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詩かもしれなさは熱く輝く_古賀及子「これも詩ということにする」最終回

話題作続々刊行のエッセイスト、古賀及子さんによる連載。日常で触れる言葉のなかから、古賀さんなりの視点で「詩」を見つけていきます。難解と思われがちな詩の世界に、裏口から入門します。
毎月17日頃更新予定。
※第1回から読む方はこちらです。

詩かもしれなさは熱く輝く

 硝酸カリウムのカリウムイオンがイオンバリアを形成し、歯がシミる不快感や痛みを防ぎます。
 グリチルリチン酸モノアンモニウムが歯ぐきの炎症を抑え、歯周病(歯肉炎・歯周炎)と口臭を予防します。
 丸い微粒子(清掃剤:無水ケイ酸)が歯の表面を転がりながら、着色汚れをやさしくしっかりからめ取り、歯を白くします。

 「シュミテクト コンプリートワンEX プレミアム」という、歯磨き粉のパッケージに書かれた説明書きだ。歯ブラシにのせるほんの少しの歯磨き粉のなかでこれだけの効能が躍動していることは、長らくこの商品を使い続けながら、いつまでも新鮮に思いがけない。とくに無水ケイ酸の、歯の表面を転がるという働き方はあまりに意外だ。

 と、このことは本連載の初回で感じ入ったことなのだった。連載を重ねた地点から振り返ると、あの頃はまだ暮らしのなかに詩があるかもしれないという予感は実は軽薄で、詩というよりも、「詩っぽいもの」を探していたなと思う。

 よく人と会話をしていて「お、今の詩だね」とか、「なんか、詩みたいになっちゃった」などと言い合うことがある。
 「はからずもリズムが出た」、「助詞等の言葉づかいに意外性があった」、「普段聞き慣れない言葉が平易な言葉のなかで輝いた」(無水ケイ酸の件はこれにあたる)などなど、「詩っぽさ」を感じさせるのにはさまざまな要因がある。それらは、例えば国語の授業で習った詩をベースに人と人とのあいだでおおまかに共有されているぼんやりとした詩の幻影であったり、馴染み深い歌詞に込められた叙情から私たちがせーので引っ張り上げた詩のエッセンスによるものだろう。

 詩とは別に「詩っぽいもの」が、この世にはあるわけだ。

 最近「身長が止まったのです。」という文を娘が書いた。見て私は「期せずして詩になってる」と、やはりどうしても言ってしまう。
 かつて通っていた作文教室からのアンケートに回答する一文だった。近況を書く欄があり、娘は10代も半ばにさしかかって、身長が伸びなくなったのを伝えることにしたらしい。一般的には「身長が伸びなくなりました。」と書くところだけれど、娘は今まで伸びていたのが急に伸び止まった、そのことこそを表すべく「止まった」を使うことにした。あわせて、回答欄は穴を埋めるかたちで記入するようになっており、文末が最初から「です。」と決まっていた。それで行きがかり上、「身長が止まったのです。」ということになったらしい。

 同じアンケートには息子も答えており、息子は「近所の書店が閉業し、そこにあたらしくできたラーメン屋が大繁盛です。」としていた。一見まともなようで、でもなんだか味わいはあって、結局、回答欄の「です。」に、力があるのかもしれない。
 ためしに、私も同様に近況をこのフォーマットで伝えようとしてみると、「秋になり、夏の疲れが出たようです。」となって、「夏の疲れが出ています。」とか「夏の疲れが出ました。」よりもずっと、急に近づいて言う、妙な感じだ。
 もしかしたら先生はこの可笑しみを見越して、わざと回答欄をこのようになさったのかもしれない。

 こういった「詩っぽさ」というのは、拾い集めようと敏感でいればいるほど、思った以上にそこいらに散らばっていた。ぼんやりしている私の脇腹に急にチョップして走り去るように、茶化すみたいに唐突に到来しては、詩の可能性を置いて去る。

 「詩っぽさ」を拾い集める際の条件としては、その文自身には詩のつもりがないことを勝手に第一条件とした。自ら詩情を標榜している文字列に対して、あなたは詩ですとか、あなたは詩ではありませんなどと言うことはおこがましく畏れ多い。
 私がするのは、まさか詩のつもりなくたたずむ文字列に対し、偶然かもしれないですけど、詩のようになってますよ! と、勝手気ままに無責任に手を挙げることだ。

 活動を続けるうちに、徐々に私なりにつかまえたことがある。それは、詩を感じさせるきっかけが、思ったよりずっと運動にもとづいていたことだ。「身長が止まったのです。」がまさにそうで、表現するために選んだ言葉を、文末の「です。」にむりやり押し込んだ、その手つきによって、もしかして、詩のようにはならなかったかもしれない文言に、偶然に詩情がすっと滑り込んだ。

 最近、今こそまじめに腸内環境を整えるぞという気になった。三食がどうも適当になりがちで、食生活を見直そうと考えた流れでの決意だ。友人から、食べるヨーグルトの種類を頻繁に取り替えるといいらしいよと聞いて、着手の手軽さから、馴染みのない商品に手が伸びるようになった。

 それで買ったのがグリコの「BifiXヨーグルト」だ。私が選んだのはアロエ入りのもので、単純に、おいしそ〜! と思って買ったまでのことだったのだけど、帰って見てみるとパッケージには大きく「タンサ(短鎖)脂肪酸を生み出す」とある。カップの側面にも、蓋にも堂々たる書かれぶりだ。

 タンサ(短鎖)脂肪酸が何なのか、タンサ(短鎖)脂肪酸を生み出したところでどうなるのかは、これがなんと、書いていない。そのうえ、パッケージには細かくこのようにも書いてあった。

“ビフィズス菌BifiXと食物繊維イヌリンは、腸内でタンサ(短鎖)脂肪酸を生み出します。”

 食物繊維イヌリンという、もうひとつ知らない言葉まで登場させ、いよいよわからなくさせてきたのだ。

 圧倒された。読んだ私は、わからないままに、素直に「なんかすごそうだな!」と、感じてしまう。こういうことはよくある。歯磨き粉の説明書きもそうだ。よくはわからないが、効くんだろうなと思わせてくれる。短鎖をわざわざ括弧でくくりながら、カタカナ表記にしているのも謎めいていて強そうだ。
 私は、なにいってんのかよくわかんないことを堂々と言われて圧倒されるのが、騙されているかもしれないと恐れるとともに、実は好きなんだと思う。

 この、わからないうえにもっとわからない、そんな、わからなさの増幅も、詩の運動のひとつのように感じる。なんなのかまったくわからないままにすごい! と思うのは、感動に近いことではないか。

 近ごろ近所のスーパーに、「毎日しあわせ」と書かれた鶏卵の10個パックが並んでおり、一番安いやつだからよく買う。見るたびに驚く。「毎日しあわせ」だ。そんなわけないな? と、思う。毎日しあわせだなんて、そうは問屋がおろさぬことではないか。一番疑わねばならない文字列だと、警戒心すらわきあがる。

 けれどこれは卵のパッケージなのであって、まったく無害なことは明らかだ。うっかり抜刀してしまい、気まずい。
 文字や言葉は、極限的なあたりさわりのなさのなかにすら、気配を立ち上がらせることができるから油断できない。明らかに詩ではないものが、その詩ではなさでもって語りかけてくることも、この連載は気づかせてくれた。

 「詩っぽい」のその先には「けれど詩ではないようだ」と「本当に詩かもしれない」が待ち受けていた。大きな成果としては、「詩っぽい」もののなかには本当に詩かもしれない場合が思った以上にある、とわかったことが挙げられる。
 もしかしたらこれは本当に詩かもしれないというひらめきは、思いもよらず熱く輝いて私を奮い立たせた。作文することで息をして、これで生きていかれると感じたときの輝きと、ほとんど同じ閃光だった。

 もともと全12回のつもりではじめた連載だから、いわゆる「俺たちの戦いはまだはじまったばかりだ!」(=打ち切り!)ではないのだけど、気持ちとしては完全に、はじまったばかりでしかない。詩のような途方もないものが相手なのだから仕方ない。

 これからも詩っぽいものがあって、どうやら詩のようだと、もしかしたら本当に詩かもしれないと思ったら、引き続き、旗を立てておくようにしたい。
 みなさまも、どうぞ目指しておいでください。


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プロフィール
古賀及子(こが・ちかこ)

エッセイスト。1979年東京都生まれ。2003年よりウェブメディア「デイリーポータルZ」に参加。2018年よりはてなブログ、noteで日記の公開をはじめる。著書に『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』『おくれ毛で風を切れ』『おかわりは急に嫌 私と『富士日記』』(ともに素粒社)、『気づいたこと、気づかないままのこと』(シカク出版)、『好きな食べ物がみつからない』(ポプラ社)、『巣鴨のお寿司屋で、帰れと言われたことがある』(幻冬舎)、『よくわからないまま輝き続ける世界と~気がつくための日記集』(大和書房)、『私は私に私が日記をつけていることを秘密にしている』(晶文社)など。

タイトルデザイン:宮岡瑞樹

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