(社説)放送ガバナンス 実質ある「自主自律」を
放送局の「ガバナンス」強化の検討が進んでいる。
発端は、元タレントの中居正広氏の女性アナウンサーへの性加害問題でフジテレビ経営陣が対応を誤り、人権侵害や広告離れを招いたことだ。
総務省は、背景には放送の公共性や社会的責任に対する自覚やガバナンス(企業統治)の欠如があるとし、有識者による「放送事業者におけるガバナンス確保に関する検討会」を6月に設置。放送業界のガバナンスに関する指針をつくる方向性が定まった。
業界団体の日本民間放送連盟は9月、民放の企業統治の強化に関する「基本的考え方」案を公表。指針案を定めると明記した。また、弁護士など外部専門家を入れた「ガバナンス検証審議会」が各社の取り組みを支援し、重大な不祥事の際は報告や是正措置の策定を求めるとした。
加盟社は非上場企業も多いが、指針案は、透明性向上や取締役会による執行の監督などを規定。指針の適用状況を各社が点検・公表するように求めた。ただ自律性の尊重の観点や規模の差があることから、具体的な適用方法や公表事項は各社の判断に委ねる。
小規模局がキー局と同じ対策をとるのは難しくても、人権侵害が起きた際に是正や救済がなされなければ当事者や社会、スポンサーの理解は得られない。民放連も責任を持って支援する必要がある。
総務省の検討会はこの指針案をおおむね評価。論点整理案は、ガバナンスは「一義的には自主・自律の下で」「業界団体が積極的な役割」を果たしてはどうか、とした。
ただ、放送局でガバナンスの「重大な事案」が発生した際には、行政が財務状況など経営基盤に関わる「一定の基準」に基づき、報告を求めたり、特に必要な場合には免許に条件を付けたりするかについても、論点とされた。
現在の電波法にも免許への条件付けを定めた条項はあるが、強い規制を改めて制度化するのは、過剰ではないか。自主自律というなら、まずは民放連の示した対策が機能するかを見極めるべきだろう。
整理案は番組内容への介入は否定する。しかし「ガバナンス」や「コンプライアンス(法令などの順守)」の意味は幅広い。最近の米国の例のように政治権力が免許を放送局の牽制(けんせい)に利用しようとする場合、これらの概念が拡大解釈される余地がある。検討の主眼は、あくまで問題の発端である人権問題の再発防止につながる策であって欲しい。
「自主・自律」を単なるお題目にしない対応が、放送局にも政府にも求められる。