憑依先の悪役将軍の立ち回りが地獄過ぎる件   作:Mind β

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ほんの少しだけ、便利屋推しの人は注意です。


第6話:企業殲滅依頼②

 

「こ、こちら警備部隊!! 前衛が壊滅しました、増援を――」

 

「士長がやられた!! この化け物――」

 

 残りのもう一つの民間軍事会社。

 

「分かった!! 降伏する!! だからその物騒なものをしまってくれ!!」

 

 そして、三つの子会社。

 

 その全てをテンポ良く制圧した便利屋は、最後の殲滅対象……第45戦闘工学研究所へと向かっていた。

 この研究所はカイザーの将軍曰く『以前はカイザーPMCの兵器を開発・研究していた施設で、パワーローダーの基礎部分やゴリアテのレーザー砲はここで作られたもの』だそうだ。

 

 やがて研究所に到着し、便利屋は正面玄関を見る。

 警備は居なかった。

 

「……警備は無し。罠かな?」

 

「分からないわ。皆んな、慎重に行って頂戴」

 

「もちろん♪」

 

「わ、分かりました…」

 

 正面入口に人影はなく、監視カメラも作動している気配がない。

 ムツキが何の躊躇もなくガラス扉を蹴破り、四人は内部へと突入した。

 

 だが――警報は鳴らなかった。

 

 沈黙したロビーに、割れたガラスの音と便利屋の足音だけが響く。

 蛍光灯の白い光だけが空間を照らし、空気はひどく乾いていた。

 

(何か…妙に引っ掛かる)

 

 依頼は順調、爆薬や支援も潤沢。

 なのに、自分の背筋を伝うこの不快な冷たさは何だ。

 

「……社長、やっぱりこの研究所は何かおかしい。警戒して」

 

「勿論よ。ハルカ、ムツキは直ぐに敵を撹乱できるように煙幕弾とジャミング弾の用意をしておいて」

 

 アルの声色は、いつもの軽さが抜け落ちていた。

 飄々とした表情の下に、緊張が見える。

 ムツキも軽い冗談を挟まず、即座に指示通りの準備に取りかかる。

 

 彼女たちが進む通路は無機質で無装飾。

 壁も天井も同じ灰色で、金属の冷たさが全方位から襲いかかってくる。

 

 研究所内部に侵入してから約10分後。

 

 ――不意に、館内放送が響いた。

 

『研究所内への侵入者を検出。脅威レベル不明、対処開始』

 

 無機質で抑揚のない合成音声。

 その言葉と同時に、廊下の壁が静かに動き出した。

 

 スライドするように壁面が開き、まるで建物自体が変形するように巨大なホールが姿を現す。

 直前まで存在していた通路の出口は塞がれ、彼女たちは完全に包囲されるような形となる。

 

 まるで仕組まれたようなタイミングだった。

 

 だが、警戒する間もなく、今度は天井が音もなく開く。

 

 そこから落ちてきたのは――

 

「なによ、あれ……」

 

 アルが震える声で言った。

 

 彼女の目線の先に居たのは、“鋼鉄のサソリ”だった。

 

 全長は乗用車ほど。

 光沢のない黒いボディに、無数のリベット。

 関節ごとに異常な数の油圧チューブが通され、脚部は音を立てずに床を這う。

 背中には二連装の機関砲。

 目に相当する赤いセンサーが、こちらをじっと見据えていた。

 

「まさか……これが今回の任務の本当の目的なの?」

 

 目の前に現れた異質な存在――鋼鉄のサソリ。

 カヨコは思わず息を漏らした。

 

 これまで任務の過程で、将軍に対して明確な悪印象を持つことはなかった。

 だが今、自分たちを“依頼”という名目でこの研究所に送り込み、実験かあるいは抹殺のための囮にしたのではないかという疑念が胸をよぎる。

 

 だが、その思考はわずか数秒で遮られる。

 

ブォンッ――ガガガガガッ!!

 

「あがッ!?」

 

 サソリの背に搭載された二連装機関砲が、何の前触れもなく火を噴いた。

 街に流通しているものよりも明らかに火力が高いそれがハルカの腹部に突き刺さり、彼女の身体を仰け反らせて吹き飛ばす。

 

 鋭い音と共に彼女の体が床に叩きつけられ、呻き声が漏れる。

 

「――ハルカ!!」

 

「社長、危ない!!」

 

 反射的にハルカへ駆け寄ろうとするアル。

 だが、彼女の動きに合わせるように、サソリの砲口が再びギラリと赤光を放った。

 

 それに気づいたカヨコが咄嗟に叫ぶ。

 

 アルは初弾をギリギリでかわすも、追撃の連射が避けきれず。

 

ババババッ!!

 

 数発がアルの胴に突き刺さり、苦悶に顔を歪める。

 カヨコはすぐさまスモークグレネードを取り出し、床に叩きつけた。

 

ボシュウッ――!

 

 白煙が一気に広がり、視界を遮る。

 煙が壁となってサソリのセンサーから彼女たちを隠す間に、カヨコとムツキがそれぞれ駆け寄る。

 

「社長、大丈夫!? ムツキはハルカをお願い!」

 

「分かった、任せて!!」

 

 二人は倒れた仲間に肩を貸し、怪我の様子を確認する。

 

「私は平気よ。でも、ハルカが……」

 

「――ぅ」

 

 アルは脇腹を押さえつつも辛うじて立っていたが、ハルカは床に伏し、唸るだけで動けない。

 

(見る限りは少し威力が高いだけの機関砲の筈……どうしてこんなに?)

 

 カヨコの中に、これまでの経験とは明らかに違う感覚があった。

 彼女自身、便利屋のメンバーは並の攻撃では沈まないと自負しているつもりだった。

 だが、機関砲数発でハルカが行動不能になった事実を鑑みると、何かしら特殊な弾薬を使用している可能性が高かった。

 

「皆んな聞いて。煙が晴れたら一斉に多方向から掛かるよ。社長は遠距離から狙撃、ムツキは爆薬と仮帽付徹甲弾(APBC)で動きながら攻撃、私はハルカをカバーしながら陽動する」

 

「わ、分かったわ!!」

 

「了解、任せて~!」

 

 煙の濃度が徐々に薄まり、視界がじわじわと戻ってくる。

 三人の視線は正面――サソリがいた場所に集中していた。

 

 しかし。

 

(あれ? さっきまで居た場所に何も――まさか!?)

 

 アルが一歩踏み出しながら気づく。

 サソリの姿が消えている。

 それに気づいた他の二人も咄嗟に上を見る――が、遅かった。

 

 ガシュッ!!

 

 天井から伸びた何かが、ムツキの身体を鷲掴みにする。

 鋼鉄のサソリのハサミに似たマニピュレーターが彼女を捕らえ、天井から急降下。

 

「うぐッ!?」

 

 そのままムツキの身体は宙を舞い、地面に何度も何度も、容赦なく地面に叩きつけられる。

 床が砕け、コンクリの破片が飛び散る。

 

「――ッ!! やめなさい!!」

 

 アルが叫び、すかさず愛銃『ワインレッド・アドマイアー』を撃つ。

 

ダンッ! ダンッ! ダンッ!

 

 アルの神秘を纏った銃弾がサソリの装甲を貫く――かに見えたが、実際には弾丸はただの塗装を削る程度に留まり、深くは届いていなかった。

 

(効いてない……やっぱり、今まで出会ってきたロボットとは強さが異次元すぎる。なんでカイザーはこんな物を……?)

 

 白煙の中、鋼鉄の咆哮だけがこだまする。

 手も足も出ない中、便利屋は圧倒的な敵意と暴力の只中に立たされていた。

 

 行動不能となったハルカとムツキ。

 残ったのはアルとカヨコだけであり、アルのライフルで装甲に傷が付かないのであれば、もはや為す術はない。

 

 ――状況は、絶望的だった。

 

 

 

 

⬛︎

 

 

 

 

「何? 便利屋からの定期報告が途絶えただと?」

 

「はい。今までは数時間以内には1社を制圧し、定期報告が入っていたのですが……」

 

 報告を受けた俺は、薄暗い指揮センターの一角でモニターの光を見つめていた。

 静寂に包まれた室内に、機器の駆動音と部下の声だけが鳴り響いている。

 

「ううむ……」

 

 状況としては些細な異変。

 だがその些細な異変が、俺にとっては嫌な予感として、心の奥底に深々と纏わり付いていた。

 

 よりにもよって報告が途絶えたのが、反乱因子の未知の兵器があるであろう研究所であり、万が一の事があれば個人的には大変不味い事態である。

 

「確かに不自然ではあるな。一応、スカウトチームを研究所へ派遣する。即応部隊は研究所付近で待機、スカウトチームは施設内に突入させるよう伝えろ」

 

「了解しました」

 

 俺は熟考の末、部隊の派遣を決定。

 合わせて大隊規模にもなる大規模な部隊を、研究所に派遣するよう指示した。

 

(便利屋68……無事でいてくれ)

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