憑依先の悪役将軍の立ち回りが地獄過ぎる件 作:Mind β
「……ここは?」
意識の縁から引き上げられるように、カヨコのまぶたがゆっくりと開いた。
視界に最初に映ったのは、眩しいほどに白い天井。
鼻をかすめる薬品と消毒液の匂いが、どこか懐かしい安心感と同時に、ここが病院であることを告げていた。
カーテン越しに流れる風が、清潔な布地をふわりと揺らしている。
さっきまでの地獄のような戦場が嘘だったかのような、静かで穏やかな空間。
「あ、カヨコちゃん起きた~?」
その声に反応しようと身を起こしかけた瞬間、隣のベッドから顔を覗かせたのはムツキだった。
変わらぬ調子で笑いながら、彼女はベッドの縁に腰掛けている。
視線を移すと、アルもハルカも同じ病室内にいた。
二人ともまだ包帯は巻いているが、顔色は悪くなく、冗談を交わせそうなほどには回復している様子だった。
ようやく安心の息をつこうとした――その時だった。
ガチャリ、と病室の扉が徐に開き、4人の人影が病室へ現れる。
2人の銃を持ったカイザーPMCの兵士と、スーツを着込んだ職員。
中央に立つのは、あの男。
カイザーの将軍だった。
「体調はどうだ? 最低限の処置はしたつもりだが、不備があったら言ってくれたまえ」
開口一番、ジェネラルはそう言って、病室にいる便利屋68の四人へ視線を向けた。
彼は続けて、手にしていた資料数枚をベッド横のテーブルへすっと滑らせる。
「特に文句が無いのであれば、本題に移ろう。まずはこの資料を読んで頂こう」
カヨコ、アル、ムツキ、ハルカ――それぞれが紙束を手に取り、視線を落とす。
そこには、先ほど戦った鋼鉄のサソリに関する構造図、武装リスト、稼働機構の解説といった技術情報がびっしりと並んでいた。
「これは……」
カヨコが眉をひそめて呟くと、ジェネラルが解説を加える。
「
機体フレームの材質、自己修復機構の痕跡、内部動力系の異常な反応――戦闘中に感じたあの違和感が、全て“未知技術”で説明がつく。
カヨコは静かに頷くと、今度はスーツ姿の職員が前へ出る。
「コレとの交戦時、何か違和感や印象に残った事象はありませんでしたでしょうか?」
「違和感……というより、異質さはあった。銃弾や爆薬が効かない装甲に、ハルカを一撃で行動不能にする弾丸とか」
「あれほんっとに痛かったんだから!! 一体どこの規格の弾薬を使ってるのよ!?」
職員の問いかけに、カヨコが冷静に答える一方で、アルが怒気混じりに抗議する。
脇腹を押さえながら、悔しさと痛みを思い出すように顔をしかめるその様子に、ジェネラルは軽く頷いた。
「やはり、考察は間違っていなかったようだな。直ぐに情報を研究室に持ち帰って機体を詳しく調べる。……便利屋は暫く安静にしていろ。未知の攻撃を受けている以上、いつ何が起こるか分からんからな」
その言葉に職員も頷き、護衛の兵士を引き連れて出口へ向かう。
ジェネラルもそれに続こうとしたが、ふと背後からの声に足を止める。
「……前にも聞いたと思うけど、なんでここまでしてくれるの?」
「合理的に言えば、貴様らは一度実戦で未知兵器と交戦し、生還した有用なデータを持つ存在だ。それを失うのは企業として大きな損失と言える」
「ふぅん、そう」
カヨコは納得したような、していないような曖昧な表情で頷いた。
ジェネラルたちが病室を後にする姿を見送りながら、誰に聞かせるでもなく、ぽつりと呟いた。
「……変な人」
⬛︎
「面倒な事になりましたね、将軍。まさか分離主義勢力共が外部の勢力と通じているとは」
「厄介な事だ。外部にカイザー・コーポレーションを良く思わない連中が居るのは承知の上だが、まさか反乱因子を通じて攻撃を企てるとはな」
「全くです。しかし……カイザーと敵対する勢力というと、何なのでしょうか? 私には連邦捜査部“シャーレ”か、アビドス砂漠の利権で対立しているセイント・ネフティスくらいしか思いつかないのですが……」
便利屋68が療養している病院を後にし、ジェネラルと職員を乗せたワゴン車がカイザーPMCの研究施設へ向かう。
その車内で、やや抑えた声の会話が交わされていた。
(まさか便利屋が、あんな風にやられるとはな……)
内心でジェネラルはそう思う。
あの鋼鉄のサソリに捕まれ、カヨコが宙吊りにされたあの瞬間――モニター越しとはいえ、焦りのあまり椅子から立ち上がったのは記憶に新しい。
まさか自分のせいでネームドキャラに致命的な傷を負わせて本編ストーリーに重大な影響を与えてしまうのではないか、と危惧したものだが杞憂に終わって良かった。
勿論、まだ油断はできないが。
そして、あの鋼鉄のサソリ。
まだ本格的な調査は行われていないが、駆け込みで搬入した研究所によると、奴の装備していた機関砲には神秘に干渉する弾丸が使われていたというのだ。
更に、装甲にはナノマシンによる自己修復機能が備え付けられ、動力にはなんと重水素を用いた小型核融合炉が使用されていた。
まだ詳細な解析はまだだが、もしあそこでパワーローダーが放っていたAPFSDSが核融合炉に命中していたらと思うとゾッとする。
というか、何で小型の核融合炉などというオーバーテクノロジーにも程がある物が実用化され、搭載していたのかは些か謎だ。
確かにキヴォトスは宇宙戦艦やら手持ちのレールガンがあるほど技術が突出しているのは確かだが、小型核融合炉やナノマシンはやりすぎだと思うのだが。
これを受けて、カイザー・コーポレーションは反乱因子が保有していた兵器は何らかの外的要因を受けて完成したものだと断定。
速やかに情報部を通じてルートを調べさせると共に、機体の解析を命じた。
「将軍はこれからどうするおつもりで?」
「どう…とは?」
徐に運転席から職員が問いかける。
「分離主義勢力共の事ですよ。オーバーテクノロジーを利用した兵器を他にも保有している可能性がある以上、戦力の増強は避けられないのでは?」
「……それもそうだな。奴らの動きが想像以上に早い以上、こちらも次に備えねばならん。あのサソリの解析データを元に、新兵器の設計にも着手しておくか」
「でしたら、私が本社と掛け合いましょう。調査報告と併せて、現在の戦力では不足している点を説けば、戦力拡張の承認も通しやすくなるはずです」
「……助かる。君のような部下がいてくれて、本当に心強いよ」
ワゴン車は静かに加速し、カイザーPMCの研究施設へと通じる高速道路を滑るように進んでいった。