あなたの職場の“やっかいな人“ーなぜそう行動するのかー
近年、部下や同僚に自己愛性パーソナリティ障害が疑われるようなケースの相談が増えています。
自己愛性パーソナリティ障害の人は、その名称からナルシストのような印象を持たれそうですが、そうではありません。誇大性(自分は万能であると理想化する)、共感の欠如、強迫的な自尊心などを特徴としていて、現実の自分を受け入れることができず、思い描いている理想の自分しか愛せない人たちです。
本稿では、自己愛性パーソナリティ障害の可能性があるAさん(女性20代)への対応で疲弊している同期のBさん(女性20代)と、2人の上司である鈴木さん(男性40代)の事例をまじえてお話しします。
Aさんに疲弊しているBさんと鈴木さん
Aさんは、所属している課のメンバーに対し、自分が高学歴(=優秀)であることを示すところがあります。特に同期のBさんに対してそれが顕著で、彼女が会議でプレゼンをしたときには、「なんかよく分からなかった(笑)」とか「少し要領悪いなって思った」などと言ったりするそうです。
あるとき、新規プロジェクトを進めていくための全体会議がありました。この新規プロジェクトはもともとBさんのアイデアで、社内でとても高い評価を得て予算がついたものでした。しかし、会議でAさんは突然、「Bさん、良かったね!この案件は、実は私がBさんにアドバイスし続けてきたんです!だから自分のことのように嬉しくて・・・」と、まるでAさんのおかげでBさんのアイデアが採用されたようなアピールをしだしたのです。
Aさんと一切そんな会話をした覚えのないBさんは、驚きのあまりその場で何も言えなかったそうです。さらに厄介だったのは、Aさんの経歴やあまりに堂々とした口調から、会議に出ていた人は、彼女の言葉をそのまま信じてしまったことでした。
それ以降も“手柄”を横取りするようなAさんの言動が続き、Bさんがそれを指摘するとキレたりすることもありました。課の人は、AさんがBさんの陰のブレーンであるかのような印象を持ってしまい、Bさんは非常にやりにくくなって困っていました。
そこでBさんが上司である鈴木さんに相談すると、2人の仕事ぶりを見てきた鈴木さんは、彼女が実力を発揮できるようプロジェクトリーダーに抜擢することを会議で発表しました。この人選に納得がいかなかったAさんは、鈴木さんに直談判にいきました。しかし、自分の主張が通らないことを悟ると泣き出し、鈴木さんに対し「これってパワハラですよね?」などと詰め寄ったそうです。
“やっかいな人“の正体
Aさんの心理メカニズムはどのようになっているのでしょうか。
彼女には、「自分は称賛されるべき特別な人間である」という思いがあります。その思いを掘り下げていくと、そこには「強い劣等感」が潜んでいて、他人からの評価に非常に敏感になってしまうのです。このような人は、周囲から評価されてプライドを維持できているときは“万能感”にあふれていますが、評価されず批判されたりすると、根っこにあった“強い劣等感”が顔を出してきて過剰反応してしまいます。
心理学では、これを「自己愛的怒り」といい、自己防衛本能の1つとされています。本当に優秀な人であれば、もともと周りから認められているため、過剰な自己アピールや自慢をする必要はありません。できない人ほど自慢話が多くなり、周りから見ると“イタい人”となっているケースはよくあります。
“強い劣等感”をさらに掘り下げていくと、そこには“病理的な自己愛”があります。
“病理的な自己愛”とは、自分自身が思い描く「100点満点の自分」と「とりえのないダメな0点の自分」という両極端の自己像があり“等身大の自分”がいない状態です。こういう人は、本当の自分を受け入れることができず、ちょっとした挫折や失敗であっても0点の自分につながるため、過度に恐れる脆弱性があるのです。
“やっかいな人”への対応方法
この心理メカニズムが分かると少しモヤモヤ感は晴れるものの、周囲はやはり大変な思いをしなければなりません。しかも、「パワハラ」という言葉まで出てくると、対応が何倍も難しくなります。Aさんのような“やっかいな人”には、どのような対応をすれば良いでしょうか。
ここでは、鈴木さんやBさんのように、職場で関わらざるを得ない人が対処するコツを3つお伝えしたいと思います。
1.日ごろから“やっかいな人”について、上司や同僚などに相談をしておきましょう。
ーこれにより“やっかいな人”が手柄横取り発言をしたり、ハラスメントだと訴えたりしても、信憑性が低くなります。
2.“やっかいな人”の背景には、強い劣等感があることを意識しましょう。
ーその上で“やっかいな人”の感情に引きずられて頭ごなしに否定するのではなく、冷静な対応を心掛けることが必要です。
3.“やっかいな人”と2人だけのやり取りは避けましょう。
―2人だけでミーティングやメールのやり取りをするのではなく、必ず信用のおける第三者を入れておき、いざというときの証人をつくっておきます。
その後のAさんは・・・
その後、鈴木さんの人選に納得がいかないAさんは、鈴木さんにパワハラされたとか、Bさんの能力が低いなどと課内で言いふらしましたが、かえって信用を落とす結果となりました。Aさんは、抑うつ状態となり、精神科を受診したところ自己愛性パーソナリティ障害とうつ病の可能性を指摘され、休職にいたってしまったそうです。
“やっかいな人”の持つ“病理的な自己愛”の原因は、心のとても深いところにあり、簡単に直るものではありません。そのため、親切心からであっても過度に親しくしたり、逆に突き放したりせず、冷静な一貫した態度で接することが重要となります。
※本稿は実際の事例に基づいて構成していますが、プライバシー保護のため個人名は全て仮名とし、人物像や状況の変更などを施しています。ご了承ください。