竹内氏を批判・非難したXの投稿には1万以上の「いいね」が付き、ユーチューブに投稿された動画の再生回数は計1000万回以上を記録した。この「いいね」や再生が増えることによって立花容疑者側にSNS側から支払われる報酬が増える。こうした課金システムがニセ情報の投稿を助長する問題もある。
竹内氏は投開票日の翌日、「一身上の都合」を理由に辞職し、今年1月18日に亡くなった。
トランプ大統領との類似点
立花容疑者の選挙中の言動は異常だった。竹内英明元県議の動静を情報提供するよう自らの街頭演説に集まった聴衆に求め、「自宅に押しかける」という発言も繰り返した。むごいことに竹内氏の死後には「元県議は逮捕される予定だった」と話し、取り調べや逮捕を苦に自殺したかのような投稿をした。人として許されない行為である。
立花容疑者のこの発言に兵庫県の県警本部長が議会で「まったくの事実無根。被疑者として任意の調べをしたこともないし、逮捕するといったような話もまったくない。明白な虚偽がSNSで拡散されているのは極めて遺憾だ」と捜査の内容を明らかにする異例の対応を見せた。
それにしてもなぜ、多くの人々が立花容疑者の言動を信じたのか。アメリカ大統領に再選したトランプ氏(79)とどこか似通ったものがある。SNS上のトランプ氏のデマ発言が有権者を動かし、トランプ氏を2度も大統領に押し上げた。ニセ情報や誹謗中傷が多くのアメリカ人の心を捉えて1つの世論を作り上げてしまう。
ウソが容易に拡散できる
トランプ氏の場合、大統領選挙でラストベルト(さび付いた工業地帯)と呼ばれる自動車産業や鉄鋼業の生産拠点が集中するペンシルベニア、オハイオ、ミシガン、ウィスコンシン、インディアナの各州一帯を重視し、白人労働者の世帯に狙いを絞ったことが勝因だった。
つまり、これまでの政治に不満を持ち、新たな政治に経済的な豊かさを求める白人労働者の層に「アメリカ・ファースト」「米国を再び偉大に」とSNSやテレビを使った選挙演説で強くアピールしたのである。もちろん、お得意のデマ発言、ニセ情報が何度も流されたのは周知の通りである。
民主国家のアメリカに憧れ、そして親しんできた人々にとっては異常事態としか思えないが、これがいまのアメリカ社会の1つの現実なのである。
トランプ氏がSNSで嘘の発言を繰り返し、今年1月20日、大統領に返り咲いた。その1カ月後には、ウクライナ侵略を始めたロシアを非難せず、ロシアとの協議を優先してウクライナを蚊帳の外に置き、ウクライナに矛先を向けた。
ロシアとの協議を得意のディール(取引)に持ち込み、大統領選で公約した停戦を早期に実現して自らの功績にしたかったのだが、成功はしなかった。輸入品に対する大幅な関税引き上げのトランプ関税でも各国に揺さぶりをかけ、さらにはノーベル平和賞まで懇願するなどその無謀な言動はとどまるところを知らない。
感情によって作られる世論
ところで、トランプ氏が最初の大統領選で当選する前年の2016年11月、世界最大の英語辞典を発行するイギリスのオックスフォード大学出版局が、ニセ情報のまかり通る異常事態を捉え、2016年を象徴する言葉に「ポスト・トゥルース(post truth)」を選んだと発表している。ポスト・トゥルースとは真実の後の事態を示す言葉で、客観的な事実ではなく、感情や信念によって世論が形成されるという社会状況を指す言葉である。