憑依先の悪役将軍の立ち回りが地獄過ぎる件 作:Mind β
乱暴に開け放たれた扉、玄関口に立つ4人の人影、静まり返る事務所内。
末端の職員らからすれば誰だ?失礼な客だな、程度に思っているかもしれないが、俺は事情が違う。
生前からストーリー・任務を通じて世話になり、推しのグループの一つ、便利屋68。
そんな彼女らが、目の前に立っていた。
「はぁ…はぁ……間に合ったようね…」
「まだ閉店はしてない…ギリギリだったね、社長」
「くふふ〜! アルちゃん、何を貰うつもり? せっかくなら贅沢しない〜?」
「わ、私はアル様に従います……」
『ネームド生徒に会う』という目標をいとも簡単に達成してしまった現状に唖然とする俺を側に、閉店間際で間に合ったことを喜び合う便利屋の面々。
おい待て、贅沢って何だ。
うちは飲食店じゃないぞ。
と、玄関口から白髪の少女――浅黄ムツキが満面で窓口まで駆け寄り、言い放った。
「傭兵支援を受けたいんだけど…まだ閉店時間じゃないし〜、いいよね!」
「え、ええ…構いませんが……閉店間際ですので、そこまで踏み込んだ取引は行えないという点については留意して頂きたく…」
溌剌とした声でそう言うムツキに、窓口の職員は若干戸惑いながらもそう答える。
まあ確かに、今思えば犯罪やら何やらが平然と横行しているのが依頼型事業者というもの。
ムツキのような可憐な少女が実はゲヘナトップクラスの戦闘集団の一人とは思いもしないだろう。
「まあ待ちたまえ、せっかく営業時間内に駆け込んできてくれたのだ。こちらもビジネス、多少は営業時間をオーバーしても許してやろうじゃないか」
「よ、宜しいのですか!?」
「ふぅ〜ん…ほらほらアルちゃん!! ちゃんと対応してくれるって!!」
流石に今回の件は特例と云うことで、窓口の職員に俺はそう言う。
その言葉にムツキは一瞬だけ観察するような鋭い目を俺に向けた後に、アル達を呼びにとてとてと玄関口に走っていく。
……こういう時に、ジェネラルの
素の俺か、憑依したのがジェネラルのような性格の者でなければとっくに緊張で口調が崩れ、醜態を晒していたことだろう。
「本当は窓口を通じて……と言いたいところだが。閉店間際だ、別室で取引をしよう」
「……ほ、本当に安全なんでしょうね?」
「あ、アル様に何かあった時は私は――」
閉店後も窓口で取引するのは職員達の負担になるからと、一部の警備員以外をさっさと帰宅させ、別室へと彼女達を誘導する。
ここまで人払いを徹底したら普通は怪しんで真意の一つくらいは聞いてもおかしくは…いや、そもそもアビドス編でカイザーと敵対した便利屋がこんな直ぐに訪れるとは謎だが……まあ良い。
運が良ければ、便利屋68というゲヘナ屈指の戦闘集団をこちら側に引き入れる可能性があるのだ。
この機会を逃す訳にはいかない。
自分の対話次第で今後の計画が変わる。
俺は大きな緊張感を持って、別室の扉を開いた。
⬛︎
「……それで? わざわざ別室に呼んだ本当の理由は何? わざわざ人払いまでしてるようだけど」
「………」
別室の対面式のデスクチェアに座るなり、開口一番にカヨコがそう言い放った。
…やはり、本人を目の前にすると雰囲気がまるで違う。
ゲーム内ではあくまで立ち絵の範疇で見ていたが、明確な警戒心を孕んだカヨコの鋭い眼光は俺の言葉を一瞬だが詰まらせるのに充分だった。
本人には申し訳ないが、確かにこれは警官(といっても悪質な汚職警官だが)に警戒されるのも仕方がないと思えてしまう。
まあそれは置いておいて……このカヨコの雰囲気から察するに、やはり便利屋も便利屋で思惑がある可能性が高い。
ここは少し、仕掛けるか。
「ククク…やはりそこまで読んでいたか、鬼方カヨコ」
「ッ……!」
俺は眼光の圧に負けないように、少しばかり音圧を上げた声で言う。
いきなり自分の名前を読み上げられた事が予想外だったのか、カヨコの顔が驚愕に染まる。
よし、良い兆候だ。
言葉の裏の読み合いでは、このまま話の触りから少しでも主導権を握ることが重要だ。
「どこでその名前を?」
「ふん、お前達がアビドスでやった事は全て諜報部を通じて把握済みだ。依頼人を裏切って噛み付き……理事長を失脚に追い込んだ事まで…全て、だ」
俺がそう答えると、カヨコに並びアルの表情が険しくなる。
やはり俺の『依頼人を裏切った』という部分が効いたのだろうか。
(くっ…生徒を虐めたくない、虐めたくないが!! ここで変に譲歩する訳には…!!)
俺は心の中は汗だくになりながら、言葉を続ける。
「さあ、それで……支援の申請内容は何だ? 資金援助か? 弾薬支給か? 何でも言うが良い、カイザー・マーセナリーは顧客を選ばない」
「……何が目的なの。わざわざ敵である私達を招き入れて」
「はて? 目的などないさ。ただ私はカイザー・マーセナリーの総括として取引を行なっているだけだ。わざわざ信用も信頼も無いお前らとな」
と、ここでダンマリを貫いていたアルが叫んだ。
「で、でも! 私達は敵なのよ!? 貴方の上司を失脚に追い込んで……」
「ふん。愚問だな」
と、言い放った時点で、全員の顔を見て俺はやらかした可能性を悟る。
アルは何か怯えたような表情を浮かべ、カヨコは相変わらずの眼光、ハルカは今にも爆薬で事務所を吹き飛ばしそうな剣幕で俺を睨み付け、ムツキに至っては無表情だ。
待て、最後が一番ヤバそうと思うのは俺だけか?
ええいクソ!!俺の馬鹿!!
こうなったら悪役のまま散ってやる!!
俺はカルバノグ二章でいつしか聞いたジェネラルのセリフを思い出し、その言葉を並べる。
「勿論、お前達の事を俺は快く思ってはいない。だが、どんなに憎い相手でも笑顔で握手できてこそ社会人だ。個人の私情でビジネスの決定を左右しては、大業は成し遂げられん。そうだろう?
俺はそう言い切り、一息を吐く。
さあ、煮るなり焼くなり好きにしろ、便利屋68――
そう覚悟を決め、静かに目を閉じる。
だが、返ってきたのは予想外の返答であった。
ダァン!
「あ、あ、あ、アウトロー!!! 凄く、すっごくアウトローよ!!」
「――は?」
机を手で叩く音が聞こえ何事かと目を開いた先に居たのは、目をキラッキラに輝かせ体を机に乗り上げるアルの姿だった。
⬜︎
「……待て、つまりお前達は本当にただ生活に困窮していただけだったのか?」
「恥ずかしいけど……うん。この前の依頼人が酷くてね、報酬の未払いだけじゃなくて、事務所ごと迷惑料として押収されちゃって。もちろん後日
「…そうか」
うーん、つまり便利屋は何も企んでおらず、ただ本当に食う飯もなく此処に助けを求めようとしていたと。
とんだすれ違いだな、おい。
まあだとしたら、先ほどのアルの険しい表情の理由も理解できる。
ここで取引が成立しない場合、本当に飢え死にする可能性も出てくるからだろうな。
流石にそれは先生が阻止するだろうが…
(……ん? 待てよ、だとしたら俺はただ食う飯もなく助けを求めに来た少女達にあんな心無い言葉を吐いた、ということになるのか…?)
よしハルカ、俺を殺せ。
クソぉ!!!
今直ぐにでもスライディング土下座をして全力謝罪したい気分だ!!!
ただ、流石にそれは逆にドン引きされる未来しか見えないので、社会人なりの謝罪をしておく。
「すまなかった、あろう事か正当な取引相手に陰湿な言葉攻めをしてしまうとはな。ここに、カイザー・マーセナリー総括取締役として謝罪しよう」
「…別に。私は気にしてない」
「ん〜! 私も別に良いかな〜、謝罪してくれたし〜?」
「私は……アル様が平気であれば…」
と、俺の謝罪に対しては、3人は表上だけかもしれないが、一先ずは受け入れてくれた。
それで当の本人だが……
「憎い相手でも笑顔で握手できてこそ……私情では大業は成し遂げられない……ふふふ」
完全に俺(正確にはジェネラル)の言葉を恍惚の表情でリピートし続けている。
いや何なんだ、これ。
「あははっ! アルちゃんは前から公私を区別をモットーにしてるからね〜、今の言葉が刺さったんでしょ!」
「社長は根が優しいからね。公私を完全に分け隔てるのが完璧なアウトローに見えたんだろうけど……」
ムツキに続いて言ったカヨコが、俺に目を向ける。
多分カヨコは「でも、カイザーの人間にときめいちゃダメでしょ」という顔だ。
俺もそれは同意見。
今のでときめくなら理事だって雰囲気はアウトロー……いや、アイツは直ぐ感情に流されてたな……
まあ何はともあれ、すれ違いは解けたのだ。
後は真っ当なビジネスの時間だ。
⬛︎
「さて、誤解も解けたところで本題に入りたいのだが……」
そう言いかけた俺は、目の前の惨状に言葉を詰まらせる。
さっきまでの元気は何処へ、と言った具合に便利屋の面々は威勢を失っていた。
原因は言わずもがなだが……
「うぅ…お腹が、減ったわ……」
はい。
なんと彼女達、数日間何も食べてなかったようです。
先ほどまではカイザーの協力をわざわざ仰ぎに行く、と云う緊張感やら何やらで空腹が紛れていたらしいが、安心で溜まっていたものが全部出たと云うか何というか。
ともかく、4人ともこれでもかと云うくらいに顔色が悪い。
流石にこれに関してはビジネス云々の前に救いの手を差し伸べるのが良いだろう。
今後の関係構築の為にも、後は個人的なプライド的な話でも。
「……貴様ら、その様子を見るに著しく健康を害しているようだな。流石の私もこれは見過ごせん。食料を提供してやるから待っていろ」
俺はそう便利屋に言い放ち、席を立ち上がって扉を開ける。
当然だが、便利屋の面々は『こいつ何を企んでやがる?』と言わんばかりの視線を向けてくるが構わない。
例え俺が疑われようとも、生徒達の笑顔が見れれば
俺は部屋から出てこない4人を他所に、事務所の裏の休憩室まで行き冷蔵庫から水を、棚からカップ麺を取り出す。
本当ならばきちんとした飯を食べさせてやりたかったが、今この場にあるものがこれしか無いのだから仕方ない。
電気ケトルで湯を沸かし、開封したカップ麺に湯を注ぐ。
手元のタイマーで3分をセットし、その間にコップに水を移した。
そう手際よく食事の用意をしている間に、俺は今後について考える。
(そういえば、本編ではヘルメット団の少女達も行く宛が無いと言っていたような…)
ゲーム本編曰く、キヴォトスに於いて学園は地球で言う国家に該当する。
つまり退学処分や学校に属していない者は地球基準で言えば難民にあたると言うことだ。
国家が無ければ、当然生きる為に非合法的な手段に走るのはあり得るケース。
地球ではそのような世界規模の治安悪化を防ぐために、国連が人道支援活動を行なっていた訳だが…
(上手く人道支援を名乗ってヘルメット団に息を掛ければ、私兵が増えるかもしれないな)
生活が困窮しているヘルメット団に手を差し伸べ、こちら側寄りの組織として手綱を握る。
便利屋への
焦り過ぎも良くない。
慎重に一個ずつ進めていくべきだ。
と、そんな考えを巡らせている内に、3分が経過したようだ。
俺はカップ麺とコップをお盆に載せ、4人が待つ部屋に向かう。
しばらく廊下を歩き、ドアノブに手を掛けて部屋に入室する。
「待たせたな。食事だ、遠慮なく食え」
俺がそう言いながら差し出した食事を、彼女らは懐疑的な目で見つめる。
だが、極度に空腹の状態で耐えるのは難しかったのか、アルがカップ麺の容器を手に取ったのを皮切りに4人全員が無言で麺を啜り始めた。
美味しいとか、温かいとか、感想は一切発さない。
ただひたすらに、無我夢中で麺を啜っている。
チクショウ、こっちまで腹が減ってきたじゃないか。
「――ぷはぁっ!! 美味しかったぁ……」
「量は少なかったけど、数日ぶりのご飯は格別だね〜」
と、カップ麺を運んでから僅か数分で4人とも食べ切ってしまったようだ。
漸く食事を終え冷静さを取り戻したのか、カヨコが改まった様子で問い掛けてきた。
「……食事の件は感謝する。でも、ここまでする意味は何? 私たちにわざわざ無償で食事を提供するなんて…」
そう言われ、確かになと少し冷静になる。
あくまで俺は『利害の一致した協力者』であり、『生徒を助け見守る父親』ではないのだから。
だがまあ、便利屋は有用な戦力として使わせてもらう予定だ。
そこら辺の伏線や保険は今のうちに貼っておくに越したことはない。
「当然、この食事もタダではないさ。だがその話は後だ。まずは支援の内容について話そうじゃないか」
カヨコは俺の言葉に若干怪しみつつも、支援の内容の説明を聞く為にカイザーの書類を受け取った。
書類に記されているのは食料提供の定期契約や事務所の家賃の支援、武器弾薬類の提供など。
顧客はこの中から支払う対価に応じて様々なサービスを受けることができる。
俺は便利屋が支援内容を決めている合間に、部下に連絡を取り『ある事』を調べさせた。
いずれ分かることだが、便利屋をこちら側に引き入れる為の計画の一つだ。
「ええと、こんな感じで良いのかしら…?」
と、部下と連絡を取り合っている間に支援請求の内容を決めたようだ。
俺はアルから書類の束を受け取り、目を通す。
内容は…事務所の家賃支援と依頼募集の援助か。
生活が困窮している割には簡素な請求だと思うのだが……まあそこは彼女達なりの考えがあるのだろう。
「それで構わない。内容は事務所の家賃支援と依頼募集の援助、月単位での契約で決定する……よろしいかな?」
「ええ、大丈夫よ」
「なら、ここにサインを」
俺は書類の右下の欄を指差し、アルにペンを手渡す。
彼女は躊躇なく便利屋68のサインを記し、書類を返却した。
……やはり、アルはもう少し警戒心というものを強くした方が良いな。
ここで、連絡を取っていた部下から報告が入る。
『事実確認が完了しました。データをそちらにお送りします』
その報告を目にした俺は存在しない口元を歪め、静かにアルに向き合い、言い放った。
「さて、支援の契約は完了した。次はこちらに支払う対価だが……今回に限り特別事例だ」
「特別、事例…?」
「そうだ。今、カイザーコーポレーションは極めて不安定な状態にある。子会社の汚職やアビドスでの理事の失脚、大企業としての権威を揺るがしかねない問題が山積みだ。そうなれば当然、我々カイザー本社に刃向かおうとする勢力が出てくる訳だが――」
「……はあ、なるほど。完全に理解した」
「え、つ、つまりどういうことよ!?」
俺の意図が読めたのか、面倒臭そうに頭を抱えるカヨコ。
一方で、よく分からないままに話が進み、混乱するアル。
それらを尻目に、俺は言葉を続ける。
「便利屋68、カイザー本社に叛乱を企てる子会社の殲滅任務を依頼したい。カイザー・マーセナリー取締役権限で特殊事例として認めよう。依頼を遂行すれば、君達は支援を月ごとに受けられる」
息を呑む便利屋。
だが、こちらにはこの依頼を受けるであろうもう一つのカードがある。
俺は手元の端末を開き、彼女達の前に提示する。
「これは……」
「さあ、どうする便利屋?」