憑依先の悪役将軍の立ち回りが地獄過ぎる件   作:Mind β

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カイザーを掘り下げたくて作った。
後悔はしてない。


本編
第1話:憑依先がまさかの“アイツ”


 

 皆んなは、転生や憑依という言葉を知っているだろうか。

 

 今自分たちが生活している世界で死に、別の世界へ記憶を保持したまま生まれ変わる。

 もしくは、別の世界の誰かに意識ごと入り込む。

 

 一般的には、そういう趣旨で使われる言葉だろう。

 

 そして、それらの言葉は基本的にはフィクションの範疇であり、非科学的な事象である。

 俺はずっとそう思い続けてきた。

 

 ついさっきまでは。

 

「……何だ、これは」

 

 俺は鏡に映った自分の姿を見て、そう言葉を漏らした。

 灰色の軍服に、特徴的な腕章。

 明らかに人間の顔ではないそれ。

 

 朝起きたら、自分の姿がこうなっていた。

 

 普通ならパニックに陥るような状況であるが、俺は冷静であった。

 何故なら、それは一度見たことがある姿だったからだ。

 

「カイザージェネラル……だと?」

 

 ブルーアーカイブ。

 韓国の某企業がサービス提供を行なっている、透き通るような世界観(当社比)の学園RPGである。

 俺はそのゲームのファンであり、つい先日更新されたばかりのデカグラマトン編2章を新しく見たばかりだ。

 

 だから当然、ジェネラルの事も知っている。

 

 カイザーPMCの将軍であり、作中では明確に『敵』として描かれる存在。

 個人的には好きなキャラの一つなのだが……

 

 いや確かに、前々からブルアカの世界に行きたいとか、転生したいとか思ったり、そういう妄想をする事は多々あった。

 

 だが。

 

 敵キャラ――それも結構ヘイトを集めるキャラに転生憑依するなんて思わないじゃん……

 

 

 

 

⬛︎

 

 

 

 

 とりあえず、俺は混乱する頭を落ち着かせようとデスクの上にあった水を飲み、椅子に座っていた。

 

(……ロボットも水、飲めるんだな)

 

 飲もうとしたら顔の下部パーツが開いた時は少しビビったが……

 まぁそんなことは今はどうでもいい。

 

 とにかく、今はこれからの事を考えるべきだ。

 

 今がメインストーリーのどの時系列に当たる時間なのか、そしてここは何処なのか。

 

 一つずつ把握する必要があった。

 

 俺は何か使える物は無いかと、部屋を見渡す。

 ざっと目に入るのは業務用らしきPCと、いくつか積み上がった書類、壁に掛けられたキヴォトスの地図や収納家具。

 

 恐らくここはジェネラルの事務室だろうか?

 

 そもそも家に軍服で居るのはおかしいし、そう考えて良いのだろう。

 そもそもカイザーPMCの社員に家があるのかどうか分からないが。

 

 取り敢えず、現状を把握する為に必要な情報があるかもしれないと、俺はPCに手を伸ばす。

 

 俺はジェネラルのPCのパスワードなど知らない筈なのだが、無意識に入力することができた。

 憑依した故の、身体の記憶的な物なのだろうか。

 

「今月の予算案…SOF(特殊作戦部隊)の編成表……広報用フォトフォルダ……ったく、デスクトップが汚すぎる。散々社会だの何だの言っておいて、整理整頓ができてないじゃないか」

 

 俺はPCのデスクトップの惨状を見て、思わず呻いた。

 画面いっぱいにびっしり敷き詰められたPDFやらフォルダ。

 全てにきちんと名前が表記されているのがせめてもの救いだが、到底見ていられたものではない。

 

「整理は後でやるとして……これは使えそうだ」

 

 俺はファイルの奥底に隠すように埋もれていた『サンクトゥムタワー掌握計画【機密】』と書かれたフォルダをクリックする。

 画面に『フォルダを開く為にパスワードを入力して下さい』と表示されたが、難なく解除しファイルの内容を読む。

 

 そこには、俺が原作知識内で理解できるものから出来ないものまで。

 大量の文章や表が書き込まれていた。

 

 フォルダ名から分かる通り、最終章のサンクトゥムタワー掌握の為の計画までが書かれたもののようだ。

 

 カルバノグ二章での動向についてはまだ計画途中なのか別のファイルにあるのか、表記されておらず、あくまで協力者が不知火カヤであるということくらいしか書かれていない。

 

(それで、肝心の時系列だが……)

 

 どうやら、見る限りでは理事の失脚については明記されている。

 だが、エデン条約については今よりも日付が後となっており、恐らく今はアビドス編以降エデン条約編以前ということになる。

 

 つまり、まだプレジデントもジェネラルも表舞台には出ていない。

 

 ということは、やりようはいくらでもあるという事。

 原作知識のある俺ならカイザーPMCの企みを全てではなくともいくつかは成功させることはできるだろうし、逆に裏切って(シャーレ側に立って)破滅に追い込む事もできる。

 

「ううむ…どうするか……」

 

 俺は事務所の椅子に座って悩み続ける。

 

 結論が出るのは、まだ先のようだった。

 

 

 

 

⬛︎

 

 

 

 

 かれこれ悩むこと数十分。

 

 詳しくは決まっていないが、大方の行動の方針は決めることができた。

 

 まず、当然の話だが元ブルアカプレイヤーとして生徒を本気で潰しに行くような事は論外。

 勿論俺は曇らせもイケる口だが、晴れない曇りは好かない派なのだ。

 

 となれば、選択肢としてはカイザーとプレジデントを裏切り、シャーレ側に付く事が考えられるのだが……正直、俺個人が裏切ったところでカイザーコーポレーション全体と渡り合えるとは到底思えない。

 PCに入っていたデータから見るに、現状でジェネラル独断で動かせる兵力はせいぜい一個中隊――凡そ300人程度であり、他の兵力は指揮権はあれどプレジデントの許可が無いと動かせない為、根本的な問題解決にはならない。

 

 安泰を得るには、現状カイザー側で動く以外に選択肢がないと云うことになる。

 

 だが。

 

(俺が…可愛い生徒を陥れ、虐められる訳が無いだろう……!!)

 

 もし、もしだ。

 俺をジェネラルに憑依させようと考えた奴()が居るなら、俺はソイツをぶん殴ってやる。

 

 とは言え、このまま何もしない訳にも、プレジデントの言いなりになる訳には行かない。

 

 そこで、俺は無謀だが、究極の一手を考え付いた。

 直ぐに生徒とカイザー双方を敵に回すことなく、充分な準備を得た上で自分の目標を達成できる方法。

 

 それこそが――カイザーコーポレーション掌握計画。

 

 つまり、クーデターである。

 

 

⬜︎

 

 

 俺は駐屯地の建物の廊下らしき場所を歩きながら、今後の行動について構想を練っていた。

 

 当然、考え無しにクーデターは起こせない。

 入念な準備と、必要な人員・費用、そして不測の事態への迅速な対応能力。

 カイザーはゲーム本編では先生の力も相まって噛ませ役の無能のような描写となっているが、普通に考えて大企業だ。

 

 先生ならまだしも、ジェネラルのような立場の人間が反旗を翻すのは非常に難しいこと。

 

 そこで俺が考えた計画はこうだ。

 

 まず、エデン条約編やカルバノグ一章くらいまでは実績を積み上げ、プレジデントの信頼を、そして社内での地位権限を着実に積み上げていく。

 時間的にカルバノグ一章でRABBIT小隊の手助けができないのは癪だが、そこは俺が何も動かなければ先生が解決するし、失敗の責任も一章の段階では俺には回って来ない。

 言い方は悪いが『放置しても問題はない』と云うこと。

 

 そして、問題の最終章だが。

 

 ゲーム本編ではカイザーは連邦生徒会を襲撃し、一時的にではあるがサンクトゥムタワーの制御権を奪うという所業を見せた。

 同時に、プレジデントがジェネラルに大規模な作戦を一任する初めての機会でもある。

 

 俺はそこで、クーデターを起こす。

 

 できるだけ早く、そして迅速に。

 手こずると色彩に邪魔をされ、計画が頓挫する可能性もある。

 

 クーデターが終わり次第、俺が指揮するカイザーPMCは色彩戦に参加。

 各学園と協力し、地上で自治区を防衛するという算段だ。

 ちなみアトラハシースの箱船は先生に一任する。

 

 え? 何故わざわざ色彩戦に参戦するのかって?

 

 それはあれだ。

 いくら暗躍しているからと言っても、表から見れば俺はれっきとした悪い大人。

 元ブルアカプレイヤーとしても、生徒達からの印象が悪いままでは埒が明かないからだ。

 

 好感度が上がらなくとも、せめて嫌われたくない。

 

 カルバノグ二章や対策委員会編三章については――正直、クーデター後は情勢がどうなるか分かったものではないので、そこら辺はその時に考えることとしよう。

 

 まぁとにかく、以上が俺が考えた計画だ。

 雑とか言うなよ、この短時間で精一杯考えた案なんだから。

 

「ジェネラル将軍、ここにいらっしゃいましたか」

 

「……どうした?」

 

「いえ、先ほどの件なのですが……例の子会社、やはり支援金の不正利用履歴がありました。プレジデントのお墨付きでもあります、無視せず強制監査を行うべきです」

 

 廊下を歩いていると、部下らしきPMC兵がそう話しかけてくる。

 話の内容から考えるに、カイザーの子会社の汚職が発覚したのだろうか。

 

 プレジデントからのお墨付き、と云っているし、信頼の積み上げの一環として速やかに事を済ませるべきか。

 

 幸いにも、PCのパスワードを覚えていたように戦術指揮や軍事知識、部下の名前等は全て自然に思い出すことができる。

 

「そうだな。明日には強制監査を行う。監査部隊を出しておくんだ」

 

「!? 本当ですか?」

 

「何がおかしい?」

 

「い、いえ……将軍はプレジデントから子会社の話が出てきた時から『弾薬と人員の無駄』と監査に否定的でしたので……」

 

 俺が驚愕の声を上げた部下に問うと、どうやらジェネラルは監査に協力的ではなかったらしい。

 

 いや、企業として子会社の不正を放置するのはどうなんだ……

 もしかしたら、こういう積み重ねがカイザーが毎回負ける原因の一つでもあるのかもしれない。

 

「まぁその、なんだ。一度計画の見直しをしていたら必要だと判断しただけだ。それと、監査部隊隊員は今のうちに休みを取っておけ」

 

「了解です」

 

 俺がなんとも苦しい言い訳をすると、PMC兵は納得したように敬礼した後、踵を返して走っていった。

 

 ……さて。

 いきなり明日が俺の初仕事か。

 

 少しばかりの興奮と不安を胸に抱きながら、俺は明日の監査の為の準備に取り掛かった。

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