ITベンダーの皆様、御社SaaSの導入を社内で止めていたのは、私です
はじめに
ITベンダーの皆様、申し訳ありません。
この数ヶ月、何社もの「進捗どうですか?」というメールに対して、「社内で検討中」と返信して進めておりませんでした。
御社の素晴らしいSaaSの導入を止めていた犯人は、私です。
言い訳をすると、今日は、いろいろな仕事に追われていた。
朝からDXのプロジェクトの進捗を見て、関係者に催促して、今度の対応事項をパワポに書いて。
それから、WindowsXPのような見た目の社内システムで、交通費の精算。エクセルをプリントして印鑑を押して、領収書をのりで貼り付けて、経理まで提出。一発で承認が降りる人は、部署内でも少ない
その後、懇親会のメールの作成。ccの順番は部署順か役職順か。日程調整は、エクセルでは失礼ではないか。
そんな生産性とは無縁のことに頭を悩ませながら、時間が過ぎる。
この状態で、御社からのメールを開く。
「先日ご提案した件、ご検討状況はいかがでしょうか」
今から事務仕事をする時間と精神力は残っていない。
「検討中」と短く返信して、画面をそっと閉じる。
これが大企業で起きている失注の「リアル」です。
先日、書いた記事が想定外の反響を呼びました。
趣旨としては、
「なんとなくDXできそうだから」、という理由でPoCをしてはならない。
DX担当者が社内の課題に対し責任をもって解決するために、自分で触って、課題を明確にする。
それから適した手法を探し、PoCの実施を判断する
という、いささか偉そうな内容です。
ただ、それは普段の私の姿ではありません。
あくまでも理想像です。
普段の私はもっと怠惰で、目の前の雑務に追われる一会社員です。
今日は、その告白と、私が本当に欲しかった「3枚の資料」の話をします。
なぜ止めたのか──「面倒」の正体
印鑑ラリーは「言語が違う」
DX推進担当といっても、私の時間の8割は本業と雑務です。
そして残りの2割で、御社のSaaSを導入しようとすると、こんなルートが待っています:
【印鑑ラリーという名の、言語の切り替え】
社内でSaaSを導入するときの申請書類には、印鑑の欄が複数あり印鑑ラリーが必要です。御社からすると、10分で終わる作業と思うでしょう。ただ、それはただ埋めるだけではなく、私にとってはまるでプロダクトのピッチコンテストのようです。
課長への説明: 「ROI」「ランニングコスト」「導入効果」
部長への説明: 「他社事例(特に同業)」「リスクヘッジ」「契約期間」
情シスへの説明: 「IPアドレス」「SLA」「データレジデンシー」
問題は、この3つの言語が、まったく互換性がないということです。
上司に説明するために一生懸命覚えた「ROI」や「導入効果」は、情シス相手ではまったく通じません。
逆に、情シスから
「IPアドレスは固定ですか?」
「SaaS? PaaS? IaaS? どれですか?」
「データレジデンシーは?」
と聞かれても、私には答えられません。
ベンダーに聞けばいいのはわかってる。
でも、その質問をするために、また「専門用語を理解する」という宿題が増えます。
そして、なぜかカメラをoffにする情シス10人とのweb会議。
「それ、セキュリティ的にどうなの?」
と質問されても、何が問題なのか、よくわかりません。
でも、「わかりません」とは言えない空気がある。
ITベンダーとの会議に同席を頼もうにも、情シスなんてほぼベンダーに近い別の会社だし、ベンダーの方がむしろ気楽。
だから、曖昧に頷いて、あとでこっそりベンダーにメールする。
つまり、私は 「通訳」を2回やっています。
ベンダーの資料 → 上司向けに翻訳
情シスの質問 → ベンダーに翻訳して問い合わせ
この往復が、意外としんどい。
競合は「歓送迎会の座席表」
御社のSaaSの競合は、他社のSaaSではありません。
「歓送迎会の座席表」です。
私の脳のメモリは、こんな雑務で埋まっています:
DXの進捗会議、課題協議
交通費清算や事務処理
歓迎会の段取り
この状態で、「新規SaaS検討」という、脳のメモリを30%使うタスクは、物理的に入りません。
社内規約という謎解き
さらに、社内手続きという謎解きが待っています。
「新規SaaS導入の申請はどこに書いてある?」
→社内ホームページを30分探す
→見つからず、総務に問い合わせ
→「それは情シス案件です」と転送される
→情シスから「まず稟議書を」と言われる
→振り出しに戻る
普段やらない作業だから、毎回このループ。
前任者はいない。
御社のSaaSが止まっているのは、「機能が悪い」からでも、「高い」からでもありません。
この「通訳地獄」「雑務の嵐」「社内謎解き」という『面倒の三重苦』を超える体力が、もう残ってないからです。
私は、技術は判断できます。
でも、社内政治を回す体力が、もう残っていません。
御社から頂いたプロダクト説明の資料は、社内で誰も作ることができない品質の綺麗なデザインのPDFファイルです。ただ、私が必要なたった3枚の資料は入っていません。
だから、相談があります。
私に「通訳不要キット」をください
もし、次に連絡をくれるとき、こんな資料が添付されていたら、、、
私は即、動きます。
① 課長・部長・情シスへの「3段階説明セット」
課長向け(A4 1枚): 予算感+スケジュール+自分の工数
部長向け(A4 1枚): ROI試算+他社事例(同業)+リスク
情シス向け(A4 1枚): IPアドレス/SLA/データ保管場所/セキュリティ
それぞれ、コピペして社内フォーマットに貼るだけ。
言語の切り替え不要。
具体例: 部長向け資料のイメージ
【導入効果】
・月間処理時間: 200時間 → 140時間(30%削減)
・年間コスト削減効果: 約280万円(時給4,000円換算)
【他社事例】
・A社(同業・従業員5,000名): 導入3ヶ月で月50時間削減
・B社(製造業・従業員3,000名): 年間300万円のコスト削減
【リスクと対策】
・初期費用: 50万円、月額: 10万円(3年契約で総額410万円)
・解約条件: 1年後から可能(違約金なし)
・障害時SLA: 99.9%(月間43分以内のダウンタイム)
これをコピペするだけ。
② 社内手続きの「チートシート」
「御社の会社で、SaaS導入時に必要な手続き」をヒアリングして、Excel 1枚にまとめてほしい。
例:
稟議書の提出先は?
情シスへの事前申請は必要?
セキュリティ審査の期間は?
契約書のレビュー部門は?
初回商談で10分ヒアリングするだけ。
これがあるだけで、私は迷子になりません。
③ 情シスへの「FAQ翻訳集」
よく聞かれる質問(IPアドレス、SLA、データ保管場所など)を、 「そのまま転送できる日本語」 で書いてほしい。
悪い例:
Q. データレジデンシーは?
A. 東京リージョン
→ これだと、「データレジデンシーって何?」から調べる必要がある。
良い例:
Q. 御社のサービスで扱うデータは、どの国・地域のサーバーに保管されますか?
A. 日本国内(東京)のデータセンターに保管されます。
海外への転送は一切行いません。
→ これなら、情シスにそのまま転送できる。理由も書いてあると私が納得できます。
私が翻訳する手間を省いてほしいです。
導入事例のイメージ
ある製造業でのユースケースを想定します。
背景
研究部門で、毎週100件の実験レポートをExcelで集計・分析する業務がありました。1件あたり20分かかり、月間で133時間の工数。
ステップ1: 初回商談
営業担当者が、ヒアリングを実施。
「御社では、SaaS導入時にどのような手続きが必要ですか?」
→ 10分のヒアリングで、社内手続きのチートシートを作成。
ステップ2: 提案
1週間後、提案資料とともに「通訳不要キット」を送付:
課長向けA4 1枚
部長向けA4 1枚
情シス向けA4 1枚
社内手続きチートシート(Excel)
FAQ翻訳集
ステップ3: 社内調整(2週間)
DX担当者は、資料をコピペして稟議書を作成。
課長・部長への説明も、資料をそのまま使用。
情シスへの質問も、FAQ翻訳集を転送するだけ。
通訳作業がゼロ。
結果
稟議承認: 2週間
契約: 1週間
導入: 1ヶ月
総期間: 約2ヶ月
効果:
月間89時間の削減
年間約427万円の工数削減効果(時給4,000円換算)
もし「通訳不要キット」がなかったら:
稟議書作成: DX担当が1週間かけて資料を翻訳
社内調整: 各部門への説明で2週間
情シスとのやりとり: 質問の翻訳で1週間
総期間: 3〜4ヶ月
「通訳不要キット」があるだけで、導入期間が半分になります。
まとめ
「進捗どうですか?」というメールが来るたび、私は画面をそっと閉じてしまいます。
申請を進めたい気持ちはあります。
でも、この「通訳を2回やる」という作業を想像すると、手が止まってしまいます。
もし、次にメールをくれるとき、 「通訳不要キット」 が入っていたら、、、
私は、きっと動けます。
上司への説明も、情シスへの説明も、全部そのままコピペできる資料。
それがあれば、私はもう、迷子になりません。
私一人が怠惰なだけかもしれません。
ただ、私向けの資料を作っていただければ、契約は一つ増えます。
ある程度のボリュームはあります。
今年度の契約を一つ増やすため、資料を作っていただけると幸いです。



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