転生者達の新エリー都、二足のわらじ生活   作:フライパンソルジャー

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転生者の掘り下げです。1人1話完結の予定です。

コテハン、カラスメイド


メイドの流儀

窓から差す朝日を浴び、私ーークロエ・ナイツはいつものように午前五時きっかりに目を覚ました。

朝の空気はどこまでも透明であり、ガラス窓越しに差し込む薄桃色の光が、床を優しく照らしている。空気は冷たいがどこか心地よい。

寝起きは大多数の誰もが低いテンションに陥るが、私のその日の気分は天元突破であった。

 

なぜなら、私が推す、いと尊き存在を起こしに行くという世界で最も神聖な儀式に加え、ずっと出会いたかったプロキシ兄妹と仕事を共にする予定が控えているためである。

 

シャワーを手早く浴び体を清め、体を拭き、皺一つ残さずにアイロンをかけたメイド服に着替え、髪の整えに丁寧に時間を掛ける。スカートのひだを完璧に整え、靴を磨き、お気に入りの香水を少し。

 

「……完璧」

 

鏡の前で黒くて長く切りそろえられた髪に、透き通るような白い肌の美しい少女が静かに微笑んでいた。自分では満面の笑みのつもりであるがこの体の表情筋はどうも乏しい。まあだらしない顔を大好きな同僚に晒すよりはマシであると片づけた。

 

間違いなく完璧で瀟洒なメイドといった印象を受けるだろうが、仲間たちがここにいれば内面と容姿が反比例し過ぎだと文句を垂れることであろう。

 

私室から出て、愛しい推しがいる部屋に向かう。

 

歩く姿は冷静そのものだがその実、心臓は狂った野兎の如くドクドクと跳ね回り、血は全身の血管を爆走し巡りに巡っている。脳内では結婚後の老後までの生活設計を見据えていた。

 

——おはようございます、クロエ。今日もお早いですね。

 

そんなふうに優しく微笑んでくれるんでしょう?ええ!分かっていますとも!

 

その声がこの耳の奥に直接しみこんで鼓膜が妊娠するかと思うほど甘いっていうのに、どうして毎朝心臓が止まらずにいられるのか自分でも不思議である。

ねえライカンお兄様、今日こそ……いや、今日も……いや、やっぱり今日こそ、「結婚を前提に私を飼ってくださいませんか」と土下座しながら懇願したい。

彼が持つリードを首にはめ、新エリー都中を散歩したい。

 

私はそんな淑女の妄想の後、扉の前で深呼吸を行い、高ぶった気持ちを落ち着かせる。シリオンは五感が優れている、私の脈拍に気づき、いらぬ心配をさせる訳にはいかないのだ。

 

若者が過剰供給に耐えられなくなったときはSNSよろしく尊いという感情を投稿するのが効果的である。

しかし、この気持ちを世間に零すわけにはいかないという理性は流石に残っているので、転生者掲示板を開き、先ほどの妄想含め、この思いを投下する。

これが現在自身が持つ最強の感情抑制法である。

 

ーーー

 

2:サソリ薬師 ID:zzztensei03

……ああ?もう朝かよ

 

3:サイ男 ID:zzztensei01

おはよ、いつにも増して酷いな

 

4:軟体エンジニア ID:zzztensei05

この目覚まし、スヌーズ機能無いのバグでしょ

 

5:デンキウナギ ID:zzztensei02

ち、くそが昨日何時就寝だと思ってんだよ

 

ーーー

 

ややあって失礼な返答が届く。寝起きだから機嫌が悪いのは分かるが少しは落ち着いて欲しい。

 

ーーー

 

7:デンキウナギ ID:zzztensei02

てめえが言うなボケ

 

ーーー

 

初めのころは全員が「うるさい」、「黙れ」、「ぶっ殺すぞ」、「コケコケうるせぇんだよクソ鳥が」とかなり殺気立っていたが今ではある程度慣れたのか定時に鳴り出す不快なアラームくらいの認識である。

 

早起きは良い心がけであるとリナさんも言っていたため、私は感情抑制でき、皆は早起きできる一石二鳥で良いことずくめである。

それに私に文句を言いながらもこいつらは作中のネームドキャラとの交流の自慢や過労による愚痴やキチゲの開放に掲示板を利用している時があるのだ。

 

まったくこいつらは掲示板をなんだと思っているのか。同じ仲間として情けない限りである。

 

ーーー

 

11:サソリ薬師 ID:zzztensei03

こちらの台詞だわ

 

ーーー

 

いつもの仲間たちとのやり取りの後、すっかり冷静になった私は意識を現実に向ける。

 

軽いノックの後、扉を静かに開けると珍しく彼は未だご就寝中ようだ。

恐らく昨日の仕事がハードだったのだろう。いつもであれば身支度を既に整えている時間である。これ幸いとベットに近づき尊き寝顔を拝見する。

 

そこには、神が与えたもうた至高の造形美が、無防備に眠っていた。

常につけている眼帯や拘束具の様なプロテクターは外され、実に愛くるしい穏やかな寝顔を浮かべる狼のシリオン、自分と暮らすもう一人の同居人フォン・ライカンである。

 

ーーめっちゃかわっ!!!

 

心臓を撃ち抜かれ思わず叫びそうになり暫く隣で悶える。

 

彼とは幼いころからの付き合いである。勿論彼がとある怪盗団に所属していた時から。

紆余曲折あったが今では兄妹の様な関係であり、一緒に暮らしている。

 

勿論クロエはもっと密な関係になってもよい何時でもウェルカム状態であるが、彼はそう思っている。

そもそも血の繋がらない男女関係であるため、初めは別々に暮らすことを提案していたがクロエが妹分という立場を誇示し、盛大にごねて今の状態に落ち着いたのだ。

 

その時の台詞は「ライカンお兄様と離れたくない、一人は寂しいから嫌です」である。

彼の良心に訴えかける実に卑劣な企みといえるだろう。

 

暫く寝顔を堪能していたがそろそろ起こさなければ彼が困るであろう。まあ、彼ならわざわざ起こさなくても日々の生活習慣から勝手に起きそうではあるが。

目の前の光景を脳内フォルダにしっかりと保管し、名残惜しく感じながらも体を揺すり起こすことにする。

 

「お兄様、起きてください。朝ですよ」

 

触れた箇所を堪能するように揺すっていると特に労することもなくライカンは目を開け上体を起こす。

 

「……おはようございます、クロエ。私としたことが少々気を抜き過ぎていたようです」

 

「確かにライカンお兄様が私が起こしに来るまで眠っているのは珍しいですね。ふふ、これは今日の朝食は私を頼ることになりそうですね」

 

「ええ、そのようです。申し訳ない。ヴィクトリア家政の筆頭がこのように情けなくては旦那様もきっと失望なさるでしょう」

 

うあああああああああああああああ!!!!

耳がペタンて!?しょんぼりしてる!?可愛い!このままベットに押し倒して襲っtーー!

いや待て私落ち着け

 

内心を悟らせず薄く微笑みながら、私は淡々と続ける。

 

「そのような顔をしなくても。昨晩は少しお疲れのご様子だったので、きっとお仕事は大変だったのでしょう。お兄様が頑張っているのは私含め、皆承知しています。もう少し気を抜いても良いではありませんか。私が支えます。どうです?お兄様、朝の身支度も私に頼ってみませんか?(そして結婚しませんか?)」

 

それを聞き自分を和ますためのジョークだと感じたのか、ライカンは目の前の少女が行った気遣いに感謝する。

 

「ふふ、冗談が過ぎますよクロエ」

 

「(冗談じゃないが!?)……あらごめんなさいライカンお兄様、それでは私は朝食の準備をして参ります」

 

「ええ、……ありがとう」

 

 

ーーーーーー

 

「それで本日は確かエレグ・マックスCEO様の依頼で家事代行でしたね?」

 

「ええ、いつも通りの指名依頼です」

 

朝の食卓を囲みながら二人は予定を話し合う。ちなみにクロエが用意した食事は日本人にとってなじみ深い和食であり、クロエの好みであるとライカンも把握しており特に驚きはない。むしろ、クロエが振る舞ってくれるうちにライカンも和食を気に入り、ライカンが朝食を振る舞う時も、たまに作るほどだ。

 

「しかし、今日は心なしか嬉しそうな……、いえ邪推はやめておきましょう。どうか彼方に失礼のないように」

 

「勿論です、全身全霊で依頼を尽くす所存です!」

 

クロエの意気込みにライカンは本当に珍しいものを見たと目を見開く、彼女のこなす仕事ぶりは顧客の満足度が非常に高く、更に非常に珍しい鳥のシリオンである。彼女の優れた容姿に加え、背中には羽根の一枚一枚に異様な艶を帯びた一対の漆黒の翼。どこか神秘を湛えた姿は富裕層の者にとっては堪らないのだろう。

彼女を再度直接指名することや引き抜きを持ち掛けるところも少なくはない。彼女は懇切丁寧にやんわりと断っているが、強引にでも迫られたときはヴィクトリア家政総出で『もてなす』ことになるだろう。

 

引き抜きを持ちかけることこそないが、件のエレグ氏も度々指名依頼を行っている。

その時のクロエはどこかエレンの職務態度を思わせるやる気のなさを見せていたと記憶している。

 

180度違う態度の変化に少々違和感を感じながらも、やる気であるのは良いことだとライカンは思いなおす。

 

「事務所には本日顔を出すことができませんが、ライカンお兄様もお仕事を頑張ってください。それと台所にお弁当を置いてあります。愛情をたくさん込めて作りましたのでぜひお召し上がりくださいね。」

 

「そういった物言いは誤解を……、いえ……、ありがとうございますクロエ。いただきます。」

 

こてんと首を傾げるクロエを見て途中で言葉を止める。

クロエは誰に対しても親しい間柄には包み欠かさず好意をぶつける。それは自身を含むヴィクトリア家政のメンバーであったり、怪盗時代の相棒に対してでもある。

 

エレンがヴィクトリア家政に入ってきたばかりの頃、クロエの作った、具材をハート形に整えた弁当を見て「ボス、熱々じゃん」とからかってきたこともあったが、

クロエが「新人ちゃんは飴が好きなのですね、こちらをどうぞ」とハート形の飴を渡し、仕事終わりには「任務完了ですね。皆さん、お疲れ様でした」とメンバーを一人一人にハグして回るなど、やや過剰なスキンシップを行っていた。

 

計算も、下心も、一切ない。ただただ、好きだから伝えたい。

彼女の愛情表現は全員を振り回していた。

 

エレンはその後私をからかうことが無くなったが、代わりに「あの人たらしを何とかして」と顔を赤らめながら文句を言うようになった。

 

とはいえ、これらは怪盗時代から続き、相棒と苦労したものだが今ではある程度慣れている。

今でも心臓に悪いこともあるが、身内にしか行っていないようであるし依頼先で失礼を起こしたり、無用なトラブルを起こすことない。

 

ああ、タイムフィールド家の依頼では歳も近く、交友関係を結んだからか、ご令嬢にあの愛情表現を行っていたことがあったな。今思い出しても頭が痛い。

 

「では、行ってまいりますね。夜になる前には戻ります」

 

食事を済ませ、片づけを終え、彼女が出かけるのを見送った後、ライカンは朝の彼女の態度に対する違和感に思い立った。

 

似ているのだ。タイムフィールド家の依頼に赴くときや、エレンやカリンがヴィクトリア家政に入ってきたときの彼女の様子に。

 

彼女は表情こそ乏しく感じるが長年の付き合いのライカンにはある程度把握することができる。

 

歳の近いエレグ氏の指名依頼とそれに対するあのクロエの態度。

 

気づくべきではなかったと後悔を滲ませながらもライカンは職場へと赴く。その足取りは普段に比べて少し重く感じた。 

 

 

ーーーーーー

 

 

新エリー都に存在する某共生ホロウ内にてーー

 

一匹のボンプと知能機械人が機能を停止した廃ビルにて会話を交わしていた。ビルの壁面は崩れ、天井はもはや存在せず、日差しを流し込んでいる。

 

「パエトーン、よく依頼を受けてくれた。だが早速依頼に取り掛かる前に今日は俺の仲間を一人紹介したい。これが中々個性的な奴でな、すまないが仲良くしてくれると嬉しい。」

 

その場にいたのは仮契約を結んだ、”ヒール”のエレクトロと”パエトーン”のアキラ(イアス)であった。

本日は試運転としてホロウ内の調査である。

 

「エレクトロさんの仲間?勿論、仮とはいえ、協力関係になったのだからこちらもメンバーとは仲良くしたい。すまないなんてとんでもない、こちらこそ嬉しいよ。」

 

「……感謝する。」

 

どこかきまりが悪いエレクトロさんの様子を訝しみつつ、もうすぐこの地点に来るらしい仲間を待つ。少しして上空に影が差すのを感じた。

 

「来たようだな。」

 

エレクトロさんの声を受け上を見上げると、黒い何かが飛んでいる。此方に気づいたのかどんどんスピードを上げて此方に向かってくる。そしてーー

 

「初めまして!!パエトーン!私は”ファルコン”っていうの、会えてとっても光栄だわ!!」

 

「ぐふっ!?」

 

此方に向かう勢いのままイアスを抱きしめる、視界いっぱいには鳥の翼を取り付けた知能機械人。

あまりの衝撃でアキラは思わず苦悶の声を漏らす。

 

正体を隠すことで本性を曝け出したクロエ・ナイツであった。




コードネーム、ヴァルチャーにしたかったけどゼンゼロに出てるんですよね。
スナイパーお姉さん・・・めっちゃ好きなキャラ。

という訳でファルコンに。

今のところ元ネタ要素を入れるつもりはないです。
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