改革』だ。
以下が、プレジデントに提案する予定の内容となる。
カイザー・コーポレーション 軍事戦力再構築計画提案書
I.概要
本提案書は、カイザー・コーポレーション及びその傘下のカイザーPMCによる全社規模の陸上戦力及び航空戦力の再構築案である。本計画は即応性・機動性・火力投射能力・非対称戦力への対応力を強化し、同時に新技術および特殊兵器の導入を促進する。これにより社内に蔓延する反乱因子や対外的な脅威、敵対するライバル企業に対する武力制裁や対処が容易となるほか、迅速な再編を通じて正規戦・非正規戦・サイバー/電子戦環境における複合戦対応能力を実現可能とする。
Ⅱ.部隊・組織編成
1.本社直轄部隊の再編
以前までは中隊または小隊規模で各重要施設に分散配備されていたプレジデント直轄の私兵部隊を、5個中隊基幹の親衛大隊(Presidential Guard Battalion)に再編成。指揮系統を統一する事で戦術的機動性を向上させ、有事に於いての即応性を高める。
2.即応部隊の編成
以前は大隊規模で展開していた地域の機動大隊(ゲヘナ・トリニティ・アビドス・D.U.地区に点在)を、先日の褒賞内容に含まれていた機動大隊の指揮権のジェネラルへの委託に準じて、即応機動旅団(Rapid Maneuver Brigade)として再編成。司令部をD.U.地区に配置し、ジェネラル指揮下で最も即応性の高い部隊とする。
3.地域展開型部隊の整備
即応機動旅団の編成により不足した地域の対応戦力を、新たな人員・装備の整備という形で警備大隊(Security Battalions)を新たに編成。一個大隊を3個中隊基幹の300〜400人とし、ゲヘナ地区・トリニティ地区・アビドス自治区にそれぞれ2〜3個大隊を展開するものとする。
4.特務部隊の編成
先のカイザーPMC理事失脚に伴い、アビドス自治区に於いてのカイザー・コーポレーションの影響力低下やアビドス廃校対策委員会に対する武力的圧力を目的として、アビドス特務部隊を編成。特務部隊は治安維持を目的とする歩兵大隊(Infantry Battalions)と武器実験中隊(Weapons Experiment Company)で編成され、前者は3個中隊基幹の標準的な大隊で、後者は試作兵器や新型兵器(後述)を装備する特殊部隊とする。
5.非正規戦力の拡充
カイザー・マーセナリーと“雇用契約”を結んだ傭兵や出稼ぎ、便利屋などを予備部隊として即応機動旅団の支援戦力に組み込む事で、戦力の拡充を行う。
III.航空部隊改革
以前は各方面旅団に配備されていた中隊規模の5個回転翼機部隊を、旅団の指揮下から独立させ攻撃航空連隊(Attack Aviation Regiment)として再編成。これにより航空戦力は迅速な航空支援を行う事が可能であり、指揮権はカイザーPMCが持つ。
IV.陸軍戦力改革
1.新型UAVの配備
安価で敵に想定外且つ対処困難な攻撃を加え、敵の防空能力の撹乱や対空警戒意識の分散・敵重要施設の要撃を狙った新型の自爆型自律徘徊ドローンであるSD-01の量産化を提案。(試作機は完成済み)SD-01はGPS航法を使用した電子誘導により標的に突っ込み、機体に搭載された爆薬が爆発する事で敵に打撃を与える事が可能である。また、SD-01は量による圧殺をコンセプトとしている為、機体には高価なカーボンファイバーではなくグラスファイバーや樹脂系素材を使用し、エンジンには商用レシプロエンジンを改造したものを利用、電子誘導部品には安価な民間用GPSチップなど、COTS(Commercial Off-The-Shelf)部品を使用する事で生産コストを抑えるものとする。これらは各旅団直轄の無人機中隊へ大量配備され、旅団指揮下の部隊全体へより強力な支援が期待できる。
2.パワーローダー系列の発展
以前は標準型(ガトリング砲装備)のみだったパワーローダーに発展型を加える事で更に多岐に渡る任務に対応可能とするため、新たに2種類の派生型の開発を提案。それぞれ、155mm榴弾砲を搭載した火力支援型と、105mm滑空砲・ガトリング砲・増加装甲を装備した重装型とし、パワーローダー自体の汎用性を向上させる。
3.主力戦車改革
滑空砲及び榴弾砲を装備した各種主力戦車を元に、小型レールガンを装備した狙撃戦車を即応機動旅団に実験的に配備することを提案。狙撃戦車は2輌を1個小隊で編成し、常に発電車両が戦車に随伴することで継続的な戦闘を可能とする。
4.砲兵火力の強化
部隊全体の火力向上を図り、12連装227mmロケット弾発射機を装備した自走多連装ロケット砲と、52口径203mmカノン砲を装備した自走榴弾砲を実験的に即応機動旅団に配備し、機動的に投射可能な戦力を大きく増強する。
5.対砲兵レーダー構想の提案
アビドス砂漠でのカイザーPMC理事失脚の際、シャーレ側の戦力としてトリニティの砲兵戦力が運用されており、これにより対デカグラマトン大隊をはじめとする主力部隊が大きな打撃を受けた。これらの敵砲兵戦力に対抗するため、レーダー装置で弾道を解析することにより、砲弾の発射地点を特定する装置である対砲兵レーダー(Counter-battery radar)の開発を提案。レーダーによる弾道測定は、砲撃を受けた側の素早い反撃を可能とするものであり、撃った側から見れば、定点に長時間留まって砲撃を行うことは敵の反撃を受ける危険が大きくなる。これにより自走化された火砲の重要性が高まり、現状は自走火砲が普及していないキヴォトスに於いては大きな戦術的優位性を確保できるものである。
V.航空戦力改革
今回の一件から、反乱因子は外的要因を受けた特異点的戦力を運用している可能性が高く、これらを安全且つ正確に処理する為に、精密打撃能力の強化を目指す目的で滑空型短距離戦術弾道ミサイルを試験開発を提案する。これはATACMS (Army Tactical Missile System)と呼称され、発射プラットフォームは12連装227mmロケット弾発射機と統一化することで地上から素早い攻撃が可能となる。
VI.通信・電子戦力の高度化構想
1.指揮統制通信(C3)体制の近代化
本構想は、戦場情報優越を獲得・維持することを目的とし、戦術レベルから戦略レベルに至るまで通信と電子戦の融合運用を指向する提案である。C3体制の近代化の於いては、量子暗号通信装置(QECU)の導入により量子鍵配送(QKD)を基盤とする通信網で戦術通信の完全傍受耐性を確保し、完全な情報の安全性を担保した状態で作戦活動を展開可能とする。また、兵站・指揮所を展開可能な無人通信中継拠点である移動型戦術通信ノード(MTCN)を導入する事で、アビドス砂漠などの電波環境が劣悪な地域でも戦術ネットワークを維持可能とする。
2.電子攻撃機能の強化
敵の通信網を妨害することで、迅速な対処を行うことを目的に、電子攻撃機能の強化を提案する。前線投入型の無人機である戦術電子妨害ドローン(TEJD)を武器実験中隊に配備し、これは敵通信・センサー波長を特定・指向性妨害波を照射することでドローン蜂群による広域通信遮断を可能にする兵器である。また、将来的には電子攻撃能力を持った電子戦中隊(EW Company)を各旅団に配備する見通しである。
というのが、今回俺が考案した軍事改革案だ。
前世の知識と戦争のセオリー、それにキヴォトスの現状をすり合わせて叩き出した、カイザー・コーポレーションを一枚岩の軍事体制へと塗り替える案。
紙に書いてある分には「提案」だが、実態は俺の意図を各方面に通すための布石そのものだ。
そして――当然ながら、プレジデントには知られてはならない意図もある。
たとえば、俺の指揮系統に再編成された即応機動旅団と特務部隊。
その両方が完全に俺の裁量下に置かれるよう細工してある。
資料上は“緊急時対応のための指揮権移譲”と記載しているが、実際は緊急時でなくとも俺の判断ひとつで動かせる構造だ。
とはいえ、これもまだ下準備に過ぎない。
この提案が通らなければ、カイザーを中から変えるなど夢物語で終わる。
プレジデントがこの案をどう受け取るかは読めない。
俺の手腕を評価してすんなり通す可能性もあれば、逆にその意図を警戒して突っぱねてくる可能性もある。
だが、ここまでやった以上、もう引く選択肢はない。
提案書のファイルを入れた冊子をスーツの内ポケットにしまい、俺は立ち上がる。
「……さて、地雷原に踏み込む時間か」
カイザー本社、最上階。
プレジデント室へと続く専用エレベーターに向かって、俺は無言のまま歩き出した。
■
ジェネラルが扉を開け、重厚な雰囲気の部屋に足を踏み入れる。
高級な絨毯、壁に飾られた金縁の額縁、そして奥のデスクに座る男――カイザー・プレジデントがこちらに視線を向けた。
「……将軍か。座りたまえ」
俺は小さく頷き、促された椅子へと腰を下ろす。
緊張と集中を抱えたまま、スーツの内ポケットから黒いフォルダーを取り出し、プレジデントの前へと滑らせる。
「こちらが、今回の軍事改革案になります」
プレジデントは無言でフォルダーを受け取ると、すぐに中身を開いた。
そのまま数分間、室内には紙を捲る音だけが響く。
俺は一言も発さず、その沈黙に耐える。
プレジデントは何度かページを戻しながら読み込み、やがて眉を一度だけピクリと動かす。
数点に指を置いたまま、ようやく視線を上げた。
「……即応機動旅団の指揮系統が、完全に君に一任される形になっているようだが、これは意図的なものか?」
「はい。緊急対応能力と現場判断の迅速化を目的とした配置です。現場責任者が即応力を確保できなければ、計画はただの理想論に終わります」
また一ページ、また一問い。
「パワーローダーの派生型……火力支援型と重装型。コストと整備性は問題にならんか?」
「既存の生産ラインを流用できます。設計の7割以上は共通化済みです」
次第にプレジデントの表情から鋭さが消え、代わりに淡い興味のようなものが見え始めた。
彼はコーヒーカップを取り上げ、一口飲む。そして、再びジェネラルに向き直った。
「ふむ……将軍、君の案は理解した。だが、この改革を実行するには、人員はともかく、設備や生産能力が不足しているのではないか?」
その問いに、俺はすぐ答える。
「その件に関しては、カイザー・インダストリーと生産部門の連携を強化し、既存施設の増設および夜間シフトによる生産稼働率の向上を予定しています。また、旧式設備の更新も同時に進めれば、生産効率は現状の1.4倍まで引き上げ可能です」
プレジデントは資料の最終ページを閉じ、ジェネラルをじっと見据える。
そして、短くも重みある一言を落とした。
「――そうか。任せたぞ、ジェネラル」
その言葉は、命令にも信任にも聞こえた。
俺は胸中で小さく息を吐き、静かに頭を下げた。