「陰謀論の兵器化」が進む
2021年の米議会襲撃には、中心となったQアノングループへのロシアの関与も指摘されていましたが、この前後から中露は陰謀論的なナラティブが認知戦に有効であることを認識し、「陰謀論の兵器化」に乗り出しているという分析もあります。
Qアノンのような陰謀論を思想の中心とする人々が、その陰謀論的世界観をベースに何らかの体制破壊的な行動に出る時に、その行動を中露の認知戦が後押ししている可能性があるということです。こうした動きは今後、日本でも警戒すべきだと思います。
――どのようなことに気を付けたらいいのでしょうか。
【長迫】現状では、対象となる人のリテラシーによってアプローチは変わってくるという分析がなされています。そこまで陰謀論に染まっていない、一定以上のリテラシーを持つ人にはファクトチェックや政府および公的機関の公式発表を随時確認してもらうのがいいでしょう。若い世代へのリテラシー教育も効果があるとされています。
ファクトチェックが事後の対応となるため効果が薄いという指摘もあり、現在では「プレバンキング」という事前の手法も重視されています。
プレバンキングとは、「認知戦のテーマとして狙われやすい話題やナラティブ、これらを拡散する典型的手法を事前に知っておくこと」で、騙されることを避けることも有効です。
あなたの「不安」「怒り」が利用されている
先行研究をもとに、認知戦で用いられる攻撃アプローチと日本で狙われやすいトピックをまとめたものが図表2になります。
例えば現在、中国は積極的に日米を離間させるようなナラティブ、沖縄を日本から離間させるようなナラティブを流布していますが、「在日米軍基地」や「琉球独立」といったトピックがこうした離間工作に使われやすいという知識があれば、このナラティブに関連する疑わしい情報を目にしたときに、いったん踏みとどまることができます。
さらに、認知戦ではわれわれの「怒り」の感情や認知バイアスを利用することで情報の拡散を図ると分析されています。
心理学的に、「怒り」の感情はディスインフォメーションの拡散行動を促進するという先行研究もあります。そのため、何か怒りを覚えるようなニュースや情報に接した際には、いったん、自分の情動を顧みて感情の赴くままに拡散や発信をしないことを心掛けるだけでも効果があります。
ある意味では、アンガーマネージメントがSNSを使う際にも必要となり、認知戦防衛の一助ともなるということです。